Chapter 10-12 : ~Flea-Shared World~

(投稿者:怨是)




 ホラーツ・フォン・ヴォルケンは本日付の新聞を広げ「またか」と溜め息をついていた。
 黒旗憎しの一心で書かれているという事は理解できる。
 が……黒旗に打撃を与えたのは彼女だけではない。


1944年12月28日

   ジークフリート、黒旗を撃滅せり!

 我々帝都栄光新聞を含み、帝国全土の国民に多大なる祝福を。
 先日を以って、かの軍事正常化委員会(以下、黒旗)が撃滅された!
 
 黒旗は長きに渡って守護者たるMAID達を尽く陥れ、陵辱し、喰らい潰してきた悪の組織であった。
 彼の者らが帝国軍に与えてきた被害は数知れず、仔細を此処に記すにはあまりにも残虐非道かつ数が多すぎる。
 しかし、国家転覆を狙った彼らの野望は、とうとう潰えたのだ。
 先鋒を務めたのは我らが守護女神、鉄壁ジーク。彼女の正義の剣が、帝国を覆う暗雲を切り払ったのである!
 
 顛末は以下に記す。
 我らが守護女神は、黒旗のあまりの所業に怒り、そして嘆いた。
 そして戦果の独占を狙ったギーレン宰相の妨害をかいくぐりつつ、単身で黒旗の本部へ急行。
 大剣バルムンクを振るい、戦力の大半を撃滅せしめた。
 
 雨の如く流れし銃弾も、牙を剥いた戦車たちも等しく一刀の下に両断され、破砕された。
 もはや彼女の怒りを止める者は誰もおらず、あのグスタフ・グライヒヴィッツは恐怖のあまり自害したという。
 烏合の衆はその一夜の晩にて脆くも崩れ去り、帝国には再び平和が訪れた。
 
 否、これは序章に過ぎない。
 この世から全てのGが駆逐されるその日まで、ジークフリートは戦い続ける!
 金柏葉・剣・ダイヤモンド付騎士鉄十字勲章を超える13番目の勲章の授与される日が待ち遠しいではないか。
 
 繰り返し述べる。
 帝国全土の国民に、多大なる祝福を!
 悪しき病原体の黒旗残党には然るべき罰を!
 そして、守護女神たるジークフリートには、我ら国民による最大限の賞賛を!
 ジークハイル! ハイル・エントリヒ!


 列車砲の一件以来、相次ぐ脱走と離反により、著しく弱体化しつつあった軍事正常化委員会。
 内部崩壊が続いた事でもはや虫の息の状態となり、名前の知れた幹部も全て捕縛した。
 無論、多くの人員を割いて行われた事は云うに及ばない。

 それでも帝都栄光新聞はジークフリートにその手柄を着せる事を頑なに選び続けた。
 ひとえに、何らかの思想に毒された偏執的な編集に他ならない。


「強いてその思想に名前を付けるとしたら、そうだな。伝説主義とでも付けてやろうか」

 英雄を夢見る者たちは、多くがそれは滅多に叶わぬものだと知っている。
 脱人夢想主義に敗れた者たちが、最も理想に近い偶像を見つけた時。
 彼らはその英雄に全ての手柄を着せようとする。

「これくらいの本質は私もよく解るな」


 ――だが、表があれば裏がある。
 華々しく喧伝される戦果の裏で、ジークフリート本人も含め、あらゆる苦悩が渦巻いていたのはヴォルケンも知っている。

 8月14日の真夜中に帰ってきたベルゼリアはその表情に暗い影を落としていたが、それから数ヶ月後、手紙を片手に戻って来た時、あの日の表情はどこかへ飛んで行っていた。
 手紙はアシュレイ・ゼクスフォルトのものだった。筆跡ですぐに解った。
 また、シュヴェルテの無事も。そして彼らが何かを掴んだ事も。
 手紙に添えられた青い髪の束は彼女なりの決意の表れだろう。そして、生存を何よりも如実に証明していた。


