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されど願いを胸に

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されど願いを胸に

法、それ即ち秩序を示す。
秩序、それ即ち法を示す。
しかし、そのどちらも機能せず。
されど、諸人の願いは機能し続ける。

♦ ♦ ♦  ♦ ♦ ♦

時刻としてはもう夕方近くに差し掛かった頃、百合子と美希は貴音の遭遇場所からそう離れていないカジノ。
所謂大人の遊び場所に佇んでいた。

最も、佇んでいるのは百合子のみ。
共にここまで来た美希は百合子の数歩先、カウンター前に数多の酒瓶とともに横たわるかつての仲間、莉緒に手を合わせ黙祷を捧げている。
煌びやかなネオンライトに照らされながらも、美希と莉緒の周囲だけは淡い光に照らされ静寂と閑散に包まれている。

そんな風に見える。

事に始まりは今より前。
心身ともにダメージを受けた静香の介抱を終えた3人は、これからの行動について意見し合った。
貴音のように殺し合いに乗り、殺しを良しとしてしまっている人間がいる以上、あまり悠長に構えてはいられないのだが、静香がこの状態では動くわけにはいかず、だからと言って見捨てるなどもっての外。
結果、今日はもうここに滞在してしまおうかと言うのが、現時点で3人が出した結論だった。

その際、動けない事へのせめてもの抵抗として周囲の探索位しておこうと、静香雪歩の待機組と美希百合子の探索組に分け行動を開始した。

回想は終わり、話しは冒頭へと戻る。
黙祷を終えた美希は百合子とともにカジノ内を物色する。
大量の酒瓶が陳列するバーカウンター、誰もやる者がいないパチンコ台、ビリヤード、カジノに相応しいドレスが並ぶ衣装室、モニターと大量の鍵が吊るされる警備室。

「…うん、じゃ次行こっか」

「…………そうですね」

その全てを物色した美希は、次の探索場所へと向かうべく百合子の横を通り過ぎていく。
それに短く返答した百合子は最後にもう一度莉緒を一瞥し、美希の後を追う。

「……莉緒さん、抵抗とかしなかったのかな……」

「んー、分かんないの」

百合子の独り言に、美希は短く思考し首を傾げる。
莉緒の遺体には争ったような形跡は残っていなかった。
それはつまりなんの抵抗もせずに殺されたという事になる。

「多分だけど……莉緒はきっと諦めちゃったんだと思うな」

「……諦めた」

「生きる事を」

ポツリっと、美希は答える。
美希も百合子は警察や探偵ではないから事実は分からない。
分からないが、黙祷を捧げた莉緒の顔には確かな諦観が表れていた。

「犯人の目星とかつく?」

「……確証は、ないですけど…」

バツが悪く目を伏せる百合子、しかしそれも一瞬ですぐに顔を上げる。

「多分、あずささんです」

「どうしてそう思うの?」

「理由は3つあります。
1つ、鋭利物を持っているので私が知っているのはあずささんだけな事。
2つ、そのあずささんがこの付近にいた事。
3つ、あずささんの武器には美也さんを刺す以前から血が付着していた事。
以上3点です」

百合子大好き推理小説よろしく指を3つたてて理論付けて解説していく。
警察や探偵ではないが、真似事位だったらしてもいいだろう。

「ふーん、ぶっちゃけ3つ目を言えば大体OKだと思うな」

あはっ、と茶化すような笑顔でカジノの扉を開き外へ。

「これからどうしよっか」

「これからですか?そうですね。摩天楼が一番近いですけど、そこは私がいたから調べる事ないでしょうし…映画館行きますか?」

「あっ、そういう意味じゃないの」

端末を取り出し地図を確認した百合子を制止し、美希は一度立ち止まり後ろを振り向き百合子を真っ直ぐと見つめる。

「探索場所じゃなくて、戻ってからどうするかって事」

「…あぁ、そっちですか」

苦笑いをしながら納得する百合子。
当面は取り敢えずあの民家に待機と決定付けたが、それは全く解決になっていない。
一時保留にしただけだ。
貴音やあずさは放置されっぱなしになっており、こうして探索などしている間にも殺し合いは行われているだろう。
多くの人間を救いたいと願っている百合子は歯痒い気持ちがある。

