736 電脳マネージャー、グレイスさんのある一日 2008/05/30(金) 03:48:41 ID:7lb6WtOK
「じゃあ、行ってくるわね。グレイス」
「行ってらっしゃい。シェリル」
「行ってらっしゃい。シェリル」
グレイス・オコナーは、美星学園の近くに停めた高級車の中から、
校門をくぐって登校するシェリルの制服姿を見送ると、フッと小さなため息をついた。
校門をくぐって登校するシェリルの制服姿を見送ると、フッと小さなため息をついた。
(まったくあの子ったら、わかりやすく元気になっちゃって)
ここ一週間のシェリルの体調は、それまでに比べると別人のように調子がいい。
脳活性抑制薬を使わなくても眠れているし、求められる最適値をやや越えるカロリーも 摂取している。
この現象はシェリルが一週間前「48時間の絶対プライバシー権」を行使した日から始まった。
脳活性抑制薬を使わなくても眠れているし、求められる最適値をやや越えるカロリーも 摂取している。
この現象はシェリルが一週間前「48時間の絶対プライバシー権」を行使した日から始まった。
(フフッ。銀河の妖精もやっぱり女の子ね。早乙女アルト・・とりあえず、シェリルを
元気にしてくれてありがとうって言っておくわ)
元気にしてくれてありがとうって言っておくわ)
グレイスが、アルトは有名なカブキ・アクターの息子で、現在はSMS所属の軍人だと知ったとき、
そのままカブキをやってくれてたらよかったのにと思った事がある。
そのままカブキをやってくれてたらよかったのにと思った事がある。
それは将来二人が結婚でもすれば、早乙女アルトの経歴が話題作りになる可能性が 98%と出たからだった
が、カブキ・アクターというものが驚くべきことに、「カブキを演じるスキルを高めるために」複数の女性と次々に
関係を持つことが、 伝統的に許された理解不能な職業とわかると、女性としてのグレイスは、シェリルが
こんなスキャンダラスな職業の男より、軍人である今のアルトと付き合っていた方が幸せだろうとも思えるのだ。
が、カブキ・アクターというものが驚くべきことに、「カブキを演じるスキルを高めるために」複数の女性と次々に
関係を持つことが、 伝統的に許された理解不能な職業とわかると、女性としてのグレイスは、シェリルが
こんなスキャンダラスな職業の男より、軍人である今のアルトと付き合っていた方が幸せだろうとも思えるのだ。
だがそれも、ヴァジュラがどうにかして、宇宙から消えてしまえばの話なのだが。
<グレイスさん、フラットに戻りますか?>
運転手兼シェリルのボディガードが電脳で送ってきた通信が、生体脳の思考を抜けて、
グレイスに届いた。
グレイスに届いた。
<ええ。あなたはここでモード2継続監視。わたしの体をお願いね>
運転手に答えた 車の中のグレイスの表情がフッとうつろになり、顔がコクンと下を向く。
次の瞬間、グレイスは滞在しているホテルの一室にある椅子に腰掛けていて、その部屋の壁紙を見ていた。
そこはグレイスが自分だけが使うために特別に借りた一室で、彼女が座っている椅子の前のデスクには、
マクロス・ギャラクシー船団からフロンティアへやってきたときに持ち込んだ、量子コンピュータデッキが
3台置いてある。
次の瞬間、グレイスは滞在しているホテルの一室にある椅子に腰掛けていて、その部屋の壁紙を見ていた。
そこはグレイスが自分だけが使うために特別に借りた一室で、彼女が座っている椅子の前のデスクには、
マクロス・ギャラクシー船団からフロンティアへやってきたときに持ち込んだ、量子コンピュータデッキが
3台置いてある。
このデッキたちはグレイスの行く所、どこへでも持ち込まれる物品だが、フロンティア船団には存在しない
タイプのデッキだった。
デスクの上にある、デッキよりもう少し小ぶりな四角い箱には”DECOY-1”から”DECOY-6”と書かれた、
前世紀の内燃機関に使われたスパークプラグに似た形の器具が 付いていて、その箱から太いケーブルが
伸びている。
グレイスはそのケーブルをつかむと、自分の後ろ髪をかき上げ、首筋に埋め込まれたニューロイーサ規格の
ジャックに、そのケーブルを接続した。
タイプのデッキだった。
デスクの上にある、デッキよりもう少し小ぶりな四角い箱には”DECOY-1”から”DECOY-6”と書かれた、
