SILVERMOON
サロメの本音
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サロメの本音
(title:拒絶)
私は、クリス様に忠誠を捧げた家臣であり、
クリス様をお支えする立場であり……
そして、そんな私にクリス様は信頼を置いてくださる。
その信頼にこたえるために、
そして若さゆえなのか、ときに垣間見せる彼女の危うさを放っては置けなくて、
私は目を離さずにはいられない。
いうなれば彼女にとっては保護者のような存在で…。
本当に、
それだけのはずなのに……
何故だろう。
時折見せる彼女の表情に、仕草に私の心はひどく揺さぶられる。
あるはずのない事を勘違いしそうになる。
離れることはあっても、決して近づくことはないとわかっているはずだというのに。
わかりきっていることなのに、己の感情を制御しきれていない。
感情的なんていう言葉は自分にはそぐわないものと思っていたのだが、彼女はあっさりとそれを覆してくれたのだ。
そんな事を最近よく思い知らされる。
わかっていない。
クリス様はてんでわかっていないのだ。
こんなところで、こんな時間に、こんな状況で……。
クリス様の気遣いは身に余る光栄なのだが、こちらとしては針のむしろ、いや蛇の生殺しか。
クリス様の気遣いは身に余る光栄なのだが、こちらとしては針のむしろ、いや蛇の生殺しか。
クリス様の無頓着と言うか無防備なところはいつも悩みの種である。
それは偏に、私が愚かしい感情を抱いてしまっているからなのだが……。
それは偏に、私が愚かしい感情を抱いてしまっているからなのだが……。
そんなことは露とも気づいておられないのだろう、
私の苦悩を余所に、クリス様は鼻歌なんぞを歌いながら書類に目を通しておられた。
私の苦悩を余所に、クリス様は鼻歌なんぞを歌いながら書類に目を通しておられた。
もう少し自覚を持って欲しいと願うのだが、
多分、これが私でなければまた違ってくるのだろうかとも思う。
多分、これが私でなければまた違ってくるのだろうかとも思う。
コンコン
突然ノックの音が部屋に響く。
そういえばここは大空洞の宿屋。主が来てもおかしくない。
そういえばここは大空洞の宿屋。主が来てもおかしくない。
「お客人!寝床を整えに上がりました!!」
部屋の外から声がして、私とクリス様ははっと顔を見合わせた。
「ごまかせサロメ!下手にかんぐられたらマズイぞ。」
「はっ!」
クリス様の命令に反射的に返事をし、僅かに扉を開け主に応対した。
「ご主人。どうぞお気遣い無く。文化も違うゆえ私が行います。」
「ならばそうしよう。」
普段はベッドメイキングをしないのだろう。
私のとっさの返答にも主はすんなりと納得し、寝具を手渡し戻っていった。
私のとっさの返答にも主はすんなりと納得し、寝具を手渡し戻っていった。
「ふう。」
主が立ち去るのを確認し、私はそっと扉を閉め、安堵のため息をもらした。
「急に驚いたな。」
声をかけるクリス様もほっとした様子である。
ん?ちょっと待てよ…。
「あの…」
そんな折、私の中に一つの疑問が浮かぶ。
「何だ?」
「別にごまかさずとももう一部屋お借りすれば…」
そうなのだ。
そうすれば私もこんなに苦労しなくていいはずなのである。
そうすれば私もこんなに苦労しなくていいはずなのである。
しかし、クリス様はこの提案がお気に召さなかったようで、見る間に表情を強張らせた。
「何言ってるんだ!せっかく無理やり残って二人きりになったのに!!」
は?
”せっかく”??
”無理やり”??
