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選んだこのみちを歩いてくから

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選んだこのみちを歩いてくから

遠くに海を望みながら、無心で歩いていく。
道連れは、一人と一匹。

まだ大丈夫。
きっと上手くやれる。
そう言い聞かせはするけれど、心の底の弱気な声はちっとも止まってくれなかった。


   ◆   ◆   ◆


長い長い道のりを歩き続け、歩は巨大な建造物と対面した。
見上げても頂が見えぬほどに高い、大型ホテル。
ようやく辿り着いたという達成感よりも、これでもう歩かなくて済むという安堵の方が勝っている。
最後の力を振り絞り、歩は入口へと足を運んだ。

「うおぉ……豪華なホテルだなぁ……さて、どうやって部屋に入ろうかな」

中に入り、周囲を見渡す。
カウンターはあれど、受付を担当する者は一人もいない。

「うーん、どっかで鍵を探すしかないか……ん?」

どうすれば入室出来るのか悩んでいた矢先、受付に一枚のカードが置かれているのが見えた。

「これ……もしかしてカードキー? ひゃっほう! アタシってばツイてるぅ!」

思いの外早く目当ての物が見つかり、歩は歓喜する。
一刻も早く部屋に入り、体を休めたいものだ。

「……でもなんでこんなとこに置いてあるんだろ」

ふと思い留まる。
部屋の鍵が一枚だけ、それもご丁寧に受付の目立つ場所に置いてある。
改めて考えれば、これは非常に不自然だ。
もしや何者かの罠なのではないか。
歩は思案する。

「……まいっか。いくらなんでも流石に鍵置きっぱなしにしとく人なんていないでしょ」

だが、怪しさよりも疲れの方が勝ったらしい。
罠である可能性を即座に切り捨て、歩一行はカードに記された部屋へと向かった。



……実はこの鍵、かつて千鶴が使っており、退室の際に受付に置いていったものである。
だが、歩には知る由もないのであった。


   ◆   ◆   ◆


コーヒーを淹れて一息ついたところで、だいぶ脳も回復してきたらしい。
現状を整理するくらいなら出来そうだ。

まず真っ先に対処すべきは杏奈。
真偽がどうであれ、彼女を放置するのは間違いなく得策ではない。
一刻も早く見つけ出し、問い質さねばならない。

しかし、これは非常に危険な道だ。
もし歩の想像が正しければ、これから会いに行く相手はかつての仲間を四人も殺した人間ということになる。
そんな相手に話し合いが通じるのかは甚だ疑問だ。
最悪の場合、今度こそ戦うことになる可能性もある。

他の仲間の状況を把握出来ていないが、歩は比較的武装が整っている方なのだろうと考えている。
そうした事情を踏まえても、少しでも戦える可能性がある者が対処するべきだ。

だがその場合、このみはここに置いていかざるを得ないか。
心身ともに疲弊した彼女を連れていったまま勝てる相手とは到底思えない。
幸いなことに、部屋にはオートロックを用いた頑丈な扉が備え付けてある。
よほどのことがない限り、彼女の安全は保障されるだろう。

そうと決まれば、もたもたしている暇はない。
気休め程度だが、ハム蔵にはこのみの傍にいてやるよう指示し、後を任せる。
改めて荷物と装備を確認し、出発の準備を済ませた。

「えっと……じゃあそろそろ行くね。何かあったらまた戻ってくるから」

マグカップを片手にこちらを見上げるこのみの瞳は、依然として虚ろなまま。

「あー……下の階に売店や温泉があるみたいだから、よかったら使ってね」

何も言わず、じっとこちらを見つめてくる。
なんだか居た堪れない。

「じゃ、じゃあ行ってくるよ! 必ず戻ってくるから! それじゃ!」





『――だから、他の皆を探して必ず戻ってくるから……それ持ってて』





「…………え?」

別れを告げ、急いでその場を後にしようとしたが、思うように動けない。
不思議に思い、振り返ってみる。


「…………ないで……」


原因はこのみだった。
俯いたまま、服を掴んで離さない。


「……行かないで……」


今にも泣きだしてしまいそうなほどに震える声で、言葉を絞り出す。

「だ、大丈夫だよ。危なくなったらすぐ戻ってくるから……」
「嫌……置いてかないで……」

指に弱々しく力を込めたまま、静かに首を振る。
手を離したら、もう二度と会えなくなってしまう。
そう言わんばかりに。


「お願い……一人に、しないで……」


   ◆   ◆   ◆


「弱ったなぁ……どうしてこうなった……」

結局、歩が外に出ることはなかった。
手を掴まれたまま、ベッド付近の椅子に腰かけている。
そしてこのみはというと、歩の手を握りながら眠りについていた。
何度言っても、ずっと離してくれなかったのだから仕方がない。
こんな状態の彼女を一人置いていくわけにはいかなかった。

「ほんと、こうしてみるとまるで子供だなぁ、このみさん」

静かに寝息を立てる彼女の頭を、出来心で撫でてみる。
とても自分より年上の先輩とは思えない姿だ。

「……早く起きてくれないかなぁ」

嫌というわけではないが、ずっと手を握られているのもそれはそれで居心地が悪い。
かといって、起こすのも気が引けるので、彼女が自然と目覚めてくれるのを待つしかないのだ。

「一人にしないで、か……」

先程の言葉を反芻する。
察するに、殺された誰かと一度別れたが最後、帰らぬ人となってしまったのだろうか。
詳しい事情は分からないが、よほど酷い目に遭ったのだろう。

自分が支えてやらねば。
歩は改めて決意する。

まだ何も解決してはいないし、問題は山積みだ。
けれど、少し、ほんの少しだけれど、このみが初めて気持ちを伝えてくれたことが、嬉しかった。


【一日目/夕方/F-1】

舞浜歩
[状態]健康
[装備]突っ張り棒、砕石、雑誌(腹部、背部に一冊ずつ) 、トランシーバー
[所持品]基本支給品一式、ショッピングセンターで調達してきた商品(わさび含む)
[思考・行動]
基本:死にたくない。でも、殺し合いにも乗れない。どうするかなぁ
1:このみさんを連れて誰かを探す
2:杏奈を……どうすれば、いいんだろう

※杏奈に対し、奈緒、茜、千鶴、ジュリアを殺したものと誤解しています

馬場このみ
[状態]健康、睡眠
[装備]なし
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
1:???
2:もう、一人は嫌……

【ハム蔵】
[状態]健康
[装備]なし
[思考・行動]
基本:???


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 舞浜歩     


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