冬の風景

(投稿者:エアロ)



A.D1946年、1月。
エントリヒ帝国帝都ニーベルンゲ。
慌しい新年の祝賀行事も終わり、いつもの落ち着きを取り戻しつつある帝都。
軍務省の第1方面軍司令部のオフィスにて、その人物は窓の外を眺めている。

「また雪か。帝都でこれでは、郷里のほうでは積もっていそうだな」
彼の名はグレゴール・フォン・シュタイエルマルク
国防陸軍第1方面軍の第5陸戦大隊を率いる少壮の中将である。
同時に彼は門閥貴族の一人でもあり、故郷であるクラインゲルト市の明主でもある。
しかし、彼はほかの貴族のような住民をこき使ってふんぞり返るようなことはせず、
軍務の暇が開けば領地を巡察し、住民とも話し合ってできうる場所は住民の自治にゆだねているのだ。

なぜ彼がニーベルンゲにいるかというと、新年恒例の軍務省司令官総会に出席するためなのだ。
寒い季節を向かえ、第5陸戦大隊の管轄であるグレートウォール戦線は落ち着きを見せており、
空のGには空軍が対処するため、彼は少数の部下と共に帝都にいるわけである。

まどろみに浸っているとドアが開き、彼よりも下の階級のものが入ってきた。
「シュタイエルマルク中将閣下、戦術学校マイスターシャーレのヴォルケン中将がお呼びになっておられます。
 "例の場所"まで来て欲しいとのことです」
「ああ、わかった。 30分でいくと伝えてくれ」
そう言うと彼は身支度を整え、表に止まっているヴォルクスヴァーゲンに乗り込んだ。
流石に帝都ではミリティーアヴァーゲンに乗るわけにも行かない。
「クルト、すまないがヴォーディン・プラッツまで飛ばしてくれ」
「了解しました、閣下。道路さえ混んでなきゃすぐにつきますよ」
専属運転手であるクルト伍長は慣れた手つきで車を転がしていく。
まもなく、ヴォーディン宮の入り口であるヴラウヴェスター門と、それに面した大通りであるウンテル・デル・リンデン、
そしてその交わる地点であるヴォーディン・プラッツが見えてきた。
「ここでおろしてくれ。17:00くらいに連絡する」
「構いやしませんよ、閣下。 どっか近場で待ってまさぁ」
グレゴールが降りると車は別の方向へ走っていく。
「おそらくどこかのパブで一杯引っ掛けるんだろうな」
そういうと彼はそのそばにあったレストラン「海鷲(ゼー・アードラー)」へと入っていった。

「おおぅ、ここだグレゴール。久しいな」
そう彼に呼びかけるのはホラーツ・フォン・ヴォルケン中将。
帝都にある帝国軍戦術教導学校「マイスターシャーレ」の校長だ。
「こうやって会うのは士官学校以来だな、ホラーツ」
彼らは士官学校の同期なのだ。
ヴォルケンは後進指導の道へと進み、グレゴールは前線で戦った。
同じ中将といっても質はさまざまなのだ。
「卿ならばこのレストランに呼び出すとわかっていたさ」
「"あの場所"と言えば、お前なら食いつくと思ってたよ、ウェイターさん、ビールとフリカッセにビーフシチュー」
ヴォルケンが注文を飛ばすとウェイターが即座にカウンターへと向かう。

10分後、深皿に盛られたシチューとフリカッセ、ジョッキに注がれたビールが運ばれ、
二人は食事をしながらの歓談を始めた。
「そういえば卿(けい)は最近MAIDを貰い受けたそうだな」
グレゴールはシチューをぱくつきつつ聞く。
「ああ、そうだよ。この子さ、かわいいだろう?」
ヴォルケンはビールを飲みつつ懐から写真を出す。
そこには人形のような可憐な少女が兎の人形を抱き写っていた。

「MAIDはかわいいものさ。疲れていても彼女の瞳を見ればまた明日がんばろうという気が起きるものさ。ああ、愛しのベルゼリア・・・」
なにやら親が子を自慢しているかのような奇妙な話をヴォルケンはしはじめている。
「しかし、卿はフロイライン・ライサとも付き合っているのだろう?秘密警察にでも知れたらどうする」
グレゴールは釘を刺すように問い詰めるが、ヴォルケンは意に介していないようだ。
「ライサとは別に何も無い、同僚で腐れ縁というだけだ。まぁ色気がありすぎるのはどうかとは思うがな。
 それと、グレゴール、卿は忘れているな、俺の制服を見ればわかるだろう?」
そういわれてグレゴールは納得した。
ヴォルケンは中将は中将でも皇室親衛隊中将なのだ。
皇室親衛隊は帝国軍の中でもえりすぐりのエリートで無いと任官できないからだ。
「卿だって、士官学校の成績は悪くは無かったし生まれも確かだっただろうに、前線にいっちまうとはねぇ」
「俺にはその黒制服を着て帝都を闊歩するのは似合わん。」
二人は話し込みながら夕食を楽しんでいたが、突然外で大きな音がした。

「なんだ?」二人は同時に言ってのけたあと、窓の外を眺めた。

見ると、どうやら車同士の事故のようだ。
年始のこの慌しい中ではさして珍しいことではなかったが、
一般車の向こう側でボンネットをへこませて各坐していたのはNMWブリッツトラックだった。
「やれやれ、ヘマやらかしたのはどこの唐偏朴だ?」
ヴォルケンが窓からのぞくとトラックの幌になにかマークが見えた。
「なんとまぁ。新年早々面倒なことになりそうだな」
「卿が面倒だと言い切る部隊は・・・2つしかないな」
「お察しのとおり。 あのトラックは

エ メ リ ン ス キ ー 

の所属だ」



最終更新:2009年01月10日 01:17
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