バベルの果て ◆yX/9K6uV4E



ダビデの塔は、崩壊して、人々は散り散りになった。
そして、統一の言葉と文字を失い、分かり合うのでさえ、手探りになったという。

言葉にならない、声を上げて。


人は、人と繋がり合おうとして―――







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





『精一杯、輝きなさい』

そんな声が、響いて。
長いような、短い放送が終わった。
私――渋谷凛は、ペタンと地面に座り込む。
もう、何度座り込んだのだろうか。
正直、良く覚えていない。
じめっとした地面の感触が太腿に伝わるが、気にしない。
気にする余裕なんて、無かった。

内容といえば、禁止エリアは遠くが指定された程度で。
最も気になった死者は、八人。
多いとか少ないとか、そんな事はいい。
八人、死んだ。
その事だけが、悔しいし、哀しいんだ。

城ヶ崎美嘉水本ゆかり榊原里美
呼ばれて、心が引っ掛かった名前。
まさか、と思った。
信じられないとは言わないけど、ただ驚き、哀しくなった。

美嘉。
私と卯月、美嘉の三人でラジオをしていて。
ギャルと言う割には、しっかりとしたお姉ちゃんで。
トークも上手で、単純に凄いなと思った。

けど、逝った。
妹の後を追うように。
妹の死を聞いて、彼女はどう思ったのだろう。
哀しんだろう、苦しんだろう。

だけど、それを私に解かる術は無い。
解かりたくても、解かる事が出来ないのだ。
それが、この島のルールで。
哀しいぐらい、私は縛られている感じする。

だから、二人の死んでしまった人の事について、こんなにも戸惑ってしまう。

水本ゆかり。
未央と新田さんを惨殺したあの人が。
こんなにも、あっけなく呼ばれている。
何があったんだろうか。
解かりっこないけど……

でも、あんなにも覚悟を解いて。
殺し合いの中でも笑い続けた、彼女が。
こんなにも、あっさりと死んでしまった。

……仇と言える彼女が。

…………仇といっていいのか解からないけど。

でも、未央を殺したのは彼女で。
でも、彼女はやっぱり『アイドル』で。
でも、何処までも普通の少女で。



……ああ、もう、簡単に割り切れっこないって。

仇とか何とかかんとか。
だって、私達は同じアイドルだって言うのに。
……本当、頭痛くなる。


それで、榊原里美。
……正直混乱させてる要因。
彼女は卯月と一緒に逃げて。
卯月を追って、あの時生き延びた筈なのに。


どうして、彼女だけが、死んじゃったの?


あの状況で、はぐれた?
そして、死んだ?

……そんな、馬鹿な事は無いって。
あんなにぴったり追っていたのに。

もし、あの状況で、はぐれたというなら。


――――卯月が故意にはぐれたか。


もしくは………………





―――卯月が、同行した榊原里美を殺してしまったか。





そんな疑問が、頭を過ぎって。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇





『あははーないって、凛ちゃん!』
『そうかなぁ……? 面白いと思うけど』
『確かにねー、さて次のお便り言ってみよう!』



――――凛さん、卯月さん、美嘉さん、でれっす!
    突然ですが、私好きな人が出来たんです。
    でも、その人はイギリスの人で、上手く日本語が伝わらないんです。
    思いを伝えようとしても、上手く伝わるか不安です。
    私の思いは、伝わるんでしょうか……?


『わー、わー、凄い国際恋愛だよ!? きゃー、あっこがれるー☆』
『……美、美嘉、騒ぎすぎ……』
『何言ってるの、凛ちゃん! ラブロマンスだよ! すっごーい!』
『卯月まで…………それで、伝わるかな?』
『うーん、どうだろう? 言葉が通じるか解からないんだよね。でも思いが通じるんじゃないかな 全力でやれば!』
『言葉が通じるか解からないのに……?』
『う、うーん』


『何言ってるの、二人とも!』
『え?』
『お便り見る限り、交流はあるみたいんだよね、だったらさ』
『そうみたいだけど、美嘉……だったら……?』


『私は、こう、アドバイスするよ! それは――――









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









「――――――――『貴方が大好きな人のイメージのまま、その人の事を、信じろ!』」




それは、美嘉から、聞いた言葉。
美嘉がラジオで、伝えたアドバイス。
自分自身が好きになった人のイメージのまま。
その人のイメージを信じればいい。
例えそれが、自分自身の思いこみでもいい。


だって、それがさ



「――――――――『絆ってものでしょ!』」



絆って、ものなんだ。



そうだ、亡くなった美嘉の言葉だけど、その通り。


私が、私が信じたい卯月を信じればいい。
だから、卯月は里美を殺してない、絶対に、絶対に!
だって、私が好きな卯月はそうだから。


「――――――――『だから、信じろっ!!!!』」


だから、私は、この絆を信じる。


言葉が無くても。
きっと其処に想いが残るから。
其処に、絆があるから。

だから、そうやって、生きていく。



さあ、行こう。
休憩なんて、してられない。

私は、また歩き出して。


そして、目の前に、一つの施設を見つけて。



其処に向かって歩いていく。


心に、美嘉との絆を感じながら。


私は、信じていくんだ。



【D-7・水族館付近/一日目 日中】


【渋谷凛】
【装備:なし】
【所持品:基本支給品一式、RPG-7、RPG-7の予備弾頭×1】
【状態:全身に軽~中度の打ち身】
【思考・行動】  
基本方針:私達は、まだ終わりじゃない
1:卯月を探して、もう一度話をする
2:奈緒や加蓮と再会したい
3:自分達のこれまでを無駄にする生き方はしない






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









傷つけあって。苦しんで、哀しんで。
言葉が通じなくても、想いが通じなくても。

大切な、絆があるから。




人は、人を信じて、そして、いつまでも、分かり合おうとしていくのだろう。




それが、人というものだから。



――――人は、何処までも、人を、信じていく。


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最終更新:2013年05月22日 11:22