Ciranda, Cirandinha ◆RyMpI.naO6



ねェ、プロデューサー。
プロデューサーは、すっごくピカピカでキラキラした夜空、見たことあるかナ?
ナターリアはあるヨ! 日本でアイドルするずーっと前、街から離れたトコに遊びに行ったトキ!
あとは海外ロケとカー、地方ロケとカー。プロデューサーは忙しそうだから、見てる時間ないかもだけド。
それに不謹慎かもだけド……ここから見える星も、実はすっごくキレイだヨ。
周りが暗い山道だからかナ。ミンナが大変な目にあってるかもしれないのに、そんなこと知らないヨーってくらい、星がキレイ。

ねェ、プロデューサー。
星はすごいヨー?ホンモノの夜空って、凄いノ! 空じゅうがね、宝石箱みたいなんだヨ!
大きな星も小さな星も、ミンナすっごくキレイ! 星座だって探し放題だしネ!
それでね、そうやってたくさんのお星さまを見てると……色んなトコで頑張ってるミンナを思い出すんダ。
いつもいつも笑顔でいてくれるキョーコとか! もふもふでちっこくてかわいいニナとか! ね、わかるでショ?
だってミンナ、仕事してるときは真剣で、でも楽しそーで、いっつもピカピカでキラキラしてる!
だからネ、一緒! ミンナミンナ、星空とおんなじ! 知らない人たちを楽しませてくれる! これって凄いことだヨー?

……ねェ、プロデューサー。
きっと大丈夫だよネ? この星一つ一つみたいにピカピカでキラキラしたミンナなら、わかってくれるよネ?
ミンナ、ナターリアの歌を聴いたら、ヤなこと全部放り出してくれるよネ?

ナターリア……そう信じてるヨ。


       ○       ●       ○       ●       ○


遊園地で色々あってしばらく経った頃。

「疲、れた……」

気がつくと私は、どこかも分からない山道で独りへばっていた。
逃げ出してからどれだけの時間が経ったかなんてのは覚えてない。どれくらい走ったかなんてこともさっぱりだ。
でも後ろを振り返れば、蘭子ちゃんが追いかけてきた様子もなかった。つまり私は今、独りぼっち。
だから、もう思いっきり休んで良いのだと気付いた瞬間……こうなっちゃったわけなのです。私、すっかりダメダメ状態だ。
トップアイドル目指して特訓していたから、体力に自信はあったつもりだったけど……もうダメ、動けない。限界です。
赤城みりあ、一生の不覚。

「はぁっ、はぁ……っ」

息を吐く私の声ばかりが、夜空に吸い込まれていく。
地獄の特訓なんてものに巻き込まれたら、きっとこんな感じなのかもしれない。そう思った。
けれどただ倒れ込んでいるわけにはいかない。これからどうするかを考えなきゃいけない。
だから私はまず、体が悲鳴を上げるのを押さえつけながら、私はここに来てからのことを思い出そうとした。

「……っ!」

すると、誰かのプロデューサーが死んでしまった光景と、蘭子ちゃんの怖い呟きが頭の中で重なった。

「……やっぱり、酷いよ」

ねぇプロデューサー。私は、プロデューサーと一緒にいられればそれでよかったんだよ。
だって、プロデューサーと一緒にいれば、それだけで楽しいもん。お休みの日だって、一緒にいたいもん。
お喋りするの大好きだよ。別に何も買ってくれなくたっていいの。一緒にお喋りできるなら、それだけでよかったんだよ。
なのに、どうして? どうしてこんな目に遭わなきゃいけないの? どうしてプロデューサーが酷いことされなきゃいけないの!?
もうやだよ、帰りたいよ! カワイイお洋服着て、プロデューサーと一緒にお仕事したいっ!
プロデューサーにもファンの皆にも喜んで欲しいから、だから一生懸命頑張るから、こんなところから帰りたいよ……。

