雨に唄えば ◆yX/9K6uV4E
――――I'm singing in the rain Just singing in the rain
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
しとしとと、雨が降っていた。
土砂降りというほどではないけれど、絶え間ないぐらいに。
ぴちゃんぴちゃんと雨が落ちる音が響く。
緒方智絵里は、それを寂しげに聞いていた。
ああ、みんなが濡れてしまう。
彼女はそう、切なそうに、ぽつんと呟く。
飛行場に置いてきてしまった、死んでしまった三人。
野ざらしになって雨に打たれてしまっているだろう。
響子は木の陰に隠したとはいえ、濡れてしまっているに違いない。
精一杯、夢を追いかけたあの三人が、更に冷たくなってしまう。
思わず涙が、こみ上げてきそうになるが、頑張って耐えた。
だから、耐えたかわりに、好きな人の名前を呼んだ。
旅館で拝借したピンクの傘をくるくると回しながら。
勇気をつけるように、励ますように。
傘に付いた雫が緩やかに、落ちていった。
よしっ、と彼女は密かに握り拳を作って、前を向く。
雨煙の中、しっかり前だけを見ていこうと思って。
空からは、何時までも雨粒が落ちてくるけど。
それでも、なお。
ぱちゃんと水が跳ねる音がする。
大きな水溜りをうっかりして踏んでしまう。
智絵里は苦笑いを浮かべながら、歩いていく。
独りで、ずっと。
そういえば、雨の日はいつもあの人が傍に居てくれた気がする。
止まないねといわれて、止まないですねと返した、そんな日々が。
ふと、空を見あげてみる。
月も星も見えなくて、ただ厚い雲が覆っていた。
一つ、二つ、三つ。
幾らでも、雨粒が落ちてくる。
まるで、誰かが泣いているようだった。
空だろうか、それとも此処に居ない誰かだろうか。
歩きながら、先程、夢に見た人に想いを馳せる。
相川千夏、同じ人に恋した彼女のことを。
普段の千夏の事を思うと、恐らく淡々と役割を果たしているのだろう。
大好きな人を護る為に、成果をだしているのだろう。
そんな事、誰かに言われるまでも無く理解できた。
でも、彼女は泣けているのかなと智絵里は思ってしまう。
大槻唯は、余りにも早くこの島から消えてしまった。
雨雫がはじける様に、一瞬に。
その事に、彼女はどう思ったのだろうか。
雨音がまるで音楽を奏でるように、響き渡る。
子守歌だろうか、鎮魂歌だろうか、はたまた小夜曲だろうか。
亡くなった人達を思うように、静かに、決して終わることは無く。
何時までも、雨は演奏を続けている。
泣けてればいい、想えていればいい。
千夏も、留美も、みんな、みんな。
哀しむ事すら出来なくなるのは、余りにも哀しいから。
だから、そんな哀しみを止めなければならない、断ち切らなければならない。
幸せな夢を見る為にも。
智絵里はそう思ったから。
どんなに降り続ける雨でも、止まない雨なんてない。
その先にあるのは、輝く太陽だ。
哀しみの先に、それでも希望があるのだから。
雨粒は、太陽の光で、輝くのだから。
雨が、降っている。
しんしんと、終わらない雨が。
智絵里は、それを眺めながら思いを馳せる。
もう少ししたら、放送だ。
また、誰かが亡くなる。
人の命が、失われる。
けれど、それと同時に、一つの恐怖が不意に現れてくる。
夜の雨の中から、急に飛び出してくるように。
余りにも突然に。
智絵里は、もう、殺し合いから降りた人間だ。
絶対的な意志を持って、殺し合いを否定しようとする。
それは、でも、反抗だ。
逆らってはいけないものに、逆らうのだ。
だから、もしかしたら。
大好きな人が、放送で殺されたと言われるかもしれない。
自分が殺し合いに降りたから、殺したというかもしれない。
大好きな人が、死んでしまう。
大好きな人を、ハッピーエンドに連れて行けなくなる。
大切な友人の約束を、破ってしまう。
ひゅうと、雨にまぎれて、冷たい風が吹いた。
手に持っていた、傘がふわりと宙に舞って、落ちた。
降りしきる雨の中で、智絵里はひとり。
優しくも冷たい雨に濡れながら。
ただ、何かを、叫んだ。
それは、雨音に隠れて、聞こえなかったけれど。
智絵里の顔は、雨に濡れていてよく解らなかったけれど。
智絵里は落ちた傘を取って、また歩き出した。
それが、意思表示だった。
緒方智絵里の覚悟だった。
緒方智絵里は、ひとり、雨の世界で歩き続ける。
けれど、その背を押してくれる大切な人たちが居る気がして。
智絵里は、雨音を伴奏に、ただ、唄った。
幸せな唄を。
雨に濡れた髪の一房には、結ばれたリボン。
それは、智絵里に想いを託してくれた少女の約束の、証だった。
雨粒に濡れて、それはとても、美しく、輝いている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――――Just singin' Singin' in the rain I'm happy again! I'm singin' and dancin' in the rain!
【F-3/一日目 真夜中】
【緒方智絵里】
【装備:アイスピック ニューナンブM60(4/5) ピンクの傘】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×16】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:心に温かい太陽を、ヒーローのように、哀しい夢を断ち切り、皆に応援される幸せな夢に。
1:他のアイドルと出会い、『夢』を形にしていく。
2:大好きな人を、ハッピーエンドに連れて行く。
※どちらの方向に行ったかはお任せします。
最終更新:2014年02月27日 20:46