ぐぅぐぅ! 武器保管室で爆睡中

(投稿者:セルバンテス)


 1945年、4月30日、午前9:00。エテルネ公国にあるクロッセル連合王国軍の陸軍基地。
 その基地にある自室にて、ソニー・フランキー中佐は自分の机の席に座り、背の後ろの窓側の景色を眺めていた。空色に輝くストレートヘアー、170以上の長身女性で、年齢は30代前半と言った所だ。
 青空の半分は雲が占めているが、今日は清々しく輝いていた。彼女のような年頃の主婦であれば、洗濯物干しに専念したい所だが、彼女は軍人であって主婦ではない。
 無論、この立場でそんな事をやれば、真面目な思考を持つ軍属に「何をやっている!?」等の突っ込みを受けるだろう。
 そのような考察が頭に過ぎったその時である。
 廊下に繋がるドアからノックの音が3回響いた。

「―――どうぞ、開いてましてよ?」
「失礼しましゅ……。」

 メード一人がこの部屋に入って来た。
 髪の色はソニーと同じく空色だが、この子の方が比較的に明るいと言った所だろう。長さは特に後ろ髪が長く、膝を軽く超える。
 頭のカチューシャとドレスの色、そして黒タイツの色を合わせると黒が中心的。
 そんなドレスを身に纏うメードはソニーの前で自己紹介しつつ、敬礼を行う。

「対「G」独立遊撃空軍ルフトバッフェ第一級戦闘小隊「黒の部隊」、ベーエルデ連邦より参りました。私が隊長を勤める空戦メード、チューリップです。 宜しくお願いします、フランキー中佐。」
「わたくしこそ宜しく。はるばるベーエルデから御疲れ様。疲れましたでしょ? 其処のソファーに腰掛けなさい?」
「い、いえ……大丈夫でしゅ。お気遣い有難うございます。」

 チューリップは我慢すると言わんばかりの発言をする。
 しかし、ソニーは……

「いいえ、立ちっ放しは行けませんわ。それに、之は命令でも御座いますのよ?」
「え? そ、そうなんでしゅか!? し、失礼致しましきゃッ……!! ~っ~っ~っ!」

 慌てたチューリップは自分の舌を噛み、顔を赤らめる。その最中に彼女は自分の近くにあるソファーに座り込む。それを目の当たりにしたソニーは、そんな彼女の仕草に微笑する。

「クスクスクス、貴女って結構可愛い所ありますのね。まぁ、良いですわ。楽になりなさい……。」

 そう言うと、チューリップは緊張のあまりで硬直している肩の力を下ろす。次の部屋の周辺を見回す少女はソニーの机の上にある写真立てに目を見張る。

「あの―――中佐。その写真の男の人ってもしかして御友達でしゅか……?」
「ん? あぁ、ウィルバーの事? 勿論、御友達でしたの。そうですわね……、初めて学校に入った時に知り合いましてね。ホントに良い友達でしたのよ。でも、父の仕事の関係でわたくしがセントグラールに引っ越す時に分かれましてね……。」

 ソニーは席を立ち、窓の外を再び見上げる。

「今は何処で何をやっているんでしょうね。ウィルバーは………」

 チューリップの視線は立ち尽くしている彼女に集中する。
 次の瞬間、彼女は目の前の女佐官の表情が少しだけ崩れて―――甘い表情から悲しみの表情へ―――いるのを目の当たりにした。
 この時、一人の空戦メードは出身地がこの公国ではない自分に感情を隠している―――と言っても個人的な感情だが―――かもしれないと少なからず感じた。が、階級の理由もあって問いかけはしない。
 もし問い掛けたら、彼女に自分に対しての無礼さの印象を与えてしまうからだ。しかし、このままでは自分が部下を引き連れて此処に来た理由もわからないままになる。

「ぁの~………フランキー中佐?」

 戸惑いを見せる空戦メードが声をかける中、ソニーは思い出に浸っていたような状態から我に戻る。

「? ―――あぁ、ゴメンなさいね。最愛の友の事を思い出しましたらついつい…」

 後に微笑で自分の感情を隠す彼女は壁に設置してある時計に自分の視線を合わせる。現在の時刻は9時10分前だ。

「―――う~む、あの子はまだ起きて来ませんわね。」
「……あの子?」
「えぇ、ウチの方に勤務している子ですのよ。楼蘭から来て下さいましてね、技量も保証付きなんですの。それにしても、9時前に起きて準備なさいってあれ程言いましたのに……。」

