♪Fragile
寂しさを彷彿させる風だった。
我那覇響は揺れる髪を両手で押さえて、小さく獣のように唸る。
古色蒼然たる城下町を歩きながら、八重歯を鈍く光らせ、苦い顔を露わにした。
仕事場でさえ共にするペットのハムスター・ハム蔵さえ近くにいないのだから、胸に秘める思いは一層である。
我那覇響は揺れる髪を両手で押さえて、小さく獣のように唸る。
古色蒼然たる城下町を歩きながら、八重歯を鈍く光らせ、苦い顔を露わにした。
仕事場でさえ共にするペットのハムスター・ハム蔵さえ近くにいないのだから、胸に秘める思いは一層である。
溜息を一つ。
だけど彼女は前を向く。
自分は完璧だからさ――そう嘯いて。
朝の空は暗い青と仄かなオレンジが彩っている。
彼女は綺麗と呟いて、「みんなもそう思うだろっ」と振りかえった。
だけど彼女は前を向く。
自分は完璧だからさ――そう嘯いて。
朝の空は暗い青と仄かなオレンジが彩っている。
彼女は綺麗と呟いて、「みんなもそう思うだろっ」と振りかえった。
◇ ◇ ◇
まどろみを抱きながら、彼女は立ち上がった。
空を見上げれば、朝日は未だ地平線。群青色の空が広がっている。
綺麗だと思う反面、何故か寂しさを醸す色合いだった。
空を見上げれば、朝日は未だ地平線。群青色の空が広がっている。
綺麗だと思う反面、何故か寂しさを醸す色合いだった。
田中琴葉は城下町で目を覚ます。
かつて行った、戦国をモチーフとしたイベントで使ったセットにそっくりだと感じた。
けれど、さして気にも留めない。それどころではないと言うのが、正直なところだ
近くに投げ出されたディパックを拾い、中身を確認すると言われた通りの物が入っている。
その些細な事実に現実感を覚え、彼女は肩を抱いた。
かつて行った、戦国をモチーフとしたイベントで使ったセットにそっくりだと感じた。
けれど、さして気にも留めない。それどころではないと言うのが、正直なところだ
近くに投げ出されたディパックを拾い、中身を確認すると言われた通りの物が入っている。
その些細な事実に現実感を覚え、彼女は肩を抱いた。
――どうして
薄い唇から短く紡がれる。
持ち上げた腰が、力なく腑抜けていく。
背後の家屋の壁にもたれかかり、へこたれた姿勢はしばらく続く。
いつしか柔らかな眦には雫が溜まった。
NGのテイクが出されたわけでもないのに、同じ言葉を繰り返す。
持ち上げた腰が、力なく腑抜けていく。
背後の家屋の壁にもたれかかり、へこたれた姿勢はしばらく続く。
いつしか柔らかな眦には雫が溜まった。
NGのテイクが出されたわけでもないのに、同じ言葉を繰り返す。
――どうして、プロデューサーが
眠る前、純白の仮面の向こうに潜んでいたのは、紛れもなくプロデューサーだった。
間違えるはずがない。あんなに愛しかったプロデューサーを、見間違えるはずがなかった。
いつだって胸を貸してくれたプロデューサーを彼女は確かに覚えている。
間違えるはずがない。あんなに愛しかったプロデューサーを、見間違えるはずがなかった。
いつだって胸を貸してくれたプロデューサーを彼女は確かに覚えている。
あの人が『殺し合い』を強要させるだなんて思えなくて。
彼女は泣いた。いつだってプロデューサーの胸を借り、隠してきた涙を公に晒す。
歯止めの利かない涙はそれでも自分で拭うしかなかった。
だけど、琴葉は拭うことをせず垂れ流す。頬を伝い、口の端まで辿りつく。
少ししょっぱい。琴葉は落ち着かない思考の隅で感じ取る。
彼女は泣いた。いつだってプロデューサーの胸を借り、隠してきた涙を公に晒す。
歯止めの利かない涙はそれでも自分で拭うしかなかった。
だけど、琴葉は拭うことをせず垂れ流す。頬を伝い、口の端まで辿りつく。
少ししょっぱい。琴葉は落ち着かない思考の隅で感じ取る。
答えのない問答を続けるうちに、一つ、足音が響く。
まだ遠い。微かな音だ。そして静かな歩調だったと思う。
この足音は誰だろうか? 琴葉は冷静に分析したが反して何の構えも取らない。
呆然と座り込んだまま、足音の正体を待つ。
曲がり角から影は現れる。
まだ遠い。微かな音だ。そして静かな歩調だったと思う。
この足音は誰だろうか? 琴葉は冷静に分析したが反して何の構えも取らない。
呆然と座り込んだまま、足音の正体を待つ。
