(投稿者:セルバンテス)
「中佐、遅くなりました。」
朝食を終えた
飛騎丸は急々とブリーフィングルームへと駆け出し、今現在着いた所だった。部屋に並べてあるパイプ椅子には
チューリップと、彼女に仕える3人のメード達―――そのうちの一人は身長が200を越える長身メード―――が座っていた。
被っていた兜を取る飛騎丸も彼女達4人の隣に座り、ソニーはこの場に居る人数を確認する。
「………うむ、全員この部屋に揃いましたわね。では、始めましょう。」
彼女は地図を取り出し、それを黒板の右側に広げた後に磁石で止める。
その地図には
エントリヒ帝国と
クロッセル連合王国、そして南ルージア海付近がGの勢力圏も含めて細密に描かれていた。
ザハーラ領域とクロッセル領域の間に余っていた磁石を3つ貼り付ける。
「良く見なさい? このちっちゃな磁石をくっ付けます所が、貴方達の作戦対象となるG群を示す場所ですのよ。発見した偵察部隊の報告によりますところ、種は
ワモンとウォーリアの中規模郡である事が判明、クリオネス海域を目指して進行しているのが判明されましたわ。彼等はどれも成虫で、もしその羽を羽ばたかせたりでも致しましたら、グリーデン諸島にまでも届いてしまう可能性も御座いますでしょうね……。」
作戦説明の最中、チューリップが右手を上げる。
「―――フランキー中佐。と言う事は、私達がやる事は、そのG達の進行を防ぐ防衛戦と言う事ですね?」
「うむ。チューリップ、その通りですわ。 ――――それから数は前者の方が上ですけど、グレートウォール山脈付近上空からも
フライの郡が同海域を目指して進行しているとの情報もありますでしょうから、恐らく何処かで彼等と接触して共に進んでいる可能性も否定は出来ませんでしょう。其処でですわ。」
その説明を聞いたチューリップは、何故自分達がこの基地に呼ばれたのかを納得した。
彼女はその考えを纏めつつも、目の前の士官の説明を聞く。
「この緑色の磁石をくっ付けた場所は進行予測地点。今の時間帯で出撃すれば約7時間か、もしくは14時間後には着き、明朝には彼等と接触するでしょう。貴方達はその地点に進み、進行してくるGを迎撃して欲しいのです。」
ソニーは緑色の磁石をクロッセル領域の防衛線がある場所に置く。
この作戦の目的を、4人のメードと一人のメールは沈黙のまま目の当たりにするが、彼女の説明は未だに続く。
「それから長期戦に備えてエントリヒから補給車両3台で編成された補給部隊の出動を要請致しました。彼等を上手く活用しつつも迎撃が一番望ましいでしょう。運が良ければ、君達の到着時間とほぼ近い時刻になるでしょうね。」
この後にチューリップの部下の一人が手を上げる。
軍服を着ても分かる程に強靭的とも言える筋力を誇り、約200cm以上を行く大柄のメードだ。
彼女は通称―――黒星三翼騎、
ブラック・スリーと呼ばれる百戦錬磨のエースメードの一人―――ルテーガだ。
その間に座る中柄のカイアと小柄のマシュー―――三人の中では―――は真ん中の席に座る彼女と同じ事を考えていると言わんばかりに自分達の視線をソニーに向ける。
「フランキー中佐、ちょっと質問なんですが――――運が悪かったらその時はどうなるんですかい?」
「彼等が来るまで君達で頑張るしか御座いませんわね。ちょっと悲しい所でしょうけど………。」
溜息交じりに吐き出すその発言を聞いた瞬間、ルテーガはそれに反応するかの如く、更なる発言を試みる。
「―――中佐。御言葉ですが、今の俺達に心配は御無用です。補給部隊に頼らずとも、十分にやって行けると思います。」
「ルテーガと言いましたわね? その自信に敬意を払わせて頂きますわ。でも何故そう言えまして?」
「それは俺達―――“黒の部隊”が、あのような気持ちの悪い連中を相手に今までこの腕で………」
ルテーガの代わりにカイアが拳を握りつつ答え………
「………―――潜り抜けて来た………からです。」
連られてマシューも小声混じりの感覚で答える。
チューリップは慌てつつも彼女達の制止を試みるが、ソニーにそれを止められてしまう。熱い絆で結ばれた3人の自信と志を自分の目で感じた彼女は、自分の目先に居る3人組の何かを認めるかの如く、軽い微笑をする。
