スーパードライ・ハイ ◆yX/9K6uV4E



―――少女と大人の境目に咲く花。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





悪役。
あたし――姫川友紀は言葉を心の中で、反芻する。。
先ほどの泉ちゃんが言った言葉だ。
今は、飛行場の隣を歩きながら、南に向かっていながら歩き、その言葉を考える。
推論だと彼女は言った。

「すいません、川島さん……」
「何かしら?」

でも、推論ではない、と思う。
恐らく事実だと思う。多分。
理由はまあ、色々と。
うん。

「ちひろさんについて何か知ってることありませんか?」
「ちひろ……ちゃんについてかしら」
「ええ、はい」

ねえ、泉ちゃん。
ねえ、川島さん。
あたしはそんなに頭がよくないけど、流石に解かった事があるよ。

「色々解かるかもしれないので」
「……そうねえ」

目を背けてる?
それとも、本当に知らないの?
どっちだろう。

「神戸出身の……26歳か27歳ぐらい」
「神戸?」

でも、普通、考える筈だよ。
悪役って事は敵。
説得も出来る訳がないアイドルとは程遠い敵。

「ええ、10歳前後で東北に移ったらしいけどね」
「へえ……なるほど」
「あとは……」

いつかはぶつかり合う。
つまりそれってさ、殺しあわないといけなくなる。

ねえ、あたし達はアイドルだから、さ。
皆は……絶対殺し合いなんてしてない。
『アイドル』だから。

けどさ、敵に当たった時。

どうにも、説得できない人がいた時。



――――あたし達は自覚的に、その人を殺さないといけないかもしれないんだよ?






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







あたしが大学をいかなくなった切欠を、ふと思い出す。
都会に出てきて大学デビューに失敗したからという、ざっくばらんに言うとまあそうかな?
あははっ、ちょっと可笑しいね。
まあ、でもそんなもんだった。

十九歳になって、色んな責任が増えて。
同級生も、なんか大人びてきて。
皆、なんというか大人にならないといけないと思うように。
妙に大人ぶってきてさ。

あたしは外見が大分幼かったもあったけど、幼い少女のままでいて。
子供のままで居たいとかは思わなかったけど。
でも、急に大人になるなんて、あたしには無理だった。

入ったサークルだって、そうだった。
あたしは野球サークルに入ったけど、なんというか空気に慣れないままだった。
あたしは、野球が大好き、キャッツが大好き!

子供のまま、純粋な思いの丈を叫ぶなんて、恥ずかしいとか言われて。
野球をそんな風に楽しむって変なのかなってうじうじ悩んで。
サークルであるのは、飲み会と下らない合コンだった。
何か……こう、耐えられなかった。
馬鹿みたいに騒いでるのは本当子供と変わらないのに、ね。

でも、やっぱ、皆一線引いて生きていて。
それが賢い、大人の生き方というものなんだろうけど。

責任が沢山背負いながら、生きていく。

そういう大人となっていかないといけない。
解かってる、解かってるよ。

けどさ、解かんなかったんだ、そういうの。
大人になるって事が、どうしても。

いつまでも子供のままでいられない。けど、どうやったら大人になれるんだろう?


……そんな、悩みを抱えながら、そういう温度差を感じながら。
あたしは大学に行かなくなった。
行かなくなって、何か変わるかはさっぱり解からなかったけど。
けど、行かなくなかった。
んで、その後はまぁ川島さんに言った通りの駄目な人生。
結局大人になって覚えたの酒の上手さだった。
大好きになったのはビールで。
なんといってもスーパードライが最高なんだよ。
あの苦さが、大人、って感じ。
大人ぶりたいだけ、だったりかも。



……っていう、話。
面白くない話。
けど、それは、アイドルになったからも、影響あったりして。





     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




アイドルになって。
フラワーズが結成となって。
あたしの生き方は一変した。

誰かを応援する喜び。
ファンから応援を受ける喜び。
いつだって、全力で駆け抜けて、楽しんだ!

うちのプロデューサーは、最高で、最強で。
アタシ達はあっと言う間にスターダムを駆け上った。
踊ることなんて興味なかったのに、あっと言う間に心惹かれて。
全力で踊り続けた結果、アタシの踊りは恐ろしいほど褒められたんだ、これが。

嬉しかった。
楽しかった。

最高だった!


