(投稿者:A4R1)
《ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ》
「うおおおおぉぉぉぉぉぉっ!?」
果たして響いてきたのは爆音は爆音でも遥かに金属めいた音だった。
『これ…目覚まし時計だな。』
「ふぇ?」
みんなが目を丸くしてボクに歩み寄ってくる。
マルトさんが爆弾と呼ばれていた物に手を差し出して音を止めてしまった。
『ラーズター・E(エンターテイメント)社の新製品です。』
「ちきちょぉぉ!!はめられたぁああ!!」
悔しがるイイをよそに、他のみんなは爆弾型目覚まし時計の鑑賞を始めた。
「本物みたーい!!」
「重さ、質感共に再現されてますね。遠目では軍人の方ですら本物と見違えてしまう方もいるのでは。」
『…我々の事か…。』
『情けないけどなぁ…。』
コウスケさんとベンさんが肩を落とす。
「負けないで…。」
「和やかにしてる場合かッ!!」
顔を真っ赤にしてまで悔しがるイイをリリさんがなだめる。
「安全を確保したことには変わりありませんよ。それに、今の私達の目的はマスターの捜索であって、Gを殲滅する事ではないのです。
もっとも、危害を与えるGを頬っておく訳にもいきませんけどね。」
『張り切りすぎて体を壊されてもかえって困るしな。何事もほどほどにってな。』
「ぬうぅ…それもそうか…。」
『ベンは業務ほったらかしでMAID達を眺めに行くのをほどほどにしてください。』
『…。』
『それはそうと、キキさんに接着した時計を剥がさなければなりません。』
「え?」
マルトさんが時計を触れた人差し指を親指とこすり合わせると、指同士を繋ぐような粘り気が…。
ということは…。
「う、うわああぁぁッーーー!!」
抱きかかえていたから服が胸元から下腹部にかけて…。
「あ~ぁ、べっとりくっついちまってるじゃねぇか…。」
『これはひどい…。』
『この接着剤は…何だ?』
『この臭い…うわっ!ゴムの臭いだ!!』
『これはラテックス。多くは白色だけども、これは紺のようで。』
「種類は解りました。はがす物品はありませんか…。」
『溶媒はさすがに無いな…。』
「如何なされておる?」
困り果てる海兵隊員の方達の後ろのドアから現れたのは、先ほど海に落下して救助されたばかりの全身ずぶ濡れのままの方だった。
刀を納めた鞘を右に差している。侍かな?
「どちらさまですか?」
「拙者、
アラキ・ナナと申します。」
「「「アラキ!?」」」
この方もアラキ…?
「ナナさん…ですね?」
「うむ。」
「ボクもアラキ。」
「オレもアラキ。」
「ミミもアラキ。」
「私もアラキ。」
「拙者もアラキ。」
『だからどうした。』
『全員アラキ。というようですね…。』
『…どうかしたのか、マルト?』
『少し前に楼蘭の技師にアラキという人物がいるという事を耳にしたといった程度。それ以上の特別な事は知りません。』
『名前は分からず…か。』
「それはともかく…。」
「そうだ、キキにくっついた時計を取らねぇとな。」
「時計とな?」
「あぁ。イタズラスポーンの野郎に一杯食わされちまった。」
「接着剤で剥がれなくて…。」
「成程…。そなたの名は?」
「ボクですか?ボクはキキです。」
「そなたは。」
「オレはイイだ。そっちの二人は左がリリで右がミミだ。」
「では、キキ殿とイイ殿以外の方々は下がっていただけますか。」
「え?」
「っつーことは…。」
「危ないんだね。」
「大人しく私達は下がりましょうね。」
『我々も下がるとするか。』
『忠言に逆らうなど、先が見えなくなる物は総じて恐ろしいですから。』
『後は若い者に任せるか。』
「ちょ、ちょっとみんなぁ!!」
そそくさなんてレベルじゃない速さでみんな距離を離したんだけど!!
「では、ご両人。目を瞑ってくだされ。」
「オレは時計を引っ張ればいいんだな!?」
「うむ。では―」
そう言うと徐に何かに手を掛けた音が。
そして、すらりと云うおt…!!
「まままm待って待って待ってください!!刀を抜きましたか!?」
「か、刀だァ!?」
「勿論。」
焦るボクらに返ってきたのはあまりにもあっさりとした返事だった。
「縦に切るんですか!?」
「それしか無かろう。お主と時計の間の接着剤のみを切る。」
「そんな無茶な!!」
『対象は筒状。』
『被害者はDカップか。』
「解るんですか!?ベンさん!!」
『何となくだけどさ。』
ベストを脱ごうにも、接着剤のせいでファスナーが滑らない…。
「キキ!!お前の力を発揮する時だ!!」
もはや(ボクが)切られる事前提じゃないか!!
