21世紀深夜アニメバトルロワイアル@ウィキ

熊が火を発見する

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熊が火を発見する ◆MS8eAoJleg


生い茂る草花は夜空に見守られて寝息を立てる。
植物は細胞に葉緑体を持ち、可視光線を用いてエネルギーを作り出す。
されど、月星の明かりは余りにも弱く、光合成をするまで至らない。
昼の蓄えを消費して、細々と命をつなぐだけ。

ヴィクターは深緑の中に自己主張する白い建物を発見した。
彼は娘の所在を探るため、また面倒な狙撃をやり過ごすためにやってきた。
一方、同行者の女、カナンは内部を探索し、場合によっては破壊するつもりのようだ。

だが、この研究所はまるで分厚い壁に包まれた窓のない箱だった。
正面玄関は鋼鉄のシャッターが下りており、来客を頑なに拒んでいる。

「内側からロックされているみたいだ。別の侵入口を探そう」

カナンはそう言って、裏手に回ろうとする。ヴィクターは彼女を右手で制し、

「訪問者は盗人のように振る舞う必要はない」

自身の心臓から核鉄を取り出し、トマホークを形成。鋼鉄の板に向けて素早く振り下ろす。
シャッターは鈍い悲鳴を上げ、歪んで、捻じれて、馬一頭ほどの大きな穴を抉り取られた。

女の赤い目は一瞬、ヴィクターに警戒の光を宿す。
だが、すぐに飄々とした表情になり、地面に散らばった金属片を調べ始めた。

「へえ、これも支給品の力?」
「いや、俺自身に埋め込まれた呪わしき力だ。他の者には使えない」
「それならば、悪用されないな。ちょっと安心した」

カナンは立ち上がって、気配を消しつつ研究室の中へ入っていった。
ヴィクターはその振る舞いに奇妙な違和感を嗅ぎ取る。
彼女は何かを失い戸惑っている。まるで体の一部でも失ったかのように。

○    ○    ○

男はカナンの後に続いて、建物内部へ足を踏み入れた。
マスクドが発電所の電源は落としたらしいが、照明は惜しみなく輝いている。予備電源でもあるのだろう。
ヴィクターの視野を真っ先に占めたのは、5メートルはある銀色の扉だった。
金属のパイプが複雑に組み合わさり、何重にもロックされている。
ヴィクターは金庫のような厳重さに眉を顰める。

「扉の材質は武装錬金と未知の物質の合金か」
「それは壊すのに骨が折れるのか」
「裏を返せば、よほど重要なものを隠しているということだ」

カナンは扉を見上げたまま、三歩ほど後ろに下がった。
男は渾身の力を込めて戦斧で薙ぐ。不可視の重力波が放たれ、スコールのように叩きつける。
静寂の空間を不協和音が満たし、周囲の壁を小刻みに振動させる。
されど成果は浅い引っ掻き傷を作ったのみ。扉は前と変わらぬ存在感で立ちはだかっている。
黒い核鉄で超戦士化していた頃ならともかく、今の彼では火力が足りないようだ。

続けてカナンがC4爆弾を起爆。これも結果は同じだった。

「力技が無理なら、今度は正攻法でいってみるか」

カナンは扉に脇にある端末を弄り始める。その5分後、指を止めて、

「ナナの育ての親の名前、知っているか」
「いや、知らんな。何故それを聞く」
「ドアのパスワードになっている」

ヴィクターはナナという名前に見覚えがあった。
名簿を取り出して、該当者が存在することを確認する。

「ナナと同じブロックに記載されているのはルーシー、コウタ、坂東だ。
 仮に名簿の中に答えがあるならば、おそらくこの3人に限られる」
「じゃあ、バンドウで試してみる。ファミリーネームだけなのが、なんとなく成人っぽい」

カナンはそう言って、6文字の半角アルファベットをタイプする。
その直後、低音のブザーが鳴り響く。部屋の様子に何ら変化はない。
彼女は溜息をついて言った。

「外れだ。再入力できるのは30分後らしい」
「そうか。正答は参加者以外かもしれん。ナナ本人か知り合いに話を聞く必要がある」

ヴィクターは両腕の分厚い筋肉を左右に組む。
とにかく、ドアを開けるのは後回しにした方がよさそうだ。
カナンは身体伸ばして、何気ないひとことを呟いた。

「力が戻っていたら、こんなものはすぐに解けるんだが」
「今、力と言ったな。お前は特別な能力を持っているのか」

すると、彼女は少し考え込んだ後、口を開いた。

「色の音、単語の味、香りの形、私は独立している五感を同時に働かせられる」
「共感覚か。あれは刺激の受け取り方が特異と言うだけで、力と言うほどのものでもないだろう」