曲がり角から影は現れる。
「……うわっ! 琴葉が泣いてるぞ!?」
同じ仲間の、我那覇響だった。
彼女は慌ただしく戸惑いながらも、にこやかに「大丈夫だぞ」と微笑む。
八重歯がきらりと輝いた。
琴葉にとっては無性に心強い笑顔であったと同時に、彼女のすべきことを思い出す。
乱暴に手首で目をこすり、朱に染まる目元を隠しつつ彼女は顔をあげる。
彼女は慌ただしく戸惑いながらも、にこやかに「大丈夫だぞ」と微笑む。
八重歯がきらりと輝いた。
琴葉にとっては無性に心強い笑顔であったと同時に、彼女のすべきことを思い出す。
乱暴に手首で目をこすり、朱に染まる目元を隠しつつ彼女は顔をあげる。
「だい、じょう、ぶ、です」
我那覇響は一つ息を漏らすと、笑いながら頷いた。
琴葉も笑顔を作ろうとする。
その顔を見て、響はもう一度笑みを浮かべた。
琴葉も笑顔を作ろうとする。
その顔を見て、響はもう一度笑みを浮かべた。
◇ ◇ ◇
「当面の目標はプロデューサーの意図を窺いつつ、アイドルたちを守っていくってところですね」
「うん、自分もそれでいいと思うぞ」
「うん、自分もそれでいいと思うぞ」
家屋の一つに足を踏み入れる。
畳が敷かれていたので、二人はそこで腰をおろし話をまとめていた。
和気藹々とはいかないが、二人の利害は一致している。
話をするのに支障はなかった。
畳が敷かれていたので、二人はそこで腰をおろし話をまとめていた。
和気藹々とはいかないが、二人の利害は一致している。
話をするのに支障はなかった。
そこは、時代錯誤な風貌に見合う古風な家だった。
今の世の中、少なくなりつつある瓦の敷かれた屋根。響は沖縄の家を思い出す。
畳のあった部屋は少し奥だった。途中囲炉裏があったが、身体を温める必要はない。
畳は少々固いな、というのが、話を交えている間に得た琴葉の感想だ。
今の世の中、少なくなりつつある瓦の敷かれた屋根。響は沖縄の家を思い出す。
畳のあった部屋は少し奥だった。途中囲炉裏があったが、身体を温める必要はない。
畳は少々固いな、というのが、話を交えている間に得た琴葉の感想だ。
話もひと段落したところで、響はペットボトルを開け、水を口に含む。
名状しがたい温さに僅かな悪感情を抱く。渋い顔をする響に琴葉はやんわりと笑う。
そんな琴葉の微笑を見て、響はなんともなしに尋ねる。
名状しがたい温さに僅かな悪感情を抱く。渋い顔をする響に琴葉はやんわりと笑う。
そんな琴葉の微笑を見て、響はなんともなしに尋ねる。
「なあ琴葉」
「なんですか」
「どうして、泣いてたんだ?」
「なんですか」
「どうして、泣いてたんだ?」
単刀直入に問われ、琴葉も少し身構えた。
響の視線は、琴葉の整った鼻梁の傍を漂っている。
今も涙の痕は微かに残っていた。
少し迷った後に、琴葉は素直に答える。
響の視線は、琴葉の整った鼻梁の傍を漂っている。
今も涙の痕は微かに残っていた。
少し迷った後に、琴葉は素直に答える。
「私は、泣き虫ですよ。結構しょっちゅう泣いてるんです」
「でも自分、あんまり琴葉が泣いてるイメージないんだけどなー。だから意外だったっていうか」
「それは……それは、いつもプロデューサーに胸を貸してもらってたから」
「でも自分、あんまり琴葉が泣いてるイメージないんだけどなー。だから意外だったっていうか」
「それは……それは、いつもプロデューサーに胸を貸してもらってたから」
どこか自慢げに、だけどどこか後ろめたそうに。
複雑な表情を浮かべて、胸のあたりを握りしめながら琴葉は続ける。
複雑な表情を浮かべて、胸のあたりを握りしめながら琴葉は続ける。
「プロデューサーは私が泣きそうな時、いつだって傍にいてくれて、支えてくれて、私は甘えてたんだと思う」
「安心できたんだ」
「……うん、とっても」
「だからこそ、今回のプロデューサーが許せなかった?」
「……」
「安心できたんだ」
「……うん、とっても」
「だからこそ、今回のプロデューサーが許せなかった?」
「……」
どうだろう。
琴葉は自問自答する。
答えは導き出せない。
社長を殺したのは誰だかわからないが、明らかにプロデューサーの鶴の一声があったがためだ。
だけど、それで、今までの関係をなかったことにして、プロデューサーを弾劾するのか?
