魔改造!劇的ビフォーアフター ◆RVPB6Jwg7w
……薄暗い廊下の片隅、すり切れたベンチの上に、彼女は1人座っていた。
遊園地の華やかさから隔絶されたような、裏方のスタッフ用のエリアの一角。
彼らの休憩スペースだったのか、廊下の壁際につけられたベンチの傍には、吸い殻満載の灰皿も置かれている。
等間隔に並ぶ扉のいくつかは開いたままで、ここからでも部屋の中が少しだけ見える。
着ぐるみの頭が転がっていたり、パレードの時にでも使うのか派手な衣装が大量に並んでいたり。
「たのしい遊園地」を演出するのに必須な、しかし来場客にはとても見せられないような、遊園地の「はらわた」。
ここは、そんな場所だった。
ホコリっぽく、すえたタバコの匂いがかすかに鼻につく、静かな廊下。
頭上には、ときおり間をおいて明滅する、切れかけた蛍光灯。
今をときめくアイドルには不似合いな、そんな空間で。
輿水幸子は、ただぼんやりと1人、見るともなく床に視線を向けたまま、座り込んでいた。
そう。
幸子は、1人きりだった。
およそ表情というものは全て抜け落ちて、その口は中途半端に開いたままで。
涙さえも、枯れ果てて。
自信も、強がりも、オーラもなく。
ただ、糸の切れた操り人形のように、壁に背を預けてそこにいる。
刀傷を受けた胸部には、裂けた服の下に真白い包帯が覗き、ほんの僅かな血の色をにじませている。
水本ゆかりの襲撃を受け、
神崎蘭子を置き去りに逃げ出してしまった後――
打ちひしがれる輿水幸子と
星輝子の2人は、それでも最後の理性と気力を振り絞り、手近な建物へと避難していた。
引き返して蘭子を助けに行くだけの勇気はない。
どうしようもない形で、その現実を突きつけられてしまった。
けれども、だからといって道の真ん中で立ち尽くしてもいられない。
いずれ襲撃者が追い付いて、2人の命も刈り取ってしまうことだろう。
だから2人は声もないまま、気まずい沈黙のまま、それでもなんとか立ち上がって、重い足を引きずって歩きだして、
そして――見てしまった。
いや、見えてしまった。
……遠くからでも赤く染まっているのが分かってしまう、
不自然に大きく揺れ続けている、観覧車の、ゴンドラが、見えて――しまった。
それは2人の少女の、臆病と、保身と、決断の遅れと、現実逃避の果てに起きた、大罪の証明。
その光景に崩れ落ちる幸子を、あわてて支え、肩を貸し、引きずるようにしてココまで連れてきたのは、星輝子だった。
幸子の服を脱がせ、不器用に応急処置を施し、また元通りに着せ直したのも、輝子。
今いる廊下に繋がる扉がいくつか開きっぱなしになっているのも、彼女が救急箱を探し回って歩いた痕跡だった。
そんな輝子も、少し前にお手洗いに行くと言って離れてから、戻ってはこない。
ただ用を足すだけにしては長すぎる不在。
……見捨てられた、かな。
幸子はぼんやりと考える。
無理もないな、と思いつつ、そのことに対して自嘲の笑みさえも浮かばない。
残酷な現実に、強いショックを受けたのは輝子も同じであったろう。
脅威に立ち向かうだけの勇気が持てなかったのも、同じだ。
むしろ幸子以上に蘭子のことを気にかけていた彼女のこと、受けたショックはより大きかったに違いない。
それでも、輝子はギリギリのところで動けた。崩れ落ちなかった。
それも輝子1人ではなく、幸子を引きずって避難し、傷の手当までして。
そこまでしてもらっても感謝の言葉1つ言えない幸子は……だから、見捨てられても仕方ない。そんな風に思う。
まったくもって、普段の幸子らしからぬ弱気さだった。
似たような2人、どうしてこうも差がついたのだろうか。
薄暗い廊下の片隅で、青空から隔離された空間で、幸子は一人、考えるともなく考える。
いや――果たして、本当に「似ていた」のだろうか?
「似ていた」と言ってしまって、いいのだろうか?