「帰りたい……」

帰りたい。帰りたい。帰りたい。
プロデューサーのところに帰りたい。プロデューサーが生きてるところに帰りたい。
カワイイ衣装が着られても、カワイイ曲が歌えても、カワイイダンスが踊れても、プロデューサーがいなきゃ意味無いもん。
私のことを一番よく知ってる素敵なプロデューサー。いつもお仕事頑張ってて、でもカワイイところもいっぱい見せてくれるプロデューサー。
ねぇプロデューサー……私、声をかけてくれたのがそんなプロデューサーだったから、アイドルになる決心がついたんだよ。
カワイイ衣装や歌が待ってることも素敵だったけど、それとおんなじくらいプロデューサーも素敵だったからなんだよっ!
大好きなのっ! 私はプロデューサーが大好きっ! だから死にたくない! 生きて、プロデューサーと一緒にいたいっ!
一緒にお仕事したいっ! 一緒にお休み取りたいっ! 一緒に過ごしたいっ! 死にたくない、死にたくないよっ!
プロデューサーとずっとずっと一緒に生きていたいんだからっ!

「私……死んじゃうのかな……」

でも、その願いも……死んだら終わりだ。叶えられない。
もしも死んだら、プロデューサーのおかげで頑張れたライブも、ファンの皆のために頑張った沢山のお仕事も出来なくなっちゃう。
沢山の人たちが作ってくれた曲を歌うことも、私が喜んでくれるように作ってくれたカワイイお洋服を着ることも出来なくなっちゃう。
ダンスの練習だって頑張ってるのに、誰にも見てもらえなくなる。インタビューのチャンスが貰えたって、自分の想いを伝えられなくなる。
それにまだ、まだ私は、プロデューサーに大好きだって言ってない! いや、いつも言ってたけど……ううん、いつもの感じじゃない、もっと大事な意味で!
でも……蘭子ちゃんみたいな〝誰かを蹴落とさなきゃいけなくなった人〟に狙われたら、終わりなんだ。全部、何もかも終わるんだ。消えてしまうんだ。
死ぬって、そういうことだもん。

「私は……私は、死にたくないっ! プロデューサーのところに、帰りたいもんっ!」

じゃあどうするの? 死にたくなかったらどうする? ここから帰りたかったらどうする?
ここに来る前まで普通だった人も、誰かを殺さなきゃいけなくなる。そんな場所にいるんだよ? だったらどうするの!?
ここから帰りたいなら、死にたくないなら、ファンの皆の前で歌いたいなら、プロデューサーを殺されたくないなら、私は……私は……!

「私は……やるっ!」

じゃあ、殺される前に殺すしかない。他に方法なんてない。
そうだよ。私、死にたくないもん。でもそれでも、他のアイドルの皆は誰かを殺そうとしてる。
蘭子ちゃんだって結局、最初に言われた通りにしようと言ってた。すぐ近くに、私を殺そうとしてる人がいるんだ。
手を繋いで仲良しこよしでなんかいられない。もう、そんな時間は終わっちゃったんだ。ここは、そんなことが出来る場所じゃないんだ。
プロデューサーだって捕まってる。私が逃げたら、私のためにあんなに頑張ってくれたプロデューサーが、死んじゃう。
じゃあもう、こうするしかない! 選べないの! もう、好きなことばっかりはしてられないのっ! そうでしょ、プロデューサー!?

「よし……やる。やる! 私、やる! こんなところで、死んだりしない!」

決意を込めて立ち上がった私は、ここに来る前に渡された袋から銃を取り出した。
すっごくおっきな銃で、持ってみたらとても重い。さすが人に向ける物だと思う。
うん、そうだ……私は今から、こんなものを人に向けるんだ。ドラマで見たように引き金を引いちゃうんだ。
やるよっ! 私はやるっ! 殺されないために、応援してくれる皆のために、そしてプロデューサーのために……っ!
プロデューサーには死ぬほど怒られると思うけど! お喋りできる他のアイドルの皆がいなくなるのは嫌だけど!
でも、たった一人のプロデューサーのためなら……私はっ!

