コレカラノタメ×ノ×タカラサガシ ◆rFmVlZGwyw
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道草を楽しめ 大いにな 欲しいものより大切なものが きっとそっちにころがってる
―――あるハンターの言葉
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『――最期まで、頑張りなさい。』
そして、病院のスピーカーはまた沈黙した。
「6人、か……」
「ああ。……もう、半分もいなくなっちまった」
向井拓海と
松永涼は、処置室で今しがた付けたチェックを見ながら顔を曇らせていた。
自分たちの届かない場所で、確実に命は奪われていっている。
自分たちが涼一人を助けている6時間。その間に6人もの命が失われているのだ。
見えない殺人者、そして今の放送の主である
千川ちひろへの怒り。この状況の中でどうすることもできない自分たちの無力感。
様々なマイナスの感情が拓海の中を渦巻き、拳へと伝わる。ガンッ、という音にハッとして手元を見ると、思わずテーブルに拳を振り下ろしていた。
「拓海、二人が起きちまう」
「あ、ああ。悪い。けど……」
「拓海はん、"まだ半分は助けられる"、そうやろ?」
ベッドから飛んできた声に、二人は振り返る。
上半身だけ起こした
小早川紗枝が、柔和な表情で二人を見ていた。
「お二方、おはようさん」
「ああ、悪ぃ。起こしちまったか?」
「放送の途中から起きてたから気にせんでええよ。あの子はまだぐっすりやし」
隣で眠る
白坂小梅を見やる。彼女はすやすやと寝息を立てたままだった。
「拓海はん。助けられなかった人がいるからって、そこで絶望したらあかんよ。それで諦めて努力を放棄したら、亡くなった子達も浮かばれへん」
「紗枝……」
「死を悼むな、言うとるわけやないんよ。おらん子らを想うのはええ。でもそれで後ろ向きになったら終いやろ?」
「そう、だな。悪い。アタシ、どうかしてたな」
「無理もあらへんよ。うちもこないな事言うてるけど、正直やりきれん部分はあるし。まあ、寝かせてもろたお蔭ですこぉし落ち着いたって感じどす」
「おう、なんならまだ寝てていいぞ。雨が降るらしいから、どうせ止むまで出発はできねぇし」
雨が降ると聞いて、二人はまず止むまで待機という結論を出していた。
軽トラックで出ると必然的に荷台の二人は雨ざらしになり、体力も消耗する。最悪風邪を引くだろう。
時間的にもちょうどいいし、ここで他の参加者は休息を入れるだろう、というのが二人の見解だった。
「それは魅力的な提案やけど……ちょっと、うちの話を聞いてくれへん?」
「ああ。何か思いついたのか?」
「思いついたというより、前から考えてたんやけど……」
そして紗枝はテーブルに地図を広げ、自身の推測を話し出した。
禁止エリアは港のある【C-7】を筆頭に海岸沿いを指定しており、恐らく自力での脱出を封じようとしていること。
その海岸の中でも人がいる可能性の低い西側に、3つも禁止エリアが固まっていること。
密集する禁止エリアの中心にあり、その部分を見渡せる『天文台』から見れば『何か』が見えるのではないかということ。
「―――だから、うちとしては、最終的には天文台を目指したいんよ。その途中でこう通って、皆を拾っていければと考えてるんやけど……」
紗枝が指でルートをなぞる。それは一旦東の街に行き、キャンプ場の前を通って南下、下の街をぐるっと回って天文台に行くというものだった。
「なるほどなァ、みんなで主催の鼻を明かしに行こうってわけだ。アタシは異論はないぜ」
「そうだな、待ってても水族館組が来るかどうかは分からねェし……、このルートならアタシ達から探しに行ける形になるしな」
「決まり、やね。じゃあ出発までにうんと休んどかんと。長い道のりになりますえ」