輿水幸子は……逃げ続けてきた。
負け続けてきた。
ほんとうは負け続けて、でも負け惜しみを口にし、言い訳で誤魔化して、敗北からも目を背け続けてきた。
それでも、何とかなってきた。
何とか、なってしまっていた。
なまじ、外見も頭脳も音感も、さりげなく高いスペックを秘めているだけに。
なまじ、才能にも育ちにも幸運にも、こっそり恵まれていただけに。
なまじ、腕のいいプロデューサーに巡り合い、絶妙のサポートを受けてきただけに。
逆説的に、「ほんとうに追い込まれたこと」がなかった。
ほんとうに逃げ場なんてない状況を、ほんとうに覚悟を決めるべき状況を、知らずに過ごしてきた。
なにせ、彼女のこれまでの人生で「最大の危機」が、ライブのための「スカイダイビング」なのだ。
確かに怖かっただろう。危険もあっただろう。
パラシュートが引っ掛かって宙吊りになるなんてトラブルも、実はただ笑ってもいられない深刻な事故ではある。
彼女のプロデューサーでなくとも、大いに褒めるに値する奮闘ではあった。
けれど――結局。
輿水幸子の人生経験なんて、所詮は、その程度だ。
スカイダイビングの件だって、幸子が強がりすら言えないほどに怖がっていたのなら、中止になっていただろう。
なんだかんだで彼女のプロデューサーは、そのあたりの見極めが上手い。
またギリギリで中止となった時の挽回策も、きっと並行して用意してあったはず。
逆に言えば、フォローの余地も逃亡の余地もない仕事は、そもそも受けないように立ち回るのが基本だったのだ。
負け続け、逃げ続け、そのついでに、小器用に成功と栄光を掠め取るだけの、基本的に『イージーモード』な人生。
ひるがえって――今ここにいない、星輝子はどうか。
つきあいの浅い幸子にもわかる。幸子にも断言できてしまう。
星輝子は、不器用な少女だ。
キノコへの偏愛だとか、ボサボサの髪だとか、そういう表層的な所で済まないレベルで、深刻な欠陥を抱えている。
根本的なところで、他者とのコミュニケーションに必要な「なにか」が欠損してしまっているタイプの人間。
だが、そういう能力こそ、アイドルとして世を渡っていくのに必須とも言える能力であるはずだ。
才能の面でも、アイドルとしては及第点なのかもしれないが、目を引くほど突出したものでもないのだろう。
彼女のライブを見たことはないが、超一流の表現者が隠し切れずまとう「オーラ」のような凄みは、感じられない。
着ていた服ひとつとっても、生地は安物・縫製も適当。洗い古して襟もヨレヨレ。
いくら私服とはいえ、いつどこでファンやマスコミに見られるか分からない現役アイドルの姿としてひどすぎる――
そして、その自覚すらない。そのことを恥じる素振りすらない。
必然的に、星輝子の育った環境、経済状況のほどが想像できてしまう……。
おそらくは――アイドルどころか、ただ生きるだけでも『ハードモード』と呼んでよいほどの、星輝子の人生。
彼女のプロデューサーが何を考えて彼女をスカウトしたのか、輿水幸子には見当もつかない。
けれど、星輝子のアイドル生活が順調なもので無かったことは、容易に想像がつく。
きっと敗北続きだったはずだ。
勝利や栄光からは縁遠い道を歩んできたはずだ。
そもそも同じ業界で仕事をしていたというのに、幸子は輝子の噂さえロクに聞いたことが無かったのだ。
――そして、それでも地道に、諦めずにここまで歩み続けていたのだ。
敗北にさえも慣れてしまった、中途半端なアイドル2人。
一瞬、勝手に「似た者同士」と思ってしまったのは、きっとその部分。
しかし、そんな2人の敗北の内実は、大きく異なる。
同じ光景を目にした2人のうち、1人が崩れて1人が耐えきれたのは、きっとその違い。
輿水幸子はある意味において、頭のいい少女である――それこそ、本人のうぬぼれ以上に。
その才能は残酷にも、この殺し合いの極限状態において、長年目をそらしてきた真実に彼女自身を導いてしまっていた。
そう。
このイベントが始まってからの、わずか数時間分だけではない。
彼女の人生にも等しいほどの、十数年分のもの時間こそが……
十数年分の「ツケ」こそが、今の彼女にのしかかる重みと疲労感の、正体だった。
「ボクは……もう、疲れましたよ……」
振り払って再び立ち上がるには、あまりに重すぎる重荷。
破滅への誘惑が、彼女の全身に絡みつく。
比較的見つかりにくい奥まった場所に入ったとはいえ、いつまでもこうしていられるとは思わない。
きっと遠からず、水本ゆかりは猟犬のように居場所を嗅ぎ付け、その凶刃を振りかざすのだろう。
1度目は皮一枚斬られただけで済んだが、あんな幸運が何度も起きるとは思えない。
あるいは、あの殺人者が気まぐれに見逃してくれたとしても……
このイベントに課せられた残酷なルールは、身動きしないものを長く生かしてはおかない。
遠からず立ち入り禁止の指定がなされ、そして、立ち上がる力もない輿水幸子の、かわいい頭部が宙を舞うのだろう。
そして幸子は、それでもいいかな、と思って、やっぱり自嘲の笑みすらうまく浮かべることができなかった。
あれからどれくらい経ったのだろう。
ほんの僅かな時間なのかもしれないし、数時間ほども経ったのかもしれない。
時間の感覚すらあいまいで、この窓のない空間には日差すら差さず、もはや時計を確認する気すら起きはしない。
――そんな時間の止まった薄暗い廊下に、やがて聞こえてくる硬い足音。
水本ゆかりか、それともほかの誰かか。
それが彼女の知る星輝子でないことは、足音で分かる。
友好的な未知の人物なら、まずは動かない幸子に驚き、声をかけてくるのが筋だろう。
大きくなっていく足音に重なる、じゃらり、と謎の金属音。
無言の接近が、幸子の甘美な絶望を静かに高めていく。
思い出したかのように、切れかけた蛍光灯がまばたきをする。
『その人物』はそして、幸子の正面、至近距離に黙って立つと――
じゃらんッ!
