鉄の忍者

(投稿者:エアロ)





  • 焼け付くような日差し。

身を裂くような痛み。

ああ そうか 俺は まもなく死ぬんだな・・・

腕も無く もはや息も絶え絶えだ。

情けない  虫ごときにやられて 須磨春賢は砂国に屍をさらすのか・・・

ああ 気も遠くなってきたな・・・


「・・・っはっ!」
彼は飛び起きた。
また悪夢、というより彼がこうなったことの原因を見ていたようだ。
「おかしいな、記憶は一回更地になったというのに・・・」
彼の名は春賢(はるかた)。
楼蘭皇国自衛隊忍者軍に所属する忍者メールだ。
一応これでもメール化して7年、ベテランの部類に入る。
彼はかつては伊賀忍者の名門須磨家の嫡男であり、
将来を嘱望され海外を武者修行中だった。


しかし運命は彼を残酷な道へといざなった。


ザハーラで伝令任務中にマンティスに襲われて両腕を斬られた上に、
スティンクバグの発する障気によって汚染され瀕死の状態だった。
しかし彼はかろうじて一命を取り留めた。
処置の後楼蘭に運ばれた彼は助かる唯一の方法を選択する。

体内に永核(エターナル・コア)を埋め込み、男性型メード、つまりメールとなることを・・・

もともと大柄だった彼はメールとしても最適の素体だったのだ。
なくなった腕は永核力によって駆動する義手へと置き換わった。
これは当時楼蘭に居を構えていた白竜工業会心の一作であった。

生まれ変わって以後彼は鍛錬を積み更に忍者道をまい進した。
ただ、傷の付いた顔は見せるのをはばかられたため、
メール化以後の彼は頭巾を被る様になる。
そして今彼は任務でここ、アルトメリア西部へと派遣されているのだ。

「ここは砂国とはまた違う砂漠だ。台地のあちこちに山がある・・・」
普段の彼は作務衣を着ているため、義手以外はごく普通の男だ、いや坊さんに見えるかもしれない。
ジンナイ殿は元気にしているだろうか・・・近いうちにまた楼蘭に帰らねばならん。」
彼は楼蘭忍者軍のエース・ジンナイとは親友であり、違う流派ではあるが親交が篤い。
それに二重下野の実家の様子も見に行かねばならない。


物音がしてポストから人影が遠ざかる。
「どうやら、つなぎが来たようだな・・・」
彼はポストを確認し書類を取り出す。
「メイ殿か・・・V4がまた不穏な動き・・・なるほどな、行かねばなるまい」
そうつぶやくと彼は小屋の奥へと引っ込んだ・・・


数分後、出てきたのは青い頭巾に忍者装束で身を固めた春賢であった。

  • 我 忍びに入りし時は 闇に忍び 影に生きる修羅となる-

印を結んだ後、彼は猛然と駆け出す。

道行く人には一筋の風にしか感じられないだろうが、
春賢の走る速度は自動車並だといわれる。

やがてメサと呼ばれる台地の1つ、その頂上に人影が見えてきた。
春賢は跳躍し台地に上る。
アルトメリアに彼が派遣された目的、それは楼蘭忍者軍とアルトメリア海兵隊の協力任務だ。
現在アルトメリア軍は戦線を維持し、徐々にGを西海岸まで追いやっている。
しかし、問題はこの攻勢でGの中に突然変異個体が出てもおかしくは無いこと、
そして近年活動を活発化させているヴェードヴァラム師団、通称V4師団に対する監視だ。

メサの上にはすでに緑のメード服を着た女性が双眼鏡で地上の様子を伺っている。
彼女がアルトメリア海兵隊一の潜入メード、メイ・ガウリンだ。
確認した後彼女が立ち上がるのと春賢がメサの上に付くのは同時だった。
「Mr.春賢、時間通りだな。楼蘭人は時間を守る」
「少々遅れたと思ったがな。やつらの動きはどうですかな?」

メイが指を指す方向には物資集積所と思しき建物が見える。
そこは本来アルトメリア軍が使っているはずの場所なのだが、
止まっているトラックにはアルトメリア軍の星輪旗ではなく、4つのVを象ったマークが貼られていたのだ。

「奴ら物資を奪う気か・・・しかし二人では少々きついな・・・」
「おそらく職員も人質に取られている。軍も応援部隊をよこすといっているが、このメサの地形だ。
 篭城されれば厄介なことになる・・・」

