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本当は臆病な私へ

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本当は臆病な私へ




きらびやかな、金色の髪が揺れる。


あたりには、聞き馴染みのある声が響き渡っている。


放送――それをただ淡々と聞きながら、彼女は目の前にあるものを、見つめる。


それは、もう少しも動くことはない、死体。



そして、その現実を機械音混じりの男の声は淡々と伝える。



矢吹可奈


彼女は、安らかな表情で眠っていた。



    *    *    *



エミリーは遊園地で3人の相手を始末した後、そのまますぐに街の方角へと向かっていた。
次の獲物を、狙う為に。最後の一人と、なるために。
そうして何者にも邪魔されることなく彼女は順調に歩を進め、南の街に入る。
そのまま特にあてもなく、彼女はその街中をうろついていた。

そんな彼女が歩いている中でふと目についたのが、派手な装飾の目立つ建物、ゲームセンター。
エミリーにとっては、あまりなじみのない場所。特に理由はなかったが、なんとなく気にかかった。
そうして少しちらりと中を覗き込むと――そこに、人がいたのだ。

次の相手か、と少しばかり意気込むも、それはすぐに肩透かしを食らう事になる。
そこにいた少女、矢吹可奈は既に死んでいた。
安らかな表情で、その眉間には痛々しい銃痕を残して。
その姿を眺めているうちに、情報を淡々と伝える放送が始まり……今に至る。


それを聞いても、彼女は表情を崩さなかった。
この6時間の間に、12人ものアイドルが脱落した。
そのうちの3人は自らの手によるものだが、他は違う。
想像以上に、乗っている人は多いのかもしれない。気をつけなければとは思うが、それだけだ。
やる事自体は、なんら変わることはない。

「………」

情報は、得た。けれど、それが終わった後もエミリーは動く事はなかった。
目の前の彼女はもう、死んでいる。だから気に掛ける意味はないというのに。
それでもそこから目が離せなかったのは、その姿が引っかかっていたからだろう。


――正確に言うならば、姿というよりも。

彼女の、その手に握られているもの―――――マイク、に。

それは、おそらく彼女に渡された個別の支給品。
ただ、それ以上にそれは見覚えのあるものだった。
おぼろげながら、エミリーにはその記憶がある。
彼女が、自らなけなしのお小遣いをはたいてマイクを買って、喜んでいた姿を。

それを、こんな場所でわざわざ支給品として渡されたのか。
周囲を見渡し、彼女の近くにあったバッグの中身を見てみても、他に武器らしいものはない。
抵抗の跡がなく、荒らされた跡もない状況も考慮するに、これが彼女に唯一渡された支給品なのだろう。
そう考えると……外れ、としか言いようがない。
あの3人と同じように、大した得物も渡されなかった運のない参加者。


(……あなたは)

――そう、一言では片づけられやしなかった。


その気になれば、マイクでも人は殺せる筈だ。
相応の固さはある。力を込めて振りかぶれば、多少頼りなくても武器ぐらいにはなる。
だとすれば、仮に誰かに銃を向けられたとして。
このように死を受け入れるよう諦観交じりの表情をするより先に、抵抗を試みてもよいのではないか。

けれど、彼女はそうしなかった。
不意を突かれて、抵抗する間もなかったのかもしれない。
ただ、もしも向き合ってなお抵抗しなかったのだとしたら。


「自らの信念を…貫き通した、のでしょうか」

エミリーには、分かる気がした。

彼女はそのマイクを――自らの信念の象徴ともいえる道具を、人殺しの道具になんてしたくなかったんだ。


全部、エミリーの勝手な想像でしかない。
けれど、一度考えた可能性を追いかけると、どうしてもそう、思ってしまう。
彼女はそれだけ、自分の夢には真摯であり続けていたから。

殺し合いに乗る者と対峙した時、夢を穢してでも生き残るか、それを躊躇するか。
自分の命を天秤に掛けた、あまりにも重たすぎる選択。
それでも彼女は、最後までそのマイクを血に汚す事はせず。
最期は、満たされた顔で迎えていた。


――それが、親友との約束の果てにある笑顔だという事を、エミリーに知る由はない。
けれど、彼女にそんな気持ちがなかったと断言できるものもまた、ここには存在しなかった。

「あなたは……強い、です」

もう動かない彼女の前で、エミリーは敬意を表す。
今の彼女の姿から、自らが目指していた憧れの姿が見えた気がした。
――とても、今の自分からは程遠い、眩いほどの。

「……仕掛け人さま」

脳裏に、自らを導いてくれる大切な人の姿を思い浮かべる。
今までずっと、自身の事を大事にしてくれてた人。
押し潰されそうになっても、あの人はずっと支えてくれた。
今回も不安でたまらなかったけど、あの人の言葉を胸に秘めて前に進んでこられた。
…けれど。

「進むこの先には、何があるのでしょうか?
 私達の目指す道は、本当に正しいのですか……?」

仲間の清らかな姿を前に、その姿がぶれはじめる。
今まで一切揺らがなかった心が、ここにきて初めて、疑問を抱いた。
ただ、言われた事だけをやって、進んでいく道の先に。
信念を持った仲間達を踏みにじって、生きていく道の先に。
大和撫子となったエミリー・スチュアートは、果たしているのか。


「……いいえ、疑ってはいけませんよね」

少し間を置いた後、彼女は首をふるふると振った。
それでも、彼女のプロデューサーに対する信頼は強かった。
彼の望む道の先を共に見る為に……そして、自分の均衡を保つためにも。

13歳の少女に、今までの事が過ちだった、大きな罪を背負ってしまったと認める強さは、ない。


「仕掛け人さま。あなたが望むのなら……私は、修羅にもなる覚悟はあります。
 ですから……どうか、この試練が終わった暁には……」

その人へ聞こえているのかもわかっていないまま、彼女は呟く。
望む事が、何もないと言えば嘘になる。
思い返すのは、いつかの記憶。優しい、笑顔。
けれど、それをおおっぴらに出すようなはしたない事はしない。今はただ、淡々と精進するのみ。
そう決意し、踵を返す。

「……可奈さん。私は、先へ行きます。
 あなたは、本当に強い人でした……さようなら」


去り際にも、可奈への敬意を忘れることはない。
彼女の近くにあったものを回収する、そんな気にはなれなかった。
大して役に立ちそうなものはなく、かさばるだけだ。そんな考えがあったのも否定はしない。
けれど、それ以上に彼女が命をなげうってまで守ったものを取るような、無粋な事をしたくなかった。


ゲームセンター独特の騒音が包む空間で、自動ドアの開く音が響く。
それがまた閉じた時、エミリーの姿は太陽が照らす街の中へ消えていった。


【一日目/日中/G-2】

【エミリー・スチュアート】
[状態]健康
[装備] 日本刀
[所持品]支給品一式×4、トランシーバー、水鉄砲、ティーセット、ランダム支給品(1~3)
[思考・行動]
基本:果し合いで仲間を倒し、至高の大和撫子になる。
1:次の相手を探しましょう。
2:Pに対する若干の不信感と、それでも揺らがない信頼。
3:降参した相手は斬らないよう申し付けられましたが……。


※ランダム支給品(1~2個)にはジュリア曰く、「役に立ちそうな武器はない」ようです
※可奈の支給品一式とランダム支給品枠であるマイクは、G-2(ゲームセンター店内)に放置されています。

【マイク】
矢吹可奈に支給。可奈自身がプライベートでお年玉と貯金を全て出して購入した私物。彼女曰く、マイマイク。

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