193 いざないの歌 sage 2008/06/15(日) 23:46:11 ID:oMeLwlXL
ここではシェリルが優勢かと思ってたけど、ランカも来た…!
自分でも挑戦してみたけどエロまでいかなかった。>アルラン
最後逃げましたすみません。
自分でも挑戦してみたけどエロまでいかなかった。>アルラン
最後逃げましたすみません。
フロンティアの空が暮れなずむ空の色に染まり出した頃。
シティを見下ろせる小高い丘の上を、アルトはゆっくりとした足どりで歩いていた。
訓練に続く訓練、その合間の短い休息をこの場所で過ごそうと考えたのは、ほんの気まぐれに過ぎない。
普段からあまりひと気のないこの丘を選んだのは、ほんの少し、群れから離れてひとりになりたいという思いが心の
どこかにあったためだろう。
集団生活には慣れたつもりでいるが、息がつまるような気分になることも、稀にあるのだ。
シティを見下ろせる小高い丘の上を、アルトはゆっくりとした足どりで歩いていた。
訓練に続く訓練、その合間の短い休息をこの場所で過ごそうと考えたのは、ほんの気まぐれに過ぎない。
普段からあまりひと気のないこの丘を選んだのは、ほんの少し、群れから離れてひとりになりたいという思いが心の
どこかにあったためだろう。
集団生活には慣れたつもりでいるが、息がつまるような気分になることも、稀にあるのだ。
風が吹き、――流れてきた歌声にアルトはふと顔を上げた。
瑞々しさに裏打ちされた声音は覚えのあるもので、足を止めてしばしの間耳を傾ける。
先客がいるとは考えてなかったな、とアルトは思った。
ひとりきりの時間が欲しくてここへ来たのだから、気づかぬふりをして帰るという選択肢もあった。しかし。
ほんのわずかな逡巡ののち、アルトは速度を上げて丘を登り始めていた。
先客がいるとは考えてなかったな、とアルトは思った。
ひとりきりの時間が欲しくてここへ来たのだから、気づかぬふりをして帰るという選択肢もあった。しかし。
ほんのわずかな逡巡ののち、アルトは速度を上げて丘を登り始めていた。
ここで出逢うのはもう何度目になるのか。
腕の中にすっぽりとおさまってしまいそうな小さな背中。鮮やかな緑の髪を風に遊ばせながら、少女は歌っていた。
過去をなくした彼女がただ一つだけ覚えていると言った旋律はやわらかく、どこか人の郷愁を誘う。
腕の中にすっぽりとおさまってしまいそうな小さな背中。鮮やかな緑の髪を風に遊ばせながら、少女は歌っていた。
過去をなくした彼女がただ一つだけ覚えていると言った旋律はやわらかく、どこか人の郷愁を誘う。
(相変わらず、……いい声だ)
胸中で思わず漏らしたアルトの声が聞こえたかのように、少女は唐突に歌い止めるとぱっとこちらをふり向いた。
「――アルト君!」
驚きに瞳を一瞬見開き、ぱっと顔を輝かせる。
気配に敏感なランカに少しだけばつの悪い思いをしながら、アルトは「よう」と応えた。
できればもう少しだけ聴衆に甘んじていたかったのだが。
「隣、いいか?」
訊ねるまでもなく、ランカは二つ返事で了承した。
「――アルト君!」
驚きに瞳を一瞬見開き、ぱっと顔を輝かせる。
気配に敏感なランカに少しだけばつの悪い思いをしながら、アルトは「よう」と応えた。
できればもう少しだけ聴衆に甘んじていたかったのだが。
「隣、いいか?」
訊ねるまでもなく、ランカは二つ返事で了承した。
夕暮れの空の下、芝生の上に二人並んで腰を下ろす。
アルトの隣で膝を立てて座る少女の横顔は、どことなく憂いを帯びた印象だ。
いつもの天真爛漫な明るさはすっかりなりを潜め、幼い目元に陰が落ちている。
それが心にひっかかり、アルトは尋ねた。
「どうしたんだ? なんか、暗いな」
「えっ」
ランカは弾かれたようにこちらを見、すぐに目をそらした。「そ、そうかな」
「疲れてるんじゃないか? 最近がんばってるんだろ、営業とか売りこみとかもさ」
「…うん。自分ではそのつもりだけど」
小さくうなずき、ランカは膝の上に自分の顎を乗せる。
「歌うことは好きだし、社長さんのことも信用してるよ。
でも、あたしのやりたいことって本当にこういうことだったのかなって、ちょっと色々考えてたんだ」
「…………」
アルトの隣で膝を立てて座る少女の横顔は、どことなく憂いを帯びた印象だ。
