21世紀深夜アニメバトルロワイアル@ウィキ

おしまいの朝

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054 おしまいの朝


開始以前の出来事も含めて早くも参加者の数を半減させたこの島に、天から朗らかな曲と
心からそれを楽しむような男の声が降り注いだ。

「あーあーごほん、皆さまいかがお過ごしでしょうか?ちょっと見ない間に随分と減ってしまいましたねえ
お約束の放送のお時間です」
「だから言ったじゃない、勝手に減るって」

声はほんの数時間前に別れたばかり主催者である于吉とマリコのものだった。
彼らは初めに参加者達がいたあの無機質な場所からどこから用意したのか大型のスクリーンで島を見ていた。
そしてそれに応じて島中から様々な声が挙がる。

ある者は怒りの声を

ある者は普段と変わらぬ声を

そしてまたある者は楽しげな声を

「いいじゃないですかどの道減るんですから、それにあなたが騒ぎを起こしたせいで説明の手間が増えて
しまったんですからそこら辺は、言いっこなしでお願いしますよ」
参加者の意を全く汲まずに于吉は喋り続ける。

「わかったわよ、それじゃ脱落者を読み上げる前にいくつかの残ってた説明をするわ」
彼らは対照的な態度で参加者たちへのそれを読み上げる。

「まず一つ目、これから言う次のエリアが読み上げた順に1時間後、3時間後、5時間後に禁止エリアとなるわ。
そこに入れば首輪がどかん、禁止エリアは以後ずっとそのままだから忘れないようにね」

そう言ってC-7、Dー4、E-6が禁止エリアとなる事が告げられると今度は鬱陶しい喜び混じりの声が聞こえてくる。

「はいじゃあ次は私の番ですねー、皆さんに吉報があります。初めにマリコさんが勝手に殺っちゃった人たち4人
の支給品と首輪が島のどこかにこれから送られます。水の中、ということはないのでよく探して見てください。」

指先をパチンと鳴らすと島の方々へと光が落ちていく。于吉はニタリと笑うと待っていたとばかりに次へ移る。

「それでは、記念すべき第1回目の脱落者の発表です。長くなるのでメモを取りたい方のためにゆっくりと
読み上げるとしましょう、ゆっくりとね。ああそれから、今回だけは説明不足だったお詫びに敵、とでも
言いましょうか、加害者の方のお名前も読み上げさせてもらうとしましょう。楽しみですね」

「まず一人目、麻生蓮治!敵の名前は、おやもう死んでますね。次からは相手のいない人はそのままということにしますか。
勝手に自滅した人もそれでいいでしょう。では二人目、吾妻玲二!ツヴァイと言った方が良いでしょうか。敵の名前は、フフフ、
栄えある一人目の敵の名前は、エイラ・イルマタル・ユーティライネン!」

「三人目、雨宮優子!四人目、アンジェリカ!敵の名前は」「ルーシー」
横からマリコが口を出すがさして気にも留めずに続ける。

「ということです。五人目、銀!六人目、ヴィクトリア・パワード!七人目、ヴィクトル・ヒルシャー!敵の名前は坂東!」
一人、また一人と読み上げられることに連れて島の中にざわめきが広がっていく。

ある者は当惑し、

ある者は打ち拉がれ

ある者は堪らずに駆け出す。

「多いですねえ、ですがこれからですよ。八人目、江戸前留奈!敵の名前はヘンリエッタ!九人目、音無結弦!
敵の名前はリャン・チー!十人目、春日井甲洋!敵の名前は、リャン・チー!十一人目、カノン・メンフィス!
敵の名前は蘇芳・パヴリチェンコ!ん、おおこれはこれは、十二人目、脱落者、関羽!」

于吉がやや興奮気味に読み上げ息を吐くのと島の中で幾人かが息を飲むのは奇しくも同じタイミングで、
島の中で短い不穏な反響が徐々に拍子を刻んでいく。指揮者もまた規則正しく音頭を取る。

「敵はヘンリエッタ、いけませんねえ、いささか偏っています。もう少し精力的に乗って頂かないと、次は、
十三人目、久瀬修一!敵の名前はヘンリエッタ!十四人目、コウタ!敵の名前はリャン・チー!」

流石に多いので後何人かマリコに問い合わせると二十六人だと言う。変わってくれるよう頼むがにべもなく断られる。

「仕方がありませんね、十五人目、小楯衛!敵の名前はルーシー!十六人目、近藤剣司!敵の名前は
フランチェスカ・ルッキーニ!十七人目サーニャ・V・リトヴャク!敵の名前は遠見真矢!」

その訃報を信じられない者もいれば理解の追いつかない者も、また何とも思わない者もいる。

「十八人目、新藤千尋!十九人目、シャーク藤代!敵の名前は仲村ゆり!二十人目、瀬戸燦!敵の名前はルーシー!
二十一人目、竹之内豊!敵の名前は......ゴリラ!二十二人目、津村斗貴子!敵の名前はヴィクター!二十三人目、ドライ!」

