ナナオリミックス
男が立っていた。
中学生くらいの年だろうか。オールバックに髪を上げ、学生服を羽織っている。
彼の眼前には、同級生かと思われる少女がいた。
中学生くらいの年だろうか。オールバックに髪を上げ、学生服を羽織っている。
彼の眼前には、同級生かと思われる少女がいた。
男は何を思ったのか、少女目掛けて持っていたナイフを突き立てた。
鮮血を噴き出し、少女は倒れ伏す。
男はしばらくじっとそれを見ていたが、不意にこちらに振り向き、こう言った。
鮮血を噴き出し、少女は倒れ伏す。
男はしばらくじっとそれを見ていたが、不意にこちらに振り向き、こう言った。
「お前はそれで納得出来るのか?」
◇ ◇ ◇
「――――!?……ッ、……っは、……はぁっ……」
ひどく嫌な夢を見てしまいました。
あんなことが起きた後だからでしょうか。
全身、冷や汗でびっしょりです。
あんなことが起きた後だからでしょうか。
全身、冷や汗でびっしょりです。
隣のベッドに目をやると、美也さんはさっきと変わらない笑顔で眠っていました。
でも、美也さんが目を覚ますことはありません。
もう二度と話しかけてもくれませんし、抱きしめてもくれません。
でも、美也さんが目を覚ますことはありません。
もう二度と話しかけてもくれませんし、抱きしめてもくれません。
「一人じゃないって、言ってくれたのに……嘘つき……」
私に彼女を糾弾する権利なんてありません。
一人ぼっちになってしまったのは、他でもない、私のせいです。
一人ぼっちになってしまったのは、他でもない、私のせいです。
『お前はそれで納得出来るのか?』
夢の中で聞いた言葉が頭に響く。
かつて読んだ小説の一場面に酷似した夢。
私の記憶が正しければ、彼はこんな台詞を言うような人物ではなかった気がするのだけれど……。
私の深層心理が見せた幻、なのでしょうか。
かつて読んだ小説の一場面に酷似した夢。
私の記憶が正しければ、彼はこんな台詞を言うような人物ではなかった気がするのだけれど……。
私の深層心理が見せた幻、なのでしょうか。
「出来るわけ、ない……」
だとすれば、やはり私はまだ納得出来ていないみたいです。
美也さんの死も。あずささんの凶行も。私の過ちも。
「仕方がなかった」と割り切ることなんて、出来ない。
美也さんの死も。あずささんの凶行も。私の過ちも。
「仕方がなかった」と割り切ることなんて、出来ない。
皆を幸せにしようと尽くしてくれた美也さん。
貴女の尊い命は誰かに奪われていいものなんかじゃない。
なのに、それをあずささんが摘み取ってしまった。
美也さんを殺しておいて、あの人はまだ生き延びている。
あの人さえ来なければ、私も、美也さんも苦しまずに済んだのに。
貴女の尊い命は誰かに奪われていいものなんかじゃない。
なのに、それをあずささんが摘み取ってしまった。
美也さんを殺しておいて、あの人はまだ生き延びている。
あの人さえ来なければ、私も、美也さんも苦しまずに済んだのに。
許せない。
あずささんが憎い。
あずささんが憎い。
殺してしまいたい。
「でも……」
わかってる。
私にそんなことが出来るはずないし、美也さんも復讐なんて望んでいない。
それに、一時の感情に身を任せて人を殺してしまったら、きっと後悔することになる。
私にそんなことが出来るはずないし、美也さんも復讐なんて望んでいない。
それに、一時の感情に身を任せて人を殺してしまったら、きっと後悔することになる。
だけど、このままじゃ私の収まりがつきません。
美也さんを見捨てた罪で押し潰されてしまう前に、私の手で清算したい。
私はどうすればいいのでしょうか。
美也さんを見捨てた罪で押し潰されてしまう前に、私の手で清算したい。
私はどうすればいいのでしょうか。
答えのない思考を繰り返していると、いつの間にか私の手は美也さんの鞄に触れていました。
今後どう動くにしても持ち物は多い方がいいですし、中を見ておくべきかもしれません。
ゆっくりと、美也さんの遺した荷物を解いていく。
今後どう動くにしても持ち物は多い方がいいですし、中を見ておくべきかもしれません。
ゆっくりと、美也さんの遺した荷物を解いていく。
案の定武器が入っていました。
私に扱えるかどうかはわかりませんが、少なくともナイフと鍋蓋よりは格段に使えそうです。
これならあずささん相手でも勝ち目があるでしょうか。
……あずささんを殺すことを前提に話を進めている自分が少し嫌になります。
私に扱えるかどうかはわかりませんが、少なくともナイフと鍋蓋よりは格段に使えそうです。
これならあずささん相手でも勝ち目があるでしょうか。
……あずささんを殺すことを前提に話を進めている自分が少し嫌になります。
「あれ、これって……やよいちゃんの……?」
そして、美也さんに支給されたもう一つの道具。
それはお財布でした。しかも、何故かやよいちゃんが持っていたものです。
蛙の意匠が可愛らしいですね。
それはお財布でした。しかも、何故かやよいちゃんが持っていたものです。
蛙の意匠が可愛らしいですね。
中には当然――と言うのも変な話かもしれませんが――お金が入っていました。
金、銀、銅と様々な硬貨。日本円です。
金、銀、銅と様々な硬貨。日本円です。
普通の人ならこれらを見ても特に感想を抱くことはないでしょう。
何の変哲もない、見慣れた『硬貨』なのですから。
ですが、この時の私は、まるで雷に打たれたかのような衝撃を受けていました。
何の変哲もない、見慣れた『硬貨』なのですから。
ですが、この時の私は、まるで雷に打たれたかのような衝撃を受けていました。
