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夢の続きを見たくて

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夢の続きを見たくて

ふらりふらりと歩き続け、辿り着くは外れの街。
同じような場所を行ったり来たり。
いったい何処へ向かっているのか。

今にも吸い込まれそうな蒼い海を眺めていると、近づいてくる物音あり。
憎悪と殺意に飲まれた群青の少女。
その先に待つのは復讐か、あるいは――


   ◆   ◆   ◆


静香の存在を認めた貴音は、牽制の一撃を放つと同時に家屋の物陰へと身を隠す。
狙いも定めず撃ち出した弾丸。
当たることは期待していない。
照準さえ外すことが出来れば良い。

直後、貴音のいた場所には散弾の雨が降り注いでいた。
無数の銃撃が地面を、空を、貴音の影を削り取る。

殺す。殺す。殺す。
友を奪われた怒りを右手に込め、ありったけの一撃を。
純粋な殺意を銃弾へと変え、静香は引き金を引き続ける。

だが、彼女の復讐は続かなかった。
かちっ、かちっ、と間の抜けた機械音が反逆の終わりを告げる。
無限にも思えた銃撃の嵐は、僅か数秒にも満たない短い時間であった。

「嘘……なんで……ッ」

何度引き金を引いても殺意が放たれない。
内に眠る憤怒の炎は未だ燃え上がっているというのに。

――弾切れ。
その一言が静香の脳に浮かび上がる。
顔から血の気が引き、みるみる内に青ざめていく。

刹那、右肩に激痛が走った。
痛みへと目を向けると、服が裂け、そこから真っ赤な血が流れている。
反射的に傷口を手で庇う。

「これで終わりですか? 最上静香

ふとその時、陰から声がかかる。
思わず背筋が凍りつくような、冷淡な声。
銃口を向け、少しずつ迫り来る四条貴音の姿があった。

「なかなか良い武器を引いたようですが、その力に振り回されているようでは大義は成せませんよ」
「うるさい! よくも……よくも星梨花を……っ!」

苦痛に顔を歪ませながらも、貴音をきつく睨む。
星梨花の無念を晴らさない限り、この怒りが鎮まることはない。

「星梨花……? なるほど、彼女の弔い合戦というわけですか」
「殺してやる……! 殺してやる……!」

静香の強い憎悪を真正面から受けて尚、貴音の余裕が崩れることはなかった。

「最上静香。私が今何を思っているかわかりますか?」
「知りたくもない! どんな理由であろうと、私はあなたを絶対に許さない!」

痛み。恐れ。怒り。
それらの感情が静香を昂らせ、思考を奪う。

「そうですか……あなたも星梨花の下へと安らかに送って差し上げようかと思いましたが……」
「――ッッッ!?」

不意に貴音が腕を突き出す。
拳が静香の腹に鋭く食い込んでいた。
胃の中の物が吐き出されてしまうかと思う程の鈍痛が走る。

「気が変わりました。あなたにも私の絶望の片鱗を味わっていただきましょう」

腹部を押さえて蹲る静香を組み伏せ、地べたに這い蹲らせる。
痛みに抗えず、貴音の成すがままにされていた。

「最上静香。あなたは確かテニスとピアノを嗜むのでしたね」

背中に跨り、彼女の腕を掴む。
銃口を人差し指に乗せ、押さえつける。


「あなたのこの綺麗な指。これがなくなったら、さぞかし苦心するのでしょうね」
「ッ!? まさか……!」


察してしまった。
彼女がこれから何をしようとしているのか。
自分がこれからどうなってしまうのか。

「嫌ぁ! 離して! 離してぇ!」

慌てて拘束から逃れようとするも、状況は好転せず。
どんなに足掻いても指一つ動かせない。
抵抗も虚しく、無情にも引き金は引かれ――



「――――――――――――――――ッッッッ!!」



この世のものとは思えない、悍ましい咆哮が響き渡った。