「ごめんねプロデューサー! 私、皆を倒して……ううん、殺して……殺して、帰るからっ!」

気合いを込めた試し打ちをするため、私は両手で構えた銃を近くの木に向ける。
そしてゆっくりと引き金を引くと、大きな音と反動が体中に響き渡った。
手がビリビリとした感覚に襲われて、思わず銃を落としてしまった。おまけに尻餅までつくおまけ付きだ。

「何、これ……」

急いで起き上がった私は、銃を拾い直す。
たったの数秒で、このずっしりした物がとんでもない力を持ってるんだってことを実感した。
辺りは真っ暗だから、弾が木に当たってくれたかどうかは分からない。でもきっと当たってくれたと思う。そうじゃなきゃやってらんない。
音と反動でビックリしすぎたおかげなのか、荒かった息は少しだけ落ち着いた。でもまだまだ、心臓はドクドクいっている。
怖い。きっと、こんなものが当たったら痛いんだろうなって思う。私にこんなものが渡されたんだったら、他の人だって持ってるはず。
今から私は、こんな怖いものを使うんだ……そう考えると、体中の震えが止まらない。ライブやフェスに参加するときとは全然違う、嫌な震えだ。
でも、殺さなくっちゃ。もしここで誰かが現れたとしたら、どうにかちゃんと狙って撃ち殺さなきゃ……!

「ミリア……?」
「え?」

そうして、銃を持ったまま移動しようとしたときだ。
私は、決意したばっかりなのに、女の子と出会うはめになった。

「ミリア……何、持ってるノ……?」
「な、ナターリアちゃん……っ」

知ってる人だった。
仕事が一緒になることもいっぱいあった人だった。
その度にいつも〝素敵だな〟って思ってた人だった。

でもそんなの、もう関係なかった。
だから、急いで銃を構えたんだ。


       ○       ●       ○       ●       ○


山道を走って、走って、走って、二股になった道に辿り着いタ。
でもさっき地図を確認したから大丈夫。道を間違えるつもりもないし、立ち止まるつもりもなイ。
だからこのまま突っ切っちゃうノ! 大事なライブのために、一生懸命走らなきゃだかラ!

「ミリア……?」
「え?」

それなのニ。
それなのに、ナターリアは、立ち止まらなきゃいけなくなっちゃっタ。
どうしよう、プロデューサー。どうしよう、どうしよう、どうしようプロデューサー……ミリアが、変だヨ!

「ミリア……何、持ってるノ……?」
「な、ナターリアちゃん……っ」

プロデューサー……ナターリアね、困ったことなったヨ。
あのね、やっと目が慣れてきたトキ、ナターリアは走っている途中でミリアを見つけたんダ。
山道の中で独りぼっちは寂しかったから、すっごく嬉しかっタ。しかも友達だったしネ!
ほら、ミリアってすっごく明るいでショ!? お仕事で一緒のトキ、いつもお話してくれるシ!
しかもそれだけじゃなくて、お仕事してるときの顔だって、とても楽しそうだしネ! この間のロケも、すごかったヨー!
……だからナターリア、ミリアに声をかけようとしたんダ。大丈夫だっタ? って言って抱きしめたいくらいだったかラ。
でもね、でもねプロデューサー……ミリアの様子は、ナターリアが考えてたのとは全然違ってタ。

「ナターリアちゃん……ごめん。撃つよ……っ!」
「え……?」

ミリアの目は、まっすぐナターリアを見てタ。そして、銃もまっすぐナターリアに向けてたんダ。

「ミリア……待っテ! それ、しまっテ!」
「だめ、だめ……それ無理だよ! だってそんなことしてる暇ないもんっ!」

お喋りが大好きだって言ってたあのミリアが、銃をこっちに向けてる。
カワイイのが好きだって言ってたのニ……それなのにあんなごっついのを持ってるなんテ。
そういえばさっき変な音がしたケド……だからって、まさかミリアがあんな音させたなんて想わなかっタ!
ねェミリア、どうしてなノ? そんなのカワイくないヨ。そんな大きいの、ミリアにはお似合いしてないヨ!?

「ミリア、どうしテ!?」
「どうしてって、そんなの……死にたくないからに決まってるでしょ! プロデューサーにも死んで欲しくないもんっ!」
「プロデューサー……?」
「そうだよぉ! ナターリアだって見たでしょっ!? 逆らったら、プロデューサーも死んじゃうんだよ!? あんな風に!」

最初にどこかに集められたときのことを、ナターリアは思い出しタ。
そうダ。ナターリアは、あのトキ……誰かのプロデューサーが、酷い目に遭ったのを見てタ。
わかってる、わかってるヨ。でも、だからって、デモ……ミリアがそんなの持ってていい理由には、絶対にぜーったいにならないのニ!

