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Nowhere

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Nowhere







晴れた日には■■がよく見えるんです。






 ◇  ◇  ◇






高槻やよいにとって、家族とは他の何よりも大事な宝物だ。
姉として慕ってくれる弟と妹。アイドル活動を応援してくれる父親。
幼いながらも、幸せとはこういうことを言うのだとやよいは実感してきた。
だから、やよいは家族が大好きだ。家族が笑ってくれるなら自分はどうなってもいいといった自己犠牲精神に満ち溢れている。
当然、アイドルをやっているのも家族の生活を養う為という理由が大部分を占めていた。
下の子が少しでも余裕ある生活が出来るように。父親が安定した職をゆっくりと見つけることが出来るように。
彼女達には好きなことをとことんやって、夢を追いかけて欲しい。
だから、苦しくても平気だ。辛いレッスンも家族のことを考えたら乗り越えられる。

(一生懸命に頑張ったから、私はアイドルになることが出来た)

彼女は厳しいレッスンと営業の果てにアイドルの領域に到達した。
自分でお金を稼いで、日々の生活を支えることが出来るまでに成長してしまったのだ。
だが、まだ足りない。家族をこれからも十分に養っていくにはもっとお金が必要である。
給食費が払えるだけじゃこの先やっていけないことを、幼いながらも聡明なやよいは理解していた。
そして、やよいは更なる過酷なレッスンへと身を投じていった。
本来なら余暇や勉学に使うはずの時間を犠牲にして、アイドルの頂きへと昇るレッスンを繰り返す。
声が枯れ果てても、身体が痛みを訴えても、心が辛さに軋みを上げても。
唯一つ、家族が笑ってくれるなら――それでいい。
その思いだけを胸に抱えてやよいはひたすらに努力した。
他のアイドルはともかく、高槻やよいに限っては生活――家族がかかっているという強迫観念からアイドルを目指しているのだ。
無論、アイドルを楽しんではいるし、同じ事務所の仲間と過ごす時間は掛け替えの無い大切なものとして認識している。
けれど、彼女にとって一番の最優先に挙げられるのは家族だ。
それ以外はあくまで仕事を頑張っていたらおまけについてきた付随物でしかない。

(もしも、私が死んだら、幸せが消えちゃう。ご飯を食べるのすらできなくなっちゃう)

自分が此処で死んだら、家族はどうなる。
一家の稼ぎ頭であり、心の柱となっている自分が突然消えてしまう事象は、家族を崩壊へと導くことは容易に想像がつく。
当然、残された家族は悲しむだろうし、生活もやよいがアイドルになる前よりも更に貧困に堕ちていくことは間違いない。

(……だめ、です。みんな、悲しむ所の話じゃありません)

安定した収入を得ることができない父親に全てを託すには、高槻家は重すぎる。
その重さに押し潰され、父親が崩れていく。
やよいがいなくなったことにより、抑止力がなくなった弟と妹達は心を沈ませる。
最悪、金銭的な破滅により一家離散の可能性も秘めているのだ。
世情に疎いやよいでも、それがどういう意味を示しているのかぐらい予想できてしまった。
家族の終焉――幸せから不幸せへの転落。
これ以上、想像するのは耐え切れなかった。

(させませんっ! そんなこと、絶対! 私が護るんです、家族を!)

高槻家から笑顔が消えることだけは、何が何でも避けなければならなかった。
故に、こんな場所で勝手に死ねない。泥に濡れ、地を這ってでも生き延びることだけを考えろ。
そして、幾重もの思考の末に聡明が過ぎた彼女は、決断してしまった。
殺し合いに勝ち残ることを。自らの手を汚すことになろうとも、家族を護りきってみせると。
だから――。

(最後の一人になるまで生き残る。家族の為にも……死ねませんっ)

覚悟を決めた。これまで培ってきた絆を棄てて、原初たる絆を護ることを。

「やよいちゃーーーーーーーーーん!」

遠くから聞こえてくる同僚に小さな声でごめんなさい、と呟いた。
せめて、誰にも聞こえぬ所だけでは弱音を吐こう。

(これから、私はみんなを騙します)

湧き出てくる良心を強引に抑えつけ、やよいは両手を固く握りしめる。
弱い自分が真っ当に生き残るには色々と策を練らなければまず不可能だ。
如何にも、殺し合いに怖がっている高槻やよいを演じ切り、殺せるタイミングが合えば逃さない。
どんな汚い手でも使おう、どんな苦渋も舐めよう、どんな痛みも耐えてみせよう。
全ては家族との幸せを保つ為に。
ただ、それだけがやよいにとって救われる道標だから。





 ◇  ◇  ◇





いつまでも、誰かと笑い合える時間を過ごしたいと願うのは、間違いなのかな。





 ◇  ◇  ◇






佐竹美奈子は上機嫌だった。
殺し合いが始まってすぐ、高槻やよいと合流ができたことが高揚の原因である。

「大丈夫、きっと何とかなるって!」

怯えていたやよいを優しく宥めた美奈子は言葉を紡ぐ。
それは根拠の無い自信だったけれど、幼いやよいを落ち着かせるには十分だと感じられた。
元来、小さな子の世話を焼くことが好きな美奈子にとってこの程度のことは造作もない。
無事に巡り会えたことを幸運と呼ばずに何と呼ぶのか。

「うん、きっといけるいける」

もっとも、口調こそ軽いが、言葉通り“きっといける”とは美奈子も思っていない。
信頼していた人の裏切り、首が破裂した残酷な光景。
幾つもの要素が重なり、美奈子の内面は不安で溢れていた。
今もこうして落ち着いた様子を見せているが、内面は荒れた不安の波が何度も寄せては返して飲み込もうと牙を剥いている。
もしも、突然殺し合いを肯定する同僚が現れたら。
もしも、何かの事故で高槻やよいがいなくなったら。
もしも、プロデューサーの気まぐれで自分の首輪が爆破されたら。
考え出したらきりがないが、不安が止まることはなかった。

(やよいちゃんがいてくれたら、私は大丈夫)

現状、美奈子の横にやよいがいることから普段通りの態度を貫けているが、一歩道を踏み外したらどうなるか。
摩耗した思考は、予想にもしない行動をとる。
震え出した脚は動くことを許さない。
不安に染まった両腕は仲間の首へと伸び、締め上げるかもしれない。
怖い。裏切られるのも、裏切るのも怖くて怖くてたまらなかった。

(私は間違えてない。まだ、正しく佐竹美奈子でいるんだ。やよいちゃんが縋ってくれる限り、私は――)

今はいつも通り、“世話やきな佐竹美奈子”を演じることが出来る。
可愛い年下の面倒を見ることで平常心を保ち切れているが、美奈子は果たして“この後”のことを考えているのだろうか。
ここが殺し合いの舞台である以上、恒久的な平和はありえないということを。
本当の所、縋っているのはやよいではなく美奈子だということを。
この薄氷の関係が解消される時、壊れてしまうのは誰なのだろうか。



【一日目/朝/H-6】

【高槻やよい】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:最後の一人になる。
1:焦燥。絶対に死ねない。


【佐竹美奈子】
[状態]健康
[装備]
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:仲間と一緒に脱出っ、わっほ~い!
1:不安。誰かと接していないと押し潰されそう。



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