「ああ、寝とけ寝とけ。ついでに涼もな。ここはアタシ一人で十分だ」
「拓海はんドライバーやろ。うちはもうすっかり目も冴えたし、事故起こさんためにもしっかり休養してもらわんと」
「そう言われてもな、アタシもさっきまでガム噛んでたからあんまし眠くねぇんだよ」
「むぅ、でも休んでもらわんと逆に不安やし」
「拓海様を舐めるなっての。これくらいは……」
「でも……」
「ホントに大丈夫だって……」
「うーん……」
二人の言い合いが白熱してきて、このままでは小梅が起きてしまいそうだと判断した涼は。
「おーい、悪い、お二人さん、ちょっといいか?」
ある頼み事をすることにした。
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数分後。
「お、やっぱあったな、売店」
「ここも手は付けられてないみたいだな。そんな暇がなかったのか、思いつかなかったのか……」
二人は院内の地図と案内を頼りに、売店を探し出していた。
救急病院ということで規模は小さいが、飲料、菓子類などは揃っている。
「詰められるだけ詰めないとな」
「アタシの膝の上に置いてくれ。崩れないように考えてな」
菓子やペットボトルを取っては袋に入れ、涼の膝の上に乗せる。
しばらく二人は黙ってそれを繰り返していた。
「―――さっきは、悪かった」
ふと、物色する手を止め、拓海が呟いた。
「何だよ突然」
「ちょっと焦っててな。机ドンもそうだし、紗枝と口論して小梅を起こしちまいそうにもなった」
「ああ、そんな事か。いいよアタシは全然―――」
「いや、言わせてくれ。……最初にアイツを助けられなくて、次に見たら誰かに燃やされてて。放送では確実に誰かが殺して回ってるって頻度でいなくなったヤツの名前が呼ばれて。……正直、アタシも結構キてるんだって自覚はある」
「拓海……」
「紗枝の言うことも分かるんだけどな。でも、やっぱり、じっとしてられなくてさ。もちろんアタシ一人で突っ走ったってどうにもならないから、せめて、お前らを守っててやりたいって、な」
―――それは、おそらく初めて拓海がここに来て漏らした『弱さ』だった。
紗枝にさえ漏らさなかったそれを涼に言ったのは、やはり彼女が似た雰囲気を持っているからか。あるいは、逆に紗枝にこそこの本音を聞かれたくないからかもしれない。
涼はしばらく黙っていたが、頭をぽりぽりと掻きながら切りだした。
「あー……ちょっと怪しい話になるんだけどさ。聞いてくれるか?」
「ん?……何だよ突然」
「うちの小梅は、その……いわゆる『見える』『聞こえる』体質なんだが、さっき寝る前にアタシに話をしてきたんだ」
「見える……まぁ、信じるよ。それで話ってのは?」
「さっきの部屋でな、『ありがとう』ってのを聞いたらしい。『私なんかのためにあそこまで必死になってくれてありがとう』ってな」
「……は?」
口をぽかんと開ける。拓海は涼の言っていることが一瞬理解できなかった。
「おいなんだそのツラ。小梅が信用できないってのか?もしくはアタシの与太話だって疑ってんのか?」
「いや……『ありがとう』?ありがとうって言ったのか?」
「ん、あぁ……。少なくとも小梅はそう聞いたって言ってたな」
しばらく沈黙が訪れる。やがて、絞り出すように拓海が声を漏らした。
「……嘘だろ、おい。アイツあんな目に遭ったのに、そんな事言えんのかよ。アタシの事考えてくれてたのかよ……」
事故同然だったとはいえ、彼女が命を落としたのは、拓海と接触したことが原因の一旦である。だから、恨み事とか、プロデューサーへの言葉とかなら理解できる。
だが、彼女は、自分に感謝をしていたのだという。
「おい涼、それ信じていいんだよな?嘘じゃねえよな?」
「ああ、あの子は嘘なんか吐かないよ、ましてやアタシにはね。それにそもそもアタシにそんな気休め言ったって何の意味もないし」
焼けた部屋を出る時に聞いた声。
小梅はそれをそのまま、涼に報告していた。