「でも静香ちゃんは動けないですし……」

「…それなんだけど、誰かが言わなきゃって思ってたの」

美希は言葉を区切る。
護身用に持ってきたデストル刀が禍々しく太陽の光を反射する。
百合子にはもう美希が言わんとしている事が分かった。
しかしそれは、思っていても口に出してほしくはない――

「静香、もう置いてってもいいんじゃないかな?」

「いいわけありません!!」

美希の言葉に、百合子は反撥し声を荒げる。
それだけはやりたくないと、それだけは何があってもしたくないと。
だってそれは、自分が救いたいと思っている人間をこんな殺し合いの危険地帯に置き去りにするという事だ。
ここには、大丈夫と胸を張って言えるような安全地帯はない。

しかし、

「だって!……それは!」

次の言葉が出てこない。
さっきのようにこの意見を否定する理論が全く口から出てこない。

「分かるよ。見捨てたくないって……美希もそうだもん」

百合子の激昂に当てがられる事もなく、美希は静かに同意した。

「でも現実問題静香は今美希達の足手纏いにしかなってないって思うな」

さっき百合子は言った。静香が動けないからと。
それは逆に言えば静香さえ切り離してしまえば自分達は制限された行動がとれるという事に他ならない。

「最悪あの民家に美希達がゲームを終わらせるまで隠れててもらうって手もあると思うの」

「それは…………駄目です」

そうでしょ、っと視線で同意を求める美希に、百合子は否定を返す。

「どうして?どうして駄目なの?」

「どうしてって……」

「美希ね。聞かせてほしいの。百合子の答え。理論とか効率とか辻褄とか抜きにした。百合子の理想が聞きたいの」

美希は真剣な眼差しで百合子を見据える。
その顔に萎縮してしまいそうになる気持ちを抑え考える。
静香を置いていけない訳を。

「静香ちゃん、今凄く傷ついてる。このままこんな状況下に1人にしたりしたら、きっと耐えられなくて…………」

壊れてしまう。

百合子は知っている。
1人ぼっちでいる恐怖を、そして、そんな自分に手を差し伸べてくれる人の有難さを。
身を持って知っている。

「美也さんは傍にいてくれた時、凄く安心出来たんです。美也さんが傍にいてくれていなかったら、きっと私……不安とか恐怖とかで」

自殺しようとしたかもしれない。
人を殺そうとしたかもしれない。

「実際、美也さんが殺された時、復讐を考えました。でもそれを止めてくれたのは美也さん……の気がするんです」

そうじゃないかもしれない。
ただの偶然かもしてない。
でもそう思わせてくれる何かが、美也と共にいる事で培われていた。

「だから……私も…………」

最早考える前に言葉が出てきていた。
この先自分が何を言ってしまうのか、自分にも分からない。
分からないけど、きっとこれから語る事は私の心からの願いだ。
美希が話してほしいと言った、私の理想。

「だから私も、少しでも苦しんでる人の為になれたらって」
「だって、皆っ、皆とっても優しい人達……だから……」
「貴音さんも、あずささんも……皆…みんな本当にやざじい人だちなんだっで……私も、信じたいから」
「厚かましいかもしれないけど、煩わしいかもしれないけど、私自身がそうしたいと思える人達なんだって……」
「皆の本質は『善』だっで信じたい!」
「だがら救いだい!!」

気が付けば泣いていた。
溢れる涙を拭いながら、百合子は本音を曝け出す。
心からの理想を、曝け出す。

語り終えた百合子は我ながら情けないと思った。
自分は一体何時からこんなに語彙力がなくなったんだろう。
培われた小説の知識はこんなものか。
こんな稚拙な物言いでは伝わるものも伝わらないだろう。
だが少なくとも