「万が一の時はミミが代わりになるから!!」
「意味が分からないよ!!」
「そろそろよろしいか。きりたくてたまらない。」
「ひいぃっ!!」
「辻斬りじゃねぇだろうなっ!?」
「それはない。」
「もういっそのことひと思いにしてください…。ふえぇ…。」
「泣くでない…。」
「接着剤のニオイで頭が痛くなってきたぞ…。」
イイのぼやきを聞いた途端、ボクは胃も追加で痛み出してきた…。
「つーかオレ刃物とかダメだって!!」
「そうなのか?」
…なんだか、声色で涙目の顔が浮かんで来る…。
「た、頼むから早くしてくれっ…!!」
「一刻を争うか…。では参るぞ!!」
空を切った音がした。
「っ!!」
「ぅぇっ!?」
それと同時にバランスが崩れて尻もちをついた。
恐々目を開けて胸元に視線を落とすと、綺麗に衣類から時計が切り取られていた。
よかった…衣類も胸も無事だ…。
「はぁ…。」
「何も人体を切るとは一言も言ってませんよ。」
ナナさんが刀を拭き鞘に納め、身に着けている胴着のような胸当てを外しながら言う。
まだ接着剤は付着しているけど、洗濯すれば取れるかな…。
「やべぇ、ひっついちまった…。」
「え?」
今度はイイの上着にひっついてしまった…。
きっと、ボクから時計を引き離した時に勢いあまって…。
「今度はキキが引っ張るの?」
…ミミちゃんの言葉に嫌な予感しかしない…。
「凄い迷惑な永久機関だねコレ…。」
どうにかこうにか時計を完全に外し終わった後に、
先ほど
フライに襲われていた飛行機が船と並行するように近づいてきた。
「ナナ君!ナナくーん!!」
その中から一人の男性が現れて叫んできた。
「セテ殿!!」
「セテ?」
「マスターの捜索のために二手に分かれる事にしたんです。」
「じゃあ、ボク達の仲間?」
「そうですね。」
セテというらしい青の頭髪の男性が再び叫ぶ。
エンジン音が暴れているにもかかわらず、はっきりとした声がこっちに届く。
「大丈夫!?」
「心配して頂き忝い!されど、心配は無用!!」
「それならいいね!!」
(…本当は全身ズタズタにされたように痛いんだけど…。)
ナナさんがポツリと何かつぶやいたような…。
(…どうしましたか?)
(い、いや、何でもない…!!)
手足がぷるぷる震えている…。
ダメージが溜まっているのかも…。
「あ、リリさん!!」
「セテさーん!!」
「三人の調子はどうですか!!」
「上々ですよー!!」
「そうですか!!」
(ナナ…無理してるのか?)
(言うでない…言うでない…。)
イイはナナさんを気遣っているとは思うけど、
傍から見るとガンつけているように見える…。
(そっとしてあげようよ…。)
「同行願いできませんか!?」
「同行したいのは山々ですが、アルトメリアで他にも待ち合わせをしている方がいるもので!!
先に失礼します!幸運を!!」
「あっあの…!!」
リリさんが引き留めようとした時には、旅客機はスピードを増して前方へと行ってしまった。
「行っちまったな…。」
「せっかくの男の人だったのに…。」
「海兵の三人はどこ行った?」
「持ち場に戻るって言って船の中に入っちゃったよ。」
「特定の所で活動している人たちを勝手に連れまわしちゃいけないよ…。」
「世知辛えなぁ!!」
不貞腐れるように言うイイに
「う…へ…へっくし!!」
「うわぁっ!」
ナナさんの大きなくしゃみが飛んだ。
放った後、鼻をすすり大きく身ぶるいをした。
「カゼひいたんですか?」
「おいおい…あれからずっと濡れっぱなしかよ。」
「不覚…。」
「熱あるんじゃないですか?ちょっとおでこを…。」
「ず、頭突きは勘弁願いたい!!」
「そんなに恐がらなくても…。」
少なくとも超巨大なGを瞬く間にこま切れにする時点で、並みのMAIDじゃないよね。
「そ、そっと…ゲホッ…。」
その代償として病弱になったとでも?