目の前に見えたのは、赤く濁り、飛散した体液。
そして、よく見慣れた一欠けらの肉片。
思考が塗り潰され、醜く、猛々しく啼き叫ぶ。

「ああ……なんと美しい……。
 その表情が見たかった。その声が聴きたかった。
 ようやく私と同じ絶望を理解していただけたのですね……?」

貴音が恍惚の笑みを浮かべる。
久しく会っていない友人と再会したかのような歓喜の声を漏らす。

「さあ、もっと聴かせてください……次は中指を……」
「それ以上はちょっと許せないかな」

静香を更なる苦痛へと導こうとしたその時、死角から待ったがかかる。
顔を上げると、よく見知った金髪の少女が立っていた。

「……美希、あなたも来ていたのですか」
「ねえ、どうしてそんなことをするの?
 確かに静香も悪いかもしれないけど、いくらなんでも酷すぎるって思うな」

物怖じする様子もなく、飄々と問いかける。
漆黒の刀剣をその手に携えながら。

「理由などありません。私の……私たちの征く奈落への道。
 その道の延長線上に、偶然彼女たちがいただけに過ぎません」

虚空を見つめ、貴音は答える。
その視線の先は、今ではない何時か、此処ではない何処かへと。

「あなたも私の前に立ちはだかるというのなら……容赦は致しません」

そう言って、銃口の照準を静香から美希へと変える。

「美希、あなたの行動は軽率でした。
 私が気付いていなかったあの時なら、あなたは私を一刀のもとに斬り伏せることが出来たのに。
 これで万に一つあった勝機が消え失せてしまいました」

貴音の言っていることに間違いはなかった。
今、美希と貴音の間には僅かな、しかし、絶対的な距離がある。
ここからでは。今からでは。
どんなに素早く斬りかかっても銃弾の速度には追いつけない。

「私が空虚な言葉に耳を傾けるとでも思っていましたか?
 ……あなたたちは揃いも揃って甘すぎる。抗えない終焉から目を背けていては――」
「ミキ、死なないよ?」

だというのに、この態度は。
この絶対的な自信はどこから湧いてくるのだろう。

「世迷いごとを。恐怖で気が触れましたか?」
「なんとなくわかるの。ミキも、静香も、ここじゃ死なないって」

にっ、と笑って、美希が答える。
やけっぱちなどでは決してなく、その眼には確かな光を宿して。

面白い。
ならば試してやろう。
虚勢の自信に満ちた顔を苦痛で歪ませてやろう。

美希に向けて必殺の一撃を放つべく、引き金に指をかけ――


「――っ、これは……」
「ね? 言ったとおりでしょ?」


今にも止めを刺さんとしたその時。
一陣の風が頬を凪いだ。


「銃を下ろしてください。……次は当てます」


脅迫とも取れる、調停者の一声。
声の主は一人の少女。
機械弓を構える風の操手のその瞳は、亡者を鋭く見据える。

「次から次へと……」
「もうやめてください、貴音さん。こんなことを続けても意味なんてありません」
「……意味がないことなど、私自身が最も理解しているのですよ……七尾百合子

虚ろな眼差しで一瞥し、乱入者へと吐き捨てる。
在りもしない望みに縋る愚か者。
許されるのなら、今すぐにでも射殺してしまいたい。

「……ですが、ここは身を引きましょう」

だが、今は事情が違う。
百合子が来たことで、美希に対する絶対的優位が揺らいでしまった。
片方を討てば、必ずもう片方に隙を晒すことになる。
わざわざ危険な目に遭う必要もない。
停戦が目的なら、それに乗ってやろう。

「待ってください。まだ話は終わっていません」
「……これはどういうつもりですか?」

戦線から離脱するべく踵を返すと、百合子が立ち塞がった。

「教えてください。なんで……なんで、皆を殺そうとするんですか?」
「教えたところで、私を止められるとでも? 私の心を変えられるとでもいうのですか?」
「変えます。変えてみせます。そう、決めたから」

