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No dream no ideal

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No dream no ideal







醒めた夢には、もう酔えない。






 ◇  ◇  ◇






「いきなり銃を向けるなんて、物騒だよ? 貴音」

菊地真のバトルロワイアルは、銃口を向けられる所から始まった。
太陽の下、草花が一面に広がる水平線で、二人の少女は静かに相対する。

「だからさ、早く仕舞ってくれると嬉しいんだけどな」

揺らがぬ銃口、怜悧な目、太陽の光を浴びて輝く銀髪。
視線の先に立つ少女、四条貴音に対して真は苦笑した。
普段通りの口調で投げかけても、貴音の銃口は一向に降りることはない。
警戒心は解き、やわらかな空気を作ったにも関わらずだ。
最初こそ、他者を警戒して銃を向けてきたのだと考えた真だったが、さすがにこれはおかしい。
頭によぎるのは最悪の可能性。
このバトルロワイアルに屈し、同じ事務所で切磋琢磨しあってきたアイドルを殺して回る悪鬼羅刹と成り果てること。

「や、ボクはこの通りだよ。こんなことに乗り気になっちゃう人じゃないし! 貴音だってそうでしょ?」

だが、貴音に限ってそれはありえない。
常に冷静沈着、誰かが困った時はさりげない思いやりでカバーする。
そんな、頼りになる彼女が安々と殺し合いに乗るものか。
同じ頂点を目指す仲間として、真は貴音を信じている。
彼女の瞳が悲しく揺れようとも、彼女が真に対して何も言葉を返さなくとも信じるのだ。

「…………思うんだ、こんなことで仲間同士殺し合うなんて間違ってるって」

だから、真の胸中に迷いはない。
こうして貴音が黙りこくっているのも、どう振る舞えばいいのか決めかねているだけだ。
誰だって生き残りたいと願うのは理解できるし、尊敬しているプロデューサーが自分達を裏切ったことに絶望するのも無理はないことである。
それでも、越えてはいけないラインはある。自分の命がかかってるとはいえ、人を殺してはいけないのは常道だ。

「だってそうじゃないか! ボク達は今までずっと同じ事務所でやってきた仲間なんだ!
 誰一人として欠けることなんて嫌だし悲しいよ! そんな悲しいことを、やったら駄目だ!」

まだ、戻れる。精一杯の想いと声を乗せて、彼女へとぶつけたらきっと届くはずだ。
こうして今も自分が生きているのが何よりの証拠だ。
両の瞳で貴音をしかと見据え、左手を伸ばす。
一緒に戦おう、どんなことがあっても二人なら大丈夫。
そんな、真っ直ぐで綺麗な決意を左手に込めながら力強く差し出した。

「ああ、そうに決まってる! それがボク達の絆だ!
 絶対に違える訳がない! 貴音とボクなら何処までも疾走れる! 
 もう一度、“輝きの向こう側”に戻れるんだ!」
「真」

思いの丈を言い切った真に対して、貴音は初めて言葉を返す。
それは希望か、絶望か。どちらにせよ、彼女の胸に届いたのだ。

「――――御託はそれで終わりですか?」
「~~~~~! 貴音ぇ!!!」

されど、返された言葉に“色”はなかった。

「菊地真。それらの御託で、わたくしを酔わせることはできません。
 わたくしは素面で夢に浸れる程、夢想家ではない」

慈悲もなく放たれた銃弾は、一変の狂いもなく真の胸を貫いた。
痛みは一瞬だった。吹き出した鮮血もテレビで見るサスペンスそのものでびっくりした。
笑えない。真は選び取った答えの間違いを悟った。
音が消える、色が薄れる。
真の世界が、急速に虚無へと吸い込まれていく。

「そっか……それが、貴音の――」

もう、彼女に対して何も言えないことを、真は最後に悔いる。
この世界から退場する終ぞの一瞬まで、正しさなど無かったことを認めて、死んでいった。

「世界は色褪せている。白と黒。それ以外に“色”はない」

力を無くした真の身体はゆっくりとバランスを崩す。
垂直から平行へ、地面と一体になった真はピクリとも動かない。
糸の切れた操り人形の如く、無様に崩れ落ちた死体に対して、貴音は何の感情も見せなかった。
ただ機械的に死体から支給品一式を剥ぎとって終わりだ。
輝きから逃げるように、貴音は急いでその場を離れていく。

「真、貴方の目にこの世界はどのように映っていたのですか?」

結局、真の言葉は貴音の心臓を響かせるに至らない。
明晰な頭脳によって導き出された結論は、想いを一秒で消し去った。

「“色”がもしも見えていたとしたら――羨ましいです。わたくしにはもうわかりませんから」

一握の希望に総てを懸ける程、白黒に染まった殺し合いは易くない。
それでも、と希望を謳うか? 何が何でも諦めない、と奇跡を掴み取るか?

「夢から醒めたら其処は白と黒しかない世界でした。希望か絶望か。
 ただ、わたくしには絶望しか見えなかった。それだけの話です」

失笑ものだ、そんな理想論で未来への道は切り開けない。
総ては泡沫の可能性。実に下らない夢のお伽話だった。
四条貴音にとって、菊地真は心地良い“夢”だ。
諦めることを選んだ自分と違って、諦めないことを選んだ真は思い出のままに綺麗で、眩し過ぎる。
何処までも輝きに満ち溢れていたからこそ、真は理想に殉死したのだろう。

「夢は醒めるからこそ、夢と呼ばれるのですよ。今までわたくし達がいた世界は夢の楽園。
 そして、その楽園が終焉を迎え、現実へと還ってきた。
 この醜くも美しい白黒な世界は諦観と絶望に満ちている」

だが、それは本当に尊いものなのか。
削がれた感情は、否定する。
何もかもを投げ棄ててしまった彼女は、四条貴音の抜け殻でしかない。

「わたくしに残っている感情も――諦観のみ。くすんだ輝きに価値はありません」




【菊地真 死亡】




【一日目/朝/B-8】

【四条貴音】
[状態]健康、諦観
[装備]Colt Lawman(5/6)
[所持品]基本支給品一式×2、予備弾丸×60(.357 Magnum)不明支給品1~3
[思考・行動]
基本:総ては泡沫。
 1:諦観。



【Colt Lawman】
コルト社が生産していた、ダブルアクション式回転式拳銃。
シティーハンターの槇村香が昔使っていたことでも有名。
リボルバーはアイドルのロマン。



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