アラキの旅 #3-4

(投稿者:A4R1)


「ただいまー。」
席を外していたキキが戻ってきたあたりで、ミミも息を吹き返した。
「キキ、どこいってたの?」
「おなかの具合が芳しくなくて…。ちょっと…。」
「そうか。なら、お前の分のプリンはオレが代わりにいただくぜ。」
キキがそのイイの冗談半分の発言を聞くや否や、
イイがまさに取らんとしたプリンを、鬼神の如き形相、疾風の如き身のこなしで、
スプーンですくうという工程を破棄し、虎を彷彿とせん跳躍をし、皿から直にすすった。
…それは一瞬の光景だった。

すべての工程を終えた時
略奪を為した彼女の半身は空樽へと収められた

イイも拙者らも呆気にとられてぽかーんとした顔でそれを見ていた。
当の本人は、怪我を気にする以上に、得た物に対する喜びの方が遙かに強いらしい。
「必死とはいえそんな食べ方しなくてもなぁ…。」
「同感…。」
「ははは……ん?」
キキがプリンを飲み込んだ事を確認した時、ヨヨさんの表情が強張った。
「どうしました?」
「しっ!!」
人刺し指を自分の口の近くに立て、私達が入ってきた方を見た。
「…何かの鳴き声らしきものが聞こえおった…。」
そして、彼女が私達の方へ向きかえると、微かに、でも確かに何者かの唸るような声が聞こえる気も…。
「でもどこから?」
その言葉の後、いきなりヨヨさんが拙者を指差した。
「え?な―」
指している指をそのまま下へと下ろしていく。
辿り着いたのは…。
「ナナの腹の虫かよ…。」
イイとヨヨさんの拍子抜けした顔…。
私が悪いの、コレ?

湿っぽい気だるさを劈くかの如く、外側から突然乾いた銃声が飛び込んできた。


キキ>

「今度は何だ!?」
ボクらが動き出すよりも早く、ロビンさんが外へと駆け出し始めた。
「一体誰あ!?」
「ロビン君!いかん!!」
外を確認しようとしようとする彼女をトーマスさんもまた追う。
若干視界のグラつきを感じながらも二人の後をいかけようとと踏み込んだ瞬間、
「ああぁっ!!」
「トーマス爺さんの声か!?」
年配の方、いや、トーマスさん本人の悲鳴が…!
「間違いない…!!」
「いやー!おじいちゃんしんじゃやだー!!」
智代ちゃんの涙声にイイが口元をギリリと食い縛る。
「みんなで行ったらみんなも危なくなっちゃう!」
「スタッフ専用裏口とカウンター口の二組に分かれたほうがいいわね!!」
「うむ!イイとミミとワシは神兄妹とともに裏から出る!!」
「民間の方への被害は避けてください!!」
「無論!!」
「特にイイが一番心配なんだから!!」
「っ、真っ先にオレに言うか!」
「てき弾砲にプロレス技…戦い方からして壊す気満々じゃねぇか。」
「…耳が痛くなるぜ…。」

二組に分かれ、再び来客用飲食室に立ち入ろうとした瞬間、
「いかん…!狙われておるぞ…!!」
苦痛を押し殺し、辛くも助言を絞り出す姿が容易に想像できる。
カウンター裏にトーマスさん、その反対側の小型カウンターの裏にロビンさんが身を潜める。
立ち入れようとした刹那に、冷たい銃声が間を割いた。
「ジジイもアマもそこにいるんだろうよォ?
 わかんってんだぞ!!」
怒号か罵声か、ただひたすらに煩い。
ボクの頭上からその発生源を覗き込んだセテさん。
「五連装シリンダーのリボルバー、アルトメリアの陸軍が採用している対人用カートリッジ…よりも火力は高いようだね…。
 見た限り、散弾や炸裂弾頭とかの特赦な弾頭を装填してはいないみたい…。」
威嚇射撃と思われる銃声にも動じないまま頭を引く。

「おい!そこにもいんのか!?」
犯人のものと思しき怒号に一人だけ縮みあがった。
「矛先を向けたか。」
「こ、怖い…。」
「じゃヴィンセント、ここに残る?」
「もっとこわぁい!!」
「泣かないでください…。」
もう…怯えちゃって…。
「みんなでトーマスさんのいるカウンターに飛び込もう!!」
「一度に!?」
「チャンスは一回のみです…!!」
「は、はぁあ…。」
「なァにをゴチャゴチャ…。」
「ボクの後ろへ…!早く…!!」
「う、うん…。」
「いい?」
「い、いいよ…。」
「せーの…。」
威嚇射撃のつもりで放たれたんじゃないかと思う銃声に合わせ、真っ先にボクが前に飛び出る。
今まで背に負っていた楯を射撃者へと突き出し、被弾面積の縮小に努める。
「ちいっ!!」
2.3発の発砲音の後舌打ちが聞こえた。
「全員退避完了!!」
「上出来ですね。」