琴葉は自問自答する。
答えは導き出せない。
社長を殺したのは誰だかわからないが、明らかにプロデューサーの鶴の一声があったがためだ。
だけど、それで、今までの関係をなかったことにして、プロデューサーを弾劾するのか?
響は畳に仰向けに寝転がって、天井を見つめる。
粘土作りの天井に向かい、手を伸ばす。
琴葉はきょとんと見つめ、沈黙する中、響が言葉を紡ぎ出す。
粘土作りの天井に向かい、手を伸ばす。
琴葉はきょとんと見つめ、沈黙する中、響が言葉を紡ぎ出す。
「自分はね、プロデューサーは何かあってこんなことさせるんじゃないかって思う。
勿論理由があったら殺し合いをさせて良いわけじゃないし、社長を殺したことは許されないことだぞ」
「…………」
「いぬ美が拗ねる時とかさ、自分らのペットが何かしら行動を起こす時って、
大抵の場合、何かしら理由があるんだぞ。言葉にできないから行動で表してるって言うかさ」
「それが、プロデューサーにも言える、ってことですか?」
「真実がどうかは自分には分からない。けど信じたいんだ」
「信じる?」
勿論理由があったら殺し合いをさせて良いわけじゃないし、社長を殺したことは許されないことだぞ」
「…………」
「いぬ美が拗ねる時とかさ、自分らのペットが何かしら行動を起こす時って、
大抵の場合、何かしら理由があるんだぞ。言葉にできないから行動で表してるって言うかさ」
「それが、プロデューサーにも言える、ってことですか?」
「真実がどうかは自分には分からない。けど信じたいんだ」
「信じる?」
響は空を掻いて手を降ろし、寝転んだまま、琴葉の手を握る。
握ったその手は汗ばんでいた。
握ったその手は汗ばんでいた。
「今までのプロデューサーを、疑いたくはないんだ。
だから、いつもと違うプロデューサーには意味があるんだって、そう思いたい」
「…………」
「……あーえーっと、駄目、かな? ……うん、甘いよね。わかっちゃいるんだ、そんなこと」
だから、いつもと違うプロデューサーには意味があるんだって、そう思いたい」
「…………」
「……あーえーっと、駄目、かな? ……うん、甘いよね。わかっちゃいるんだ、そんなこと」
自信なさげに、響は笑う。
その様はとても虚ろ気に見えた。
握られた手は、とても強く――強く締められる。
痛いぐらいだ。
響の顔は、もう片方の腕により覆われる。
顔色は窺えなかった。
一瞬の逡巡の後、琴葉は痛みを受け入れる。
琴葉の言葉は決まっていた。
その様はとても虚ろ気に見えた。
握られた手は、とても強く――強く締められる。
痛いぐらいだ。
響の顔は、もう片方の腕により覆われる。
顔色は窺えなかった。
一瞬の逡巡の後、琴葉は痛みを受け入れる。
琴葉の言葉は決まっていた。
「そんなこと、ないですよ。信じる心は大切だと思います。
誰かのために頑張れるってすごく偉大ですし……それに、私だって今までのプロデューサーを信じたい」
誰かのために頑張れるってすごく偉大ですし……それに、私だって今までのプロデューサーを信じたい」
支えていないと崩れてしまいそうなか細い指を絡まして、琴葉は言う。
脳裏には、プロデューサーとの思い出が。
そして大好きだった友達たちの顔が。
浮かんではシャボン玉のように消える。
響は顔を露わにしないまま、そっか、と零す。
脳裏には、プロデューサーとの思い出が。
そして大好きだった友達たちの顔が。
浮かんではシャボン玉のように消える。
響は顔を露わにしないまま、そっか、と零す。
「実を言うとさ、一人って慣れてないんだ」
「私も、です。いつも恵美やエレナがいつだって傍に居てくれましたから」
「……迷惑かけてごめん」
「私の方こそ」
「私も、です。いつも恵美やエレナがいつだって傍に居てくれましたから」
「……迷惑かけてごめん」
「私の方こそ」
手を握る力は弱まる。
けれど離れることはなかった。
どちらからともなく嘆息が漏れる。
けれど離れることはなかった。
