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妖刀別嬪

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妖刀別嬪


――まさかあんたがここまで救いようのないバカだったとは思わなかったよ。


   ◆   ◆   ◆


殺しあえ。確かにプロデューサーはそう言った。
歌手になるはずが手違いでアイドルになってしまい、拗ねていたあたしにアイドルとしての喜びを教えてくれた人。
パンクロックだけが歌を伝える手段じゃないと教えてくれた大切な人……。
でもその喜びはそいつ自身の手によって奪われてしまった。
今や社長を殺し、あたしたちに殺し合いを促す悪魔だ。
社長の最期は今も脳裏に焼きついている。思い出しただけでも思わず吐きそうになってしまう。
どんな事情があるのか知らないが、殺し合えだなんて正気じゃない。
そんなこともわからないなんて本当にどうしようもないバカPだよ……。

チハやレイをはじめ他の仲間たちの安否が気になるが、あのバカ昴や翼たちは特に心配だ。
恐怖のあまり縮こまって泣いているんじゃないか。まさか早まって誰かを手にかけてしまったんじゃないか……。
ちっとも言うことを聞かない世話の焼ける後輩だけど、それでもあたしにとっては大事な妹分だ。
誰一人死なせてなるもんか。皆であのバカPに会ってガツンと言ってやるんだ。

「とは言ったものの、これからどうすりゃいいんだよぅ……」

この最低なイベントで生き抜く為、あたしたちにはいくつかの支給品が用意されている。
食料や磁石や懐中電灯、そして武器……。
早速確認してみたわけだが、どうやらあたしには役に立ちそうな武器は何一つ支給されていないようなのだ。
まさかあたしらの劇場に仲間を襲うようなヤツがいるとは思わないけど、それでも万が一ということがある。
その万が一に供え、せめて自分の身を守れるような道具くらいは持っておきたかったのだけれど……。
おまけに愛用のギターまで没収されてしまっているときた。
こんなことでこれからの過酷な戦いを生き抜いていけるのだろうか……早くも泣きたくなってきた。

「ま、こんなところでくよくよしてるなんて、らしくないよな!」

そうだとも。道具がなくたってあたしは今こうして生きている。
この体一つであたしにできることをやるだけさ。
そう決意し、反撃の為の一歩を踏み出すと……。

エミリーだ。
あのふんわりとしたブロンドのツインテールを見紛うはずがない。
立ち振る舞いこそ大和撫子を連想させる淑女だが、彼女はまだたったの13歳だ。きっと不安でたまらなかっただろう。
早いうちにエミリーを保護できたことと、気の知れた仲間と合流できたことにあたしは心底安心していた。
けど、どうやらそんなに心配することもなかったみたいだ。
なんでかって?


――だってあの子、日本刀構えてこっち見てるんだぜ……?


「お久しぶりです、ジュリアさん。さあ、いざ尋常に勝負……!」
「いや待て待て待て!おかしいだろ!」
「……?何がおかしいのですか?」

ここでは殺し合うのが規則なのではないか、とでも言いたげな様子だ。
まさかエミリーが殺し合いに乗ってしまっているとは……。
なんとかして考えを改めて貰わないと。

「よく考えてみなよ。プロデューサーが殺し合えって言うから殺し合うのか?おかしいと思わないのか?」
「だってこれは大和撫子になる為に必要なことなのでしょう?」

そんなわけないだろ!殺し合わなきゃアイドルになれないってならこっちから願い下げだよ!
何か勘違いしてるみたいだからしっかり言ってやらないとな……。

「そんなこと一言も言ってなかっただろ。あたしたち、あのバカPに騙されてるんだよ」
「ッ!仕掛け人さまが嘘を仰るはずがありません!」

ああ、そういえばこの子は意外と頑固な性格だったなぁ……。これは骨が折れそうだ。

「それに私、以前仕掛け人さまからお聞きしているんです。日本では古来より果し合いが行われていたということを。
 真剣勝負をし、最後に勝ち残った者こそが真の大和撫子……。仕掛け人さまはそう仰りたいに違いありません。
 この催しはいわば古式に則った、大和撫子になるための最後の試練……!」
「試練って……。あのなぁエミリー、人を殺すようなヤツが大和撫子になれると思うか?」
「仕掛け人さまはいつも私たちを正しい方へ導いてくれました!仕掛け人さまの成すことに間違いはありません!」

ダメだ。すっかりプロデューサーを盲信し切っている。
この極限状況下で何かにすがりたい気持ちは痛いほどわかるが、今回ばかりはプロデューサーを信じちゃダメだ。

「どうやらこれ以上の話し合いは無駄なようですね。劇場の皆様を殺めるのは心が痛みますが……」

そう言うとエミリーは刀を構え直した。……もしかしなくても今かなりまずい状況じゃないか?

「我こそはエミリー・スチュアート。さあ、覚悟してください!」
「うわぁっ、待て待て!降参!降参だ!」

交渉の余地がないとわかった以上、もう形振り構ってはいられない。
こちらは丸腰なのに対し、向こうは刃物を持っているのだ。いくら素人とはいえ、どう考えてもこちらに勝ち目はない。
ならばせめて殺されずにここから立ち去ることを考えなければ!