いつもの天真爛漫な明るさはすっかりなりを潜め、幼い目元に陰が落ちている。
それが心にひっかかり、アルトは尋ねた。
「どうしたんだ? なんか、暗いな」
「えっ」
ランカは弾かれたようにこちらを見、すぐに目をそらした。「そ、そうかな」
「疲れてるんじゃないか? 最近がんばってるんだろ、営業とか売りこみとかもさ」
「…うん。自分ではそのつもりだけど」
小さくうなずき、ランカは膝の上に自分の顎を乗せる。
「歌うことは好きだし、社長さんのことも信用してるよ。
でも、あたしのやりたいことって本当にこういうことだったのかなって、ちょっと色々考えてたんだ」
「…………」
芸能の世界が決して華々しいものだけではないことを、アルトも身にしみて知っている。
だが、かつてその業界に身をおいていたとはいえ、自分はそこから逃げ出して来た人間だ。
安易な激励の言葉など口に出来ようはずもないし、したくもなかった。
二人の間に奇妙な沈黙が落ち、その気詰りな空気をふり払うように、ランカが明るい声で言う。
だが、かつてその業界に身をおいていたとはいえ、自分はそこから逃げ出して来た人間だ。
安易な激励の言葉など口に出来ようはずもないし、したくもなかった。
二人の間に奇妙な沈黙が落ち、その気詰りな空気をふり払うように、ランカが明るい声で言う。
「ね、アルト君に一つだけお願いがあるんだけど、いいかな」
唐突な申し出に、アルトは面食らう。「お願い?」
「うん。お願いというか、ワガママかな」
「我侭……って、なんだよ?」
ランカの鳶色の瞳がいっそうの真剣さを帯びて向けられ、アルトは思わず身構える。しかし、
「頭撫でて欲しいんだ。よしよしって、ご褒美に」
告げられた要求に、なんだ、と拍子抜けした。
その程度の「お願い」なら聞いてやらない道理はない。
ためらわず手を伸ばし、仔犬にでもするようにランカの頭を撫でてやった。
「おまえは頑張ってるよ。おまえが毎日努力してるってこと、俺は――俺たちは、ちゃんと知ってるから」
「……ん」
こくんと小さくうなずく。その瞳が見る見るうちに膜を張ったように潤みはじめ、ランカは急いで顔を膝にうずめた。
「ランカ、」
「ごめん。ごめんね、アルト君」
驚くアルトの声を遮って、ランカは謝罪をくり返す。
その細い肩がかすかに震えているのに気づき、アルトは再び伸ばしかけた手を引っこめた。
人前で歌うことにすらためらいを覚えていた少女にとって、今の生活は決して楽なものではないのだろう。
毎日気を張って、くじけそうな心を叱咤して、必死に歩き続けている。夢へと向かって。
唐突な申し出に、アルトは面食らう。「お願い?」
「うん。お願いというか、ワガママかな」
「我侭……って、なんだよ?」
ランカの鳶色の瞳がいっそうの真剣さを帯びて向けられ、アルトは思わず身構える。しかし、
「頭撫でて欲しいんだ。よしよしって、ご褒美に」
告げられた要求に、なんだ、と拍子抜けした。
その程度の「お願い」なら聞いてやらない道理はない。
ためらわず手を伸ばし、仔犬にでもするようにランカの頭を撫でてやった。
「おまえは頑張ってるよ。おまえが毎日努力してるってこと、俺は――俺たちは、ちゃんと知ってるから」
「……ん」
こくんと小さくうなずく。その瞳が見る見るうちに膜を張ったように潤みはじめ、ランカは急いで顔を膝にうずめた。
「ランカ、」
「ごめん。ごめんね、アルト君」
驚くアルトの声を遮って、ランカは謝罪をくり返す。
その細い肩がかすかに震えているのに気づき、アルトは再び伸ばしかけた手を引っこめた。
人前で歌うことにすらためらいを覚えていた少女にとって、今の生活は決して楽なものではないのだろう。
毎日気を張って、くじけそうな心を叱咤して、必死に歩き続けている。夢へと向かって。
少女の肩を引き寄せようとして――アルトはためらった。
躊躇したのは、自分でもまったく意外なことに、ランカを異性として急に意識したせいだった。
無害な小動物を思わせる彼女には、妖艶さなどというものはかけらもない。歳よりもなおあどけなさが色濃く映る。
だが育った環境上、幸か不幸かアルトは「色香」というものには敏感だった。
ほっそりした首のライン、襟元からわずかにのぞく白いうなじには、この年頃の娘にしかない、危うさにも似た何かがある。