小説の中でしか起こり得ないような、あまりにも出来すぎた偶然。
そんな偶然を目の当たりにすると、人って思わず声が出なくなるんですね。
そんな偶然を目の当たりにすると、人って思わず声が出なくなるんですね。
私は財布から一枚の硬貨を取り出しました。
表に桐、裏に橘が描かれた黄金色に輝くコイン、500円玉です。
表に桐、裏に橘が描かれた黄金色に輝くコイン、500円玉です。
今からやるのは、ある意味では人としての尊厳を捨てた行為。
かつて多くの命を狩り取った伝説の殺人鬼と同じように、人の生き死にを天に委ねる最悪の思考放棄。
かつて多くの命を狩り取った伝説の殺人鬼と同じように、人の生き死にを天に委ねる最悪の思考放棄。
『お前はそれで納得出来るのか?』
ええ、出来ません。
ですから私も、神様に聞くことにします。
ですから私も、神様に聞くことにします。
美也さんの魂は十分に救われたと神様が仰るなら、私もあずささんを許します。
ですが、もしそうでないのなら。
美也さんの無念をその手で晴らせと仰るなら。
ごめんなさい。あずささんを殺します。
ですが、もしそうでないのなら。
美也さんの無念をその手で晴らせと仰るなら。
ごめんなさい。あずささんを殺します。
なんと言われようと構いません。
美也さんが救われるなら。私の罪を償えるなら。それでいい。
美也さんが救われるなら。私の罪を償えるなら。それでいい。
心を落ち着かせる為、一つ深呼吸をする。
親指と人差し指で輪のように形を作り、その上に500円玉を乗せる。
審判の時。
親指と人差し指で輪のように形を作り、その上に500円玉を乗せる。
審判の時。
私は、一枚のコインを投げました。
コインはくるくると、くるくると回り続けます。
表か、裏か。
桐か、橘か。
寛恕か、断罪か。
桐か、橘か。
寛恕か、断罪か。
やがて、コインは重力に引き寄せられ、落下を始めました。
――待っててくださいね、美也さん。もうすぐ貴女を救い出してみせますから。
「はは、は……」
「なんで……どうして……」
「どうして……っ、貴女はそんなに、優しいんですか……っ!」
私の手の上には、綺麗な桐の花が咲いていました。
責めて欲しかった。
許してなんて欲しくなかった。
貴女に怨まれていた方がまだ救われた。
許してなんて欲しくなかった。
貴女に怨まれていた方がまだ救われた。
私達は許されていい人間なんかじゃない。
このまま何の償いも出来ないなんて、私には耐えられません。
なのに、どうして――
このまま何の償いも出来ないなんて、私には耐えられません。
なのに、どうして――
美也さんはただ笑顔のまま、何も言ってはくれませんでした。
◆ ◆ ◆
外に出ると、先程と同じように風が出迎えてくれます。
お出迎えにしては少々冷たすぎですね。
お出迎えにしては少々冷たすぎですね。
美也さんの置き土産で少し重くなった鞄を持ち直し、私は歩く。
武器とお財布は頂きましたが、それ以外の荷物は置いていきました。
お腹を空かせた時に何もなかったら、かわいそうですもの。
武器とお財布は頂きましたが、それ以外の荷物は置いていきました。
お腹を空かせた時に何もなかったら、かわいそうですもの。
「結局、美也さんに助けられてばっかりですね、私……」
貴女は怒ることを知らないから、慰めなんかじゃなく、本当に私達を許してくれたのでしょうね。
貴女が許してくれなかったら、私はきっと取り返しのつかないことになっていたと思います。
貴女が許してくれなかったら、私はきっと取り返しのつかないことになっていたと思います。
主人公にも、殺人鬼にもなれなかった私は、誰よりも優しい魔法使いのお手伝いをすることにしました。
私は貴女のように強くありません。
私に出来ることなんて、たかが知れているのかもしれません。
私は貴女のように強くありません。
私に出来ることなんて、たかが知れているのかもしれません。
それでも私は、貴女に少しでも近づきたい。
貴女が私に魔法をかけてくれたように、私も誰かの力になりたい。
きっと、私と同じように悲しんでいる子がいるはずだから。
それが私に出来る、せめてもの贖罪だと思うから。
貴女が私に魔法をかけてくれたように、私も誰かの力になりたい。
きっと、私と同じように悲しんでいる子がいるはずだから。
それが私に出来る、せめてもの贖罪だと思うから。
『ふぁいと、ですよ~』
――そんなまさか。
風の悪戯、ですよね。
風の悪戯、ですよね。
さあ。
世界をHAPPYにしちゃいましょう。
世界をHAPPYにしちゃいましょう。
【一日目/昼/D-7】
※D-7摩天楼最上階の部屋に宮尾美也の死体及び支給品(不明支給品を除く)がベッドの上に置かれています。
【べろちょろ】
高槻やよいが所持していた蛙のポシェット。
正確には財布ではないが、やよいは財布代わりに使っている。
内訳は500円玉が一枚、100円玉が二枚、50円玉が一枚、10円玉が一枚、5円玉が一枚である。
高槻やよいが所持していた蛙のポシェット。
正確には財布ではないが、やよいは財布代わりに使っている。
内訳は500円玉が一枚、100円玉が二枚、50円玉が一枚、10円玉が一枚、5円玉が一枚である。
| 怖い夢なら、目を覚まして | 時系列順に読む | 弱くてニューゲーム |
|---|---|---|
| Perfect simulation――? | 投下順に読む | 弱くてニューゲーム |
| 絶望偶像 | 七尾百合子 | Believe your change |