どちらからともなく嘆息が漏れる。
「けど、信じることって難しいですよね」
「そうだね」
「だから私は泣いていたのかもしれません。誰を信じればいいかも、分からなかったから」
「……そうだね」
「それでも私は信じてみようかと思います。プロデューサーを、みんなを。
一番私らしい選択だって誇れるから。響ちゃんに出会えてよかったです」
「そっか。まあ、自分は完璧だからさ」
「……そう、ですね。本当にそうかもしれません」
「疑ってたのか?」
「ええ、少し」
「うぎゃー、酷いぞー」
「そうだね」
「だから私は泣いていたのかもしれません。誰を信じればいいかも、分からなかったから」
「……そうだね」
「それでも私は信じてみようかと思います。プロデューサーを、みんなを。
一番私らしい選択だって誇れるから。響ちゃんに出会えてよかったです」
「そっか。まあ、自分は完璧だからさ」
「……そう、ですね。本当にそうかもしれません」
「疑ってたのか?」
「ええ、少し」
「うぎゃー、酷いぞー」
琴葉は小さくほころぶ、つられるように響も微笑む。
今度は琴葉がぎゅっと手を握り締める。
無意識だった。
響は顔から腕をどかして、琴葉を見る。
涙の傷跡は、既に見当たらなかった。
今度は琴葉がぎゅっと手を握り締める。
無意識だった。
響は顔から腕をどかして、琴葉を見る。
涙の傷跡は、既に見当たらなかった。
「こんな私でも、みんなを守ることは出来るでしょうか」
「大丈夫だぞ、琴葉なら。自分も一緒だしね」
「大丈夫だぞ、琴葉なら。自分も一緒だしね」
なんくるないさー、とお決まりの台詞を落とす。
響は畳から腰を上げ、琴葉の手を引く。
響は畳から腰を上げ、琴葉の手を引く。
「その調子なら大丈夫だね、行くぞ、琴葉!」
「ええ」
「ええ」
手を引かれ、二人は家屋を出た。
風が二人の長髪をなびかせる。
響の小さな悲鳴が木霊した。
風が二人の長髪をなびかせる。
響の小さな悲鳴が木霊した。
朝焼けは晴れない。
不意に、とあるコンサートを思い出す。
あの時、自らが歌った歌の名前はなんだったか。
あの歌に込められた、琴葉のために作ってくれたあの歌に込められた意味は何だったろうか。
不意に、とあるコンサートを思い出す。
あの時、自らが歌った歌の名前はなんだったか。
あの歌に込められた、琴葉のために作ってくれたあの歌に込められた意味は何だったろうか。
「どうかした?」
「いえ、大丈夫です」
「いえ、大丈夫です」
響に先導される。
彼女は怯えを知らない歩調で進む。
だけど、琴葉の耳には確かに届いた。
彼女は怯えを知らない歩調で進む。
だけど、琴葉の耳には確かに届いた。
――自分は完璧だから
言い聞かせる、響の声を。
寂しさに震える彼女の叫びを。
寂しさに震える彼女の叫びを。
田中琴葉は一つ呟いて、意気込んだ。
私がしっかりしなきゃ――そんな言葉は風と共に消える。
朱の溶け込む朝焼けは胸の高鳴りを誘った。
私がしっかりしなきゃ――そんな言葉は風と共に消える。
朱の溶け込む朝焼けは胸の高鳴りを誘った。
【一日目/朝/B-2 城下町】
【我那覇響】
[状態]健康
[装備]
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
1:田中琴葉と行動
[状態]健康
[装備]
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
1:田中琴葉と行動
【田中琴葉】
[状態]健康
[装備]
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
1:我那覇響と行動
[状態]健康
[装備]
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
1:我那覇響と行動
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