ひときわ耳障りな金属音を響かせて、一呼吸で幸子の首に「鎖」を巻き付けて……力づくで幸子を引き起こすっ!
「…………え?」
もはや何ものにも反応しないのだろう、と自分でも思い込んでいた幸子の口から、ほうけたような声が漏れる。
暴力的に無理やりに顔を上げさせられて、『その人物』の顔を至近距離で突きつけられて――
幸子の思考が、停止する。
そんな幸子に対し、『その人物』は、楽しそうに、実に楽しそうに。
絶叫した。
「…………フヒヒヒフハハハアーッハッハァッ!
まったく見損なったぜェ、輿水幸子ォ!!
ここらで軽く死んどくかァ!? ヒャーッハァ!!」
=======================================
閑散とした遊園地を、ウェディングドレス風の衣装をまとった水本ゆかりは、1人歩いていた。
華やかな装飾の園内ではあるが、しかしこの手の施設につきものの歓声も、さりげないBGMもなく……
青空の下、だだっ広い通路はただ寂しさしか感じさせない
自動制御によるものか、定期的に無人のジェットコースターが発進し、頭上高くを巡るレールを疾走していく音が響く。
夜間は大人しくしていたアトラクションたちも、「営業時間」を迎え、おのおの勝手に「仕事」をしているようだった。
「なかなか見つからないものですね……」
大きく園内を一周してきた格好のゆかりは溜息をつく。
あの後、逃げた2人を追って動き出した彼女は、しかし、最初の分岐路で選ぶ道を間違えたのだろうか。
動物園になっているあたりに向かい、人がいた様々な痕跡を見つけ、すわ獲物は近いとぬか喜びしたものだったが。
どうもそれは、あの3人が「ゆかりと遭遇する前に」残した痕跡であったらしい。
動物園の裏手のシャワー室まで踏み込んでみても、人っ子1人いなかった。
そうしてこの、動物園と遊園地が一体化したような複合遊技施設を、ほぼ一周してきた彼女は。
入り口・兼・出口の門の近く、大きなメリーゴーランドが見えるあたりに辿り着いていた。
ここも自動で制御されているのか、警告のブザーがひとしきり鳴った後、ゆっくりと木馬たちが回りだす。
キラキラと光る照明、高らかに流れ出す楽しげな音楽。
いかにも遊園地、といった舞台装置を横目に、ゆかりは周囲の建物を見回す。
来場者を迎え入れる、玄関口近く。
そこには当然、券売所がある。案内所がある。迷子や落し物を扱う窓口がある。売店もある。
そして、それらに付随して広がる、裏方のスタッフたちのための建物がある。
大雑把に園内を回ってきた彼女だが、あと探していないのはこのあたりくらいのもの。
ここを一通り調べても見つからないようなら、園外に逃げ出してしまったと見ていいだろう。
「既に逃げていたなら無駄になってしまいますけど……でも、ここまで来たら着実に調べ尽くすべきですよね」
建物の方に歩を進めながら、ゆかりはひとり小さく頷いた。
水本ゆかりは、努力の人である。
世間知らずのお嬢様のようにみられることも多い彼女ではあるが……
なかなかどうして、地味に汗をかくことの価値を理解している人間だ。
特技のフルートにしたって、幼い頃から重ねた練習と勉強の賜物。
絶対音感という強力な武器を持っていても、けっして慢心することなくレッスンを重ね。
芸風を広げる上で必要と思えば、演劇などの新しいことにも進んで挑戦する。
それも、一足跳びに結果を求めるのではなく、着実で王道な努力の上で。
焦らず地道にコツコツと。それが成果につながる最良の方法なのだと、信じているのだ。
「この『イベント』だって、きっとそう……コツコツと、1つずつ成果を積み重ねていけば、きっと……!」
それが、逃がした獲物がいても彼女のスタンスが乱れない理由。
ちゃんと結果は出している。「学習」も重ねている。細かい失敗は沢山あるけれど、1つずつ修正していけばいい。
それはあの見晴台での襲撃でも、観覧車前での襲撃でも。
ブレることなき、水本ゆかりの軸であった。
「そして、普段から積み重ねてきたものに乏しいから……いざという時、はしたない姿を晒すのです。
笑顔1つ維持することも、その場に踏み止まることも、できないのです」
脳裏に浮かぶのは、滑稽なほどに取り乱していた、犠牲者たち。
友情もプライドも人間性も全て放り出して逃げ去っていく、少女たちの背中。
辛い時でも悲しい時でも、笑ってみせる。
そんな『アイドル』の基本中の基本、一番最初に誰もが習う基礎ですら、投げ捨ててしまった者たち。
日々積み重ねていくことを怠り、そしてそのことに反省すらしない者たち。
その程度の連中を斬るに当たって、痛む良心など残ってはいない。
せいぜい、自分が前に進むための「踏み台」になってもらおう――!
