SILVERMOON

クリスの本音

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クリスの本音

(title:反発)






「もう!もう…っ!どうしていつもあいつは…!!」

部屋で一人、私は出て行ったサロメに悪態をつく。

サロメが部屋を出て行ってしまった後、同行していた騎士たちは帰り支度を整え、馬を取りに行っている。
もちろん私も行かなくてはならないのだけど…
私はここを去りたくなかった。

先ほどのサロメの態度が納得いかないからだ。

サロメに全てを任せておいたら安心…というのは十分承知している。
サロメが私と部下たちを気遣って、先に帰れと命じたことも頭では理解している。

頭では理解しているが、私だって騎士団を率いる身。
一緒に協力し合ってもおかしくはないはずだ。

頭ごなしに”帰れ”なんて言われて、無責任に”はいそうですか”と帰れるものか?

「少しは頼ってくれてもいいのに…」

本音がこぼれ落ちる。

私は、私のことをサロメに必要として欲しいんだ。頼って欲しいんだ。
私がサロメを必要としているように……。

飾りだけの英雄なんてまっぴらだから。

今以上に、もっと必要として欲しい。
それは、たとえば職務とは関係の無いところでも、だ。


そして…それもあるけれど…

本当のところは、もうひとつある…。
ここを去りたくない理由が。


本当は…。


本当は、ただ単にサロメと一緒にいたいだけなのかもしれない。
サロメに”先に帰れ”って言われてさみしいだけなのかもしれない。


こんな子供っぽい感情、サロメには呆れられるんだろうな。
そして、やっぱり子ども扱いされるのかもしれないな。

そう思うと自然と苦笑が浮かぶ。

でも気づいてしまったものは仕方が無いだろう?
仕方が無いから、私は開き直ってその子供っぽい感情を認めてしまう。
認めてしまえば、後はとる行動は自然と決まってくるものだ。

さすがにそんな感情を表立てるわけには行かないが、私は”ゼクセン騎士団長”として責任ある行動をとることに決めたのだった。


そう、あくまでも”ゼクセン騎士団長”の責任を果たしているだけだから…

”問題ございません。”

…よな?サロメ。


私は勢いよく扉を開け、皆の許へと駆け出した。








夜半、サロメは先ほどの部屋に一人戻ってきた。
ずいぶんと長い間デュパ達と話をつけていたようで、表情には疲労の色が見える。
そして視線は先ほどの書面に釘付けである。

「中々デュパ殿も折れては下さらんか……」

独り言をブツブツ言いながら考え事に熱中しているようだ。

「その顔じゃうまくいってないようだな。」

「ええ…今一度評議会と話をつけなくてはなりませんな。」

「そうか。」

「……え?」

サロメの声が止まる。


―今の、声って…?


ここに来て初めておかしいことに気がついたようだ。

「どうした?」

その声に、サロメは書類から目を離し、ゆっくりと前を向く。
目の前には、椅子に腰掛け足を組み悠然と微笑んでいるクリスがいた。

「………!!??」

事態が把握できずにサロメは言葉も無く固まっている。

「なんだ、そんな変な顔して。」

くすっとクリスが笑みをこぼす。
サロメが驚いている訳をわかっていながら、とぼけてみせるクリスである。

「な、な、な……」

「何だ?」

動揺を隠せないサロメに対し、クリスは頬杖をついて首をかしげている。
どうも思いっきりこの状況を楽しんでいる感がある。


「…な…何故……クリス様がいらっしゃるのですかーーー!!??」

サロメにしては珍しい慌てようである。
そんなサロメの慌てぶりをニコニコしてみていたクリスだが、すっと椅子から立ち上がり、不意に表情を厳しくする。

「サロメ。」

「…はい。」

クリスの真摯な眼差しを受け、サロメもまた襟を正す。そしてクリスの言葉を待つ。
じっとサロメを見据えたままクリスはゆっくりと話し出した。

「お前に全てを押し付けておいて私は先に帰るなど…そのような無責任なことできるはずがないだろ?」

「…クリスさま…。」

「私はゼクセンの騎士団長…。そうだろう?」

「はい。そのとおりです。」

「だったら、私にも手伝わせてくれ。お前一人に負担をかけたくはないんだ。」

「クリスさま…。」

クリスの気遣いにサロメの胸が熱くなる。
そして、やはり自分が忠誠を誓える相手はクリスしかいないと、心の奥底で密かに決意を新たにする。
それと同時にクリスへの配慮の至らなさを痛感する。

「申し訳ございません。私の気が回らないばかりに余計な気を回させてしまいましたな。」

「余計…か?」

サロメにしてみれば、ただ単にクリスに気を使わせて申し訳ないという気持ちから来る言葉なのだが、クリスにとってはその言葉がどうにも引っかかってしまうようで、つい言葉尻を捕らえて聞き返す。

「は?」

「私が、サロメを気遣うのは余計か?…サロメを心配してはだめか?」

縋るように、責めるようにクリスはサロメに詰め寄る。

「とんでもございません。……その、お気遣い大変嬉しく思っております。」

「本当か?」

瞬時にクリスの表情が明るいものへと変わる。そんな様子を見てサロメはほっと胸をなでおろした。

「ええ。ありがとうございます。」

あまりに気を回すことが余計にクリスの気を使わせることに繋がると、ここは思ったまま感謝の意を伝えるサロメであった。
その言葉にクリスの表情はますます明るくなる。

「じゃあ、いいんだな。」

「え?」

突然”いい”と言われても何のことかわからずにサロメは聞き返した。

「きょうはここでお前を手伝うから。」

「え?…」

にっこりと満面の笑みで爆弾宣言をしてのけるクリスに再び言葉をなくすサロメであった。



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