 ソニーは溜息をしつつ、表情に多少の剥れを見せ、机の上から鍵を取り出し、この部屋を後にしようとする。

「あのぅ、どちらへ……?」
「ちょっと起こしに行ってきますのよ。君も一緒に来まして?」
「はい、どんな人か見てみたいですから。」
「そう。因みに貴女の部隊に参加してもらう迎撃戦に彼も同行させる予定ですから、そのつもりでいなさい。良いですわね?」

 目の前の女性士官の言った事を肝に銘じた幼い空戦メードはソファーから立ち上がり、二人はこの部屋を出て、廊下を歩く。
 壁に貼られている数々のポスターを見回すチューリップにこの空間にあるあらゆる物体に目もくれないソニー。この一時がある程度経つに連れ、彼女達の足は階段の前に止まる。
 二人はこの階段を降り、その足はやがて1階を越え、地下の階にまで届く。
 電気をつけ、そこでまた彼女達の足はこの階の廊下に運ばれる。
 窓が一つも無く、電気を消すだけで何時でも暗闇の世界へと変われるこの空間の中、チューリップに一時的な不安と疑問が過ぎった。
 ソニーは“彼”と言ったから恐らくはメールだろう。しかもこの時間帯になってもまだ起きないと来た。其処までは良い。
 しかしながら、何故この階なのか?
 メード専用に建築された寮なら自然だが、このような地下の階だったら実に不自然だ。
 と言う事は、この階の部屋の何処かに寝ているメールは時には理性を失うほどに暴走してしまう危険性があるのか。
 だとしたら、そいつに同行する自分達は………
 表情を青ざめ、不安を更に過ぎらせるチューリップは恐る恐ると自分の前を歩き続ける女性士官に話しかける。

「ぁ、あのぅ………中佐。一つ宜しいでしょか?」
「? 何でして?」
「その人………まさか変な暴走はしませんよね?」

 チューリップの怯えを見せる質問にソニーは微笑する。

「ウッフフフ、そんな事は致しませんわよ。」
「じゃあ、何でメード専用の寮じゃなくて地下なんですか!?」
「それはちょっとした事情が御座いましてね、仕方なくこの階の部屋に住み付かせていますのよ………。」
「そ、そうなんでしゅか……。 ――――はぁ。」

 自分の予想していた答えとは違っていたのか、溜息をしつつもその安心感と共に心を落ち着かせる。
 が、それと同時に次の疑問が過ぎる。
 彼女は“ちょっとした事情”と言っていたが、それは一体何なのか? 今同行している自分にはとても話せない何かがあるとでも言うのか?
 しかし、それを深く考える時間は短いものに終わる。
 何故ならば、ソニーの足が一つの部屋の前で止まったからだ。
 彼女達二人の足の先には一つの扉。その上には“第一武器保管室”と書かれている。それがこの部屋の名前であろう。

「ち、中佐。………此処って武器保管室でしゅよね?
「えぇ、この部屋にあの子が住み着いていますのよ……」

 チューリップの不安と戸惑いを他所に、ソニーは目の前の扉に近付き、左手で強くノックする。

飛騎丸、飛騎丸ッ! 起きなさい、今何時だと思いまして!?」

 後に彼女は何度も扉をノックするが、向こうの反応は未だに何も無い。それを確認したソニーは自室から持ってきた鍵をポケットから取り出し……

「………全く困ったものですわね。」

 扉の鍵穴に差し込んで鍵を上げ、その扉を開ける。それとほぼ同じくしてチューリップは不安のあまりに目を半場隠す。
 その結果、彼女の予想は大きく外れた。
 部屋の中は拳銃やら自動小銃やらが並ばれており、爆弾やらマガジンやらが入っていると思われる木箱が周辺に積まれている。文字通り武器保管室だ。
 しかし、その間に一人用の布団が敷かれており、其処に19歳ぐらいの青年が布団に身を被せ、いびきを掻いて寝ていた。
 しかも、その布団の周りには戦闘用に使われると思われる鎧と双刀、そして薙刀、私服は勿論の事、最新式のラジオとちゃぶ台までもが置かれ、この部屋をほぼ私物化しているのが伺える。

「チューリップ、ちょっと耳を塞いでいなさい?」

 チューリップは彼女の言われた通りに人差し指で両方の耳を塞ぐ。
 後にソニーは足音を立てずに歩き、その手をラジオの方に伸ばす。音量を最大にし、スピーカーを寝ている青年の右耳の方に近づける。
 この状況を目の当たりにしたチューリップは、彼女が今何をしようとしているのかほぼ分かったようだ。
 そして、ラジオのスイッチが入れられる。

