DEAD SET ◆yX/9K6uV4E



――――嗚呼 迷って 揺れ動いて 抱きしめた夢は途中








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










しとしとと降り続いた雨は、既にやんでいて。
空には、満天の星空は広がっていた。
けれど、渋谷凛はそれを見上げる事も無く、ただひたすらに道を進んでいた。
自転車の車輪が、道に広がる大きな水溜りを通っていく。
ぴしゃんと水が大きく跳ねてたが、凛は気にせずに自転車を走らしている。
ただ、振り向かないように、振り向いては進めなくなる気すら、したから。
進むことに理由なんてなかった。
ただ、今はいかなきゃいけなかった。



――――貴方達は、忘れてはいけない事がありますよね。



千川ちひろが先程放送で言った言葉が、凛の頭の中で反芻する。
忘れていたわけではない。むしろずっと引っかかっていた。
けれど、それを気にしたら、二度と歩き出せなくなる気がしたから。
怖かった、それを認めることが。認めたら、二度と立てなくなる。
だから、忘れるように、けれど絶対に忘れないように、片隅に、片隅に、置いていた。




――――貴方に掛かっている命は一つじゃないのですから。




解っている。解っていた。
渋谷凛に掛かっている命は一つではない。
最も信頼している人の命が掛かっていることぐらい、理解していた。
そして、今凛がしている事は、千川ちひろが一番最初に言っていた事に反している事も理解していた。
していた、つもりだった。

けれど、こう改めて、念を押されると、改めて襲い掛かっている。
自分の行動次第で、大切な一人の命が消し飛ぶという、残酷な現実が。
そして、もう、いつ、それが、消えても、可笑しくない事ぐらい。


「――――――っ!」


凛は、強く唇を噛んだ。ぎゅっと、ぎゅっと。
どうして、どうして。
こんなにも、残酷な現実が傍にあり続けて。
そして、自分の心を壊していく。きっとこれから、もっと。
どんな風に、壊していくのだろう。
大切なものを選び続けて。
そして、まるで大切なものを大切でないように、追いやって。
そうやって、どんどん自分を、追い込んでいるようで。

今度は、大切な友達と大切な人を比べなきゃいけないのか。
そうやって選ばなきゃ、いけないのか。
選ばなきゃ、戻れないのか。


「違う……違う!」


違う、違う筈だと、凛は叫ぶ。
何がどう違うか解らないのに。
泣きそうにながらも、凛は、それでも、自転車を漕いでいた。
ずっと見守っていた人を思いながら。
それでも、進んでいた。


進まなきゃ、いけなかった。


例え、それが、大切な人を失う事も。





「っ――――うぁっあああああっ!!」



言葉にならない声を上げて。
凛は、凛は、それでもなお。





「いかなきゃ……いかないと……いけないんだっ!」





そうして、計り知れない不安を脱ぎ捨てた。
それは凛がした一つの覚悟だった。
涙が潤んだ瞳は、それでも前を向いている。
今でも、脳裏に信頼するあの人の残像がちらつく。
けど、決めてしまった。いや、勝手にもう足が動いてるのだ。
どんなに不安になろうと、この身体は止まらないというように。

ただ、感情に翻弄されていた。
無我夢中に想いを叫んでいていただけだった。
選んだものが、重すぎて。
それでも、大切なものだけ選びたいと願い続けて。
そして、どんどん磨耗していって。

けれど、そんな凛が大人になる瞬間が、きっとある。


失いたくない、思い出。
失いたくない、親友。

失いたくないと思える、温もりに気付いた時、誰よりも、強く在りたかった。


強く、在りたい。
私達はまだ終われない。
終わりたくない。
何もかも失いたくないから。
それが結果的に何もかも失うとしても。

それでも、せめて。


せめて、生きて、生きて、強く生きて!



「何もかも無くなっても、砕け散っても……私は此処にいる。私は、強く、在りたい」


渋谷凛が、渋谷凛というアイドルが。
大切な、大切な、自分を育てくれた人の記憶に。

諦めないというのが取り得の、何処までも真っ直ぐ進むアイドル、渋谷凛の記憶が残るように。


「ずっと強く……そう強く……! 私は、走るんだ……何処までも!」


生きて、生きて、証明しよう。
渋谷凛が振り返らず、前を向いて。


真っ直ぐに、生きているという事を!



例え、二度と、会えなかったとしても。




何処までも、走っていけるから! 生きていけるから!






凛の漕ぐ自転車は進んでいく。
キツい坂道にも、負けない。
大切な人がくれた勇気が、此処にあるから。
大切な人がくれた笑顔が、其処にあるから。



「――――愛に包まれて、気付いた、沢山の笑顔、ありがとう」



そんな、ワンフレーズを口ずさんで。



死ぬ事を決意した二人の少女が自転車で進んだ道を――――





――――生きる事を決意した一人の少女が、自転車で進んでいた。









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇









――――せめて生きて、守るべき者に愛を届ける為に。




【D-4・道/二日目 深夜】

【渋谷凛】
【装備:マグナム-Xバトン、レインコート、折り畳み自転車、若林智香の首輪】
【所持品:基本支給品一式】
【状態:軽度の打ち身】
【思考・行動】
 基本方針:私達は、まだ終わりじゃない。
 0:強く、在る。強く、生きる。
 1:卯月、加蓮、奈緒を探しながら北上。救急病院を目指し、そこにいる者らに泉らのことを伝える。
 2:自分達のこれまでを無駄にする生き方はしない。そして、皆のこれまでも。
 3:みんなで帰る。


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最終更新:2014年08月30日 22:49