「…それが百合子の理想なんだ」

そんな稚拙と形容づけた自分の言葉を、美希はニコッと笑い聞き取った。
止まっていた足を動かし、カジノに沿うように移動を開始する。

「だったら静香と一緒にいなくちゃね?」

「……はい」

「でも、貴音やあずさも止めたいんだ」

「………はい」

「欲張りなの」

百合子自身もそう思う、しかし美希は咎めるような口調ではなく、あくまで穏やかな口調のまま移動する足を止め、こっちに来てと手招きしカジノの脇に姿を消す。
百合子はそれに従いカジノの壁を沿い美希の元に。

「そんな欲張り百合子に朗報なの!」

大声と共にポケットから何かを取り出し空に掲げる。

「美希も美希なりに考えてたの。静香から離れないで、出来るだけ早く貴音達を止めに行く方法!!」

それは鍵だ。見慣れた統一されがちなデザインの鍵。
一発でなんの鍵だか分かっても、百合子とは無縁な鍵。
恐らくカジノを物色している最中にでも見つけたのだろう。
それはカジノの脇、ここ『駐車場』にはえらく釣り合っている。

「百合子の願いを叶える最終手段!!」

ババーンっと、効果音でも聞こえそうな程ビンっと『それ』を指差し笑う美希。

「百合子なら『車の運転法』とかも読んだ事あるよね」

『それ』。
即ち『自動車』を。

♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦

「………2人ともおそいなぁ」

窓際で護身用として持っているイングラムM10を手持無沙汰に握りしめた雪歩がポツリと呟く。
美希と百合子がここを離れてから約1時間。
何度も外を確認したが一向にその姿を確認出来ない。

「………………」

まさか戦闘に巻き込まれたのではないだろうか。
……………いや、それはない。っと、思いたい。

美希も百合子もそれぞれ自身が所持していた武器を持って行ったのだから。
武器は持ってるだけで相手への牽制になる。
遠目から見ても近距離戦も遠距離戦も可能な2人の武器を見れば、無闇に戦闘に走る輩はそういないだろう。
何にしても待っている事しか出来ない歯痒さを胸にしまい椅子に座る静香の元へ。

「………あっ、流石にちょっとぬるくなってきたね。氷水。待ってて今新しいの汲んでくるから」

静香が現在使っているものとは別の容器に水と氷を流し込む。

「…………あの」

っと俯いていた静香は顔を上げ、作業に勤しんでいた雪歩に声をかける。
2人きりになってから1度も会話をしていなかった為か、雪歩はフェイント気味にきたその声にビクッと驚き戸惑いながら後ろを振り向く。

「……ごめんなさい」

「ふぇ!?ぁ、大丈夫だよこれ位別に!」

突然の謝罪に困惑しながらもなんとかその言葉を解釈し、氷水をぎこちない笑みで指差す。

「………そうじゃなくて、その」

案の定、混乱し誤解釈をした雪歩の言葉と動作を否定して、静香は再び顔を下げる。

「ここから動けないのは……私の所為です」

「……え、えっと?」

「私の治療があるから、私が傷付いたりしたから皆が気を利かせて………」

「…………」

「もとはと言えば、全部私が悪いんです。勝手に飛び出して、雪歩さんに………酷い事を言ってしまいました…………だから、ごめんなさい」

弱々しく謝罪を述べる静香に、雪歩はそっと近付き、

「私の事はもう放って行っていい………!」

静かに抱きしめた。

「静香ちゃんは勘違いしてるよ」

「えっ?」

「いっ、一回しか言わないよ」
「ここに留まってるのは静香ちゃんの所為じゃない。私がここで静香ちゃんを護りたいと思ってるから留まっているの」
「これは私の我儘でもあるの。沢山の人に生きていて欲しい。出来る事なら目の前で苦しんでいる人全てを幸せにしてあげたいって言う私の我儘」
「静香ちゃんが気に病むような事は1つもないんだよ」
「だから、自分を置いて行っていいとか………」
「そんな悲しい事言わないで?」

