(投稿者:エアロ)
1938年、グレートウォール。
悪名だかき303作戦。
メード開発初期に
エントリヒ帝国と
EARTHが共同で実施したGに対する挟撃作戦。
しかし当時の帝国上層部はろくな作戦も立てず、ただメード・メールを投入すれば良いと確信していたのだ。
EARTHはまだまだ実験段階の色合いが強かったメード・メールの実線テストとしか見ていなかった。
-その結果は ほぼ全てのメード・メールの撃破という 惨憺たる結果として報われた-
生き残ったのは二次部隊として控えていた
ブリュンヒルデや前線から生きて帰ってきた
アピスを含めて極わずか。
ジョアンナもまたアルトメリアからの援軍として一次隊に参加していたのだ。
「・・・ヤヌス! どこだ! どこにいる! 返事をしてくれっ! ディルレイ!コルス!
シモノバ! くそっ、みんなやられたというのか・・・」
仲間の名を叫びながら、ジョアンナは銃をうち後退している。
初期武装だったガリング・ガントは既に使い物にならず、仲間の銃を手に取り反撃している。
しかし、Gの波はとどまるところを知らない。
空には
フライが飛び交い、
センチピードは味方陣地を踏み潰し、
タンカーは酸のシャワーを降らせ、
そして
ワモンはひたすら前へと迫り来る。
そして銃の弾もつき、剣もナイフもワモンを切り過ぎて折れ曲がってしまった。
もはや、これまでか・・・
と彼女が諦めかけた瞬間、目の前のワモンの波がなぎ払われた。
そこに立っていたのは黒き鎧に戦槍ヴォータンを握り締めた、エントリヒの軍神。
ブリュンヒルデ。
「ブリュンヒルデ! 来てくれたか!」
「ジョアンナ、無事でしたか、他のものは?」
二人は歩調をあわせ下がりながら話す。
「五体満足でここまで来れたのは私一人だ! ・・・ヤヌスも、隊の仲間も無事ではすむまい・・・だがまだ助けられる!」
「・・・わかりました。 後退命令が出ています、下がりましょう」
ブリュンヒルデの後退指示を、ジョアンナは素直に受け入れられなかった。
「断る! 味方を見捨てるのは軍人にあるべからざる行いだ! 星輪旗を汚すことになる!」
しかし、ブリュンヒルデは軍神らしき凛々しさと悲しみをない交ぜにした表情で叫ぶ。
「今は耐えるしかありません、私達が最後なのです、私達には成すべき事がある・・・今育っている子達を、だれが育てるというのです!」
ブリュンヒルデの悲痛な叫びを、ジョアンナは心の底では理解しながら、その苦渋を了承するしかなかった。
彼女はヤヌスと特に親しかったのだ、助けたい気持ちは人一倍のはずだ。
しかしメードは人間に従う宿命、命令を無視など出来ないのもまた同じだったのだ。
「・・・了解した」
そして、ジョアンナはブリュンヒルデ、アピスらと共に退却したのである。
ジョアンナは数年後に再びヤヌスと会うことになる・・・今度は、敵として。
1939年初頭。
時は流れ、数ヵ月後のアルトメリア西部戦線。
303作戦の影響によりメードの配備は進まず、アルトメリア軍は通常戦力でのG撃退を余儀なくされている。
ジョアンナも、303作戦での傷が十分に癒えないまま、そして自ら理想とするメードの訓練施設が設立されて間もないのに駆り出されている。
今日もある廃墟の町を歩兵一個分隊と共に行くジョアンナ。
数日前にワモンの群れにより蹂躙された跡が生々しい。
そこに住んでいた人々の苦痛や悲鳴すら聞こえてくるようだ。
(・・・もう少し早く駆けつけていれば・・・)
ジョアンナは隊から少し離れた場所で無念の臍を噛む。
その時、ジョアンナは殺気を感じた、Gがそこにいる!
それもハンパじゃなく強いやつが!
「各員、戦闘体制!密集隊形をとって後退しろ!」
<<しかし、ジョアンナ、我々には戦車もある。むやみな後退は・・・>>
「つべこべ抜かすな!今までのヤツとは違う! 恐らく報告例のある"メードキラー"だ。下がっていろ!」
<<り、了解!>>
分隊長に怒声を浴びせた後、ジョアンナは誘われるかのように障気の出ている方向へ進む。
「どこだ、どこにいる・・・出て来い! G!」
「アセルナ オマエノ スグ ソバマデ キテイル モット チカヨッテコイ」
しわがれた声が聞こえ、ジョアンナは警戒心をいっそう強くした。
しばらく進み、大通りまで出たジョアンナは異形の怪物を見定めた。
それは異様な姿をしていた。
手が複数あり、仮面のような顔をしている。
姿形からして
マンティスだろうか。
しかも自分以外に異形の存在はこいつしかいない。
先ほどから聞こえるしわがれた声の主も、恐らくこいつだ。
「おまえが・・・私に呼びかけた奴か!」
「ソウダ オマエヲ タオス タメニナ」
言うや否や、ジョアンナは跳んだ。
同時に怪物も恐ろしい速度で走り出す。
すれ違う刹那、両者とも各々の攻撃を繰り出す。
しかし銃弾も鎌もすれ違うばかり。
<<ジョアンナ、援護する!>>
「だめだ、これは私に任せろ! お前たちは他の雑魚を頼む!」
<<わかった・・・>>
最中にもとんでくる通信に答えながらジョアンナは銃を撃ち、サーベルを振るう。
「サスガダナ "サイショ ノ ヒトリ"トイウダケノコトハアル オマエノ"コア"ハ サゾカシウマカロウナ」
怪物は舌なめずりをするかのような口調でジョアンナを挑発する。
「なめるな!私はお前らを倒すために戦ってきた!これからもそうする!」
ジョアンナも応酬し、撃って斬り合う激しい戦いが繰り広げられる。
「何故だ、何故メードに執着する!お前が各戦線でメードを殺しているという事は知れているぞ!」
「フフフ・・・俺のことを忘れたか、ジョアンナ?」
突然、怪物の声がそれまでのしわがれた声から聞き覚えのある、渋い声に変わっていた。
ジョアンナは愕然としていた、その声の主は数ヶ月前にGの波に飲まれ行方知れずとなったはず・・・!
「その声は・・・お前は誰だ!」
ジョアンナのその台詞が終わるか終わらないうちに、怪物は影のようになり、
人の姿となり、ジョアンナの見覚えのある男の姿となった。
「忘れちまったのか、この 隊長である俺をよぉ・・・!」
ジョアンナにとっては忘れる事の出来ない、303作戦での上官。
自分たちを逃がすため最後まで踏みとどまりGに飲まれた男。
最初期のメールの1人。
「・・・ヤヌス・・・隊長?」
だがその姿は大きく変わり、ジョアンナの知るブラウン系のスーツを着こなし、タバコをくゆらせた空色のやさしい瞳を持つ伊達男の面影はなくなっていた。
タバコは今でもくゆらせているが、目はサラシで隠され、スーツはダーク系統に変わり、背中からは怪物の手が出ている。
「懐かしい名前だな・・・だがその名はもう捨てた。 今の俺はプロトファスマ、カ・ガノ・ヴィチだ!」
ヤヌス改め、カ・ガノヴィチはそういうと中指を立ててジョアンナを挑発した。
「なるほど・・・ヤヌスはもう死んだようだな、ではこちらも遠慮なく行くぞ、カ・ガノ・ヴィチ!」
ジョアンナは決死の覚悟で飛び掛っていった。
最終更新:2009年03月16日 18:34