21世紀深夜アニメバトルロワイアル@ウィキ

倍額保険

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倍額保険 ◆MS8eAoJleg


オフィス街の外れにある小さなビル。
そこの屋内で、対戦車ライフルのスコープはひとりの参加者を睨み付けていた。
これは蘇芳自身の選択、誰に強制されたわけでも、頼まれたわけでもない彼女の決意。

彼女は黒にすべてを打ち明けた。ペーチャやジュライのことも、彼女自身のことも、そして黒の未来も。
あの人はただ静かに、自分の言葉を聞いてくれた。心の重しが消えるような気がした。
故郷の人々は誰も蘇芳を覚えていない。MEという装置によって記憶を消されてしまったから。
友人のあの時の眼差し、見ず知らずの人物として扱われたことは、今でも忘れられない
だからなお一層、黒の優しさが蘇芳に深く染み渡った。

ただ、銀の話題を切り出した時、この平穏は崩れ落ちた。
黒は蘇芳を傷つけはしなかったにせよ、その詰問は彼女に恐怖させるほどだった。
でも、蘇芳は分からないことは分からない。結局、一連の事件について殆ど知らないのだ。
彼女の知っている黒は、すべてを抱え込み、自分の手で解決しようとしたから。

蘇芳は初め、黒も記憶を消されたのだと思った。
だがその考えは、死んだはずの契約者がいたことと、黒の微妙に若い外見から却下された。
黒の言ったように、時間を操作する契約者が関わっているのだろう。
どちらにせよ、この黒も黒であることには変わりがない。

だが、その彼は今はこの場にいない。核鉄で傷を癒すと何処かへ行ってしまった。
彼は参加者を監視する観測霊を探ると言っていた。だけど、それは嘘、ただの口実だろう。
あの人はきっと銀に会いに行ったのだろう。黒にとって大事な人なのは痛いほど分かっている。

彼は蘇芳のことを足手纏いと言って、同行の申し出を断った。
彼女は喧嘩して食らいついたものの、放送までここで静かにしていろときつく言われてしまった。

蘇芳はその腹の立つ仕打ちも、黒の心遣いなのはわかっていた。
彼女は契約者でありながら、殺人に躊躇いを感じる性分。
今日、あの少女を殺したのが初めての経験なのだ。
確かに、自分の眼前で親友が死んだことはあったが、あれは自分のせいはどうも思えなかった。

けれど、今の蘇芳にとって、彼から遠く離れる方が怖かった。
この島にはペーチカもジュライもいない、知っている人間は黒だけ。
あの人に認められたい、守りたい、そばに寄り添っていたい。

そんな時に窓越しに女の子を見かけた。街路樹に引っかかった麦わら帽子を見上げている。
背格好は蘇芳と同じくらい、髪はピンク色で左右から何かがが生えていた。たぶん角だ。
しばらく観察していると、少女は見てない手で麦わら帽子を引き寄せていた。
決まりだ、この少女は会場で見た怪物と同じ能力を持っている。

あの子を放置すれば、きっとたくさんの命が失われる。
相手はまだ少女、けれども会場の殺人鬼はもっと幼かった。
誰かを守るためには、誰かが彼女を殺さなくてはいけない。だから殺しても構わないだろう。

――距離60メートルくらい、南東の風、風速は多分4メートル、右に二ミリ修正。

黒はルーシーの同族を見かけたらすぐに逃げるように言っていた。
確かに、近接戦闘は危険だ。だが、この距離ならば十分に勝機はある。
一瞬、会場で殺した、あの少女のことが頭に浮かぶ。その絵を速やかに振り捨てる。
ここで恐怖に押しつぶされたら、二度と誰も殺せなくなる。
そうしたら、黒と一緒に戦えなくなる。だから、

引き金を引いてしまった。蘇芳のように殺しを忌避する契約者がいるように、
人殺しを忌避するディクロニクスがいるなどとは思いもよらずに。


○ ○ ○


1945年の軍人にとって、現代的なオフィス街は奇異で刺激に富んだものだった。
彼女は幼いころに聞かされた不思議の国にいるような錯覚を抱いてしまう。
もっとも、この場は夢やメルヘンとは真逆の血生臭い戦場でしかないのだが。

「おーい、誰かいるかー」

バルクホルンは焦っていた、同行していたナナを見失ってしまったのだ。
今頃、あの子は路地裏でべそをかきながら、お姉ちゃんと自分を呼んでいるのではないか。

その時、彼女は右手の建物から何かの気配を感じた。
それは余りにも微かで、難解な騙し絵のように巧妙だった。
人探しに神経を収集していなければ絶対に気付かなかっただろう。