「…でも………それは」

それは、貴方達が優しいから、私に気を遣わせたくないから出てきた言葉じゃないんですか。
そう言おうと思い、しかし思い留まった。
こちらに向ける雪歩の笑顔は、既に静香の言葉を否定していた。

「それに………出来れば、私は『ごめんなさい』より『ありがとう』が聞きたいなぁ………!?なぁんて図々し過ぎだね!ごめんねっ!」

無意識に呟いた言葉を失言してしまったと高速否定し包容から解放する。
あははと気まずそうに頬を掻き目を逸らす雪歩だったが、室内に漏れ出した嗚咽を聞き再度静香に視線を戻す。

「………ありがとう、ございます」

溢れる涙を片手で拭う静香。
それに微笑んで、雪歩は再度静香をギュッと抱きしめる。

♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦

「お待たせなのぁー!」

静香が泣き止みものの数分、待ちわびていた美希が民家の扉を開けてその姿を現した。

「美希ちゃん!良かったぁ、無事だったんだね」

「当然なの。ってあれ?静香泣いたの?」

「っ、泣いてません!!」

雪歩から視線を移し静香の泣き腫らした後を見て疑問を投げかけるが、真っ赤な顔をした静香は気恥ずかしさからか質問を許してくれない。
美希の方もまぁいいかとさして気にもなってなかったらしく会話を打ち切る。

「それにしてもどうしたの?随分遅かったけど……それに百合子ちゃんは?」

会話が切られたタイミングで雪歩は今度はこちらと質問を投げかける。

「百合子は外だよ。遅れたのは鍵と合うの探すのに時間かかったの、あんなにいっぱい停めてあるんだもん」

「??」

「それよりほら、行くの。貴音達を止めに」

「はっ…?え!?でっ、でも」

困惑した雪歩はチラっと心配そうに静香に視線を向ける。

「ふふーん、雪歩が言いたい事は分かるの。でももう安心!外来て」

まだ困惑気味の雪歩の手を引きドアを開け外に。

「何が………えぇ!?」

民家の前には先程まで明らかに存在していなかった自動車が停められていた。
目をパチクリさせ車を凝視していた雪歩はさっきの美希の言葉を思う出しハッと美希の方を見る。
美希はしてやったりと得意げに胸を張って踏ん反り返っている。
その顔をもって雪歩の解釈も確信へと変わった。

「えぇぇぇぇぇぇ!!??」

「いつまで驚いてるの」

「だって自動車だよ!これで移動するって事でしょ!?私達まだ未成年だよ!?駄目だよ無免許運転なんて!」

「えー、殺人はいけないけど無免許なら許されるって思うな。ちょっと悪い事する位がカッコイイの」

「いや駄目だよ!最低限の法律と秩序は守ろう!」

「こんな状況じゃ法律も秩序もねぇの」

そう言われてしまい言葉に詰まる。
確かに法律秩序が許さぬ事でも、こんな殺し合いの状況下でいつまでもお利口さんを貫いている必要性があるのかと言われれば正直皆無だ。
実際車で移動出来るというのは相当なアドバンテージ。
移動速度は格段に上がるし車の中に入れば無闇に襲われる事もない。
そもそも雪歩も含めて765プロのメンバーは程度の違いはあれ皆良い子だ。
基本こんな状況下でも無免許運転など考えはしないだろうから車なんて精々風景の一部位にしか捉えていない。
風景に交わる迷彩機能としても自動車は一役買ってくれるだろう。

「だけど………うーん」

上記に記載した考えを得ても、しかしやはり雪歩は無免許運転に乗り気ではない。
それは程度の違いの中でも更に良い子の部類にいるのが雪歩だからだろう。
今度は車の利点よりも欠点を探し始める。