メリーゴーランドの奏でる軽快な音楽が終了し、規定の一連の動作を終えた木馬たちがゆっくりと止まる。
どこかから、ぶしゅーっ、と機械のつく大きな溜息が聞こえる。
再び静寂を取り戻した、だだっ広い屋外空間に――じゃらんっ!
「――ッ!!」
鎖のような金属音が響くのと、水本ゆかりが振り返るのと、腰の刀に手を伸ばすのがほぼ同時。
第三者からの襲撃や、逃げた2人のヤケクソな反撃も想定していたゆかりは、何があっても驚かない――
――驚かない、はずだったのに。
「え……ちょっ、だ――誰?!」
「ハッピーナイトメア、ウッェディ~ングッ!!
ベニテング! ニセクロハツ! ドクササコ! ツキヨタケッ!
地獄の使者がァ! 血塗れ花嫁にィ! 悪夢のプレゼントをお届けだぜェ!!
フヒヒヒ、フハハハ、ヒャーッハッハ……げほ、ごほごほっ」
振り返った先にいたのは――哄笑の途中で、不恰好にむせ返っている怪人物は。
髪の幾筋かを、色鮮やかに染め上げ。
どぎついメイクの上から、顔面に大きく派手な原色のペイントを施し。
鋲やスパイクの目立つ、攻撃的なファッションに身を包み。
見るからに禍々しい印象の『鎖鎌』を両手で構えた――
ヘビメタ、あるいはパンク、とでも表現したくなるような(?)、ド派手な姿の少女だった。
=======================================
「輿水幸子は……始末した……! 次はお前だァ! 水本ゆかりィ! ヒャッハァ!」
「まさか……あなた、星、輝子さん!?」
狂笑を上げ、威嚇するように鎖分銅を振り回し始めた怪人の登場に、ゆかりは動揺しつつも刀を構える。
口調こそ激変しているものの。見た目こそ激変しているものの。間違いない……
声といい、体格といい、間違いない。
先ほど観覧車の前で出会った、
輿水幸子の後ろに、半ば隠れるようにしていた、
ともすれば見落としそうになるほど印象の薄い、あの少女だった。
ゆかりとて、彼女のことをそれほど知っている訳ではない。
プロフィール上の年齢が自分と同じだったので、辛うじて記憶の片隅に名前が残っていた……その程度の相手だ。
先の出会いにおいても、ゆかりは彼女の名前を呼んですらいない。
しかし、それでも。
「少し見ないうちに、ずいぶんと変わられましたね」
「ツキヨタケは……置いてきた……フフ……!」
「方針を変更――いいえ、違いますね。
おそらく、こちらが本性。これまでの擬態を、脱ぎ捨てただけ。
きっと、そういうことなのでしょうね」
噛み合わない会話を交わしながら、油断なく身構えながら、ゆかりは自らの認識を修正する。
逃げる獲物の背中を討つだけの、ラクな戦いのイメージを振り払う。
舌なめずりせんばかりの表情で構えられた、鋭い鎌。
唸りを上げて回転を続ける、分銅つきの鎖。
傲岸不遜に放たれる、純然たる殺気。
あまりにも馴染んで見えてしまう、そのメイク、その衣装。
そして先ほどの、「輿水幸子は始末した」という発言。
ゆかりは確信する。
星輝子は――豹変したこの星輝子は、ヤる気だ。
本気で、自分の、水本ゆかりの命を奪いに来ている。
羊の毛皮を脱ぎ捨て、その手を鮮血に染め上げ、アイドル同士本気の殺し合いのステージに、上がってきている。
「驚きました……でも、素晴らしいです。
あなたは今の方が、よほど、『アイドルらしい』」
じりじりと距離を測りながら、思わず笑みが零れる。
あと数歩ほど飛び込めば互いの武器が届く、この状況。
メリーゴーランドの騒音に紛れ、この間合いに入り込まれてしまったこと自体が、失策ではある。
できればここまで近づかれる前に、銃を撃ち放って終わらせたかった。
なんとか刀を抜くのは間に合ったが、今から武器を持ち替えているだけの余裕はないだろう。
理想とは程遠い、厳しい現実を前に――それでも、ゆかりは楽しくって仕方がない。
だって、
「だって、あなた……『笑ってる』」
水本ゆかりの定めた『アイドルの定義』そのままに――山頂で少女たちに向けて断じた言葉、そのままに。
星輝子は、笑っていた。
一点の曇りもなく、あけっぴろげに笑っていた。
本当の命のやり取りを今から始めようというのに、笑っていた。
そしてゆかりは、そんな星輝子を肯定的に認めた上で。
これまでこの島で出会ったあらゆるアイドルたちの中、最高位の尊敬を捧げた上で。
「敬意は抱きますが……それでも。
ライバルとして、あなたには、ここで終わって貰います!」
「ヒャハッ……キノコパワー、全開だぜぇぇぇぇ!」
青空の下、高らかに警告のブザーが鳴り響く。
無人のメリーゴーランドが、定められたプログラムに従って再び動きだす予告の叫び。
その音に背を押されるようにして、2人は共に、それぞれの武器を振り上げ突進する!
