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「えっと、太陽が出てる方が東だから……あっちだよね?」
「一応、方位磁石もありますけど……はい、そっちが東で合ってます」

時代劇を彷彿させるような古い町並みの中で、二人の少女が話し合っていた。
進む方向を改めて確認して、そしてそのまま進んでいく。
彼女達はひとまず目的地として、この島の北にある――彼女達から見て、東の方にある街に定めた。
街の方が、人が集まりそうだから。その程度の理由だったが、他に何か心当たりがあるわけでもない。
響の提案に琴葉が同意する形で、彼女達は歩を進めていた。

「それで、結局しまったままでいいんですか?」
「うん。あれで怖がらせちゃうのもいけないかなって。こういうのは、最初の印象が大事だと思うし」

彼女達は目的地を決めるより前に、自身の支給品の確認をしていた。
そのうち武器と言えたものは、響のカバー付きの鉈と琴葉の「ワルサーP38」という名の拳銃。
殺傷力は十分であり、どちらも殺し合いに乗ること前提であるならば当たりの部類に入ると言えるだろう。
しかし、彼女達はそんな事をするつもりはない。誰も傷つけるつもりもない以上は、これは無用の長物になる、はずだ。
少なくとも、そうしたい。そんな響の想いで、この武器は手に持たずデイパックの中に戻すことにした。
琴葉も、同じ気持ちである。護身として出すべきとも思ったが、仲間の事を信じればそんなのもいらないのだろう。
彼女の意見を汲んで、琴葉もその銃をしまう事にした。

「……あれ?」

そんな他愛もない話をしていた矢先、響が声を上げる。
琴葉も、その原因が視界に入った。
彼女達の進む道の端に、座り込む一人の少女がいたのだ。
その少女もまたこのイベントに巻き込まれた参加者で、彼女達と同じ事務所に所属するアイドル。

「ねぇ、あれ亜美だよね?」

その名前を、響は呼んだ。

「そうみたいですね……あんなところで座り込んで、どうしたんでしょうか」
「泣いてるのかな……?」

俯いて反応を示さない亜美に、二人は首を傾げる。
他のアイドル達との合流を当面の目標にしていた二人にとって、この出会いは僥倖ではあった。
彼女の姿を見れば、なおさらだ。俯く彼女の姿はひどく弱々しく、怯えているようにも見える。
ならば手を差し伸べて、同じ仲間として一緒に協力していけば良い。
向かい合って、互いにうなずく。二人の意思は、言葉を交わす事なく一致した。

「琴葉もそうだったし、結構みんな泣き虫なんだなー」

そう言って、響はへへっと笑う。
仲間は多いに越したことはない。一人が怖いなら、皆で力を合わせればいい。
こうやって順調に皆が集まっていけば、きっとこの状況だって打開できるはず。
そんな希望が見えてきて、自然と笑みがこぼれたのだ。
そして響は、亜美の方へと歩んでゆく。

「ほら、亜美! もう大丈夫だぞ!」

呼びかけた声に、亜美はぴくりと反応する。
その瞬間まで、こちらに気付いていなかったのだろう。それだけ追い詰められていたのだと、彼女達は考える。


その手を差し伸べて。

亜美が、振り向き。




「ッ……!?」


血が、飛び散った。




「え……?」
「な……痛……っ」

その一連を見て、琴葉は困惑した。
響が差し伸べた筈の手を抑えて、苦悶の声をあげている。
その手からとめどなく血が流れ出て、地面を濡らしてゆく。
何が起きたのか瞬時に判断できない。混乱した琴葉の視界に入ったのは、立ち上がった亜美と、血に濡れた「のこぎり」。

「……ちぇっ、一発で決めたかったんだけどな」

そして、この状況に亜美は苦々しく吐き捨てる。
発した言葉は、響を傷つけた事は偶然でも事故でもなく、故意にやったことを表していて。

「悪いね、ひびきん」

彼女が、この殺し合いに乗っている事を表していた。

「な、なんで……」

この状況で、響がやっとの事で絞り出した問いかけ。
全てが順調に進んでると思い込んでいた彼女は、目の前に起きた現実をにわかには受け入れられない。
何故、どうして。単純な疑問と、痛みによる苦しみが、彼女の思考を埋め尽くしていた。

「……当たり前、じゃん」

少しの間をおいて、彼女が口を開く。

「何がっ」
「死にたくないって思う事ぐらい、当たり前っしょ!?亜美、こんなところで終わりたくなんかないんだよ!」

響の声を遮り、亜美は声を荒げる。
その姿に、かつての陽気な姿は全くない。

「こんなよく分かんない事に巻き込まれて、なんで死ななくちゃならないのさ!?
 亜美は絶対にやだかんね……みんな殺してでも、絶対に帰るんだから……!」

彼女は、ただ死にたくないという想いに支配されていた。
アイドルだとか仲間だとか、そんな事よりもただ、もっと生きていたい。
だから、最後の1人まで生き残るし、殺してもみせる。彼女の決意は単純にして、誰にも否定の出来ないものだった。