「両手を挙げてそこから出てこい」

バルクホルンは先手を取って、気配の先に銃口を向けた。
残念ながら、気配の主はナナではなさそうだ。数秒後の戦闘を覚悟し、呼吸を整える。

螺旋を描くビルの裏側から、両手を挙げた人影がゆっくりと姿を現す。
正体は端正でやや頼りない風貌の青年。鍛えていそうな身体だが、達人特有のオーラは感じられない。
凄腕の工作員を予期していただけに、拍子抜けしてしまった。

「私の名はゲルトルート・バルクホルン。殺し合いには乗っていない」

彼女は相手を納得させるように、力強く、そしてまっすぐに宣言する。

すると、男の緊張はほぐれ、安心したような声で言った。

「本当ですか。あの、僕は黒田と言います。殺し合いが嫌なのでここに隠れていました」
「クロダ? そのような名前は名簿に記載されてなかったはずだが」
「たぶん、黒(ヘイ)で登録されているんだと思います。
 中華街で見習いコックをやっていて、料理長にそんな綽名で呼ばれていますので」
「そういうことなのか。私はてっきり何らかのコードネームだと思ったぞ」

黒は爽やかな笑顔で否定した。嘘をついている風には見えなかった。
隠密の達人という見立ては、なまくらな眼力からくる勘違いだったのかもしれない。

バルクホルンが銃を下すと、男は両手を腹に当てて息を吐いた。

「ところで、貴女は誰かを探しているんですか」
「実は島で出会った仲間と逸れてしまってな。ピンクの髪でこれ位の背丈の少女を見なかったか」

ナナの角に関しては言わない方が良いだろう。相手を不必要に警戒させてしまう。
彼女にはあらぬ誤解を受けないようにするため帽子を被らせている。

「いえ、見ていません。女の子を一人にしたら大変ですね。僕も手分けして探しますよ」
「気持ちは有難いが、クロダのような民間人は自分の身を守ることに専念してくれ。
 声を出して走り回れば、殺しに乗った連中の格好の的になるからな」
「狙われるのは貴女も同じではないですか」
「私は誇り高きカールスラント軍人、一人でも多くの人間を救うことが使命だ」

彼女は胸を張って答えた。
誰かを助けるためにはどんな努力でもする。それがバルクホルンという人間なのだ。
それにナナに関しては、個人的な感情を脇に置いても、接触すべき情報源だ。
どうやら、彼女は運営者の少女と面識があるようなのだ。

「若いのにしっかりしていると思ったら、軍人だったんですか。
 ……ただ、ずいぶんとユニークな制服ですね」

黒は一瞬、彼女のローレグに視線を向けると、すぐに前を向いて遠慮気味に言う。
バルクホルンはそれに思うところがあった。とは言っても、ズボンをパンツ勘違いされたことでない。
文化の違いというものは往々としてあるもの。彼女は己の服装を恥じるつもりはない。

「それを聞かれたのは二度目だな……黒は何年から来た」
「ええと、それは西暦ですか」

やはり、この青年は未来の住人だ。参加者は色々な時代から集められているようだ。
ナナとの会話でも似たようなことを感じていた。ただ、バルクホルンにSF的な知識がなかったこと、
そして、話の相手があまりにも世間知らずであったため、確証が持てなかったのだ。


「タイムトラベルですか。思いつきませんでした……あのどうかしましたか」
「ああいや、人類がネウロイに勝利できた事実に喜びを感じていただけだ。我々の戦いも報われる」
「さっきの言葉は気にしないでください。単に僕が不勉強なだけだと思います」

彼の語る歴史はバルクホルンの置かれた時代と大きく食い違っていた。
黒はネウロイもウィッチも知ってはおらず、カールスラントのことをドイツと呼んでいた。
軍上層の一部には、ウィッチを疎ましく思う連中がおり、ネウロイとも不穏な関係を結んでいるように見えた。
彼らの思惑は成功し、真実は闇の中に葬り去られてしまったのだろうか。
彼女の胸中にぶつけようのない怒りと空しさが去来する。

「だったら、僕が記憶しますよ」
「なっ、なんだ急に」
「元の世界に戻ったら、真剣に歴史を学びます。絶対に貴女のことは忘れません。
 それから、未来は必ずしも一つとは限りません。頑張れば変わるかもしれませんよ」

黒は真摯に、そして穏やかな声で言った。奇妙な吸引力のある男だと思った。

「やれやれ、生きて帰れるか分からない内から元気だな。お前には大物の資質があるぞ」
「ありがとうございます」
「礼を言うのは私の方だ。それに前向きな考えは嫌いではないぞ」

その時、どこか遠くから爆発が聞こえた。音からして重火器の類。
ナナは無事だろうか。そう思ったら、考えるよりも早く身体が勝手に走り始める。

「すいません、待ってください」

振り返ると、後ろから黒が追いかけてくる。思ったよりも足は速い。

「黒は他に仲間はいるのか?」
「いえ、ずっと隠れていたので一人です」
「そうか。これから私は戦いに行く。
 お前は私に付いていくか、あそこの倉庫に隠れるか、自分で選んでくれ」