「あ、でもエンジン音が聞こえるのはまずいんじゃ」

思考する事ものの数秒。
明確は欠点を探し出す事に成功した。

それはエンジン音。
さっき上げた移動も、防御も、迷彩も、このエンジン音が台無しにしてしまう。
特に移動と迷彩。
移動中に音を聞きつけた人間に発見され後を付けられ襲撃にあえば一溜りもない。
武器によっては一網打尽にされる。
まぁ迷彩に関して言えばエンジンを止めればいいんだろうけど、結局移動中のエンジン音を聞かれれば車に警戒するだろう。
その欠点を聞き、しかし横にいる美希は不敵に笑う。その欠点を予測していたが如く。

「ねぇ雪歩。それならなんで雪歩は美希が扉を開くまで車がここに来た事に気づかなかったのかな?」

「え?それは………あれ?なんでだろう」

「それに、この車今もエンジンつけっぱなの」

その言葉を聞き驚く雪歩、しかし幾ら自動車関連に疎い雪歩でも答えに辿り付くのにそれ程時間はかからなかった。

「………電気自動車」

「ご明察なのー!」

大喜びの美希とは対照的に雪歩の表情は引きつっていた。
なんという事だ。非の打ち所のない完璧な自動車を持ってきたのか。
こうなってしまうともう否定するのは難しい。

「……運転は誰がするの?」

「それは百合子なの!」

美希じゃないんだ、っとツッコミを入れても良かったがよく考えれば美希では危なっかしい。
百合子の方が安心出来そうかなと回り込んでウインドが開かれた運転席を覗き込む。

「ブレーキペダル……………踏んだまま………パーキングブレーキ…………チェンジレバー…入れ………エンジン……停止」

目に映った運転席には操作方法と思わしき言葉を呪いを呟くようにぶつぶつと羅列し全身から冷や汗をかきながら震える手でハンドルを握り一点を切羽詰まった顔で凝視する百合子の姿。
大凡人間としての緊迫が一斉に溢れている。

………何故だろう。
一気に乗りたくなくなってきた。
最悪全員事故死しかねない。

「何やってるの?雪歩も早く乗るの!」

などと思っていればいつの間にやら静香を後部座席に乗せた美希が助手席に座っていた。
行動力が半端ない。
もう幾ら言い聞かせても自動車を使うのは免れないだろう。
ならば、どうか何も起こりませんようにと心の中で祈り、後部座席の扉を開き中に入って静香の横に座る。
横にいる静香の膝には雪歩が新しく汲んできた氷水の入った容器が乗せられており、一応上から静香の手ごとラップで包み更にその上からタオルで包むという二段構成。
だがそれ以上に目を引いたのは、やはり氷水にも負けない青ざめた静香の顔だった。
恐らく考えに賛否する前に強引に乗せられたのだろう。反対してもどうせ乗せられたろうが。

「よーし、しゅっぱー。あっ、シートベルトしてなかったの」

もはやこの車内で不安を持っていないのは美希のみだ。
と言うかなんでこんなにあっけらかんと出来るんだろう。
少しはそのメンタルを分けてほしい。

「さぁ百合子、今度こそ出発進行なの!あっ、でも氷水が毀れない程度の速さでね。後速度も遅めで、電気自動車って一定の速さ超えるとエンジンかかるみたいだから」

「ギアが………入ったの確認して……ブレーキ踏んで……エンジンかける……ペダル…………ギア……パーキングブレーキ解除………アクセル踏む」

結構無茶な要望を聞き入れ?聞き流し百合子は手順を羅列し車を発進させる。
ゆっくりとペダルを踏み、少しずつ踏む力を強くし速度を速めていく。
それは決して速いとは言い難いがそれでも歩くより数段に速い。

「はぁ、良かった」

「わぁ……凄い。本当にちゃんと走ってる」

発進出来た事に一安心と息をついた静香は肩の力を抜いて座席に凭れ掛かる。
雪歩も始めの不安はどこ吹く風と過ぎて行く風景を眺めながら歓喜の声を漏らす。
まだ直進しているだけだから安心するのは早いのかもしれないが、それでも雪歩は少しドキドキして胸を押さえる。
そのドキドキは不安や恐怖からくる負の感情とは違い新しい事にチャレンジする時の高揚感に近かった。普段乗せてもらっている時は感じなかったものだ。
そんな無邪気に目を輝かせた雪歩を見て静香はクスッと笑う。
なんだかんだとまだ雪歩もやんちゃしたい年頃なのかと。