「でも……」
「私たちだって、死んだらお仕事出来ないんだからぁっ!」

でも、ナターリアのそんな言葉に、ミリアは頷いてくれなかっタ。

「だからナターリアちゃん、ごめんなさいっ!」

叫んだ声が、ナターリアの鼓膜を震わせタ。
すると次はもっと大きな音がして、ミリアの両手が上に跳ねる。
銃から煙まで出てる。もくもくって、なってタ。
その意味は、ナターリアでも分かる。

「ミリア……ッ!」
「外、れた……?」
「ミリア!」

……撃っタ。
ミリア、ナターリアに撃ったんダ。
ナターリアは、怪我しなかったケド。
でも撃っちゃったんダ。ミリアが。
こんなのを……自分デ!

「お願い……一回で、一回で終わらせてよ、ナターリアちゃん!」

周りがうるさくないおかげで、ミリアの歯がカチカチ鳴ってる音が聞こえる。
ミリアは、そんなになってまでナターリアを撃ったんダ。大事なミリアのプロデューサーを、助けたいかラ。

「つ、次……次ねっ! 次は動かないで! まだ弾はあるから、次は当てるからっ!」

ねェ、プロデューサー。やっぱりおかしいヨ。
こんなにピカピカでキラキラした空の下で、ピカピカでキラキラしたアイドルのミンナが、酷いことをしなきゃいけないなんテ。
そんなの、絶対におかしいヨ。間違ってる! 星が一個でも無くなるしたら、星座だって作れなくなるのニ!

「ミリア、ダメだヨ! ダメ……ッ! そんなことする理由、ミリアにないヨ!」
「ダメじゃない! 撃つよ! ほんとだから! ほんとに撃つよ! 今度は当てるっ!」
「ねェ、そんなの捨てテ! ダメだヨ……ミリアがそんなの持ってるのは、違ウ!」
「撃つから、動かないで! 動かないでってばっ! ナターリアちゃんが苦しむの、私だって嫌なんだからぁ!」

また、同じようなことが始まっタ。ミリアの両腕が跳ねて、大きな音が響いたんダ。
でもまた当たらなくっテ。ミリアは「どうして!?」って叫ぶノ。
どうして、なんテ……簡単だヨ。それは、ミリアがそんなことしちゃダメだからだヨ。

「ミリア! もういいヨ!」

ナターリアは、もう我慢が出来なくなっタ。
ミリアがあんな危ないものを持たなくてもいいようにしようって思ったカラ……だからナターリアは、ミリアに飛びついタ。
するとミリアは、引き金に指をかけたまま驚いた表情を浮かべタ。そうだよね、あれだけ「動くな」って言ってたのに、ナターリア動いちゃったかラ。
でもナターリアは気にしなかっタ。ミリアに人を撃って欲しくない一心で、銃を奪い取ろうとしタ。

「や、やだ……離してっ! これ、これは私の……!」
「ミリアのじゃなイ! これはミリアが使うものじゃないヨ!」

暗い暗い山道で、ナターリアたちはモミクチャになる。
オシクラマンジューを逆にしたみたいに、ギュウギュウ密着ダ。
そして、ミリアがガッシリと掴んだ銃を、ナターリアも負けずにガッシリ掴んダ。
大丈夫、大丈夫だよミリア。ナターリアは別に銃が欲しいわけじゃないんだかラ。ミリアを撃ちたいわけじゃないもん。
ただ、こんなものはいらないってだけなんダ。誰も使うことがないようにしようって思っただけなんダ。

「ねェ、ミリア……ミリアはこんなの持ってちゃダメ……」
「離して……」
「だって、ミリアの両手は、誰かと手を繋ぐためにあるんだヨ!」
「離してよ! ナターリアちゃん、プロデューサーが大事なら、離してっ!」
「聞いてヨ……ミリア、聞いてヨ……ッ!」