「確かにその自信と志は本物―――“三位一体”に恥じないと言っても良いでしょう。でも貴女達は“猿も木から落ちる”と言う言葉は勿論知っていますわね?」
「知っています。如何に得意なものでも失敗する時かある、と言う意味ですよね? チューリップ隊長と俺達の教育担当官から教わりました。」
「―――宜しい。ちゃんと知っているようですわね。でしょうけど、わたくしは貴女達が何と言おうと、補給部隊を向かわせますわよ? もし―――この戦で迂闊にも貴女達が命を落としましたら、悲しむのは何方?」
目先に立つ佐官の言う事を耳に入れたカイア達―――3人は、付近に座りつつ、顰め面に含まれる眼で自分達を見つめる上司に視線を合わせる。
彼女達はこの時、ソニーが自分達に対して何を言いたかったのか気づいたようだ。
「そう、そうでしょ? 確かに身投げをしてでも、この地のためにも尽くしたい御気持ちはわたくしにも分かりますわ。でもね………それは彼女の心をもう少し支えてからになさい。良いですわね?」
「はッ!」
この会話の歯止めが此処で利き、チューリップは目先を彼女に戻す。この時の眼は自分達に対しての気遣いの感謝に近かった。
彼女にとって、ソニーが言った事の殆どは自分が言いたかった事だったのかもしれない。
以上の感情を抱くメードの視点に気づくソニーは一瞬だけ目線をその位置にあわせる。その後で彼女はこのミーティングを終わらせようと試みる。
「―――さて、何か質問は?」
彼女の発言の後に周辺を目線だけで見回した結果、沈黙だけが残っていた。
「宜しい。 ――――では、起立!」
次の瞬間、椅子に座っていた5人のメード達は一斉に立ち上がる。
そして………
「………諸君等の健闘に期待します。」
ソニーはそう言いつつも目先の5人に向けて敬礼する。
やがてこの場のメード達はそれぞれの準備を整えるべく、この部屋を後にした。それを無言で見守ったソニーは、窓の外にある空を眺めつつ呟く。
「さって、わたくしは差し入れの準備でも致しましょう………。」
出撃準備の最中、チューリップ達―――黒の部隊は女子更衣室を借り、自分達が使う武器の点検をしていた。
迎撃戦とは言え、戦いを前に使う装備が万全かどうかを事前に確かめるのは必然の事。
特にチューリップは自分が使う斧―――クリューアルファングの具合を見ていた。この斧はジャマダハルと呼ばれる刺し刀のような形状をしており、右腕左腕の双方とも扱えるべく、双斧とされている。
特性は普通の斧と変わらないものの、
空戦メードとして彼女に与えられた力によって一撃離脱の高速戦法の威力を更に向上出来る。
ブラック・スリーもまた、自分達の装備の点検に専念していた。
その時間がある程度経つに連れ、彼女達は点検を終え、チューリップはクリューアルファングを腰につけ、それに連れて彼女の部下達も其々の装備を背中につける。
そして更衣室を出て、そのまま外へ出る。
同じ頃、兜を被る飛騎丸は外へ出て近くに建ててある馬小屋へと足を運ぶ。鍵を開け、そこで姿勢を楽にしている白馬に目をやり、馬小屋から外に開放する。この白馬は飛騎丸の愛馬として戦場を共にしている“白鳳”である。
楼蘭皇国で独自に行った実験によってエターナルコアを埋め込まれており、その影響で高いジャンプ力と汽車を上回る走行力を手に入れた。
しかし、この白馬は人に慣れ難い癖が目立ち、この乗馬実験の為に負傷したメードも多かった程だっが、以後はこの飛騎丸を選ぶ事になる。
馬小屋の方は、彼が楼蘭から此処に派遣された際にソニーの要請によって特別に手配してもらっている。その為か、任務の為にこの基地に来た他国のメードや此処に勤務をする一部の軍人達にとっては良い見せ場と言っても過言ではない。
他のメードや軍人達の視線を浴びつつも、飛騎丸は手綱を持ちつつも、白鳳の首筋を撫でて共に歩き出す。
時間がある程度経つに連れ、チューリップ達と合流する。
其処で彼女達は自分達にとって、飛騎丸の意外な光景に目を見張る。
「飛騎丸さん、その白馬は?」
「―――あぁ、コイツか? コイツは白鳳………拙者の友と言っても過言ではないだろうな。」
「へぇ~、白鳳でしゅか。 ―――白鳳さん、宜しくでしゅ♪」