その補給基地はメサに囲まれた地形となっていて、東西の道路をふさげば天然の要害となるが、
出口もそれしかないため、おそらく一方は陣地でも築いて代わりとするのだろう。
と、メイの無線機が着信を告げる。
「はいこちらメイ・・・はい、はい・・・了解、では突入前に派手に地ならししといて差し上げましょう」
無線を切るとメイは地面に概念図らしきものを書く。

「Mr.春賢、基地はこんな風だ、ちょうどΦの記号のような感じになっている。」
「つまり、2方向から攻めるということか、いい考えだ。」

話し合いの結果メイは東、春賢は西から攻めることになった。
「幸いメードは居ないが奴らは高度に訓練された兵士だ。油断めさるな!」
「お互い様だ、それに我々は後から来る"スーパースターズ"のための地ならし役だそうだ」
「つまり、派手に暴れすぎないことが肝心と申すか、まぁそれもよかろう。」

そういうと二人は二手にわかれ、基地の入口へと向かう。


V4師団第2方面隊のレニス・エルマーク大佐は通常兵力のみでGを撃退してみせると豪語しながら、
西部戦線での防御戦に失敗、閉職に回されていたところをヴェードヴァラムに見出され、引き抜かれた。
(・・・いまに軍中央に復帰してやる、それもヴェードヴァラムの首を土産にな・・・)
そう思いつつ彼は今この補給基地の保持占領を任されている。
「大佐、この基地に向け軍が進撃中です。数はおよそ2個中隊、ラウンドスターズも含まれているそうです」
副官が報告してもレニスは難しそうな表情を崩さない。
「ラウンドスターズか、国防長官のお抱え部隊がこんな辺鄙な基地の奪還に来るとはな・・・」
「一応西側壁は爆破して塞ぎました。東側には陣地を構築中です。」
彼の部隊がヴェードヴァラムから命じられたのはこの基地から物資を持ち出すこと。
しかし職員を人質としてしまった以上、討伐部隊に対し人質を盾に利用しなければならない。
ただ物資を強奪するなら殺せばいいものを、彼の中の軍人魂はそうさせなかったのだ。

救いがたい性である。

と、そこへ連絡が入る。
「どうした?」
<大佐、東側デポと連絡が取れません、おそらく無線機の故障と思われますが>
「すぐに確認しろ、討伐部隊が来るのだ、ぐずぐずするな!」
<ラジャー>
レニスは胸騒ぎを覚えた。
まさかGの襲撃でもあるまい、どうせ故障だろう・・・と勤めてそう思うことにした・・・。


今の今までは。

「なんだあれは・・・」
レニスは絶句した。

外にあるのは青い暴風と緑色の疾風。

西側から潜入した春賢はその豪腕で爆破された岩壁をいとも簡単に崩し、
鉄の豪腕と武器内臓トンファー「太刀風」をもって敵を蹴散らしていった。
「う、うてーっ!頭を狙え!」
下士官があわてて指示し、兵士はライフルやSMGで春賢を撃つが、
春賢は微動だにせず腕とトンファーを振り動かし銃弾を弾いていく。

「下郎共にはこの腕と武器で十分!命を惜しまぬものはかかってくるがよい!」
春賢が片腕を五分の力で振り回すだけで5人の兵が吹き飛び倒れ付す。
全開にすればGの甲殻さえ引き裂く腕だ、五分の力でさえ人間は吹っ飛び気絶してしまう。
瞬く間に西壁に居た2個小隊の兵士を片付けた春賢は中央を目指してかける。

一方東壁から潜入したメイは先ほど無線を遮断し、敵を片付けていった。
彼女は知ってのとおり近接格闘、CQCの使い手であり、音を立てずに敵を無力化するなど造作も無かった。
「無線が通じないのにどうやって応援を呼べというんだ!」
下士官と兵士は混乱の中で次々と気絶させられていき、瞬く間に東側陣地も沈黙した。