ねェ、ミリア。やめテ。もうやめようヨ。もうそんなの撃っちゃダメだヨ。
それよりナターリアね、ミリアにお似合いな作戦考えたんだヨ? 人を撃つよりももっと、素敵でカワイイ作戦!
まずはミリアが、誰かと手を繋ぐでショ? そしたら、今度はその人が誰かと手を繋ぐノ。
ここにはピカピカでキラキラした人たちが大勢いるから、ミリアがそうしてくれればミンナも手を繋いでくれるハズ。
そしたらね、最後には太陽みたいにキレイな輪っかになるノ! ピカピカでキラキラした人たちで輪っかになって、まん丸の星座を作るノ!
ね、ミリア! カワイイでショ!? ミリアにピッタリだヨ! ミリアみたいにカワイイ女の子にバッチリの、魔法みたいな作戦だヨ!

「もっと、もっとステキなことをしテ! こんなの、もうやめテ……ッ! お願イ……ッ!」
「バカ! バカぁ! ナターリアちゃんの、わからずやさんっ!」

だからミリア、手を繋ゴ? こんな銃なんて捨てて、ナターリアと手を繋ゴ?
ナターリアがハジメテになるヨ。ミリアと手を繋ぐハジメテになるヨ。そしたら、ミリアは空いた手で誰かとまた手を繋げばいいんダ。
もしも手を繋ぐのがヤだって人がいたら、そのときはナターリアが歌うヨ! あのライブ会場デ……ううん、どこででも精一杯歌うかラ!
そしたらここにいるミンナ、自分がアイドルだってこと、思い出してくれる! 手を繋ごうって言ってくれたミリアを、ミンナが支えてくれる!
例えばもしここにキョーコやミナがいたら、ミリアが「手を繋ご」って言ったら絶対答えてくれるヨ! あの二人は手を繋ぐと嬉しいって知ってるかラ!
ねェ、だから大丈夫だヨ! 大丈夫だヨ! 信じて、信じテ! ミリア、信じテ!

「ミリア、ナターリアを信じテ!」

モミクチャのまま、ナターリアたちは闘ウ。銃をどっちが持つか、競争してる。
ナターリアが掴んだ銃を、ミリアは抱きしめるようにガッシリ押さえつける。
小さな子が目を閉じてイヤイヤってするみたいに、ミリアは銃を離さなイ。
これは〝ラチがあかない〟っていうのかナ。でも、あかないものはあけなきゃダメ。
だから延々と続ける。延々と続ける。延々と、延々と、延々ト……。
もしかしたらこの闘いはずっと続いて、どっちかが疲れるまで終わらないのカモ。
一瞬だけ、そう思っタ。

でも、終わりはいきなりやってきたんダ。

それはミリアとお喋りして考え直してもらおうって思って、ナターリアがまた叫びかけたトキ。
ナターリアの声に被さるみたいに大きな音がしタ。バン! とか、ドン! みたいな、そんな音ガ。
そしてまた、ナターリアたちの胸元から、煙がモクモクって上がってくる。
銃ダ。ミリア、また銃を撃ったんダ。
だからって別に、ナターリアに何か起きたわけじゃなイ。ナターリア、全然平気だっタ。
ちょっと鼓膜が破れるかと思ったくらいで、それとめちゃくちゃビックリしたくらイ。
大したことなんてなかっタ。だから、またモミクチャになるつもりだっタ。ナターリアはネ。

でも、ミリアはそうじゃなかっタ。

ミリアは、ナターリアと違ってタ。
ナターリアはいつも通りなのニ。
それなのに、ミリアはいつも通りじゃなくなっちゃったんダ。

「ミリ、ア……?」

ミリアのカワイイ服の真ん中くらいが、ジワーって赤くなる。
ミリアの楽しいお喋りをしてくれる口から、赤いのが少しずつたれてくる。
ミリアのドングリみたいな丸い目から、おっきな涙がボロボロってこぼれ落ちる。
ミリアの脚がガクンってなって、ウツブセになって地面に倒れる。
……ミリアの体から、血がどんどん溢れてきタ。
ナターリアには、何が起きたのか、分からなかっタ。

「ミリア、ミリア……!」

でも、しばらく頑張って考えたら、分かっタ。
ミリアは、そうしたかったわけじゃないのニ……引き金を、引いちゃったんダ!
生きたいってずっと思ってた、死にたくないってずっと思ってタ……そんな自分ニ!