彼の愛馬を紹介されたチューリップは目の前の白馬のつぶらな瞳に多少の興味を感じ、その手で白馬の肌に触れようとするが、その行為に怒りを感じたのか、暴走するかのように威嚇する。
「きゃッ!!」
「白鳳、止せ! ………すまん。白鳳は拙者以外の人間にはあまり懐かない癖があるのだ。」
飛騎丸は感情を高ぶっている白鳳を撫でて気を静め、その後でチューリップが起き上がるのに手を貸す。
「そ、そうなんでしゅか。折角お友達になろうと思いましたのに………。」
「ま、まぁその………なんだ。コイツと一緒に居る機会が多ければ、仲良くなれるかも知れないぞ?」
飛騎丸は苦笑しつつも気が沈んでいるチューリップを慰める。
その後にカイアは腕時計の時刻を確認し、今の時刻を隊長に知らせる。
「チューリップ隊長、時間です。そろそろ行きましょう。」
「ぁ、はい。分かりました。」
チューリップが部下の呼びかけに答え、其処で5人のメード達の談話が終わる。
後に長の彼女を中心とした黒の部隊は目を瞑って念じる。
次の瞬間、彼女達の背中から鳥の翼に全く刻にしたエネルギーが展開される。彼女たちのシンボルカラーと同じ黒で、まるで烏の翼にも似ている。
この現象は、ベーエルデーにて発掘されたコアを用いて誕生した空戦メードに与えられた力であり、この力を使って、チューリップ達も空を飛ぶ事が出来る。空戦メードならではの力を初めて目の当たりする飛騎丸は彼女達に対しての驚きと感心を見せる。
「これが噂の空戦メードに与えられた力か………凄いものだな。コアの力を使って空を飛ぶ為の翼を形成するとは………」
「これがアタシ達―――空戦メードの特長なんだよ。この力を使って、空を飛ぶ厄介な虫共をぶっ潰すのさっ!」
ルテーガの自信に溢れた自慢の後、4人のメードはその黒い羽を羽ばたかせ、その影響で周辺に風が出始めつつも宙に浮き始める。
飛騎丸は左手でその風をさえぎつつも、次第に空に上がっていく彼女達を見守る。
そんな中、チューリップは地に立つ飛騎丸に話し掛ける。
「あの~、飛騎丸さん。ちょっと良いですか?」
「―――何だ?」
「あっちで合流しましたら、お話したいんですけど、良いでしゅか………?」
「拙者に話したい事か?」
「はい、如何しても聞きたい事がありましゅんで………。」
「分かった。向こうで会ったら聞こう。」
「有難う御座います。では―――向こうでまた落ち合いましょう。」
チューリップがそう言い残した後、彼女を含めた黒の部隊はこの基地から飛び去り、やがてスピードを上げて目的地へと向かった。
それを見上げた飛騎丸は白鳳にまたがり、自分も此処から出撃する。
「さぁ、白鳳―――頑張ってくれよ? 拙者達も出陣するぞ!」
武者が手綱を振った後、白鳳は前足を浮かばせつつ雄叫びを上げ、猛スピードでチューリップたちが飛び去った方向に向かって走る。
基地を出たところでそのままの走行力とスピードを維持する。
エテルネにある雑木林付近の野原を走り、彼から離れた場所に設置された線路を走る汽車を軽々と追い越す。
その光景は遠くから見つめる第三者にとっては風を思わせる大地を駆け巡る何かを連想させられる程だ。
この野原を駆け巡る中、飛騎丸は上を見上げた。
その先には、未だに飛行中の黒の部隊の姿があった。その光景を見た飛騎丸は“やっと追いついた”と言わんばかりに溜息をする。
彼はその後で手綱を振り、黒の部隊さえも追い越した。
更に飛騎丸は後ろを向き、彼女達に向かって手を振る。
「!? 飛騎丸さん?!」
「………何てスピードだ。あの白馬は本当に馬なのか!?」
白鳳の機動力に驚きを見せる黒の部隊。
その最中にカイアは、下の飛騎丸が懐から何かを取り出しているのを見抜いた。ライトのようだが、飛騎丸はそれを自分達に向けて発光したり、消したりしていた。
彼女はそれが信号だと言う事に気づいた。
「チューリップ隊長、飛騎丸から信号です。」
「カイア、読んで下さい。」
「ハッ! “遅れて申し訳ない。御前達の飛翔する所に見惚れてしまった。共に進もう”だそうです。」
「―――飛騎丸さん………。」
飛騎丸がライトをしまう後、チューリップは下の彼に向けて手を振る。それを見上げた武者も空戦メードに手を振り返す。
やがて、両者とも同じスピードを維持し、自分達の戦場へと向かう。
最終更新:2009年02月10日 19:51