「―――――ッ???!!!!」

 次の瞬間、スピーカーから出た一撃が彼の耳穴に直撃。その後で布団から上半身を飛び起こす。
 ソニーはその後で下半身を被せている布団を掴み、自分の背の方に投げつける。

「ふ、フランキー中佐……?」
「飛騎丸、さっさと置きなさい! もう9時半過ぎましてよ? この部屋は暗いでしょうけど、外はもう朝でしてよ?」

 飛騎丸と呼ばれる寝惚け眼の青年はパジャマ姿―――恐らくこの国にある街で買ったと思われる―――のまま立ち上がり、欠伸をしつつも背伸びをする。

「フランキー中佐、もしかしてこの人が中佐の言ってた人なんですか?」
「えぇ、その通りでしてよ? ―――それよりも飛騎丸、何時までもそんな格好してないで、早く着替えなさい。今日は貴方にも動いてもらいましてよ?」

 未だに眼が変わらなく、パジャマ姿の青年は後にソニーに着替えを命じられ、この場の女性二人はその最中に部屋を出て、扉を閉める。
 彼の存在を目の当たりにしたものの、チューリップは未だに半信半疑の状態だった。
 しかし、彼こそが楼蘭皇国から此処―――クロッセル連合王国軍に派遣されてきた歴戦のメール、人呼んで“楼蘭の騎馬武者”の異名を持つ飛騎丸である。
 その異名で呼ばれた彼が何故この武器保管室で寝泊りしているのか?
 それにはソニーの言っていた事情があったのだ。
 彼女が今からチューリップに話す真実によると、それは1ヶ月前の真夜中の出来事である。
 当時、飛騎丸は専用の寮に住み付いており、次の日に備えてベッドで眠っていた。其処までは良かった。
 しかし、問題は彼の隣の部屋にあった。その部屋にいるメード二人が喧嘩をしていた。
 言い争いから次第に殴り合いに変わり、それはペースを上げ、感情に連動してコアエネルギーや専用の武器を使うようになった。その流れ弾は次々と隣の彼の部屋を貫通して行き、やがて崩壊する。後にやって来た士官達によって喧嘩は止められ、寮の全壊は免れたものの、不幸にも飛騎丸の部屋は崩壊された。
 その後、寮の修復が終わるまで、相談を受けたソニーは仕方なく此処―――第一武器保管室に寝泊りさせている。

「そ、そんな事があったんですか……」
「えぇ、あの時はホントに大変でしたのよ……。中には教育担当官の家に下宿させている例も御座いますでしょうけど。」
「何だか、お疲れ様でしゅ。」
「あら、有難う。貴女にそう言って貰えますと、心が安らぎますわね。」
「いえいえ、そんな……。」

 二人の会話が其処まで進むにつれて扉が開き、その先から武者鎧を身に纏った青年が二人の前に現れる。
 暗みのかかった深緑と緑を主体としたカラーで、胴当てには白樺の木の絵と葉っぱの模様が刻まれており、緑色に塗られている部分が、反射している灯りの光で輝いて見える。
 また、右腰には刀が二つ付属されており、背中には薙刀を背負っている。
 これこそが飛騎丸の本来の姿なのである。チューリップはその姿を見上げ、彼に対しての疑いを半場なくす。

「これで全員揃いましたわね。 ―――チューリップ、貴女が連れてきた部下達をブリーフィングルームに全員よこしなさい? 今から貴方達にも参加してもらう迎撃作戦の説明を致しますから……」
「はい、分かりました。」

 ソニーはチューリップに呼び出しの命令を下す。
 しかし……。

「フランキー中佐、一つ宜しいでありましょうか?」
「飛騎丸、何でして?」
「―――拙者、朝飯は欠かしたくは無いのでありますが………。」

 飛騎丸の発言により、ソニーは“よくも良い空気をぶち壊してくれたな?”と言わんばかりに顔を顰め、その顔を彼に近づける。

「―――何ですのよっ!? 朝寝坊しておいて良くそんな事が言えますわね! 一つも欠かしたくなかったら、今すぐ食堂にでも行って、朝御飯をさっさと食べて来なさいッ!!」

 彼女の怒鳴り声に驚く飛騎丸は慌ててこの場を後にし、階段を多少踏み外しつつも登って行く。そして、顰め面を崩さずに溜息をするソニーをただ黙って見上げるチューリップはこう思うのであった。
 “何なんですか? この人達って……”と………。


最終更新:2009年02月10日 19:58
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