「ミリアッ! ねェ、ミリア! ねェってバ!」

ウツブセだったミリアをアオムケにして、ナターリアは叫んダ。
でもミリアは声を出すことが出来ないみたいで、代わりに涙をボロボロ流し続ける。
大きな涙の一粒一粒がミリアのタマシイみたいに思えて、ナターリアは〝こぼれ落ちちゃダメだヨ〟って思っタ。
けれど涙をすくい上げても元には戻らなイ。ミリアのタマシイは、外へ外へ出て行っちゃうんダ。

「ミリア……ごめん、なさイ……ッ!」

ねェ、プロデューサー。ナターリア、やりかた間違えちゃっタ。
ナターリアのせいダ。銃を持ってるミリアを見たくなくて、あんなにモミクチャになっちゃったせいダ。
そうだヨ……ちょっと考えたら、危ないってわかってたのニ。
ミリアが弾を全部撃ってからじゃないといけないっテ……そう考えなきゃだったのニ。
でもナターリアがそうしなかったかラ……ミリア、酷い目に遭っちゃったヨ……!
ナターリアが、ナターリアがやったんダ! ナターリアが、ミリアを……ッ!

「ミリア、ミリア……ミリア……」

お喋りが大好きだっていつも言ってたミリアが、何も言えずにナターリアを見る。
口から血が流れて、目からも涙がこぼれて、カワイイ服も真っ赤になって台無しダ。
プロデューサーのことを考えてた子がこんなことになるなんテ。
ねェ、どうしてミリアみたいな良い子が死ななきゃいけないノ? おかしいヨ。変だヨ!

「ミリア……」

ナターリアは、ミリアの手を握っタ。
ミリアの左手から銃を取って、二度と使えないようにナターリアの袋に入れてから手を握っタ。

「死なないデ……死んじゃ、ダメだヨ……」

そしたらミリアは、手を握りかえしてくれタ。
ナターリアのせいなのに、優しいミリアはそんなことをしてくれタ。
でも、あまり時間がないのはナターリアも分かってる。もう、ダメなんダ。

ミリアの目が閉じられていク。
手に残ってた力も、ドンドン無くなっていク。
そして最後には、息を吸ったり吐いたりしなくなっタ。
終わっタ。ミリアの世界は、終わっちゃったんダ。これで、終わりなんダ……。

ねェ、プロデューサー……。
ミリア、死んじゃったヨ。死んじゃっタ。
ナターリアのせいで、死んじゃったヨ!
ナターリアがバカだったから、ミリアに迷惑かけちゃっタ!
ミリアのプロデューサー、泣いちゃうヨ! ミリアのトモダチも、泣いちゃうヨ!

「ミ、リア……ッ! ミリア……ミリア、ミリア、ミ……リ、ア……」

それにナターリアも、泣いちゃダメなはずなのニ!
ナターリアが悪いって分かってるのに、涙が、止まらないヨ……!
目の前が滲ム。ミリアの名前も上手く言えなイ。頭がズキズキする。全部、自分のせいダ。
ごめんネ……ミリア。ナターリアがバカなせいダ! ゴメンなさい……ゴメンなさい……ッ!

ナターリア、バカだヨ……ッ!


       ○       ●       ○       ●       ○


あーあ、って感じだった。
私は失敗してしまった。間違ってしまった。
ナターリアちゃんがあれだけ言ってくれたのにね。
それなのに私は、間違ってばっかりいた。
だからこれはきっと、バチが当たったんだと思う。

私の世界がなくなっていくとき、最後に見たのはナターリアちゃんだった。
ナターリアちゃんは、自分が悪いわけじゃないのに、とてもつらそうな顔をしてた。
ダメだね、私。ナターリアちゃんは笑ってる方がカワイイのに……それなのに、こんな顔をさせちゃって。