「たった二人だと・・・!守りを固めろ!」
しかしそれは遅すぎた指示だった。
突然部屋のドアが蹴破られ、二人の人間、いや、メードとメールが飛び込んできたのだ。

「そこまでだ!レニス・エルマーク大佐!」
「お主がこの部隊の指揮官か。今度からはメードを雇うことだな」
メイと春賢はほぼ同時に部屋に飛び込んだのだ。
前述の障害を軽々突破した二人には手と足をもがれた本体にはいることなど造作も無かった。
「ふっ、たった二人に1個中隊が全滅とはな・・・俺もこれまでか」
そういうとレニスはこめかみに銃を当てたが・・・
「させん!」
春賢はトンファーを返し、棒部分で腹を一突きした。
五分の力とはいえ怪力の春賢の突きだ、レニスはたちまち壁際に吹き飛ばされ気絶した。

「やれやれ、私たちだけで制圧してしまうとは。後始末は後続に任せるとしようか。
 Mr.春賢、協力に感謝する。私はこの人質を部隊に届けてくるよ。またどこかでな」
そういうとメイは部隊が来る方向へ向け駆けていった。

「メイ殿、無事息災を祈る。さて、楼蘭へ帰るとしようか。招聘状もあることだし」
そういうや否や、春賢は再び風のように駆けだした。



数日後、彼は楼蘭皇国は倭都の港に居た。
楼蘭に帰るのは数ヶ月ぶりである。
まずは自衛隊の本部へ行き、報告書を提出する。

「おぉ、春賢殿、久しいな」
廊下で声をかけたのは陸軍の甘木少佐である。
「甘木殿、お久しぶりです。」
「積もる話もあるがここでは話しづらい。カフェーにでもいこうか」
そういうと二人は建物をでて、綾瀬小路のカフェーに入りめいめいのものを注文する。

「亜国ではどうだね、G以外にも戦っているそうだが」
甘木少佐は春賢の少ない友人の一人だ。
楼蘭に帰った折にはこうやって話すのが習慣となっている。
「おかげさまで、退屈せず毎日を過ごしております」
春賢は勤めて明るく返す。

「そういえば、ジンナイ殿はいずこに。もう瑛国(グリーデル)からは戻られたと聞きますが」
「ああ、今は楼蘭に居る。門隠九家のひとつ森叢家で家庭教師をしているそうな」
春賢はうなずきながら冷珈琲を飲み干す。
「では行かねば。では少佐、またの機会に」 「よい出会いをな」
春賢はカフェーを出ると路地裏へと消えた。


「ここか、森叢家は」
春賢は作務衣姿で屋敷を見て回る。
森に囲まれたうっそうとした屋敷、一般の人は気が付かないだろうが、忍びの彼ならばわかる。

ひしひしと身を刺す様な 殺 気 の 気配を。

(さすがは門隠九家の一つ、殺気とは別に妖気も感じる、明日は気が抜けんぞ・・・)
春賢は先日ジンナイに出した手紙の行方を案じつつ、宿への道を急いだ。


翌日・・・

春賢は早朝に森叢家へと潜入、書斎に構えた。

そしてそこに現れるジンナイ。

たちまち拳や刀を付き合わせる組み手が始まる。
ジンナイが刀で切りつければ春賢はトンファーで防ぐ。
春賢がトンファーの内蔵火器を撃てばジンナイは刀を扇風機のように回して弾く。
二人の立ち回りは達人同士の息の合った立ち回り、相手に怪我をさせないよう存分に加減して行う。


「相変わらずだな、ジンナイ殿。ところで、床下の観客をそろそろ上げてはいかがかな」
「・・・いいだろう、今日はここまでだ、出てきていいぞ」
ジンナイがいうと、床下から二人の女性が出てきた。
ジンナイの弟子、かざまと教え子の森叢千景だ。

「いやはや、双方お変わりなく安心致した」
「お前も変わりが無くてなによりだ」
ジンナイと春賢は久々の再開を喜んでいる。
かざまと千景はそれを眺めて顔を見合わせる。

友は語らい、そしてまたそれぞれの道を歩みだす。
「また亜国へ行くのか、春賢」
と、ジンナイは道すがらたずねる。
「そうだ、まだまだあの国には闇がある、闇ある限り影もまた必要。ゆえに行くのだ」
と春賢も返す。
「止めはせん、いずれお前はこの国に戻る。お前の才はこの国でこそ生きるからだ」
そうして二人は再会を期し、それぞれの場所に向け歩き出した・・・


この続きはまたいずれ別の形にて・・・
最終更新:2009年06月11日 02:37
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