ようやく垣間見えはじめたランカの「女」としての萌芽に、アルトは己の心の奥がざわめくのを感じた。
躊躇したのは、自分でもまったく意外なことに、ランカを異性として急に意識したせいだった。
無害な小動物を思わせる彼女には、妖艶さなどというものはかけらもない。歳よりもなおあどけなさが色濃く映る。
だが育った環境上、幸か不幸かアルトは「色香」というものには敏感だった。
ほっそりした首のライン、襟元からわずかにのぞく白いうなじには、この年頃の娘にしかない、危うさにも似た何かがある。
ようやく垣間見えはじめたランカの「女」としての萌芽に、アルトは己の心の奥がざわめくのを感じた。
(何、考えてんだオレは。こんなときに)
頭を振って、胸に涌いた情欲を振り捨てる。
そんなアルトの密かな苦悩をよそに、一人で気持ちの整理をつけたらしいランカが、ようやく伏せていた顔を上げた。
赤くなった目元をごしごしとこすり、あえかな微笑を唇に浮かべる。
「ごめんね、急に泣いたりして。アルト君に弱気はダメだって教えてもらったのに」
「ランカ、その、もう平気か?」
「ん、大丈夫。アルト君に励ましてもらったら元気になれたよ」
「……そうか」
そんなアルトの密かな苦悩をよそに、一人で気持ちの整理をつけたらしいランカが、ようやく伏せていた顔を上げた。
赤くなった目元をごしごしとこすり、あえかな微笑を唇に浮かべる。
「ごめんね、急に泣いたりして。アルト君に弱気はダメだって教えてもらったのに」
「ランカ、その、もう平気か?」
「ん、大丈夫。アルト君に励ましてもらったら元気になれたよ」
「……そうか」
結局、抱きしめてやることさえ出来なかった。
健気に微笑むランカの強さが胸に痛い。浮き彫りになった自分の不甲斐なさを恥ずかしく思い、アルトは急いで立ち上がった。
健気に微笑むランカの強さが胸に痛い。浮き彫りになった自分の不甲斐なさを恥ずかしく思い、アルトは急いで立ち上がった。
「――そろそろ行くぞ。日も暮れてきた」
立てというように腕を掴んで引っぱりあげたが、ランカはその場を動こうとしない。
「どうした。帰んないのか?」
怪訝に訊ねるアルトに、ランカは首をふった。
「アルト君、先に戻っていいよ。あたし、もう少し歌ってたいから」
ふわりと笑うその表情が壊れそうなほどに柔らかく、アルトは言葉をつまらせる。きゅっと、心臓を掴まれたような気がした。
そんな顔、してんのに。
「どうした。帰んないのか?」
怪訝に訊ねるアルトに、ランカは首をふった。
「アルト君、先に戻っていいよ。あたし、もう少し歌ってたいから」
ふわりと笑うその表情が壊れそうなほどに柔らかく、アルトは言葉をつまらせる。きゅっと、心臓を掴まれたような気がした。
そんな顔、してんのに。
(…放っておけるか)
アルトは大仰なため息をつくと、ランカの細い手首を掴んだ。そのまま有無を言わさず大股で歩き出す。
「あ、アルト君!?」
「いいから、帰るぞ」
「でも、あたし」
「暗くなったら危ねえだろ、こんなひと気のない場所でひとりで」
「だ、大丈夫だよ。前も遅くまでここに居たことあったけど、別になんにもなかっ……、きゃっ」
唐突にアルトが足を止めたので、ランカはその背中に軽く追突してしまった。
「な、何?」
「――あのな」
くるりとふり向いて、眦をつり上げたアルトはランカの鼻先にびしりと指を突きつける。
「お前は女の子なんだぞ! 何かあってからじゃ遅いんだ。嫁入り前だってこと、もっとちゃんと自覚しろ!」
ランカは鼻先に突きつけられた人さし指とアルトの顔をしばし呆気にとられて眺めていたが、ふいに表情を柔らかく綻ばせた。
「なんだよ?」
「アルト君は、あたしのこと子ども扱いしないんだなぁって思って」
「はぁ!?」
「だってお兄ちゃんはいっつもあたしのこと子ども扱いするから。
アルト君はそうじゃないんだって思ったら、ちょっと嬉しくなったの」
「……、それはっ」
かっと顔を赤らめ、アルトは言葉をつまらせる。
慈しむ存在だと、妹のようなものだと自らに必死に言い聞かせていた彼女を、「女の子」として認識したのはこれが
はじめてではなかったけれど。
正直言って、夕陽に負けないぐらいに頬を染め、嬉しそうにはにかんだランカを愛らしいと思ったのは確かだった。
「あ、アルト君!?」
「いいから、帰るぞ」
「でも、あたし」