空論だ。
美希に負けずとも劣らない、あまりにも空虚な自信。
耳を傾ける価値など決してありはしない。

なのに。


『何も、無くなってなんか、ない。うしなってなんか、ない』


何故だろう。彼女を思い出してしまうのは。


『全部きっと、四条さんのなかにある。だから、諦めないで!』


悲しみを乗り越えた、力強いその瞳は――



「――ッ!」
「!? 痛っ……!」

反射的に腕が動いていた。
持っていたその銃で、無意識の内に百合子を殴り倒していた。

「百合子っ!」
「私の……私たちの夢は潰えたのです。
 終焉を迎えた舞台には幕を下ろさなければならない。ただそれだけのことです」

蟀谷を押さえて痛がる百合子に背を向け、言葉を紡ぐ。

「いずれまた会うことでしょう。そのときは……全身全霊、命を懸けて語り合いましょう」

そう言い残し、虚空の花は風の中へと散っていった。



「……はっ、そうだ! 静香! 大丈夫!?」

脅威が立ち去り、束の間の安息を得たと思ったその矢先、美希が駆け寄る。
今まで気に掛けられる状況ではなかったが、静香の外傷はとても無視できるものではなかった。

百合子もまた静かに立ち上がり、二人へと目を向ける。
あとほんの少しだけ早く辿り着いていれば。
こんな惨劇を招くことはなかったのだろうか。

「はは……嫌われちゃいました」

自嘲気味に百合子は笑う。
自分の言葉は、貴音には届かなかった。
美也から勇気と力を貰っても、彼女の心を溶かすには至らなかった。

「やっぱり、私じゃ止められないのかな……」

無力感が体内を渦巻く。
頭から流れる一筋の血が、頬を伝った。


   ◆   ◆   ◆


「これでいいのかなぁ……」
「そう……だと思いたいんですけど……」

少し遅れて追いついた雪歩と共に、静香の治療に当たる。
止血自体はすぐに終わったが、千切れてしまった指はどうしようもない。
百合子が小説で得た知識を基に、見よう見まねで対処する。
曰く、指はビニールで包み、氷水に漬けておくことで後々くっつく可能性が上がるとのこと。
だが、あまり期待は出来ないだろう。
信憑性は定かではないし、運良く脱出できたとしても、医者に診てもらう頃には相当の時間が経ってしまう。
それでも、何もしないよりはいいだろうと、出来る限りの処置を施した。