恐らくは、拓海に向けたその言葉を。でもそのまま拓海に伝えると、怪訝な顔をされそうで。
それでも伝えなければならないと思った小梅は、とりあえず自分のことを一番分かってくれている涼に話をしたのだ。
別に何とかしてもらおうと思って話していたわけではないが、結果として拓海にはしっかり伝わった形になる。
「そっか、アイツあんなこと考えてたのか……馬鹿だな、ほんとにさ……」
震え声でそれだけ言うと、パン、と両手で顔を張る。
「よっし、サンキュな涼。後で小梅にも礼を言っとかねえと」
「アタシは何もしてないさ。小梅にはちゃんと感謝してほしいけどな」
「そうだな、じゃあ涼への分は撤回するか」
「何だと!」
軽口を飛ばし合いながら笑う二人の少女。
それは、数分前まで無力感に沈んでいたものと同一人物とは思えなかった。
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さらに数分後。二人は持てるだけの飲食物を膝に乗せ、あるいは店の奥で見つけた台車に載せていた。
「よし、これで大体全部かな。戻るか」
涼が車椅子を出口へ向ける。
「あぁ。ガムの効果も程よく抜けてきたしな。戻ったら少しは寝られそうだ」
拓海も台車を押し、処置室へと歩を進める。
このまま何事もなく処置室へ戻り、二人に戦果を見せるだけ―――と思われたが、ある部屋の前で拓海がふと足を止めた。
「ここは……なぁ涼、ちょっと寄ってみたいとこができたんだが、いいか?」
「ん?どうしたんだよ一体……保管室?」
その扉の前は他と少し雰囲気が違い、ひんやりと冷気のようなものが漂ってきていた。
「悪い、ちょっと待っててくれ。すぐ戻る」
言うが早いか扉を開けて中に入る。しばらくすると、両脇にクーラーボックスを抱えて出てきた。
「よっ…と。保管期限は21日って書いてあったから、まあこれから持って回る分には大丈夫だろ」
台車にごとりと置かれたそのクーラーボックスの中身を、涼はなんとなく察した。
「拓海、アンタ輸血とかできたのか?」
「いや、でも処置室にマニュアルがあった。何度かダチが運び込まれた時にやってるのも見たし、見よう見まねでもなんとかするさ」
「おいおい、ぶっつけ本番かよ。大丈夫か?」
「いざって時に何もねえよりマシだろ。やれるだけやっときたいんだ」
「そうか、そうだな。……拓海、今のお前、凄くいい顔してるよ」
「おい、なんだよいきなり」
「いや、来る時はなんか目が濁ってたからな。今は憑きものが落ちたって顔してる」
「そりゃ……まあ、肩の荷は下りたかな。お前と小梅と……それから、まあ、アイツのおかげで」
「主に小梅たちかな。まあこれで、ようやく命を預けられる感じかな。さっきまでの拓海じゃヤケになって事故でも起こしかねなかったからね」
「何だとぉ?」
「フフ、今は大丈夫だって。まあリラックスしすぎて居眠り運転とかも勘弁して欲しいし、戻ったらしっかり寝てくれよ?」
「……あぁ、そうだな。ちょっと休ませてもらうか」
車椅子と台車の車輪が立てる音をバックに談笑する少女たち。
そのなかに、いつしか雨の音が混じり始めていた。
【B-4 救急病院 廊下/一日目 夜】
【向井拓海】
【装備:鉄芯入りの木刀、ジャージ(青)、台車(輸血パック入りクーラーボックス、ペットボトルと菓子類等を搭載)】
【所持品:基本支給品一式×1、US M61破片手榴弾x2、ミント味のガムxたくさん、ペットボトル飲料多数、菓子・栄養食品多数、輸血製剤(赤血球LR)各血液型×5づつ】
【状態:全身各所にすり傷】
【思考・行動】
基本方針:生きる。殺さない。助ける。
0:色んな意味で収穫だった。
1:とりあえず、戻ったら出発まで寝かせて貰う。
2:雨が止んだら出発する。市街地を巡って仲間を集めながら『天文台』に向かう。
3:誰かを助けることを優先。仲間の命や安全にも責任を持つ。