私の空耳だろうか?今そう聞こえたような…
「今、なんとおっしゃいました?」
「あ!…い、いや何も言ってないぞ!!」
しまったというような表情をされた後、とぼけてみせるクリス様である。
「……頭痛がしてきた。」
思わず本音がこぼれる。
「??」
頭を抱える私を見て、クリス様はどうしたんだとでも言いたげに首を傾げておられる。
そんな仕草も凶悪に可愛いので、ますます頭痛がひどくなるというものだ。
そんな仕草も凶悪に可愛いので、ますます頭痛がひどくなるというものだ。
どうもクリス様は自分が妙齢の女性であることを意識していないように思われてならなかった。
同じ部屋で眠るということにさしたる疑問を持っていないようである。
同じ部屋で眠るということにさしたる疑問を持っていないようである。
おそらくは、年も離れていることで、私のことを親か何かのように見られているのだろう。
それは深く信頼してくれているということであろうが、
言い換えれば全く男としては意識していないということである。
言い換えれば全く男としては意識していないということである。
そして私は非常に複雑な心境に陥るのだ。
しかし、
クリス様が私を親のように慕ってくれ、つまりは男性としてみていない、ということは事実として深く受け入れなくてはならない事である。
クリス様が私を親のように慕ってくれ、つまりは男性としてみていない、ということは事実として深く受け入れなくてはならない事である。
だから自分もまたクリス様に対してはそのような態度で接しなくてはいけないのである。
結論としては簡単で、自らを律すればいいだけなのだ。
そう自分に強く言い聞かせ、私はクリス様に話しかけた。
「クリス様…夜も更けてまいりました。クリス様はもうお休みください。」
「……サロメは?」
「私はまとめる書類がありまして…眠れそうにありませんので。」
言い訳があってよかったと心から思った。
仮に書類が無かったとしても隣の寝床にクリス様がいると思うと眠れるはずもなく…。
仮に書類が無かったとしても隣の寝床にクリス様がいると思うと眠れるはずもなく…。
「そうか…。では私も手伝うよ」
「い、いえ。あとは私でやっておきますので…その…」
クリス様の申し出に、ついしどろもどろになってしまう。
こんな特殊な状況下でクリス様と顔をつき合わせて…というのは激しく心臓に悪い気がして仕方がない。
しかも書類があるというのは言い訳のため、実はする仕事はほとんど残ってないのだ。
仕事が片付いてしまった後のことを考えると、頷くことはできなかった。
しかも書類があるというのは言い訳のため、実はする仕事はほとんど残ってないのだ。
仕事が片付いてしまった後のことを考えると、頷くことはできなかった。
「…そうか?…あまりムリはするなよ?」
「はい。ありがとうございます。クリス様。」
「……サロメ。」
何かを言いたげにクリス様が私をじっと見すえる。
「クリス様…?」
「いや、なんでもない。…おやすみ。」
「おやすみなさいませ。」
そう言って、私は奥の間へと向かうクリス様を見届けた。
”なんでもない”そういったクリス様の表情が寂しそうだったのはやはり、気のせいだろうか。
「…クリス様。」
その後しばらくの間、私はクリス様が向かった奥の間を何ともなしに見ていた。
そして、思いを振り切るように首を振り、机上の書面を手にとった。
そして、思いを振り切るように首を振り、机上の書面を手にとった。
「はぁ~っ…」
半ば強引にサロメに奥の部屋に追いやられた私は、この日最大のため息をついた。
「……やっぱり、わたしではだめなのかな。」
寝床で小さくつぶやく。
仕事だって手伝わせてもらえない。
そばにいたいって思ったって、まるで子供をあやすように”先に休め”…だ。
そばにいたいって思ったって、まるで子供をあやすように”先に休め”…だ。
「そんなに女として見えないのか…」
わかってはいたけれど、こうまで事実として突きつけられると、どうしても胸が痛んだ。
「せっかく手伝おうって思ってたのに…な。」
サロメに突き放されたような気がして、私はひどくさみしかった。
「サロメ、私も眠れそうにないよ…。」
こうして、お互いがお互いを激しく勘違いしたまま夜は明けていくのだった。
そして二人はそれぞれの思いを封じたままブラス城への帰途に着く。
そして二人はそれぞれの思いを封じたままブラス城への帰途に着く。
その帰り道にまさかあのような出来事が起こるなどと、そのときの二人は知る由も無かった。