「やれやれ、かつての部下に説教されるとは、私も修行が足りんか」

 “シュヴェルテからも、じきに手紙が届くと思います。それでは、ベルゼリアによろしく!
  中将も、アルコールは控えめにお願いしますよ。あの子じゃまだまだ晩酌に付き合えないでしょうから”

 文体を見る限り、彼はすっかり立ち直っているようだった。
 この手紙をどこで手に入れたのか、ベルゼリアは未だに答えてくれない。
 が、無事を確認したのなら、もう何も心配は要らない。他人を左右し、包み込めるだけの度量など、そもそも人には備わっていないのだから。
 多くの親でさえ、子供がある程度成長したら子離れする。
 その後、子供達がどのような方向へ歩もうとも、その道が自分自身を欺いているのでなければ、親がとやかく云うのは野暮と云うものだ。
 付き合い方の距離に、普遍性は存在しない。が、個々人の各々にはほぼ例外なく“適度な距離”というものが存在する。

 ライサ・バルバラ・ベルンハルトがマグカップを片手にこちらに視線を寄せる。

「最近、ベルゼリアとも打ち解けてきたんじゃないか?」

「心の中で、ようやく決着が付いたからな」


 ヴォルケンの目から見ても、ジークフリートには変化があった。
 以前よりもその眼光が和らぎ、何かを越えたという事を物語っていた。
 レーニシルヴィの報告からもそれを推し量る事は実に容易だった。

一人で戦う事はもうやめた。教官に依存する事も、もうやめた。
 一人でも戦えるよう精神を鍛えつつ、皆と手を繋げるようになりたい』

 ジークフリートがあの後残した言葉らしい。

 そうだ。ヴォルケンは確かに“求めすぎていた”のかもしれない。
 彼らを無理に連れ戻した所で何も得られない。自分達にとっては、今のような道が一番“性に合ってる”のかもしれない。
 心は確かに繋がっている。遠く離れた所で、彼女が、彼が、存在ごと消え去る訳ではない。

 かつての部下の姿をベルゼリアに重ねようとせずにいままで奮闘してきた。
 それがようやく実を結び、この道へと至る。

「なぁ、ライサ……」


 峠を一つ越えたなら。次の峠の越え方は知らずとも、超えられるだけの力はこの心には宿っている。
 たまたま今回は納得の行く結果に近付ける事は出来た。しかし、その幸多き結果にもう一度導けるかは限らない。
 一人の力はごく僅かなら、他の大きな力に道を捻じ曲げられてしまうかもしれない。
 では、そうせぬようにするにはどうするか。

「黒旗は潰えた。表向きは。だが、皇室親衛隊にはどれほどの黒旗シンパや危険分子が潜んでいるのだろうな」

「わからん。が、あの列車砲の一件以来、すっかりなりを潜めてしまったな」

 組織に潜む病原体――“異”と“威”を認められぬ者たちによって戦いは引き起こされた。
 病は沈静化したが、病原体はまだ残っている。免疫力を付けねばならない。


「今後、MAIDに関するあらゆる物事が整理されるのは間違いないがな」

 黒旗事件と呼ばれるこの武装蜂起は、国際対G連合統合司令部を通じて各国へと通達される事となった。
 帝国に対する過剰警戒を恐れたギーレンによって最後まで反対され続けたが“各国にも同様の組織の土壌が生まれている可能性は充分にある”という見解の下に、最終的に合意に至ったという。
 恐らくは、あの戦果並列化を悪用した暗殺事件も、ネガティヴキャンペーンも、厳しく取り締まられる。
 言論の自由、愚痴の自由こそあれど、それを過剰に云い触らすような暴挙は許されない。