どこかで胸をなで下ろし安堵する者がいる一方で衝撃に押し潰されそうになる者がいる。

「二十四人目、直井文人!二十五人目、中村剛太!二十六人目、羽佐間翔子!敵の名前はリャン・チー!二十七人目、
馬超!敵の名前は火渡赤馬!二十八人目、早坂桜花!二十九人目、早坂秋水!三十人目、火村夕!三十一人目、広野紘!
敵の名前はリャン・チー!絶倫ですねえ、三十二人目、日向秀樹!敵の名前はジョゼッフォ・クローチェ!」


短時間に生み出された数多くの死に、参加者の反応は同じであるはずがなく
全く同じ悲しみを抱え異なる名を口にする者もいれば悪態をつく者もいる。

「三十四人目、政!三十五人目、マルコー・トーニ!敵の名前はルーシー!三十六人目、三河海!敵の名前はヘンリエッタ!
三十七人目、満潮永澄!三十八人目、宮村みやこ!三十九人目、ユイ!四十人目、リネット・ビショップ!敵の名前はゴリラ!」

先ほどよりきっぱりと言い放つと于吉は深く息を吸い、ゆっくりと吐くと達成感に満ちた声で終わりを告げる。

「以上をもちましてこの六時間での脱落者四十一名の訃報をお届けしました。一夜にしてこれだけの
人が死ぬなんて、まるで怪談ですね。いや失敬、それでは皆さん、また次のお時間に」

その言葉を最後にもう于吉の声は聞こえては来ず、島には嘆きと怨嗟の念が表出し始める。


島から溢れる暗い情念のさらなる濁りを確認して于吉は満足気に微笑む。

「次の放送までに何人生き残っているか楽しみです。皆様、ぜひ夢に向かって頑張ってくださいませ」
「なんだったら死体の在処も言ってあげればよかったのに」

放送を終えると于吉は視線を自分の懐に持っていた書物に移す。それは先ほど読み上げられた
犠牲者の内の数名とその仲間の手によって自身もろともに封印されたはずの書物、太平妖術の書だった。

だがそれは以前見たことのあるものがいれば色がおかしいことに気がついたことだろう。
その血に染まったような毒々しい赤い色に。

「だけどそんな古本に本当にこれだけの力があるなんて、やっぱり嘘臭いわね」
気怠げな声でマリコは言う。初めてこの男と会った時にベクターが防がれていなければ信じていないところだ。

「あんなこともあろうかと写しを取っておいて正解でした。本物に比べれば力は落ちましたがそれも昔の話。
今のこれは太平妖術の書の完成版......の試作品といったところですよ」

フフフ.........と愛おしげに赤い表紙を撫でる。
「保険はかけて置くものです。かかったのは鼠、でしたが」

「どういうこと?」
マリコが聞くと于吉は大仰に肩をすくめる。
「なあに、呼ばれてもいないのに遺産を漁ろうとした頭の黒い鼠が、私の代わりになってくれたということですよ」

「ふうん、それにしてもこれだけの島まで用意出来ちゃうなんてね、でもいらない施設もけっこうあるんじゃない?」
「遺跡とか研究所とか」言わんとしたことを理解すると興味が失せたのかマリコは話題を変える。

「ああ、あれは色んな世界の偉い人がひた隠しにしていたもので参加者に縁のある場所なんですよ。
どういったものか知りませんし妙な変化をしたものもありますが、私はただ集めて繋げただけでして」

「いい加減ね、まあいいわ。約束を守ってもらえるなら......なんでもいい、じゃあね」

そう告げて車椅子を動かし何処かへと立ち去ろうとするとマリコがついと立ち止まって于吉を見る。
「あなた今、何か言った?」
「?いいええ、私物事ははっきり言うタイプですので」

于吉がきっぱりと告げるとそう、とだけ返していなくなる。
「.........健気ですねえ、ですが、貴女の願いは人によっては一番高く付くモノなんですよ。マリコ」
マリコの去った方へと言うと彼は立ち上がってスクリーンの映像を落とし、マリコとは別方向へ歩き出す。

「ふふふ、あの時は油断しすぎてマヌケなことになってしまいましたが、ちゃんとやればまあこんなものです」
于吉は酷薄な笑みを湛えながら暗がりへと溶けこんでいった。
「せいぜい色んな思いをして、この本と私を楽しませてくださいよ、皆さん」

どことも知れない廊下を移動しながらマリコは鼠でもいないか、しばらく巡回を続けていた。
(この分なら思ってたよりも早く終わる、そうしたらきっと)

あれはいったい何時の事だったか、ある日突然現れた于吉と交わした約束
『私の遊びに付き合って頂けたら、あなたの望みを一つ、叶えて差し上げましょう』

嘘だと思った、胡散臭い力を見せつけられてもなお、嘘だと思った。それでも縋りつかずにはいられなかった。
「もう少しだよ、お父さん、お母さん」
声に出して見たが廊下には彼女の声が静かに響いて消えただけだった。

【1日目 早朝 残り39人】

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