「マイタケきくらげエリンギなめこホゥワイトマッシュル~~ムっ、ぶっなしっめじィっ!」
「着実に、確実に……はぁっ!」
じゃららんっ!
ひゅんっ!
ラップのような絶叫と共に振り下ろされた分銅鎖が、身を捻ったゆかりのすぐそばを通り過ぎていく。
不十分な体勢から突き出された刀が、のけぞる輝子の髪をかすめてその数本を宙に舞わせる。
どちらも素人同士。もしも本職が見たら、あきれるであろう無様な攻撃と回避。
しかし、そこに込められた殺気は、互いに本物。
場違いなほどに軽快な音楽が流れる中、背後で機械仕掛けの馬たちが跳ね回る中、2人の影が交差する。
分銅が舞い、鎖が鳴り響き、白刃がきらめき、そして。
ガキィッ!
全身で飛び込むようにして振るわれた星輝子の鎌の刃が、水本ゆかりの刀の根本近くで受け止められる。
ゆかりの整った顔に触れるまであと数ミリ、というところで鋭い切っ先が止められる。
さすがに一筋の脂汗が額を伝うが、それでもゆかりは笑みを深くする。
ギリギリと鍔迫り合いのような恰好で、押し返していく。
「素晴らしい思い切りの良さですが……少しっ、筋トレが足りてないんじゃないですかっ!?」
「フハッ……『トモダチ』の力を借りれば……百人力…………あっ、ちょっ、待ってっ、」
片手で鎌を、片手で鎖を扱う鎖鎌の戦闘スタイル。
いくら素人同士とはいえ、両手でしっかり構えた日本刀相手に押し勝てるものではない――
ましてや上げ底ブーツで補ってみても、元々の体格に頭1つ分ほども差があれば。
みるみるうちに均衡は崩され、そして、
「……ヒャッハァ!」
「…………ッ!!」
押し負ける、と見た星輝子は、あっさり鍔迫り合いを諦めると、奇声を上げつつ後方へと跳ぶ!
そのまま華麗にバク転1つ、ギリギリの所でゆかりの振り下ろした刃を回避し――
「び、ビックリした……じ、人生初めての、宙がえり成功……フハハハ………………あっ」
「…………」
こてんっ、と。
哄笑を上げようとした星輝子は、しかし、バク転の勢いを殺しきれずに、そのままその場に尻餅をついた。
思わず動きを止める両者。
メリーゴーランドの奏でる、不快なまでに陽気な音楽が、変わらず2人の間に流れ続ける。
そしてそこから、ゆっくりとゆかりを見上げた輝子の顔には――
派手なメイクとペイントの、その下には。
もはや、素のままの呆然とした表情しか、残っていなかった。
さっきまでの狂ったような『笑顔』は、ゆかりが賞賛したあの見事な『笑顔』は。
たった一度の失態で、綺麗に消え去っていた。
=======================================
変わらなければならない。
そう思ったのだ。
強引な手段を取ってでも、自分は変わらなければならない。
その方法を思いついたのは、手当のために救急箱を探している最中のこと。
パレードやイベントの時にでも使うのか、様々な目立つ衣装が並んでいた暗い一室。
そこに、まるでそれが運命であったかのように、その服は彼女を待っていた。
それはかつて、夢に見たことがあるような、衣装。
それはかつて、クリスマスのイベントで披露し、プロデューサーに「やりすぎだ」と怒られた、あの時のような衣装。
(一部では、あの時の印象の強烈さに「そういう風な芸風一本槍の」アイドルだと思われているようだが……)
ともあれ、あちこちのバンドを少し調整すれば、小柄な彼女にも無理なく着ることができるサイズ。
少し探せばメイクの道具も見つかったし、髪の一部を染めるためのヘアスプレーだって見つかった。
全てのお膳立ては、綺麗に揃っていたのだ。
あと足りなかったのは、彼女の覚悟1つ。
自分を追い込み、最後のハードルを飛び越えるためには、生半可な手段では足りなかった。
だから彼女は――
星輝子は、輿水幸子に、あんな、あんなにも「思い切ったこと」を。
「……どうやら、私の買い被りだったようですね。あなたには、本当に失望しました」
「あ…………」
尻餅をついた星輝子の頭上から、冷たい声が浴びせられる。
見下ろす水本ゆかりの視線も、声と同様、すっかり冷え切っている。
おそらく……見抜かれてしまったのだ。
星輝子の、必死の演技を。
なりふり構わない、必死の虚勢を。ドーピングのような、短時間水増しのハイテンションっぷりを。
「ち、違……その……!」
「見事な変わり身でしたけれど……
すっかり騙されてしまいましたけれど――それを徹底できないのなら、意味などありません」
不機嫌そうな表情を浮かべ、水本ゆかりは悠然と刀を収めてみせる。
輝子は、しかし動けない。
攻めるべき好機、体勢を立て直す絶好の機会に――すばやく立ち上がることすら、できない。
そして、そんな仮面の剥がれ落ちてしまった格好の輝子に、ゆかりは。
「一瞬尊敬してしまって、損しました。あなたは特に、ゴミのように、確実に死んでください」
背負っていた銃を、トミーガンを、先ほどは持ち替える隙もないと思っていた兵器を、しっかり構えて、
数発の銃声が、響いた。
「あ……え……?」
「ちぃっ……!」
死を覚悟した輝子の口から、驚きの呻きが上がる。
瞬時に身を翻したゆかりの口から、お嬢様らしからぬ舌打ちが上がる。
そして――
2人の視線の先には。
銃声が放たれた、その方向には。
遠目にも大きく震えているのがはっきりとわかってしまう、
そしてなぜか小脇にキノコが満載の植木鉢を抱えた――第三の、人物。
「さ……幸子っ!? なんでっ!?」
「こ、こ、こんな所で、ぼ、ボクの『ファン』に勝手に死なれても、こ、困るんですよっ!!
