すれ違いし意思よ! ◆ncfd/lUROU



遊園地。本来ならば大衆が集い様々な娯楽に興じる夢の園だ。
しかしながら、この殺し合いの中では夢の園などそれこそ夢物語。
賑やかな音楽も動き続けるアトラクションも、殺し合いの最中とあってはただ見るものに場違いだという印象を与えるだけだ。
そんな場に、一人の少女がいた。
その身に纏いし黒は夜の闇のように深く、その身を染めし白は日の光のように眩しい。
まさに陰と陽、闇と光。
そのような相反する二つの要素を統べる魂は、混沌すらも魅了し従える。
瞳に映るは地獄の業火。髪に宿るは無慈悲なる銀光。
少女を構成する様々な要素が、まるで少女が常世とはかけ離れた存在であるかのような印象を周囲に与えている。
それでも、少女は普通の女の子だった。
そう、殺し合いに苦悩し目に涙を浮かべる、普通の女の子。
その名を、神崎蘭子といった。


「光無き世界よ!(どうしよう……!)」

私は、どうしたらいいんだろう。
ベンチに座り込んだ私は、ただそれだけを考えていました。

「殺戮の宴に躍り狂うか(殺し合いに乗るべきなのかな……)」

私はプロデューサーを助けたい。
プロデューサーと一緒にいたい。
そのためには、殺し合いに乗って、優勝しなくちゃダメで。
だって、そうしなきゃプロデューサーが殺されちゃうから。
プロデューサーに死んでほしくない。
もっとずっと、私を見守っていてほしい。
それに、私だって死ぬのは怖い。死にたくなんて、ないんです。

「望まれざる鮮血の結末(でも、誰も殺したくなんてないよぉ……)」

私はプロデューサーの期待に答えたい。
そのためにも、なおさら誰かを殺すなんてできなくて。
だって、プロデューサーは優しいから。
自分のために私が誰かを殺すことを、誰が殺されることを、プロデューサーはきっと望まない。
それに、誰かを殺すなんて人として、アイドルとして間違ってるって、そう思うんです。

殺し合いに乗らなくちゃいけないと思う私も、誰かを殺すなんてできないと思う私も、どっちも本当の私です。
だから、どっちか一つだけなんて選べなくて。

「明日見えぬ我が旅路よ……(プロデューサー、私、どうしたら……)」

ぽつりと漏れた呟きは、この場にいないプロデューサーに頼ろうとしているもので。
プロデューサーの助けになれるアイドルになってみせると誓ったのに、結局プロデューサーを頼っている自分が情けなくて。
気がつくと、頬を涙が伝っていました。

「大罪抱きし我が身に戒めを……(ダメ……こんなことじゃまたプロデューサーに迷惑かけちゃう……)」

そう思うけれど、拭っても拭っても涙は止まってくれなくて。

「ううぅ……ごめんなさい……ごめんなさい……」

私は泣き続けることしか、できませんでした。


赤城みりあはじっと息を潜めていた。
幼いみりあにとって、暗闇とはすなわち恐怖そのものだった。
だから、見えた明かりに向かって必死で走った。
そうしてたどり着いたのは、遊園地。
普段のみりあならばおおはしゃぎするであろう場所だ。
しかし、彼女ははしゃがなかった。声さえ上げなかった。
何故なら、先客がいたから。
みりあに背を向けベンチに座る、ひらひらとした黒い服を着た少女。
アトラクションの影から顔を出して様子を伺うみりあは、その少女を知っていた。

(あれって……蘭子ちゃんだよね?)

神崎蘭子。何を言ってるのかよくわからないから会話したことはあまりなかったが、間違いなく知り合いだ。
声をかけようと足を踏み出したところで、みりあの脳裏にある光景がフラッシュバックする。
それは誰かのプロデューサーの首が爆発して、その体が血溜まりの中に倒れ込む、そんな光景。
人が死ぬ瞬間。頭のない死体。断続的に溢れ出る大量の血。
どれもこれも、みりあにトラウマを刻み込むには十分すぎる出来事だった。
もし蘭子が殺し合いに乗っていたら、みりあ自身もあのような目に合わされるかもしれない。
そう考えると、声をかけるなんてできない。
だからみりあは、何をするでもなくただじっと息を潜めているのだった。

「殺戮の…………狂うか」

そのとき、蘭子が呟いた。
賑やかな音楽に一部がかき消された言葉は、なんとも物騒な意味を持っていて。
幼く、蘭子との交流も少ないみりあには、その言葉の真の意味などわかるはずもなくて。
だからそれらは、怯えるみりあにさらなる恐怖と、蘭子が殺し合いに乗っているのだという誤解を与えるには、十分すぎた。

「……ざる鮮血の結末」

そしてそれは続けて呟かれた言葉も同様で。
だからみりあは、その場から逃げ出した。
足音は音楽に紛れて蘭子には届かない。
遊園地を出て、再び夜の闇の中へ。
先ほど恐れた夜の闇も、殺されるかもしれないということに比べれば大したことなんて、なかった。


【F-4/一日目 深夜】

【神崎蘭子】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品x0~2】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:どうしよう……

【赤城みりあ】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式×1、不明支給品x0~2】
【状態:健康、恐慌】
【思考・行動】
基本方針:逃げる

※蘭子が殺し合いに乗っていると思っています


前:彼女たちのためのファーストレッスン 投下順に読む 次:それぞれの本分
前:彼女たちのためのファーストレッスン 時系列順に読む 次:それぞれの本分
神崎蘭子 次:ドロリ濃厚ミックスフルーツ味~期間限定:銀のアイドル100%~
前:~~さんといっしょ 赤城みりあ 次:Ciranda, Cirandinha

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2013年06月28日 15:08