「あまり強く咳き込むと危ないかも…。」
「くしゃみで肋骨折れそうだな。」
「過去に本当にくしゃみで肋骨を折ったという人がいたらしいですよ…。」
「うわぁ…。」
「そうならないためにも風邪をはじめとした、病の予防は怠らないようにしないといけません。」
「さて…。」
目を瞑り歯をギリリと噛み締めるナナさんと、ボクのおでこ同士を恐る恐る合わせてみた。
「特に熱があるわけじゃないみたいです…。」
《アルトメリアの カフェに待ち人在り…。》
―え?
頭の中に一瞬メッセージがよぎった…?
しかも、こびり付いたかのようにはっきりとそれが残っている。
声が聞こえたわけでも文字が浮かんだわけでも無いけど、その言葉を確かに"受けた"。
超能力とか神通力の類…?
「熱が無いけど…それでどうした?」
「…え、あ、いや、それだけだよ。」
「そうか?どれどれ…。」
イイもナナさんの額を拝借した。
「おぉっ!?」
額同士をくっつけたと思ったら、まるで電撃を受けたように勢いのある仰け反りを披露した。
「ど、どうしたの?」
「お、あ、あぁ…。」
イイも「どうなってんだ…?」と言いたげに眉間にシワを寄せてボクを見る。
その様子を見て、一段と困る事になった。
とりあえず両手を肩の高さまで水平に上げて、ボクもわからないという意思表示をするしかなかった。
「二人ともどうしたの?」
そんなボク達にミミが当然疑問を投げかけてきた。
「え?あぁ、まぁ、なんというか、なぁ?」
「う、うん。別に風邪だとしても症状は軽そうだし、ね?」
「むむぅっ!?何か隠してるでしょっ!!」
あぁ、しどろもどろな返答で、かえってミミちゃんの好奇心を駆り立てちゃった…。
「ミミもさぐるっ!!」
そう言い終えるまでもないままナナさんに頭から飛び込んだ!!
「っ!?」
ナナさんが咄嗟に刀の峰で受け止めて事無きを得た。
…ナナさんはだけど。
「ミミちゃん、ナナさんが他のMAIDより耐久力が低いという事を聞いてないの!?」
リリさんが叱る横で
(この体質…なんとかならないのかしら…。)
(ナナさん…。)
ナナさんが力無くうつ向いた…。
ミミちゃんが痛みから開放された後、治療法に関してのちょっとした討論が…。
「風邪を移せば治るというのは俗説、迷信、即ち間違いですよ。」
「そんな治療法を試そうとしてた訳じゃないですよ!!」
「そうだ!ネギが効くんじゃなーい?」
「ネギだぁ?」
「首にまくといいんだって!」
「そうなんだ。ミミも物知りだね!」
「民間療法らしいですね。とはいえ、すぐにネギを用意できるはずはありませんからね…。」
「ロープならあるけどな。」
「死んじゃうよ!!」
刻 明 7:03
智代ちゃんと言而さんが船内から出てきた。
「言而さん!!」
「うまく追い払えたようだな。」
「そちらはどうでしたか?」
「負傷者は出たには出たが、内部機関は無事復旧した。ただ、到着時刻は遅れるな…。」
「そうですね…。」
「到着までしっかり休んでおくといいな。」
「そうですね。」
「千代も無事だったか!!」
「あぶなかったぁ~。」
ミミちゃんと両手を繋ぎ喜び合う千代ちゃんの横を歩き抜けて、船主で足を止めた。
「霧が晴れてきたな…。」
おぼろげだった地平線がはっきりと見通せるまでに視界が開けていった…。
「アルトメリア大陸ですね…。」
「あぁ…。」
暗雲から光の筋が大陸に注がれている。
「南半球の大陸はGの巣窟らしい…。
住宅街を襲撃される可能性もあるようだ。」
「いよいよ、ガチの戦場に足を踏み入れる時が近づいて来てんだな…。」
「ちょっと怖い…でも…いかなくちゃ!!」
「あの先に、私達を待つ人がいるのです…。」
「行く先で誰が待ち、何があるか分からないけど、進む…!!」
「いい決意だな…。」
言而さんがこっちに完全に振り向かず、笑みを含めた口元を覗かせる。
「がんばりな。」
「はい。ナナさんもよろしくお願いします。」
「勿論!!」
「千代たちもおてつだいしておうえんするよ!!」
「…ありがとうね。」
「西から東へどこまでも!おもとめならばとんできます!!」
満面の笑顔で高らかな宣伝をする千代ちゃんを見ていて、頬が緩んで胸元が温かくなった。
船が 暗雲を裂いていく そう見えた
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最終更新:2009年04月13日 09:09