「暗くなったら危ねえだろ、こんなひと気のない場所でひとりで」
「だ、大丈夫だよ。前も遅くまでここに居たことあったけど、別になんにもなかっ……、きゃっ」
唐突にアルトが足を止めたので、ランカはその背中に軽く追突してしまった。
「な、何?」
「――あのな」
くるりとふり向いて、眦をつり上げたアルトはランカの鼻先にびしりと指を突きつける。
「お前は女の子なんだぞ! 何かあってからじゃ遅いんだ。嫁入り前だってこと、もっとちゃんと自覚しろ!」
ランカは鼻先に突きつけられた人さし指とアルトの顔をしばし呆気にとられて眺めていたが、ふいに表情を柔らかく綻ばせた。
「なんだよ?」
「アルト君は、あたしのこと子ども扱いしないんだなぁって思って」
「はぁ!?」
「だってお兄ちゃんはいっつもあたしのこと子ども扱いするから。
アルト君はそうじゃないんだって思ったら、ちょっと嬉しくなったの」
「……、それはっ」
かっと顔を赤らめ、アルトは言葉をつまらせる。
慈しむ存在だと、妹のようなものだと自らに必死に言い聞かせていた彼女を、「女の子」として認識したのはこれが
はじめてではなかったけれど。
正直言って、夕陽に負けないぐらいに頬を染め、嬉しそうにはにかんだランカを愛らしいと思ったのは確かだった。
絶句してしまったアルトに形勢有利と見たか、ランカは表情豊かな緑の髪を仔犬の尾のように揺らし、アルトに迫った。
「ね、もう一曲だけ歌っていい? お願い、アルト君! あと一曲だけにするから」
「ね、もう一曲だけ歌っていい? お願い、アルト君! あと一曲だけにするから」
(勘弁してくれ)
上目遣いに懇願するランカに理性がぐらつくのを感じながら、アルトは肩を怒らせる。
「……~~、だ・め・だっ」
「えー、どうして!」
「どうしても! ほら、もうだいぶ暗くなってきてんだろ!」
「大丈夫だよ、アルト君が一緒に居てくれたら!」
「えー、どうして!」
「どうしても! ほら、もうだいぶ暗くなってきてんだろ!」
「大丈夫だよ、アルト君が一緒に居てくれたら!」
「――そのオレが一番危ないんだよっ!」
はっと気づいて口元を押さえたが時すでに遅かった。とっさに口をついて出た言葉は内心を如実に暴露するもので。
その科白の意味を悟れぬほど子供ではない証拠に、ランカは大きな鳶色の瞳をいっそう大きくした。
見開かれたそれに、勢いだったとはいえ、いったい何を口走ってしまったのかとアルトは頭を抱えたくなる。
恥じ入ったように顔をうつむけたランカの耳朶が、ひどく赤くなっているのに気づき、アルトはますます居たたまれない
気持ちになった。
その科白の意味を悟れぬほど子供ではない証拠に、ランカは大きな鳶色の瞳をいっそう大きくした。
見開かれたそれに、勢いだったとはいえ、いったい何を口走ってしまったのかとアルトは頭を抱えたくなる。
恥じ入ったように顔をうつむけたランカの耳朶が、ひどく赤くなっているのに気づき、アルトはますます居たたまれない
気持ちになった。
(あーもう、何やってんだよ俺は)
気まずい思いで天を仰ぎ、嘆息する。
そのとき、アルトの耳に、ほとんど聞きとれぬほどか細い声が、やんわりと届いた。
そのとき、アルトの耳に、ほとんど聞きとれぬほどか細い声が、やんわりと届いた。
「……、――よ」
「え?」
「あたし、アルト君にだったら、いいよ」
「え?」
「あたし、アルト君にだったら、いいよ」
顔を上げて、ランカはきっぱりと言い切った。頬をわずかに朱の色に染めたまま、逃げないまなざしで。
今なお掴んだままの手のひらと、掴まれた手首と。熱いと感じるのは、はたしてどちらの心の内か。
歌に誘い出されて芽吹いたのは、果たしてどちらの想いであったのか。
今なお掴んだままの手のひらと、掴まれた手首と。熱いと感じるのは、はたしてどちらの心の内か。
歌に誘い出されて芽吹いたのは、果たしてどちらの想いであったのか。
――それを知っているのは、シティの彼方に沈みゆく夕陽だけだった。
(終)
むだに長くてすまん。
エロは難しいけど、10話のあの撮影の後、お互いどんな顔で陸に上がって来たのか妄想すると、
なかなかに楽しい二人だと思う。>アルラン
エロは難しいけど、10話のあの撮影の後、お互いどんな顔で陸に上がって来たのか妄想すると、
なかなかに楽しい二人だと思う。>アルラン