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Perfect simulation――?

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Perfect simulation――?


――臆病なライオンが手綱を握られてから、少しの時が流れ。


二人は共に(正確には、可憐が少し前を行き)歩んでいた。

「あの……これから、どこに向かうんですか……?」
「そうね……別に何かしたいわけでもないんだけど」

後ろも振り向けずに恐る恐る尋ねる篠宮可憐と、それを軽く流す律子。
その主従関係は、傍から見てもはっきりと分かる。
武器を奪われ、すぐにでも殺されるような状況で、可憐は反抗できるはずもない。
ただ、少しだけ生きる猶予をもらっただけ。そう理解していても、その短い生にすがりついていた。

「……実際、どうしようかしら。暫くは様子見するつもりだけど、場所よねぇ……」

可憐は、律子のスタンスを未だ知らない。
殺し合いに乗るつもりでいるのか、反抗するつもりでいるのか。その心打ちが分からないのが、より恐怖の種となった。
果たしていつ用済みになるのだろう――脳内では、そんな事ばかり考えている。

それに関しては、律子も未だ決めかねていた。気持ちとしては乗る方に近くはあるが、まだ率先してやるつもりもない。
本人でさえ分からない事を、赤の他人である彼女に分かる筈がなかった。

「どっかで腰を落ち着けたいわ……やっぱり、キャンプ場なんていいんじゃない?」
「だっ、ダメですってば…! あそこには、乗ってる人が…!」
「アンタも乗ってたじゃないの……冗談よ、冗談」

ふとあげた律子の提案を、可憐は慌てて否定する。
そんな反応をする事は、とっくに分かっていた。
既に律子は、可憐からある程度の情報を収集している。
彼女が山の中腹あたりで目を覚まし、殺し合いに乗る決意をしてロコを襲った事。
そしてロコを逃してしまい、その近くで恐ろしい音を聞いた事を。

当人は何かドリルが回る音のようだったと言っているが、真偽の程は定かではない。
ただ、少なくともそれが誰かの支給品によるものだろうという予測は建てられる。
そして、そんな音が鳴ったという事は、それで誰かを襲った人間がいる可能性もあるという事だ。
ここまで全て予想でしかないが、仮に当たっていれば、そんな危険人物と出会うかもしれない。
生き残るスタンスの律子にとって、そんなリスクを負うのは願い下げである。

「ま、だから暫くまっすぐ進むしかないわねー。
 ひとまずは皆の動向を確かめてから。いい?」
「は、はい……」
「よし。分かったらキリキリ歩きなさーい♪」

なので、二人はその山から離れるように、道を西に向かって歩いていた。
律子にとってはある程度通った道であったが、元々そんなに探索していないので些細な問題である。
勿論、可憐には拒否権はない。萎縮して、弱々しく返事を返す。

主導権はこちらにしかなく、また、間違った事も言っていない筈。
律子は、そんな自分の判断だけに自信を持って、歩いていく。



     *    *    *



しかし。


「ひっ……!?」


その選択が悪手だったと知るのに、そう時間はかからなかった。



「紗代子、さん…?」

彼女と邂逅したのは、二人が歩を進め、その先の十字路に差し掛かった時の事。
来た道を除けば、進む選択肢は三つあり、さてどちらに向かうか。
そんな事を悩んでいた最中、小さく引き攣った声が二人のもとに届いていた。

「ちょ、ちょっとあんた、どうしたのよそれ……!?」

その姿を見た律子は、思わず顔がこわばる。可憐は、理解出来ないとばかりに唖然としていた。
血濡れの服装と、赤く染まった凶器。紗代子の姿は、どう見たって異常だ。
というよりも、彼女が一線を越えていると判断するには充分すぎた。

「はっ、春香さん……じゃ、ない……?」

対する紗代子の方も、二人に対してびくびくと怯えている素振りを見せる。
その表情はあまりにも弱々しく、今にも泣き出しそうな程。
そしてうわごとのように呟いたのは、一人の少女の名前。

「春香さん、って……」

その名前の事を、二人はよく知っていた。
同じシアターに所属する仲間の一人。ひいては、この催し事に巻き込まれているであろう子の一人でもある。
突然その名前が出た事に、二人は面食らった。何故ここで、春香の名前が出てくるのか。