頑張って口を開いても、声が全然出てこない。
ナターリアちゃんのことを〝わからずや〟なんて言ったことを謝りたいのに、それも全然出来ない。
やっぱりバチだね、これ。人生最後の言葉があんなのなんて、私って最低だ。

いいよ、ナターリアちゃん。そんな私のために泣かなくたっていいよ。
そう伝えるために、私はナターリアちゃんの手を握り返す。
自分に残されたほんの少しの時間を、全部そのためだけに使った。
ごめんね、ごめんね。ナターリアちゃん、ごめんね。

神様がいたらお願いします。
ナターリアちゃんの涙は、どうか早めに止めてあげてください。

それともう一つ、大事な大事なお願い。
プロデューサーのことを、守ってください。
私にはそれが出来なかったから、神様が守ってください。

お願いします。


       ○       ●       ○       ●       ○


ミリアが死んでから、ナターリアは泣いタ。
どれくらい時間が経ったかわかんないくらいナターリアは泣いタ。ずっと泣いてタ。
泣いて泣いて、それからもっと泣いテ……でも涙が涸れたところで、泣くのはやめて立ち上がっタ。

気付いたんダ。思い出したんダ。
ナターリアにはしなきゃいけないことがあって、それをミリアにも見ていてほしいんだってコト。
だからここでナターリアが死んじゃったらダメだっテ……ナターリアは、改めて思ったんダ。
確かに、もうミリアは死んじゃっタ。ナターリアのせいで死んじゃっタ。
じゃあどうする? 答えは一つダ。ナターリアは、死んじゃったミリアの分まで頑張らなきゃいけなイ。
ミリアみたいな子を、それとナターリアみたいに失敗しちゃう子を一人でも減らさなきゃいけなイ。
ミリアの時間を奪っちゃったナターリアには、ホントはそうする資格はないかもだけド……でも、それでもやらなきゃダメなんダ。

「ゴメンね、ミリア……」

何度目になるかも覚えてないけど、心からミリアに謝る。
そしてこんな山道の真ん中で倒れちゃったミリアを頑張って隅っこに運んで、見えにくい場所に寝かせてあげタ。
かわいい服は真っ赤でダイナシになっちゃったから、代わりに温泉から持ってきたユカタを着せてあげる。
それから最後に胸のところで手を組ませてあげて、涙の跡を拭っタ。また小さく「ごめんネ……ごめんネ……」って呟きながラ。
これで、オワリ。本当はちゃんとしたお墓を作ってあげたイ。でも、今のナターリアじゃそれは出来なイ。だから、こうしタ。
残りは、ライブに取っておくヨ。せめてナターリアの大好きな歌で、ミリアをとびっきりの天国に案内してあげるからネ。
だからミリア……ナターリアはハクジョーかもしれないけど、今は許してくださイ。そのかわり、ナターリア、頑張るかラ。

ねェ、プロデューサー。
ナターリア、ちょっとくじけそうだヨ。
でもね、でもね、それでももっと頑張ル。
取り返しのつかないことしちゃったから、だからこそナターリア、頑張るヨ。
そうじゃなきゃ、ミリアだって今度こそ本当に怒るもン。

だから、ライブ、頑張ル! ミリアにも届くくらい、ダイオンリョーでブチカマス! 今度こそ間違えなイ!
ナターリア、ちゃんとミンナのために頑張る! ミンナが手を繋いで輪になれるように、ナターリアは太陽になるヨ!
だから、だから、

「だからミリア……バイバイ。ナターリア、ミリアの分まで……頑張るかラ!」

ナターリア、たくさん頑張るヨ。




【E-4 森の中/一日目 黎明】

【ナターリア】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、確認済み不明支給品×1、温泉施設での現地調達品色々×複数、タウルス レイジングブル】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルとして自分もみんなも熱くする
1:B-2野外ライブステージでライブする


  • タウルス レイジングブル
銃身に「RAGING BULL(怒れる牡牛)」の文字が描かれた大型のリボルバー。
ブラジルのタウルス社製。



【赤城みりあ 死亡】


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前:すれ違いし意思よ! 赤城みりあ 死亡
赤城みりあ補完エピソード:~~さんといっしょ

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最終更新:2014年02月27日 21:14