○ ○ ○

「しつこいなあ、いい加減諦めてくれないかな」

ナナは森の大木に寄りかかって息をつく。一番、身の危険を感じたのは最初の攻撃だった。
照準が僅かにずれていなければ、自分はあの滑々した木のように粉々に吹き飛んでいただろう。
そこからは何とか攻撃に当たらずにここまで来られた。敵は逃げ回る標的には慣れてないらしい。
まだ、狙撃手の顔を見ていない。おそらく、海岸のおじさんのように凶悪な顔をした兵士なのだろう。

ナナはしばらく様子を見ていたが、対戦車砲は飛んでこない。
もしかすると、本当に諦めてくれたのかもしれない。乱れた前髪を左手で軽く整える。

「あの時の爆発で帽子も駄目になっちゃったんだよね。折角、お姉ちゃんから貰ったのに」

あれはお洒落のためだけでなく、自分の角を隠すために必要だった。
会場であれだけの殺戮劇があれば、角があると言うだけで狙われてもおかしくない。

ナナは不安になる。
バルクホルンは今、どうしているのだろう。もしかすると、ナナを見捨てたのかもしれない。
いや、あの人はちょっと変わっているものの、とても優しい人。角を可愛いと言って、ナナを受け入れてくれた。
きっと、ナナが嫌いなのではなく、戦いの巻き添えを食らうのが怖かっただけなのだろう。
そのように自分に言い聞かせた。そう考えると、下手にコウタに会ったら迷惑をかけるかもしれない。

ナナは不満だった。
自分は何も悪いことをしてないのに、なんでこんな酷い目に遭うのだろうか。
彼女は他の同族と異なり殺人衝動を持たない。事実、誰かを殺したことも大怪我をさせたこともない。
それだけでなく、パパの言いつけ通りに、静かに平和に暮らすつもりだったのに。
幼いディクロニウスと戦って、負けて、気づいたら殺し合いの場に放り出されていた。

ナナは泣きたくなる。
無性にパパに会いたくなった。彼は所長の命令を無視してナナを死から救い、外の世界に逃がしてくれた。
あの人は今、そのせいで酷いことになっていないか心配だ。もしかすると、殺されたのかもしれない。
いや、きっとパパは生きている。いつの日か、また会おうと約束してくれたから。
だから、彼女は涙をぐっと堪えた。口の中がしょっぱかった。

【一日目 G-3 オフィス街 早朝】

【黒@DARKER THAN BLACK】
[状態]健康
[装備]椎名の短刀×2@Angel Beats!
[道具]基本支給品×2、ロープ@現実、フリーガーハマー(残弾70%)@ストライクウィッチーズ
[思考]
基本:銀とともに殺し合いから脱出する
1:銀と合流したい
2:観測霊や時間を操る契約者(アンバー)との接触を図る
3:放送前には蘇芳との待ち合わせの場所に戻る
[備考]
※一期最終回後から参加。契約能力使用可能。
※蘇芳の事は別の時間から来たと考えています

【ゲルトルート・バルクホルン@ストライクウィッチーズ】
[状態]:健康
[装備]:トカレフTT-33(14/15)@Phantom ~Requiem for the Phantom~
[道具]:基本支給品×1、予備弾装×4、ランダム支給品0~1(確認済)
[思考]
基本:ナナと一緒に島を廻って危険人物を片付ける
1.早急にナナを保護する
2.できれば芳佳を保護する
3.黒が付いてくるかどうかは本人に任せる
4.フラウやシャーリーは…あいつ等なら大丈夫だろ
[備考]
※一期で芳佳が謹慎処分を受けた後から参戦

【一日目 G-4 早朝】

【ナナ@エルフェンリート】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×1、ランダム支給品1~3(確認済)
[思考]
基本:何とかして生き残って、蔵間(パパ)と再会する
1.バルクホルンを探して合流したいが強要はしない
2.ルーシーさんを懲らしめる
[備考]
※マリコとの対決後からの参戦

【蘇芳・パヴリチェンコ @DARKER THAN BLACK】
[状態]疲労(小)
[装備]なし
[道具]基本支給品×1、特別支給品0~1個(確認済)、ルールブック2冊(黒と蘇芳)、
   核鉄@武装錬金
[思考]
基本:黒と旅を続ける
1:このままナナに攻撃を続けるか、それとも……
2:放送前には黒との待ち合わせの場所に戻る
[備考]
※二期最終回、銀に魂を吸われた直後からの参加。
※ルールブックのページを数枚消費


040:宿縁 投下順に読む 042:オープンウォーター
時系列順に読む
011:契約の星は流れた 蘇芳 043:思い出は奪われ、憎しみの熾火が燻ぶる
016:トゥルーデは戦場へ行った ゲルトルート・バルクホルン
ナナ

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