「違う……春香さん、じゃない……」

その焦燥しきった姿とうわごとのように呟かれる言葉からは、何も要領を得ない。
何がどうしてそうなったのか、それを伺えるものは何もなく。



「だったら……殺せる……!」


彼女が笑みを浮かべた理由も、また理解できなかった。



「……えっ?」

その言葉に呆気に取られていた時には、既に紗代子は行動を開始していた。
持っていた武器を大きく後ろに振りかぶり、そのまま横に薙ぐ。
とてもシンプルで、殺意に満ちた攻撃。
前にいた可憐の首を狙い、その軌道は一直線に―――


「可憐、危ないっ!」


対応しきれていなかった可憐を、律子が無理やり後ろに引っ張る。
そして、さっきまで彼女がいた場所を刃が通って行った。
後一歩遅かったなら、その軌道上にいた可憐の体は切り裂かれていただろう。
可憐もその実感が湧き始め、顔を青く染めていく。

「ちぃ……ッ」

続く第二撃を加えようとする紗代子に向け、律子は可憐を後ろに下がらせ、自身の武器を向ける。
可憐から奪った拳銃。弾数も十分にある、頼れる武器。
いくら律子が素人と言えど、至近距離で引き金を引けばほぼ確実に当たるだろう。
例え当たらなかったとしても、近距離用の武器と銃では相当の差がある。相手の動きを止め、牽制するのには十分役に立つ筈。

「このぉ!」

だが、近すぎた。
紗代子がその声と共に振るった刃が、切らんと迫り。律子は咄嗟に手を引っ込め、後方へ下がる。
臆する事なく攻める紗代子の攻撃は、ちょっとやそっとの事では止まりそうにない。
万が一にも当たって、致命傷になる可能性がある。
可憐の時とは違い、今の彼女には他の選択肢がある。少しでも分の悪い賭けは、避けたかった。


「可憐、一旦引くわよ!」
「はっ、はい…!」

律子が選んだ選択肢は、『逃げる』。
背を向けて、全速力で。未だ恐怖で足がうまく動かない可憐を引っ張り、距離を取ろうとする。

「逃がすもんかぁっ!」

だが紗代子の方も、それを許さない。
目の前の標的に向かい、全速力で駆けた。

しかし、全速力と言えど互いにその速度は遅い。
片や可憐のもたついた動きが動きを阻害し、片や手に持った大きい武器で体力を消費する。
特に紗代子の方は既に体力を消費していたのか、その姿には隠せない疲労が見え始めている。
彼女の勢いは止まらないが、その事実はごまかせない。


(一か八か、やるしかないわね……)

とはいえ、このまま道なりにまっすぐ逃げていくのはジリ貧である。その事を、律子はよく理解していた。
元々、逃げる二人と追う一人は体力がある方ではない。多少の差はあれど、結局は精神力の問題だ。
その点で言えば、紗代子はかなりの強敵である。それに加え、今の彼女は異常な精神状態。
姿の見えるうちは、諦めてくれそうにない。
ならば――少しばかり、強引にいくしかないだろう。


「可憐っ、気ぃ引き締めなさい!」
「ひぃ……っ!」

意を決し、道はずれの近くの茂みへと飛び込んだ。
手を引っ張られそのまま前のめりに入る形となった可憐の悲鳴も、一切気にしない。

「この……っ!」

それに追いついた紗代子は、自身の持つ得物で茂みを薙ぎ払う。
追うつもりは、満々らしい。そんな事は、予測していた。
そんな彼女を振り切るには、一時でも動きを止めるしかない。



「―――バイバイ、紗代子」



そしてその手段を、律子は持っていた。



「……っ!?」


紗代子が武器を振り終えた隙、庇いようもない状態で、律子は手に持った得物、その引き金を躊躇なく引く。
轟音が、響き渡った。


強い衝撃に片手を抑えながら、律子はすぐに踵を返して走り去る。
可憐を連れて、確認もせず、一目散に。


後ろから、追う足音は聞こえなかった。




    *    *    *



「……はぁ」

たった一人になった高山紗代子は、溜息をこぼす。
その体には、傷一つついていなかった。
銃弾は、外れていた。あられもない方向に飛んでいき、何も傷つける事はなく。

しかし、それに気付いた時にはすでに遅かった。
轟音に驚いて目を逸らし、また目を向けた時にはその姿は見えなくなっていた。


今から同じ茂みに入り、追いかけて行くという手段もある。
しかし、今の彼女にはそれを選択する事はしなかった。
相手は、拳銃を持っている。それを改めて認識し、その脅威を味わった。
下手に追いかけても、姿も見えないうちに撃たれてしまうかもしれない。
そう考えると、深追いする気がおきなかった。