てててて、手間をかけさせないで下さいっ!」
そう、メリーゴーランドの音楽を掻き消すように叫んだのは。
涙目で拳銃を構える、輿水幸子だった。
やけっぱちで放たれた数発の弾丸は明後日の方向に飛んでいき、ゆかりにはかすりすらせず。
ゆかりの手には見るからに凶悪な短機関銃。
輝子は尻餅をついた姿勢のまま、とっさには戦力になりそうにない。
それでも――そんな危険な状況だというのに安全圏から飛び出してきた、この乱入者に、ゆかりは。
「なるほど……輿水さんを『始末した』、というのも『嘘』でしたか。
とことん、舐められているようですね。
私が見逃して立ち去る展開でも、期待していましたか?」
「……ッ!」
「でもいいでしょう。ここで出てきてくれたのは、手間が省けました。
どっちにしろ……全員殺すんですからッ!!」
「ま、待ってっ! 幸子はっ!!」
ゆかりは輝子の叫びを無視して、楽しげに笑うと――銃口を幸子の方に向けて、乱射する!
「ヒィッ! うわ、ひや、ひゃぁっ!?」
幸子は無様な悲鳴を上げながら、転がるように逃げ回る。
メリーゴーランドの影に、とっさに飛び込む。
それでも『シカゴタイプライター』とも呼ばれたトミーガンの軽快な発射音は途絶えない。
木馬が次々と打ち砕かれていく。
ペガサスが、ユニコーンが、カボチャの馬車が。
回り続ける舞台の動きに合わせて次々と登場し、次々と砕かれていく。
「し、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ~~!! ヒィッ! ひ、ヒィッ!!」
砕かれた木馬の破片が、色とりどりの破片が、次々と降り注ぐ。
必死に身を小さくしてうずくまりながら、幸子は恥も外聞もなく絶叫する。
おもむろに銃声が途絶え、破壊の嵐が止んだ。
木馬の数をだいぶ減らしたメリーゴーランドの音が、何事もなかったかのように耳に戻ってくる。
「……弾切れですか」
ゆかりは溜息をつく。
溜息をついて、まだ数に余裕のある予備の弾倉と交換しようとして――そこで、はっとした。
視界の片隅。
尻餅の姿勢のまま、動けずにいたもう1人。
動きがなくて、呆然としていて、だから僅かに、ほんの僅かに警戒を弱めてしまった相手。
星輝子が、体勢だけはそのままに、しかし、いつの間にやらその手に握られていたのは、鎖鎌ではなく――
「しまっ――!」
「フヒッ……じ、地獄の劫火に、焼かれやがれーー! ヒャッハーッ!」
右手には、喫煙コーナーに落ちていたのを拾った、100円ライター。
左手には、髪を染める際にも使った、ヘアカラー用のスプレー缶。
それは――誰もが一度は聞いたことのある、危険な火遊び。
火の玉にも見間違うような、爆発的な、一瞬限りの炎が、水本ゆかりに襲い掛かった。
「…………! …………!」
一気に燃え上がる。
声にならない。
水本ゆかりが奪い身に着けていた、ウェディングドレス風のステージ衣装。
フリルが多用され、軽い化学繊維が多用されたその服は、あまりにも容易く燃え上がった。
純白の布地の上を炎の帯が走り抜け、見る間に彼女は、炎に包まれていく。
「…………! …………!」
もはや2人への攻撃どころではない。
自慢の長い髪にまで火が燃え移る。全身くまなく炎に巻かれる。踊りたくもない火踊りを強要される。
バランスを崩して倒れ込み、荷物を振り捨てながらのたうち回る。
穴だらけの木馬たちが駆け回る光景を背景に、水本ゆかりは、ただ独り炎の中に奇妙に踊る。
「なん、で……」
全身の肌を焼かれる痛みに苦しむゆかりの頭上に、小さな影が差す。