「降参……ですか?」
「ああ、降参する!だから見逃してくれ!」

ああ、なんてカッコ悪いのだろう。だがこんなところで死ぬのは真っ平御免だ。

「わかりました。では介錯いたします」

……全然わかっていなかった。介錯なんて言葉、どこで覚えてきたんだ。
しかも恐らく意味を間違えて覚えている。介錯は止めを刺すって意味じゃないんだぞ……。

「いやぁ、ここであたしは斬らない方がいいと思うぞ?」
「……?何故ですか?」
「わからないのか?降参するヤツを斬るような卑怯者は大和撫子になれないってことさ」
「卑怯……私が……?」

かなり苦しい言い訳だが効果はあったようだ。
本来なら「仲間は殺していいが降参した人間は殺してはいけない」なんて支離滅裂な理屈はまかり通るはずがない。
だが今のエミリーはその判別がつかないほどに平静さを欠いているように見える。
そこに付け入る隙があると睨んだあたしは一方的にまくし立てる。

「ああそうさ。無抵抗の人間に一方的に襲い掛かるなんて大和撫子のすることじゃあない。
 そんな汚い手を使って勝ち残ったとして、果たしてプロデューサーは認めてくれるかな?」
「む……確かにジュリアさんの仰る通りです」

なかなか好感触だ。これはひょっとするとひょっとするのか?

「ですが仕掛け人さまはこう仰っていました。『最後の一人になるまで殺し合え』と。やはり介錯が必要なのでは……?」
「え?あー、だ、大丈夫だよ、多分。後でハラキリとかするだろうし……」

何が大丈夫なのだろうか。我ながら滅茶苦茶だ……。
もしエミリーが介錯の意味を正しく理解していたなら、あたしは今ここで辞世の句を読むことになっていただろう。
論理の整合性などということは頭になく、今は生き延びることしか考えられなかった。

「と、とにかく!降参した以上勝負は終わりだ。あんたの勝ちだよ、エミリー」
「なんだか腑に落ちませんが……わかりました。ここは見逃して差し上げます」

どうやら命だけは助かったようだ。エミリーの気が変わらない内に行動しなければ。

「サンキュー、エミリー!じゃああたしはそろそろ失礼するよ。ほら、辞世の句とか考えたいし……」
「ええ、お気をつけて。といっても、これから死を覚悟している方にかける言葉としては不適切かもしれませんね……」
「あはは、そうかもな……。あ、くれぐれも降参したヤツは斬っちゃダメだからな!じゃあなエミリー!頑張れよ!」


「た、助かった……!」

生きた心地がしなかった。
もし一歩間違えばあたしはあの鋭利な日本刀で体を両断されていたのだ。
今まで遠く果てない存在だった「死」というものを初めて身近に感じてしまった。
エミリーが遠く見えなくなったというのに未だ心臓が激しく脈動している。

そして知ってしまった。知りたくなかった。
エミリーのような小さな子でさえ殺し合いに乗ってしまっていることを。
固く結ばれた劇場の仲間たちの絆はこうもあっさりと崩壊してしまうことを。

もしかしたら他の皆も既に……。
もはや一刻の猶予もないのかもしれない。すぐに皆のいる所に向かわなければ。
だが、今のあたしに何ができるのだろう。
道を違えた13歳の少女を正しく導いてやることすらできずおめおめと逃げ出したあたしに……。

「……考えてても仕方ない。とにかく皆を探さなきゃ」

そうだ、何ができるかなんて今は問題じゃない。
今こうして燻っている間にも誰かが殺されかけているかもしれないのだ。
エミリーのように殺し合いに乗ってしまった者がいるならば、あたしと同じくこの殺し合いを否定しているヤツも必ずいる。
あたし一人では何もできなくとも、同じ志を持つ仲間が集まればきっと……。

「絶対にこのふざけたイベントを止めてやる。待ってろよバカP、あたしのロック、見せてやるよ!」


【一日目/朝/G-1】

【ジュリア】
[状態]健康、精神的疲労
[装備] なし
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:仲間を集めて殺し合いを止める。
1:とにかくまずは人を探す。
2:エミリーには人を殺して欲しくない。一応念を押しておいたけど……。
3:バカ昴や翼は特に心配だ。早く見つけてやらなきゃな。


   ◆   ◆   ◆


「……行きましたか」

ジュリアさんの方便は恐らく、その場しのぎの出任せだろうということには薄々感づいていました。
では何故見逃したのか。それは卑怯だと言われたことが胸に引っかかったから……。
情け無用の殺伐としたこの試練の中でも、誰かに異議を唱えられるようなことはしたくありません。
私は正々堂々と決闘で皆様を打ち負かし、「私こそ真の大和撫子だ」と胸を張って言える人でありたい。

清く正しく美しく。それこそが理想の大和撫子なのだから。

今までお世話になった皆様を斬ることに抵抗がないわけではありません。
ですがこれも私の夢の為、そして何よりも大切な仕掛け人さまの為……。
今回はあっさりと撃退することができましたが、次も上手くいくとは限りません。もっと身を引き締めなければ……。

「どうか見守っていてくださいね、仕掛け人さま。必ずやこの戦いに勝ち残り、至高の大和撫子になって見せます」


【一日目/朝/G-1】

【エミリー・スチュアート】
[状態]健康
[装備] 日本刀
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:果し合いで仲間を倒し、至高の大和撫子になる。
1:次の相手を探しましょう。
2:降参した相手は斬らないよう申し付けられましたが……。

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