「………っ!」

そうして踵を返し、手に持った冷艶鋸を地面に強く突き刺す。
その姿は苛立ち……というよりも、苦しんでいるようにも見える。
何かしていないと、気が狂いそうだった。
一人で立ち止まっていると、脳内に浮かぶものに押しつぶされそうになる。

生き残るには、皆を殺さないといけない。
それは十分理解していて、もう実際に行動にも起こした。
だから、もう戻れない。この道を突き進むしかない。
汚れ切ってしまった今の自分に、もうあんな輝きを出すことは出来ないから。
なら、全ての潰してしまうしかない――はず、なのに。


「どうして……邪魔をするの……!?」


あの姿が、強く焼き付けられている。
死ぬ間際でさえ、自身を救おうとしたあの『輝き』が。
『他人』であるはずの子から見えた、同じ『輝き』が。


冷静になりつつある頭は、段々と理解しつつあった。
死人が、生き返る筈はない。あの時、確かにこの手で殺したはずだ。
なら何故、あの時に天海春香が現れたのか。一度殴り倒しても、またそこに現れたのか。
それは、赤の他人である筈の他の子達も同じ『輝き』を持っているから。
同じような優しさを、穢れきったはずの自身に変わらず差し伸べたからに他ならない。

あのまま春香の優しさに気づかずに、自分勝手に進めればどれだけよかっただろう。
しかし、彼女は最後の最後でその優しさに触れてしまった。
殺されかけたって決して諦めない、その過剰なまでの優しさが。
振り切れず、ずっと付き合わなければならないのか。
彼女から。この、悪夢から。


「……あは、はははは……」

やがて、彼女は狂ったようにふつふつと笑いだす。
どうして、こうなってしまったのだろう。
私はただ、言われた事をやっただけなのに。
頑張って、その一歩を踏み出したのに。
これ以上――何を、すればいい。


そんな不条理に耐え切れるほど、彼女は強くなかった。





ねえ。



私はあと、どれだけ『貴女』を潰せばいい?

どれだけ消せば、貴女は諦めるの?


どれだけ穢れれば、私は許されるの?





そのこたえは、誰にも分からない。




【一日目/午前/E-3】

【高山紗代子】
[状態]健康、錯乱
[装備]冷艶鋸
[所持品]基本支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本:生き残る為に、殺し合いに乗る
 1:春香が、その意思を継ぐ仲間が怖い


    *    *    *



「ふぅ……逃げ切れたみたいね」
「こ、怖かったぁ……」

全力で走り抜けて、後ろから誰も追いかけてこないことを確認して座り込む。
息は切れ、肩で呼吸をしている。二人とも、余程の事がなければ暫くは走れそうにない。

「あのまま追ってこられたら、どうしようかと思ったわ……」

自分達が来た方向を、まじまじと見やる。
撃った銃弾により傷ついたか、そのまま死んでしまった可能性もあるだろう。
ただ、律子はそうは考えていなかった。

(ま、紗代子には他の子達に対して頑張ってもらおうかしら)

律子が放った銃弾は、ただ威嚇のものでしかない。
当たったならそれはそれで、というぐらいにしか考えておらず、当てるつもりは全くなかった。

生き残る事が目的の律子としては、殺し合いに乗る子は危険ではあるが、同時に望むものでもある。
最悪、最後の一人になればいいのだ。その思考で考えると、他の子同士で数を減らしてくれるのは願ったり叶ったりと言える。
随分と酷い考えだ、と律子自身も思ってはいたが、だからと言って考えも改めるつもりはない。
要は、どれだけ効率よくこの『イベント』が回るか、だ。この行動は間違っていないと、彼女は自信を持っていた。

「にしても、春香がどうしたっていうのかしら。
 まさか、あの子まで殺し合いに乗ってたりして……」

冷静になって気にかかったのは、彼女が天海春香の名前を出した事だ。
出会った時の表情は、怯えていたなんてものじゃない。恐怖で錯乱しきっていたようにも、思える。
そうなると、春香にそれぐらいの事をされた――自然に考えるなら、殺されかけたのではないかと予測する。