その合図を耳にした瞬間に、じゃがいものような顔にモヒカンで、ボロシャツチョッキに黒ズボンという出で立ちに、
眉なしの強面大男が小銃を携えているのを確認して、カウンターにボクも避難した。
すると、おもむろにセテさんがカウンターから身を乗り出した。
「なんだテメェ?これが見えねぇのか?」
「ハッタリは慎むべきだ。その銃にもう発射できる弾が装填されていないのはわかってる。」
「あぁ~?(カチッ)ッ…チィッ!!」
セテさんに煽られて引き金を引いて舌打ちした。
足元に銃を叩きつけている様子からかなり頭にきてるみたい。
「だがなぁ!!」
おもむろにチョッキを脱ぐと、そこから朱色の円筒が現れた。
「あれは…ダイナマイト!?」
「あの大きさだと、入口が粉々に…。」
「万が一ニトロゲルを詰めたダイナマイトだったら、
 この店を中心として多数の建物が粉みじんになるでしょう。
 しかし、一目で危険だと感じる風貌の集団にあれだけの量のニトロを、
 表ではまず流す人はいないでしょうし、
 裏でもニトロのような大量の劇物を大量に運搬しようとして失敗し、
 惨事を引き起こした事例が多々あったので、
 まぁ、まずあのサイズと量のダイナマイトを作れるだけのニトロゲルは、
 ならず者の手には渡りにくいとは思います。(ここまでほとんどうろ覚えですが)
 とはいえ、あれ炸裂したらキキさんのおっしゃる通りに入口は壊滅するに違いないです。
 お給料が修理費に回されるのだけは避けたいです。」
さっきまで舌足らずだったロビンさんが饒舌に…!?
「この店を吹き飛ばすなど何のつもりかね…。」
「俺の子分達のお代だ…。お前ら全員の分あるぜ…。」
「くっ…!!」
セテさんが拳銃に手をかけようとした瞬間、爆弾魔が…
「おっと、妙な事をするんじゃねぇぞ?
 いつでも爆発させられるからなぁ…!!」
ズボンの左ポケットからライターの様な何かを取り出した。
それから線が出ていて、ダイナマイトにつながっている…!
「まさか…ダイナマイトの信管!?」
「コイツが見えたようだな!!妙なマネしたら即爆破してやる!ドカーンとな!!」

セテさんは奥歯をぎりりと噛み締めて一考に浸り、
リリさんは怯え、ナナさんは夢の世界。
トーマスさんの手当てを終えたロビンさんの横で、
打開策を打ち出そうと頭の中が白に染まりだした。

…いや…入口の上部に見えた…。
蜘蛛の影!!
「ん?うおがっ!?」
爆弾魔が気配に気づき振り返った直後、上半身が強い粘り気を持った暗緑色の液体に包まれた。
「ゆ、ゆゆうびびがあぁーっ!!?」
苦しそうな叫びを繰り返し、入口の辺りをぐるぐる回り始めた。
足腰が痙攣を起こしたように震え始めると、イイがすかさず飛びかかり、爆弾魔を店外に引きずり出した。


威勢のいい掛け声とともに、爆弾魔をどこかへと放り投げた。
「花火は他所でやりやがれ!!」
「たーまやー!!」

不思議と安心できる元気な声が聞こえてきた。


「ティーノ、お手柄だね!」
「いい仕事してくれるんだよね。うーん、えらいえらい。」
ヴィンセントさんの頬ずりを嫌がってティーノがそっぽ向いた。
肩を落とすヴィンセントさんの横で、ロビンさんが何かを拾っている。
爆弾魔が抱えていた爆弾みたい。
「もう爆発しない?」
「これニセもぬです…。」
ロビンさんが残念そうにその物体を床に放ると、カランという、とっても軽い響きがした。
「弾丸以外はハッタリだったのか…。」
「なんて奴だ…全く。」
「あの様な人がここには来ないだろうと私の考えが間違いだったんでしょう…。面目ない…。」
「トーマスさん、無理に動いては…。」
右胸の銃創をそのままに近づこうとしたトーマスさんをリリさんが制した。
あぁ…と息を漏らしながらトーマスさんはリリさんの肩によりかかった。
「近頃、Gに関ふる話題にびんくぁんになりすぎでうよ!トーマスさん!」
舌足らずの店員さんにそう言われ頭を振った。
「どうも…昔のように動こうとする癖がなおっていないようで…。」
「昔?」
「えぇ…。私は昔、軍に所属していました。」
「話しても大丈夫なんですか?」
「言うべきだと思っているのです…。そう、決めたのですから…。ううっ…。」
「その前に手当てをします!体は粗末にするべきではないんですから。」
「申し訳ないですね…ありがとうございます…。」


「これで大丈夫でしょう。」
「おじいちゃん、無理しちゃだめだよ!!」
「じーさん、それでも無理しそうだな。」
「心配をかけさせて申し訳ないです…。しかし、楽にはなりました。
 痛みが治まり次第、約束通り話を始めましょう。
 お店は他の店員の子が受け持ってくれるようですから大丈夫ですよ…。」

そう言って見せた笑顔が、どこか寂しさを思わせた。
…考えすぎかな?


- 続


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最終更新:2010年09月20日 21:09
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