「静香ちゃん、痛くない?」

呼びかけるも返事はない。
荒い吐息と共に嗚咽を漏らし、体を小刻みに震わせている。
復讐に駆られた狂犬の牙は全て抜かれてしまっていた。

「静香……」

憎悪に支配されていた頃の活力はどこにも感じられない。
美希もまた、間に合わなかったことを悔いる。

「……百合子ちゃん?」

ふとその時、百合子が静香の傍へと歩み寄る。
彼女と同じ目線となるように屈み、虚ろな瞳をじっと見つめると――

「静香ちゃん……」

震える体をそっと抱き締めた。
彼女の鼓動が、恐怖が、体を通して伝わってくる。

「痛かったよね……辛かったよね……」

子供をあやすように、背中を撫でる。

「美也さん、私が困ってたときはいつも、こうして抱き締めてくれたんだ」

強く、優しく、受け止める。

「私が、あなたの支えに……あなたの腕になるから……。
 こんな私が、静香ちゃんの助けになれるかわからないけど……。
 どうか、憎しみに囚われないで……」

静香の腕が、そっと、百合子の背中に回る。
胸に顔を埋め、弱々しくも抱き返す。
二人は静かに、ただ静かに、悲しみを、幸せを分かち合っていた。


   ◆   ◆   ◆


「……何故こんなにも心を乱されるのでしょうか」

らしくない。
信念を揺さぶる邪魔者なら、大人しく射殺してしまえばよかったのに。
何故殴るなどという遠回りなことをしてしまったのだろう。

まさか未だに心残りがあるというのか。
雪歩らの言葉に惑わされ、修羅に堕ちたことを悔いているとでもいうのか。

「……そんなはずはありませんね」

そうだ。
希望など、何一つ夢見てはいない。
其処にあるのは諦観のみ。
発砲しなかったのも、一つの懸念があったからに過ぎない。

「やはり……」

疑惑を確信へと変えるべく、弾倉内を確認する。
薄々感づいていたが、弾は一つも込められていなかった。
撃つ仕草を見せなかったのは正解だったのだ。

真に一発。
星梨花に一発。
雪歩……を撃とうとして一発。
静香との戦闘で三発。
合計六発の消費。

予備の弾を取り出し、速やかに補充する。

『なんとなくわかるの。ミキも、静香も、ここじゃ死なないって』

先刻、美希が九死に一生を得たのは百合子が割って入ったせいだと思っていた。
だが、実はそれは無関係。
あの時、既に弾は一発も撃てなかったのだから。
百合子が来ようと来まいと、最初から美希は殺せなかったのだ。
元より天に愛されている少女であったが、未だ見放されていなかったとは。

気に入らない。
自身の歩む道が祝福されていないことが。
運命が自分ではなく、彼女に味方していることが。

「ならば証明してみせましょう。どちらが正しいのか、篤とご覧に入れましょう」

いずれまた相見えるであろう宿敵に想いを馳せ、再び救いなき道を歩み始める。


【一日目/午後/C-8】

【四条貴音】
[状態]健康、諦観、
[装備]Colt Lawman(6/6)
[所持品]基本支給品一式×2、予備弾丸×54(.357 Magnum)不明支給品1~3
[思考・行動]
基本:総ては泡沫。
1:諦観。


   ◆   ◆   ◆


これで、よかったのかな。
私の魔法で、静香ちゃんの悲しみを癒してあげることは出来たのかな。
貴音さんは止められなかったけれど、ちゃんと会って話がしたい。
出来れば、戦うのは嫌、だな……。

説得しなきゃいけないのはあずささんだけじゃない。
まだまだ先は見えないけれど、味方してくれる人だってたくさんいる。
雪歩さんたちと協力して、早くこの戦いを終わらせなくちゃ。


【一日目/午後/C-8】

【最上静香】
[状態]右肩負傷、右指欠損、錯乱
[装備]イングラムM10(0/32)
[所持品]なし
[思考・行動]
基本:プロデューサーを殺す
1:こわいよ……。

【七尾百合子】
[状態]精神的疲労(軽微)、側頭部負傷
[装備]クロスボウ
[所持品]支給品一式、軍用ナイフ、鍋蓋、べろちょろ、矢(19/20)
[思考・行動]
1:幸せをおすそわけ
2:プロデューサーさんを信じたい……?
3:あずささんと貴音さんは危険。早くなんとかしないと……。

萩原雪歩
[状態]右肩に傷
[装備]なし
[所持品]支給品一式×2、ランダム支給品(2~4)
[思考・行動]
基本:プロデューサーを止めて、償ってもらう
1:静香ちゃんを止められた……のかな?
2:真ちゃんの分も、真っ直ぐに生きたい
3:四条さんを助けてみせる

星井美希
[状態]健康
[装備]デストル刀
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)、病院備品
[思考・行動]
基本:プロデューサーにじかだんぱん? するの!
1:プロデューサーや貴音を殺そうとする最上静香に警戒する



【クロスボウ】
宮尾美也に支給。
ボウガンとも呼ばれる。弓を引き絞らず、弦を使って矢を発射する機構。
無音で奇襲性があり、弓と比べると遥かに扱いやすいが、威力も控えめ。


 The star   時系列順に読む   折れた明日に何を祈ろう 
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 かざはな   四条貴音     
 悔しさも弱さも   最上静香   されど願いを胸に 
 萩原雪歩 
 星井美希 
 Believe your change   七尾百合子 


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