藍子ちゃんはなんたって、素晴らしいアイドルで。
本当輝いていて女の私でさえ、魅了された。

夕美ちゃんの歌声は透き通るぐらい美しくて。
本当綺麗で聞き惚れていた。

美羽ちゃんは、何でもアグレシッブで。
そのチャレンジ精神は凄かった。

その中で、私は、なんと一番年上だった。
まあアイドルとしては割といい年齢だったのは否めないけれども!

だから、リーダーやらないかという話は、一回聞かされた。
まあ、一番の年長者なんだから、ある意味当然かもしれない。
けど、あたしはさ、怖くなったんだ、情けないぐらいにさ。

リーダーという重圧に、責任に。

あたしは、目を背けて、全力で逃げた。

だって、無理だし、アイドルとしてもあたしはまだまだだしさ!

そう言って、逃げて。
結果として藍子ちゃんがなった。
彼女はぴったり過ぎるので、当たり前に、リーダーと言うものにはまった。
だって彼女はアイドルだったし。
あれ? あたしだってアイドルなんだけどな?
あれ? 何か言ってる事変だな、まあいいや。


……でも、さ。
本来は、あたしがやるべきだったんだよ。
実力やアイドルとしては藍子ちゃんには及ばないだろうけど。
たった十六歳に背負わせる責任じゃ、決してなかったんだよ。

だって十六とか高校生で、子供だよ?
そんな子が、大人気グループのリーダーという重みを双肩に感じながら生きるなんて。

……ないって、よくないって。
……そんなのって、堅苦しすぎるって。


少女は、少女らしく、してなきゃ、駄目なんだよ!



そこからだった、あたしは大人の責任について、何となくおぼろげに思ったのは。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





フラワーズがそれこそ、もうテレビに出ない日が無くなるぐらい人気になって。
アイドルとして最高潮で。

その中で、バッシングは当然、受ける。
ありえないぐらい早かったし。
ごり押しという言葉は、聞き飽きた。
スキャンダルには大分気を使うはめになった。
行きつけの居酒屋には、少なくともアイドルで居る限り行けないだろう。
マスターが注ぐ生ビールは、暫く無理かな。
ああ、あのスーパードライが飲めないなんて。


それでも、あたし達は笑ってた。
だって、凄い楽しかったんだから!
アイドルがこんなに楽しくて、嬉しくて、ワクワクするなんて思わなかった!
本当に、楽しくて、夢中で、夢中で、サイコーで!
まるで子供のようにはしゃいで、いきている事が幸せだった。
そんなもの前には、そんなバッシング、ゴミ箱にホームランだった。


けど、そんな中で、あたしは護らないといけないと思った。
十四歳と十六歳、一七歳の少女を。
色んな悪いものから。
あたしが防波堤になればいい。
彼女達はアイドルとして笑っていられるように、さ。


それが、大人の責任って、何となく思って。



――――まあ、それも、なんとなく、いいものかなって、思ったんだ。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「そう、なんだよね……結局」
「……うん、友紀ちゃんどうかした?」
「ううん、なんでもないよ! もう直ぐ昼だね、がんばっていこー!」
「……元気ですね」
「そんなことないよ! 泉ちゃんもおー!」
「お、おー」


大人としての責任か。
……わかってるつもりだけどなんとなく、やっぱおぼろげにしか解からないや。
けど、何となく解かるようになってきたのは確かで。


泉ちゃんはあたしと違い独りだ。
それが羨ましいような不思議な感じがするのも確かだけど。
もう、流されちゃ駄目だと、何となく流されそうになった時決めたんだよね。
自分で何か考えてやるようにしないとね。


―――悪役、敵。

誰かが殺さないといけないというならば、さ。
それは、絶対藍子ちゃんや美羽ちゃん、夕美ちゃん、泉ちゃんみたいな子がしちゃ駄目なんだ。
当然だもん。
だからさ、まあその時になったら、ね。
うん、そういう事だよ。