トゲだらけの肩当て。威圧的なメイク。そしてそれらとは裏腹に、妙に自信なさげな微笑み。
そんな星輝子の手元には、ゆかりにも見覚えのある、一挺の拳銃。
いましがたゆかりが投げ捨ててしまった、荷物の中に死蔵されていたはずの、コルトガバメント。
あっさり奪われてしまった、自分の武器。
「なんで――わたし、頑張ったのに、地道に、積み上げていったのに――」
「 」
呆然とうめくゆかりに、輝子は銃を向け、何かを呟いて――
その意味を理解するよりも早く、サイレンサーを走り抜けた拳銃弾が、少し間抜けな、決定的な音を立てた。
=======================================
輿水幸子は、ぼんやりと思い出す。
あの時、あの薄暗い、蛍光灯が明滅する廊下で交わされたやり取りを、ゆっくりと思い返す。
あの時――別人のように変わり果てた、星輝子に吊し上げられた時。
確かにその姿に驚きもしたが、幸子の胸によぎったのは、奇妙な安堵感だった。
ここでキレた輝子が殺し合いに乗ることにしたのなら――幸子を「軽く殺してくれる」というのなら。
もう、これ以上苦しむ必要もない。
もう、これ以上逃げる必要もない。
その刹那に幸子が感じたのは、恐怖よりもはるかに強い、安らぎだった。
「殺すなら……せめてひと思いにお願いします。ボクはもう……疲れました」
強がりの笑みすら浮かばない。どうしようもなく零れた弱音が、埃っぽい天井に吸い込まれる。
鎖鎌の鎖で首を絡めとられ、眼前に鋭い刃を突きつけられ。
それでも幸子には、抵抗する気力すら残っていなかった。
保護したつもりの少女に裏切られて終わるのも、なんだか自分にお似合いの最期のようにも思えた。
けれど。
「フヒヒヒ……!
じ、『地獄の使者』が『天使』を連れてって、いったいどーするってんだ!
大体どこに連れてきゃいいんだァ?
ゴートゥーヘヴン(天国)? それとも、ゴートゥーヘル(地獄)?
どっちだっておかしいだろうが! ね、寝ぼけてんじゃねぇぞ! フハハハハハハッ!」
けれど――そんな幸子の懇願は、鼻先で笑い飛ばされた。
自称『地獄の使者』は、自称『天使』にさらに顔を寄せると、低い声でささやいた。
「徹底しやがれ。
お前は『天使』なんだろ?
『カワイイ』んだろ?
なら、いっそのこと、それを徹底しやがれ!」
「……!」
「虚勢でも偽装でもいいじゃねぇか! 笑いたい奴には笑わせときゃいいじゃねぇか!
みっともなかろうがミジメだろうが、最後まで貫き通せば、それがお前の真実だ!
…………と、わ、私は思う、んだけど…………」
ガクッ。
あまりにもギャップのある、唐突なトーンダウン。
幸子はその場でずっこけそうになって、そして叫んだ。
「あ、あなた自身、そのキャラ徹底できてないじゃないですかっ!!
そこで急に尻すぼみにならないで下さいよっ! ホントがっかりですよ、もうっ!」
「と、トークは苦手……フハハッ……!」
「苦手とかそういう問題ですかっ!!」
「こ、これでも頑張った……は、ハイテンションの維持、過去最高記録を更新……フヒヒ」
「何の記録なんですか、何のっ!!」
輝子は奇抜なメイクの下、いつものように笑って見せるが、いったん口を開いた幸子の気持ちは収まらない。
感情が暴走する。見栄を張る余裕もない。虚脱状態からの反動か、言葉を止めることもできずにただぶちまける。
「だいたい、これが『本当の殺し合い』だっていうなら、ですよ!
プロデューサーさんも動けない!
ボクを崇めるファンもいない!
ドッキリじゃないってことは、撮ってるカメラだってない!
こんな状況で、誰に、どうやって意地を張れって言うんですか!