ヴィクターの配偶者、アレクサンドリアは錬金戦団の優秀な科学者だった。
それに加え、彼自身も外見にそぐわず、ホムンクルスの技術を指南するほどの学識は持っている。
共感覚についての基礎知識を持っていてもおかしくはあるまい。

「私のは特別なんだ。普通の人間には読み取れない情報を感じ取れる。
 たとえば、電線に触れるだけでコンピュータの暗号を解読したり、
 相手の姿を見るだけでどんな感情を抱いているか分かったりする」
「とんでもない能力だな。それが真実なら、人探しや于吉と戦うための切り札になるだろう」
「でも、その力を失った。取り戻す方法も分からない。これではマリアを守れない」

カナンは拳を握りしめ、苛立ちの感情を吐露した。彼には嘘をついているようには見えなかった。
今の彼女は暗闇の洞窟を手探りで進んでいるも同然。ぎこちなさの理由はこれだったのだろう。

彼女の能力は有用だ。ヴィクターは女に手を貸してやりたいと思った。
しかし、そのために克服すべき大きな障害がある。

「お前は正直に己の弱さを晒した。ならば、俺も正体を明かそう。
 俺は、人食いのホムンクルスだ」

その場を取り繕っても、遅かれ早かれ素性はばれる。
ならば、自分と深く関わる前に、話した方が良いと考えた。
あくまでホムンクルスの性質を語っただけで、逃亡の苦労話を打ち明けることはしなかったが。
カナンは特に動じることもなく静かに聞いていた。

「お前は俺が恐ろしくないか」
「救いようがないほどに悪趣味だと思う。
 でも、本能のために食うのは仕方がない。私だって人を殺して金を稼いでいる。
 マリアとついでにマスクド達を殺さないと誓ってくれるなら別に構わないな」

その割り切った言葉を聞いてヴィクターは思う。武藤カズキとは別の意味で変わっている。
この女はまるで未開の野蛮人、孤高の獣、生まれたての赤ん坊だ。
現実を理性ではなく、己の感じるままに、偏見を持たずに受け止めている。

いや、ヴィクター自身、錬金戦団の搦め手に対峙するため、獣のように孤独に戦い続けてきた。
過程は異なるとしても、あまり変わらないのかもしれない。彼はもう一つの問いを投げかける。

「約束ならいくらでもできる。だが、その言葉をお前は信じるのか」
「色触りが見えなくても、なんとなく分かる。お前、損得よりも善意で行動するタイプだろう」
「善意か、俺には過ぎた言葉だな。ただの独善的な頑固者だ」
「シャムも似たようなことを言っていたな。交渉が通じないか厄介だって。
 でも、私は、少なくとも嫌いじゃない。クライアントと料金交渉する時の方が面倒だ」

カナンはささやかな笑顔を表した。獣同士に結ばれた緩やかな同盟関係。
相手もこちろに対して、完全に心を許したわけではないだろう。
だが、ある程度の距離があった方が上手くいく、彼はそのように結論した。


○    ○    ○


二人は他の場所の探索を続ける。内部は人の立ち入った痕跡はない。自分たちが最初のようだ。
見つかったのは、喫煙所、食堂、シャワールームと研究所の名前に似つかわしくない施設だらけだった。
やはり、研究に関わるものは扉の向こうにあるのだろう。たった一つの例外を除いては。

――修復フラスコ。利用料:首輪3個。使用中は防護壁で守ってくれます。ひとりで来ても大丈夫。

これはかつて、蝶野爆爵が発明した錬金術の装置だ。
大男も余裕で収まる筒状のガラス。中に特殊な液体を満たして治療を行う。
たとえ、腕をもがれたとしても、数時間もあれば完全に再生可能だろう。