4:スーパーマーケットで罠にはめてきた爆弾魔のことも気になる。
5:涼を襲った少女(
緒方智絵里)のことも気になる。
※軽トラックは、パンクした左前輪を車載のスペアタイヤに交換してあります。
軽トラックの燃料は現在、フルの状態です。
軽トラックは病院の近く(詳細不明)に止めてあります。
【松永涼】
【装備:毛布、車椅子】
【所持品:ペットボトルと菓子・栄養食品類の入ったビニール袋】
【状態:全身に打撲、左足損失(手当て済み)、衰弱、鎮痛剤服用中】
【思考・行動】
基本方針:小梅を護り、生きて帰る。
0:よかったな、拓海、小梅。
1:足手まといにはなりたくない。出来ることを模索する。
2:申し訳ないけれども、今はみんなの世話になる。
3:みんなのためにも、生き延びる。
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「さてさて、お二人の収穫はいかほどやろか……なぁ小梅はん?」
ベッドの横の丸椅子に座る紗枝は、傍らで眠る小梅を撫でつける。小梅は軽く寝返りをうち、再び寝息を立て始めた。
「ふふ、ぐっすりやね。拓海はんにもしっかり寝て貰わんと……あ」
入口に視線を戻した時、ふと壁際に置いてあるものが目に入った。
立ち上がって近づき、固定された『それ』を外して手に取る。
「……そういえば、ここまで妙に『火』に関わってきたなあ……」
市街地で見かけたものも。
スーパーマーケットでの出来事も。
そして先ほど見つけた変わり果てた少女の亡骸も、全て『火』によるものである。
「……なら、『コレ』は使えるかもしれへん」
そう言って彼女が抱えなおしたのは、赤いタンクにピンが付いたレバー、そしてそこから伸びるノズル。
『消火器』である。
ただ単に火を消すだけではなく、強烈な圧力と共に発射される薬物、あるいや水は、万一『ヒロイン』に襲撃された場合の自衛手段や目くらましにも使える。それになにより、この場所なら大量に調達できるだろう。
これといった武器を持たない、また持つ気もない彼女たちにとって、とても心強い装備のように見えた。
「一旦みんなで休んだら、うちも出発前に『宝探し』に行かせてもらおかな……?」
水滴が付き始めた窓を見やりながら、紗枝は思案する。
本当は、すぐにでも出発し、天文台へ辿り着きたい。
だが、まだ次の放送まで6時間の猶予がある。天文台への道も閉ざされてはいない。
なら、焦ることは無い。そう思って天文台へのルートも、蛇行させてまで他の参加者と出会えそうなルートに決めた。
「焦らんと、でも確実に行かな……ね」
目指すものは決まっている。決まっているからこそ、途中に目を向ける余裕が生まれるのだ。
【B-4 救急病院 処置室/一日目 夜】
【小早川紗枝】
【装備:ジャージ(紺)】
【所持品:基本支給品一式×1、水のペットボトルx複数、消火器】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを救い出して、生きて戻る。
0:消火器、色々と使えそうやね。
1:雨が止んだら『天文台』へみんなで向かう。
2:天文台の北西側に『何か』があると直感。
3:仲間を集めるよう行動する。
4:少しでも拓海の支えになりたい。
【白坂小梅】
【装備:拓海の特攻服(血塗れ、ぶかぶか)、イングラムM10(32/32)】
【所持品:基本支給品一式×2、USM84スタングレネード2個、ミント味のガムxたくさん、鎮痛剤、不明支給品x0~2】
【状態:熟睡中、背中に裂傷(軽)】
【思考・行動】
基本方針:涼を死なせない。
0:zzz……
1:涼のそばにいる。
2:胸を張って涼の相棒のアイドルだと言えるようになりたい。
※松永涼の持ち物一式を預かっています。
不明支給品の内訳は小梅分に0~1、涼の分にも0~1です。
最終更新:2013年10月25日 20:59