どこに向けて、どうすれば虚勢を張れるって言うんですか!」
八つ当たりなのは分かっている。輝子にぶつけても仕方がないことくらい分かっている。
頭の良い輿水幸子は、本当は、こんな言葉に意味がないことくらい知っている。
けっして誰も幸せにならない、醜悪なだけの、魂の叫び。
そのはず、だったのに。
「……なら。
私が、『ファン』になる。
幸子にそれが必要なら、私が、いま、ここで、輿水幸子のファンになる」
けっして頭が良いとは言えない、星輝子は。
アウトロー丸出しのファッションそのままで、こんなことを真顔で言い始めるのだ。
かと思うと急に、にへらっ、と脱力しきった笑みを浮かべて、視線を逸らして、こんなことを言うのだ。
「だ、だから……
私が勝手に、さ、幸子のことを、『トモダチ』だって思うの、許して欲しいかな……なんて……フヒヒ」
じゃらんっ。
もはや言葉もない幸子の首から、するりと鎖がほどかれる。
輝子がゆっくりと、身を離す。
「うん、こ、これで大丈夫……。
これで、最後まで頑張れる……頑張れる、と、いいな……!」
何やら呟きながら輝子が取り出したのは――あの、キノコの鉢植え。
ここまでずっと、肌身離さず持ち歩いていた、あの山盛りのツキヨタケ。
幸子にはその価値がまったく分からない、しかし、大事に思っていることだけは伝わる、輝子の宝物。
「こ、この子たちのこと、お願い……! さ、幸子になら、任せられる……!」
差し出すその手は、滑稽なまでに震えている。
過激で攻撃的なファッションにはまったくそぐわないほどに、震えている。
思わず反射的に受け取ってしまった幸子は、そのまま身を翻す輝子の背中に、慌てて声をかけた。
「な、何をする気なんですか!? どこ行くんですかッ!」
「……き、決まって、る」
輝子は振り返らない。
幸子に背中を向けたまま、再びじゃらり、と支給品の鎖鎌を手にしながら、しかしはっきりと言い切った。
「幸子という、大切な『トモダチ』を守りに。
そして――とうとう『トモダチ』って呼べなかった、蘭子のカタキを」
「…………ッ!」
「そ、そのためにも……む、無理やりテンション上げてくぜー! ヒャッハー! ゴートゥーヘールッ!」
景気づけのつもりか奇声を上げ、鎖を振り回しながら、輝子は駆け出していく。
その背中を見送りながら、幸子はようやくにして、あの奇矯すぎるファッションの真実を知る。
あれは、攻撃的な本性の表れなんかじゃない。
臆病で内気で、他者とのコミュニケーションに多大な困難を抱える少女の……
思いっきりズレまくった、精一杯の、痛々しいほどの、それでも一歩でも半歩でも前に進むための、覚悟の戦化粧!
そして、そこまでの覚悟を見せられて。
いまだ答えなんて出ない幸子も、
いまだ迷い続ける幸子も、
震えながら、涙を目尻に溜めながら、それでもなお、自分の足で立ち上がっていて――!
=======================================
愉快で能天気なBGMが終了し、壊れかけたメリーゴーランドが軋みを上げつつ停止する。
星輝子の足元で、いまだ服の一部が燃え続けている少女が、動きを止める。
「…………」
それを遠くから眺めながら、輿水幸子は、静かに悩む。
あの時、星輝子がなけなしの勇気を振り絞って踏み出した「ほんの一歩」の結末が、この眼前の光景だ。
額に穴を開け、整った顔を中途半端に炎に焙られた、水本ゆかりの屍。
拳銃を片手に飛び出したことは、後悔していない。
あそこで幸子が加勢しなければ、ここで倒れていたのは輝子の方だったろう。
火だるまになったゆかりにトドメの銃弾を撃ち込む行為も、むしろ苦しむ彼女をラクにする、介錯のようなものだ。
これらを責める気には、とてもなれない。
けれど――本当に、これしか方法は無かったのだろうか。
もっと上手いやり方が、どこかにあったんじゃないか。
蘭子も死なずに済む、ゆかりも死なずに済む、そんな、夢みたいな方法が、いつかどこかの時点で。
そんな幸子の迷いをよそに、星輝子は、静かに微笑む。
それは大声で甲高い笑い声を上げていた時の笑顔ではなく。
夜道を静かについてきた時のような、つまり、いままでとまったく変わりないような、そんな笑顔で。
つぅっ、と虚空を見上げると、
『地獄の使者』の姿にはとても不似合いな、祈りの言葉をつぶやくのだ。
「――蘭子。
もう、今更だけど。
こ、こんなことに、意味なんてないって、わ、わかってるけど。
それでも――これで、蘭子のこと、『トモダチ』って呼んで、いいですか――」
輝子の言葉に、答える者はいない。
2人の視線の先、観覧車の血染めのゴンドラは、青空の下。
何事もなかったかのように、静かに回り続ける――
【水本ゆかり 死亡】
【F-4 遊園地・入場門近く/一日目 午前】
【星輝子】
【装備:鎖鎌、コルトガバメント+サプレッサー(5/7)】
【所持品:基本支給品一式×1、携帯電話、神崎蘭子の情報端末、ヘアスプレー缶、100円ライター、メイク道具セット】
【状態:健康、いわゆる「特訓後」状態】
【思考・行動】
基本方針:トモダチを守る。トモダチを傷つける奴を許さない。
1:守るためなら仕方ない。そして、トモダチのカタキも……!
2:雪美のカタキも、探した上で……!?
3:ネネさんからの連絡を待つ
【輿水幸子】
【装備:グロック26(11/15)、ツキヨタケon鉢植え】
【所持品:基本支給品一式×1、スタミナドリンク(9本)】
【状態:胸から腹にかけて浅い切傷(手当済み)】
【思考・行動】
基本方針:輝子を守りたい、けど……
1:輝子を守る。でも……
※水本ゆかりの死体と2人のそばに、マチェット、白鞘の刀、基本支給品一式×2、
シカゴタイプライター(0/50)、予備マガジンx4、 が散らばって落ちています
最終更新:2015年06月12日 20:20