ヴィクターはこれを見ているうちに強い衝動が込み上げてきた。
そして、武装錬金、フェイタルアトラクションを振り上げる。

「いきなり何をするつもりだ」

カナンは慌てて声をかけてきた。男は態勢を変えずにそれに答える。

「フラスコを破壊する。無差別殺人者に使われれば、大変なことになる」
「だけど、使い方によっては怪我人を助けられる。首輪は死体から奪えばよいだろう」

パーティー結成して幾許も経たない内に価値観の相違が露わになる。
カナンにとって、道具とは自分を裏切らないもの。
それ自体には感情の色はなく、持ち物の意思によって良くも悪くも変化する。

それに対して、ヴィクターにとって、錬金術は関わるもの全てに災いを巻き起こすもの。
たった一つの道具のせいで彼はかつての仲間との、そして娘との関係を引き裂かれた。
確かに、彼はこの装置を使って、百年の眠りから目覚めることができた。
しかし、それはあくまでも錬金の戦士と錬金術をこの世から消し去るため。
自分の身に限定して言えば、より大きな苦しみを抱え込んだに過ぎない。
少なくとも武藤カズキが身を張って和解を齎すまでは。

ヴィクターは斧で宙を切る。フラスコの備え付けられた天井が小さな爆発を起こす。

「安心しろ、破壊したのはシャッターの可動部分だけだ。少し見回りに行ってくる」

男はカナンの軽い非難の視線を浴びながら、その場を立ち去った。


○    ○    ○


食ベタイ、食イタイ、食ワセロ、ヒトヲ、食ベル

ホムンクルスは人を食う。彼らは人間をベースに作られている。
ゆえに、全身の細胞は本来の姿への回帰を求め、ヒトの血肉を渇望する。

ヴィクターは別に癇癪を起こして、その場から立ち去ったわけではない。
食人衝動を堪えるために、距離を置こうとしただけだ。
ただ、悪印象を与えたのは確かなので、後で誤解を解いた方が良いだろう。

彼はラウンジで支給品のパイを貪り食う。
三枚ほど腹に入れたあたりで、衝動は次第におさまっていった。
この食物の材料は彼の妻、アレクサンドリアのクローンの出来そこない。
端的に言えば人の脳味噌である。娘のヴィクトリアはこれを食べて百年間暮らしていた。

彼はいつもよりも食人衝動の周期が早いことに気づいていた。
この調子だと、パイはあと1日ももたないのではないだろうか。
死後数時間の新鮮な死体ならば、生きた人間の代用になる。
ヴィクターほどの戦士となれば、気合である程度、欲望を押さえつけることもできる。

彼の脳裏に不安がよぎる。それは娘のヴィクトリアのことだ。
衝動に耐えきれず、無差別に人を食らっていないだろうか。
その時は、何があろうと娘の側に付こうと思う。
百年前の対立は繰り返さない。それがわが子にできるせめてもの贈り物だ。

ただし、ヴィクターはそれらの問題を杞憂だと結論付けた。
強かな彼女のことだ。無意味に自分を追い込む愚行に走る訳がないと。
彼は知らない、最愛の娘はそれ以前に、武装錬金の力で命を落としてしまったことを。


【一日目 B-7 研究所 早朝】

【カナン@CANAAN】
[状態]:健康 
[装備]:レミントンデリンジャー@現実 弾数残り12発
     C4爆弾x7@現実
     麻婆豆腐の食券@Angel Beats! 
[道具]:基本支給品×1
[思考]
基本:マリアと生きて帰るためにやれる事をやる。
1:ヴィクターと同行する
2:マリアを探す
3:他の殺し屋や傭兵など一応説得を試みる。(マリア以外の民間人には話す気は殆どない)

【ヴィクター@武装連金】
[状態]:疲労(小)
[装備]:核鉄@武装連金
[道具]:基本支給品×1、確認済み支給品0~2(核鉄はありません)
    アレクサンドリアのミートパイ×12@武装連金
[思考]
基本:ヴィクトリアの保護、および彼女に危害をなす可能性のある存在の抹殺
1:カナンと同行する
2:武藤カズキへの興味
※ 26話、ホムンクルスになった後での参戦。既にヴィクター化していません。
※ 核鉄は本人の心臓として一体化しています
※ 食人衝動は通常のホムンクルスよりも強まっています

※ 修復フラスコの防護壁が破壊されました

051:バタフライエッジ 投下順に読む 053:死の先を逝く者たちよ
時系列順に読む
038:絶望と、希望と ヴィクター 068:シンデレラ・ファーザー
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