「亜美は悪くない……恨むなら、兄ちゃんを恨んでよね……っ!」

じりじりと、のこぎり片手に詰め寄っていく。
このままでは、響は殺されてしまう。
彼女が負ったケガ自体は命に関わらない程度の軽傷だが、次もそうなるとは限らない。
手負いの響の抵抗は期待できず、彼女のデイパックから武器を取り出す前に、きっと切りかかられてしまう。

「………っ」

となれば、ここで彼女を守れるのは琴葉だけだ。
亜美が響に意識を向けている間に、自身のバッグから銃を取り出せば状況は一変する。
相手は近接武器、対してこちらは慣れていないとはいえ、遠距離から狙える銃。
当たらなかろうと、それは十分な威嚇となるだろう。
だから、ここは琴葉自身が出ていき、守らなくてはいけない。
そう、思っていたのに。

(体が、震えて……)

動かない。体が、言う事を聞かない。
一番に動かなくてはいけないはずなのに、その一歩が動けない。
彼女は、人生で初めてとすら言える窮地に臆していた。
目の前で仲間同士が殺し、殺されてしまう事、自身もまたその危機に見舞われつつあること。
そして、銃を向けて彼女の命を脅かす行為をしてしまう事に。
突然訪れた状況で、彼女はその決断ができずにいた。

「――うそ、だ」

そんな局面で、響は弱々しく声を出す。

「現実を見てよ……亜美は、やるっていったらやるんだよ……!」
「そんなの、嘘だよ……だって」

その言葉にも、彼女は一切歩みを止める事はなく。
現実を直視出来ていない彼女の言葉など、聞く耳も持たない。
一度決めた事を曲げるつもりはなく、惑わされるつもりもない。

ただ、目の前で亜美を見つめていた瞳に錯乱も恐怖も見えず。

「なんで、そんなに辛そうな顔をしてるの……?」

目の前の少女を、純粋に気にかけているように見えた。


「……何いってんの」
「だって、自分にはそう見えるぞ。分かるんだ……」

突然の言葉に、亜美は動きを止める。
命惜しさ故の説得、という風には見えない。
響には、どうしても納得できない事があった。
彼女が本当に本心から殺し合いに乗ると思えない、その理由を。

「それを選んだら、仲間と……家族と一緒に帰れなくなるから、辛いんだ」

彼女が思い浮かべたのは、目の前の少女とよく似た姿だった。

「………ッ!」
「ねぇ、亜美はそうやって自分を正当化して……真美を殺せるの?」

言葉に狼狽えるその姿を見て、響は確信する。
この場所には同じ事務所の仲間が集められているが、亜美は少し特別だ。
彼女には、同じ事務所のアイドルに双子の姉、双海真美がいる。
とても仲が良くて、きっと二人はそれぞれ特別な存在となっているはずだ。
それを切り捨てて生き残る事を亜美が良しとするなんて、響にはとても思えない。

「自分は、絶対にやだよ……仲間を殺してまで、帰りたくなんかない!
 皆で一緒に、帰りたいんだ! だから……」

そう、『信じる』から。
だから彼女は、亜美にもう一度手を伸ばそうとして。


「やめてっ!!」

その言葉は、亜美の叫びに遮られた。


「そんな、できっこない事言わないで、よ………う、ぁ………っ!」

明らかに動転した彼女は、一歩二歩と後ずさりして。
そのまま、彼女は背を向け走り去ってしまう。

「待っ………!」


追いかけようとして、手を伸ばした時。
彼女の脳裏に、ついさっきの映像がフラッシュバックする。

あの時の、手のひらを抉られた瞬間。
いや、手のひらだったからまだよかったのかもしれない。
もしもあの時、手で受けていなかったならば、その返しのついた刃は顔を引き裂き、致命傷になっていた可能性さえあった。

「………ぁ」

そんな思考が過った瞬間、響はぺたりと座り込んでしまう。
追いかけなくてはいけない。でももし追いかけて、またあの刃がこちらに向けられたら。
最悪の想定が頭を支配して、体の震えが止まらない。
立たなくちゃ、そう思っても体が動かない。
どれだけ信じようとしたって、実際につけられた傷が、その痛みが。
彼女の心を、がんじがらめに縛り付ける。