「は、春香さんが……そんな事……」
「こんな状況じゃ、ないとも言い切れないでしょ」

そういう結論に至った事に、可憐は信じられないといった想いを抱いていた。
天海春香という少女はとても仲間想いで、とてもこんな事に乗るような子とは思えない。
それは、律子も同意ではある。
しかし、人というのはどんな状況でも変わってしまうものだ。
特に、今は生死が関わっている。なりふり構ってもいられないだろう。
それぐらい豹変したって、何らおかしくはない。

「……ま、関係ないわ。出会わなければいいだけの話だし。
 とりあえず紗代子と、あの子が来た南の街は危険そうね。となると……」

とはいえ、結局は推測の域をでない。
それを確かめる手段は今のところなく、わざわざ危険を冒してまで確かめにいくつもりもない。
今のところ、ヒヤリとした場面は割とあっても、行動自体がが失敗ということはなかった筈だ。
生き残る上で、順調に進んでいる。さてどうするかと、次の思考を固める。


「……あ、あのっ!」

とりあえず進もうとした律子を、可憐はらしくない大声で呼び止めた。


「何よ、文句なら聞かないわよ?」

振り返る律子は、めんどくさそうな表情を一切隠さずに反応した。
彼女の許可なく茂みに突っ込んだのは、強引だったかもしれない。
もしかしたら、その衝撃でどこかしらケガをしたかもしれない。
とはいえ、そもそも主導権はこちらが握っているし、それに文句を言われる筋合いもないわけで。



「あ……ありがとう、ございます」



しかし、飛び出た言葉はそんな意図とは真逆のものだった。



「へっ?」
「え、その……助けて、くれましたし……」
「…………あっ、あー……」

理解が遅れたが、やがて合点がいき、頭を抱える。
ごく自然にやってしまっていたが、そもそも一緒に逃げる義理なんてなかったのだ。
むしろ、自分が助かる為に一番確実なのが可憐を見捨ておとりにして、一人で逃げる事だったのでは。
わざわざ、助けてやる事もなかった、筈なのだが。

「……ま、勿体無い事はしないのよ。アンタはまだまだ使い道があるんだから」

ただ結果論で言えば、これもまたいい方向に進んでいる筈だ。
手駒を失わずに済み、まだ暫くはいいように使える。
可憐がそういう風に感謝してくれるのなら、都合がいい。
変に反抗心を持たれるよりかは、そちらの方が危険も少ないだろうから。
結果オーライ。そういう事に、しておく。


「はっ、はい……」

彼女はまた畏縮して、黙りこくってしまった。
次は、ない。
もしも、また同じような危機に陥ったならば、もう自分の命を最優先にする。
そう、心に決める。元から、決めていた筈だけど。


どうにも締まらない思考に頭を掻き、律子は気を取り直す。
後ろからついてくる可憐の表情は、心なしか穏やかなようにも見えた。





――そのシミュレーションに一抹の綻びが生じ始めたのかどうか。
それはまだ、誰にもわからない。



【一日目/午前/E-3】

秋月律子
[状態]健康
[装備]防弾チョッキ、グロック19(12/15)
[所持品]支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本:不信。情にほだされないように、冷静な対応を。
1:現状は様子見。乗るべきと判断したら乗る。
2:紗代子と春香、ひいては南の街が危険? 少なくともそっちにはいかない。
3:可憐は……次はさっさと見捨てる。今回はちょっと反省。

【篠宮可憐】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]支給品一式、予備マガジン×3、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:殺し合いに乗る……つもりでいる
1:律子さんについていく
2:武器はとられちゃったけど……律子さんは怖い、のかな?
3:逃がしたロコの事も少し気になる

※彼女達が十字路のどの方向へ逃げたのかは後続の人に任せます

 無邪気の楽園   時系列順に読む   それでも、生きてゆく 
 無邪気の楽園   投下順に読む   ナナオリミックス 
 伝説のはじまり   高山紗代子   武器を持った奴が相手なら、『うみみんバックハンドスプリング』を使わざるを得ない
 Lion Heart   秋月律子   夕風のメロディーはとうに絶え 
 篠宮可憐 


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