 黒旗はスケープゴートであると同時に、そんな一部の者らにとってもより実感できる教訓となったのではないだろうか。

『今この瞬間も、Gの進軍に怯える民がいる。目先の感情よりもまず、己が使命をもう一度思い出さんか。
 我ら帝国が守るべきは、彼らではないのか。卑下し、中傷する不毛な心ではなく……日々を強く生きんとする、前向きな心こそが!
 我々の守るべき大切な宝ではなかったか! 冷笑する者らよ! 忘れたか!
 うぬらがGに立ち向かう事こそが、彼らの温かい笑顔を生み出す原動力の一つである事を、忘れたのか!』


「思うに、人生とは作品ではないか」

 卑下し、中傷する心ではなく、日々というページをより良いものとする心こそが、我々の宝なのではないか。
 人生を“創る”心こそが、自らの笑顔を生み出す原動力の一つではないか。

 ――ふと、そんな事を考えながら、ヴォルケンはベルンハルトの背中を見送る。
 あと数十分もすれば、ベルゼリアが散歩から帰ってくるだろう。
 久方ぶりのビールを注文するのを、またの機会へ先送りにする事にした。






◆展示場強襲

 よく集まってくれた。軍事正常化委員会の諸君。
 懐かしい顔ぶれが沢山居るな。

 確かに我々は瞬く間に弱体化した。
 相次ぐ脱走に、度重なる無思慮な粛清……
 しかし、彼奴らは我々の思想を殺すまでには至らなかった。
 諸君らの瞳に宿る炎が、何よりも雄弁にそれを物語っている。
 総統閣下もご存命であり、またアルトメリア支部の結成により大規模支援も約束された。
 これ以上の快挙がかつてあっただろうか?

 ……さて、それでは作戦内容を説明しようか。

 手始めに、エテルネ公国にて開催される
 EARTH主催の国際MAID展示会“Frontier of maid”を襲撃したい。

 彼奴らEARTHのMAID研究機関は我々の再三再四の警告にもかかわらず、
 強力な試作型MAIDを続々と発表。すぐにでも戦闘配備可能な状態で展示会を開いた。

 力のインフレの行き着く先は、全兵士のMAID化という結論すら有り得るのだ。
 制御の範疇を超えた力を持った存在同士が戦争を起こせば、
 どのような結果が待ち受けているかは、諸君らもよく心得ていると思う。

 作戦開始時刻の時点で、既に先行部隊が突破口を開いている筈だ。
 諸君らはそこに続き、混乱状態の会場に点在する特定MAIDを全て削除してくれ。

 我が組織に対する世論は、ますます辛辣を極めつつある。
 大衆は我々が世界征服を目論んでいるだのとのたまっている。
 このままでは我々は“ただの三流テロ組織”のまま、幕を閉じる事になってしまう。

 もはや一刻の猶予も無い。
 今一度、我々の存在意義を世界に正しく認識させると同時に、
 留まるところを知らぬ力のインフレに終止符を打たねばならん。

 強すぎる者が生まれた時、我々は必ずそれを打ち砕く。
 出すぎた杭を地中に叩き落とすイレギュラーキラーであり、リミッターである。
 それが我々、軍事正常化委員会の本来の姿なのだ。
 英知を結晶した、歴史の涙によって書き記された一冊の聖書として君臨しようではないか。

 自重を知らぬ不正者には、厳粛なる鉄槌を。
 自重を知る善良な者には、健やかなる栄光を。
 ジーク・ハイル。


作戦時刻: 1945年2月21日
作戦目標: 特定MAIDの全削除
敵戦力: 警備隊、特定MAID×12
備考: トンネルより味方援軍の飛行隊が到着予定
機銃掃射を行うため、位置取りに注意されたし


 Thank you for read the Legendism and LEGendLOGY...
 Siegfried was not legend. She was certainly here.
 In your mind. In your heart.
 We need think about the legend of MAID.
 We need break down the legend of MAID.



最終更新:2009年05月07日 02:35
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