そのときこそ―――あたしが少女を完全に卒業する時なんだ。





【D-4とE-4の境目/一日目 昼】

大石泉
【装備:マグナム-Xバトン】
【所持品:基本支給品一式×1、音楽CD『S(mile)ING!』】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助け親友らの下へ帰る。
1:他のアイドル達を探しながら南の市街へと移動。
2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。
3:漁港を調査して、動かせる船を探す。
4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。
5:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。
6:かな子のことが気になる。

※村松さくら、土屋亜子(共に未参加)とグループ(ニューウェーブ)を組んでいます。

【姫川友紀】
【装備:少年軟式用木製バット】
【所持品:基本支給品一式×1、電動ドライバーとドライバービットセット(プラス、マイナス、ドリル)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。
0:そういう時は、ね。
1:他のアイドル達(特にFLOWERSの仲間)を探しながら南の市街へと移動。
2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。
3:漁港を調査して、動かせる船を探す。
4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。
5:仲間がいけないことを考えていたら止める。
6:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。悪役を……?

※FLOWERSというグループを、高森藍子、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいます。四人とも同じPプロデュースです。

川島瑞樹
【装備:H&K P11水中ピストル(5/5)】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。
1:他のアイドル達を探しながら南の市街へと移動。
2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。
3:漁港を調査して、動かせる船を探す。
4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。
5:大石泉のことを気にかける。
6:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。
7:千川ちひろに会ったら、彼女の真意を確かめる。

※千川ちひろとは呑み仲間兼親友です。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「友紀ちゃん、お疲れ様」
「あ、ちひろさん、おつかれー!」
「ふふ、元気ですね。フラワーズの皆さんは?」
「直帰したよ! あたしは、まだやることあったし」
「なるほど、そうですか……ねえ、友紀さん、ちょっと質問です」

それは、ちょっと前の会話だったかな。

「何々!?」
「もし、フラワーズのメンバーが苦難に襲われたとき、貴方はどうします?」
「……は、はあ?」
「誰かの助けが必要な時、どうしようもならない時、貴方はどうします?」
「助けるに決まってるじゃん!」
「それが、誰かを犠牲にしても?」

何なのか、よく解からない会話。


「そんな事しないよ! あたし達はアイドルだもん!」
「ふふっ……流石ですね。でも貴方は助けるんでしょう?」
「うん! 大切な仲間だよ」
「仲間がアイドルで居られるために、貴方は護るでしょうね」
「……?」
「それが、大人の役目ですから」
「うん……!」

何かの確認?
何かの通過事項?

解からないけど。



「なら、貴方はきっと、アイドルとして、どうにもならないところで、貴方の手で犠牲を出しながら、それでも、護るでしょうね」



その言葉は重みだった。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







――――悪役、敵。

それも、やらないといけないのも、大人なのかな?
そんなのわかりっこしないや。
でもさ、でもさ。


もう、十五人も死んでる。
いつフラワーズの面々が死ぬかわかりっこない。
そんなん駄目だよ、やっちゃいけないんだよ。
彼女達はあんなに輝いてるんだから、アイドルでなくちゃ駄目だ。

皆は『アイドル』だから。
絶対に殺し合いなんちゃ、しちゃ駄目なんだ。
したら、全力でぶん殴ってとめてやる。


けど、どうにもならないところで、どうしようもない所で。
仲間を護るなら、護らないといけないのならば。
アイドルとして護るなら。
あたしが仲間からぶん殴られるとしても。


大切な仲間を、何としてでも、護る。
それは例え――であっても。


それはきっと、



――――どうしようもないけど、大人の責任、なんだ。





【姫川友紀】
【装備:少年軟式用木製バット】
【所持品:基本支給品一式×1、電動ドライバーとドライバービットセット(プラス、マイナス、ドリル)】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する?
0:大人の責任だから。
1:他のアイドル達(特にFLOWERSの仲間)を探しながら南の市街へと移動。
2:学校を調査して、ちひろの説明を受けた教室を探す。
3:漁港を調査して、動かせる船を探す。
4:その他、脱出のためになる調査や行動をする。
5:仲間がいけないことを考えていたら止める。
6:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。悪役を……?
7:仲間をアイドルとして護り通す? その為には犠牲を……?


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姫川友紀
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最終更新:2013年05月06日 22:25