「凄いね百合子ちゃん!!」

「徐々に………アクセル……………踏む」

「まだ駄目みたいですね」

「あはは…」

興奮冷めぬと百合子を褒め称えた雪歩の声に、しかし百合子は切羽詰まりっぱなしで答える余裕がない。
まぁただ乗ってるだけの雪歩達とは受けるプレッシャーが違うだろう。
下手したら自分のミスで皆死にかねないのだから。

「むぅ、ゆーりーこ」
「ふひゃあ!!?」

突如脇腹を突かれた百合子はハンドルから手を離しかけたが、ギリギリ持ちこたえ急ブレーキをかける。

「何するんですか!?事故りますよ!死にますよ!これ脅しとかじゃありませんからね!!」

「だって百合子固くなり過ぎなの」

「…そりゃ感じますよ。美希さんは怖くないんですか?普通はお二人みたいに不安がるものでしょ」

溜め息混じりの台詞に後部座席の二人は気まずそうに苦笑いを返す。

「?全然怖くないよ」

「いや…なんでですか」

「百合子が皆を信じてるみたいに、美希も百合子を信じてるの」

ね、っと屈託のない笑顔を向ける美希。
………ずるい。この笑顔は反則だ。

「だから、百合子もそんなにプレッシャー感じる事ないの。もっと気楽に運転すればいいと思うな」

「……もう、それはそれで難しいですよ」

言葉こそ愚痴るように聞こえるが、その顔は笑って前を見据えて再びアクセルを踏む。

「?信じるってなんの話し?」

「んー?…静香が泣いた理由話したらいうの」

「なんでそうなるんですか!?」

「えっ、静香ちゃん泣いたの!?なんで?」

「いっ、言いません」

「えっとねぇ」
「雪歩さん!?」

「あはは、さてとそれじゃあ取り敢えず百合子!適当に前進なのー!」

「分かりました。それじゃあ速度上げて行きますよ!」

こうして4人の少女は新たな望みと足を手に入れ、前に進んで行く。
果たして、その先にあるのは希望か絶望か……………。

「あっ、美希も運転したいから途中で代わって?」

「「「それは駄目!!!」」」

【一日目/午後/C-8】

最上静香
[状態]車に乗っている、右肩負傷、右指欠損
[装備] なし
[所持品]なし
[思考・行動]
基本:プロデューサーを殺す
1:3人についていく。
2:貴音さんは危険。

七尾百合子
[状態]車に乗っている、精神的疲労(軽微)、側頭部負傷
[装備]クロスボウ
[所持品]支給品一式、軍用ナイフ、鍋蓋、べろちょろ、矢(19/20) 、自動車
[思考・行動]
1:幸せをおすそわけ
2:プロデューサーさんを信じたい……?
3:あずささんと貴音さんは危険。早くなんとかしないと……。
4:皆を信じてる。

萩原雪歩
[状態]車に乗っている、右肩に傷
[装備] イングラムM10(0/32)
[所持品]支給品一式×2、ランダム支給品(2~4)
[思考・行動]
基本:プロデューサーを止めて、償ってもらう
1:静香ちゃんの傍にいる。
2:真ちゃんの分も、真っ直ぐに生きたい
3:四条さんを助けてみせる

星井美希
[状態]車に乗っている、健康
[装備]デストル刀
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)、病院備品
[思考・行動]
基本:プロデューサーにじかだんぱん? するの!
1:プロデューサーや貴音を殺そうとする最上静香に警戒する
2:百合子の願いを共に叶える。


【電気自動車】
現地調達品。
カジノ内の鍵の一本により使用可能になった自動車。


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