「響ちゃんっ!」

そんな彼女を見て、ただただ傍観していた琴葉が我に返り駆け寄った。
彼女もまた、仲間だったはずの子から向けられた殺意に圧されていた。
その場から動けず、何もできなかった。目の前で、響か殺されてしまうかもしれなかった状況で。

「……止血。そう、まず止血しないと……!」

未だ血を流し続ける、手のひらでぱっくりと割れた傷をみて、琴葉はそう判断する。
自分の失態から、目を逸らすかのように。

「亜美……どうして……」

息荒く呟く彼女の瞳は揺れて、体は震えている。
明らかに動転している彼女に対し、琴葉は何も言葉が浮かばない。
彼女は、無力であった。
この先の仲間どころか、すぐ近くの危機に晒された少女すら守れない。
しっかりしないと、いけなかったのに。自責の念もまた、真面目な少女の枷となり。

信じる事を選んだ筈の少女達に襲いかかった、現実と苦難。
夢物語に見放された彼女達の道の先は暗く、険しい。



【一日目/朝/B-2 城下町】

我那覇響
[状態]手に軽度の裂傷、錯乱
[装備]
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)、鉈
[思考・行動]
基本:プロデューサーを探しつつ、他の皆とも合流する。
1:田中琴葉と行動
2:亜美を追わないと、でも……

【田中琴葉】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)、ワルサ―P38(8/8)予備マガジン×3
[思考・行動]
基本:プロデューサーを探しつつ、他の皆とも合流する。
1:我那覇響と行動
2:動けなかった事に罪悪感と無力感



    *    *    *


「はぁっ、はぁ………追って、こない……?」

息を切らして後ろを確認し、彼女は足を止める。
無我夢中になって逃げてきた亜美を追うものは、誰もいなかった。
彼女は適当な曲がり角で身を隠し、体を休める為に座り込む。

「……ふぅ」

からん、と手に持っていた凶器を地面に放った。
亜美の視界に、返り血の付いたのこぎりが映る。
仲間を傷つけた。その事実をまじまじと見せつけられているようで、彼女の気が滅入る。

「亜美だって……そりゃ、もちろん一緒に帰りたいよ……」

かつて過ごした、楽しい日常が脳裏によぎる。
同じ血を分けた姉妹と一緒に、沢山の仲間と共に、過ごしてきた日々。
それはとても楽しくて、幸せだった。彼女だって、それを諦めきる事なんてできない。

「でも、そんなの無理っしょ……?」

だからと言って、彼女はその選択をすることができない。
ヒーローみたいに、都合よくこの危機を脱出できるとはとても思えないのだ。
首には爆弾を巻かれて、肝心のプロデューサー達に裏切られて、居場所も分からない。
こんな状況で、どう抵抗しろというのか。

「希望なんて、持たせないでよ……」

外からの助けも、自身達の抵抗も期待できない以上は、殺し合いをするしかない。
どうしても、誰かを手にかける必要があるのだ。仲間だろうと、家族だろうと。
そんなの、本当は嫌だ。だから手を差し伸べられると、決意が揺らぐ。
あれ以上彼女達の話を聞いていたら、きっと甘えてしまうのだろう。
それでも、この現実は嫌だと言ってどうにかなるものでもない。
その事実から目を背けられるほど、彼女は子供じゃなかった。

「……二人がかりはちょっとキツいし、別のところに行こう」

ゆっくりと立ち上がり、彼女は歩き出す。
咄嗟に切り付けた亜美であったが、冷静に考えれば二人相手というのはキツい。
あの時琴葉が動かなかったのは、亜美にとっても幸運だった。
ただ、次もそうとは限らないだろう。一番大事なのは自分の命なのだから、わざわざ冒険をする必要もない。

「別に、亜美だけがやる必要はないんだから……」

そうやって理由づけて、彼女達と出会う事を無意識のうちに避けようとして。
ボロボロの決意を持って、彼女はただ生き残る為にその道を歩んでいく。
甘えを捨てて、その道を歩みきれるのか。それは未だ誰にも分からない。


【一日目/朝/B-2 城下町】

双海亜美
[状態]健康
[装備] のこぎり
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:死にたくないから、殺し合いに乗る
1:一旦、別の場所に行く
2:真美には……会いたくないなぁ

【鉈】
我那覇響に支給。
刃に被せるカバーとセットでついてきた片刃の刃物。丈夫で、衝撃に強い。

【ワルサ―P38】
田中琴葉に支給。
所謂、ルパン三世で使用されていた銃。

【のこぎり】
双海亜美に支給。
刃の両側にそれぞれ別のギザギザがついた、普通なのこぎり。






    *    *    *



―――beLief<>Reality.

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 ♪Fragile   田中琴葉   それでも、生きてゆく
 我那覇響 
 GAME START!   双海亜美  君は希望と言う名の絶望に沈む 


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