前世紀の内燃機関に使われたスパークプラグに似た形の器具が 付いていて、その箱から太いケーブルが
伸びている。
グレイスはそのケーブルをつかむと、自分の後ろ髪をかき上げ、首筋に埋め込まれたニューロイーサ規格の
ジャックに、そのケーブルを接続した。
彼女の意識がいったん、椅子に座っているボディの生体脳ストレージにセーブされると、
その意識は蛍光グリーンと蛍光ブルーに満ちた電脳世界にジャンプ・インした。
その意識は蛍光グリーンと蛍光ブルーに満ちた電脳世界にジャンプ・インした。
<アシモフ。きょうの制圧対象の数を報告して。
クラーク。フロンティアのフォールド通信のインバウンド、アウトバウンドを過去12時間分報告。
ディックはSMSと新統合軍の過去12時間の通信内容を報告。
最優先語彙は”ギャラクシー”、セカンダリは”ヴァジュラ”>
クラーク。フロンティアのフォールド通信のインバウンド、アウトバウンドを過去12時間分報告。
ディックはSMSと新統合軍の過去12時間の通信内容を報告。
最優先語彙は”ギャラクシー”、セカンダリは”ヴァジュラ”>
デスクの上の3つの量子デッキがコマンドに従って、
グレイスの電脳に膨大な量のデータを送り込んできた。
グレイスの電脳に膨大な量のデータを送り込んできた。
<きょうの削除対象は、1584か。ちょっと多いわね。美星学園の生徒さん・・のが多いか。
あんまりシェリルを撮ってもらっちゃ困るのよね>
あんまりシェリルを撮ってもらっちゃ困るのよね>
グレイスは今日も、フロンティア船団のメインフレーム「フォン・ノイマン」を経由して、
シェリル・ノームの画像を無断で持っているストレージに対して、攻性肖像権保護を実行する手順を始めた。
この手順は毎日やっていることで、 大した手間は要らない。
シェリル・ノームの画像を無断で持っているストレージに対して、攻性肖像権保護を実行する手順を始めた。
この手順は毎日やっていることで、 大した手間は要らない。
先週、シェリルに早乙女アルトの携帯コミュニケータのメールアドレスを調べてくれと頼まれたときの方
が、まだ仕事としては歯ごたえがあった。
あの時は、フォン・ノイマンの攻性ファイアウォールに、デスクの上の身代わり端末を、4つまで破壊
されたのだ。
が、まだ仕事としては歯ごたえがあった。
あの時は、フォン・ノイマンの攻性ファイアウォールに、デスクの上の身代わり端末を、4つまで破壊
されたのだ。
グレイス個人としては、そのメールアドレスだったら、早乙女アルトの友人、ルカ・アンジェローニに
訪ねれば89%の確率で入手できると伝えたのだが、
訪ねれば89%の確率で入手できると伝えたのだが、
「アルトをビックリさせてやりたいのよ!だからお願い、グレイス。」
の一言で、危うくこの高性能義体までもファイアウォールに焼かれそうなハメになったのだ。
まあシェリルには私がアイランド1の行政府に出かけていって、何か書類を書いてアドレスを聞いてきた
とでも思わせとく方が、やりやすいんだけど。
とでも思わせとく方が、やりやすいんだけど。
実時間で54分後、1584件の肖像権侵害の疑いがあるストレージすべてに対して、シェリルの画像を読み
込むと、同種の画像をすべて削除して消えるウィルスを注入して、仕事は終わった。
込むと、同種の画像をすべて削除して消えるウィルスを注入して、仕事は終わった。
ギャラクシーとヴァジュラに関する新しい情報は何もなく、むしろそっちの収穫が欲しかっただけに、
彼女は今日も少し失望した。
彼女は今日も少し失望した。
電脳世界から義体に意識が戻ったあと、首からケーブルを外したグレイスは、シェリルの学校が終わる
まで、どうしようかと少し考えた。
まで、どうしようかと少し考えた。
(そうだ)グレイスは名案を思いついた。
この間、シェリルと早乙女アルトが食事をしていた、あのイタリアンレストランに 行ってみようかしら。
あの日はシェリルの居場所をスキャンしないことになっていたので、 本当はそんな店、私は知らないこ
とになっているけど。
あの日はシェリルの居場所をスキャンしないことになっていたので、 本当はそんな店、私は知らないこ
とになっているけど。
(知らないって言うことは、怖いわね。シェリル)
グレイスはうっすら微笑んで、その部屋を出て行った。