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かわらないもの

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かわらないもの

正しい価値観とはなんだろうか。
例えば、殺し合いをしろと言われたとする。
許せないと逆らうのが正しいのか。
死にたくないと殺し合いに乗るのが正しいのか。
どうしようもないと諦めるのが正しいのか。

どれが正しいかなど、一概には言えないだろう。
実際、何が正しいなどわからなかったのだから。
というより、正しい価値観などないのかもしれない。


少なくとも、大事なものが自分には欠けていたのだから。
それをわかろうともしなかったのだから。



◆        ◆        ◆



目の前には、そこにあるのには似つかわしくないものだった。
陸上にあったのは海賊船……船体は地面に埋まっていて安定はしている。
だが、少なくともこれを取り出して海に出るなど出来そうもない。

「……」

そもそも、この船を動かせたとしてそれをプロデューサーは見逃すのだろうか。
いや、見逃すわけがない。
私たちは今、捕らわれているのだから。

この、首輪によって。
自由に動けるには動けるが、不自由が生じる。
不自由の自由、とはこういうのを体現するのだろう。
一歩間違えれば、命が尽きてしまう。

(本当なら、怖いとも思っていなかったはずなのに)

自分はすでに、命を捨てようと思っていた。
それを、一人の手によって崩されたのだ。
その行動だけでなく、意思さえも。
現に自分はこの場で生きようと足掻いている。

生きた証を残せる手段が手元に戻ったとして、死んでもいいとは思えないだろう。
一緒に基礎を築いていった765プロのメンバーも。
シアターを開始すると言った際に入ってきた新人の人も。
勿論、プロデューサーも。
皆と一緒に帰りたいと思ってしまったのだから。
それがほぼ不可能だとわかっていても、追ってしまう。


ふと、考える。
もし自分が歌のことしか考えていないときに、こういうことになっていたらどうなっていたのか。
少なくとも、今見たく足掻こうとは思っていなかっただろう。
それか、最悪自分が他の人を殺しに回っていたかもしれない。

(……変わってしまったわね。 良くも、悪くも)

少なくとも、他人に対して気を使えるようにはなった。
それと同時に、何かひとつに対しての執着を失った。
いや、失ったわけでは、ないはずだ。
今でも歌は自分を支える大きな部分だ。
だが、そこに他の人が入り込んできただけだ。

それが、仲間。

それが、プロデューサー。

例え何が起きたとして、その事実だけは変わりないのだ。
そうなって、今があるのだから。
今の自分を創った皆と、生きたい。
トップアイドルの高みへと、行きたい。

ただ、今はそれだけを願っていた。



◆        ◆        ◆



「千早ー、動かせそうだった?」
「最初の予想通り、動かせそうにないわ。
 少なくとも船体が地面に埋まっている時点で期待はできないもの」

時間が過ぎ、今は甲板で二人で話をしていた。
恵美はこの船の中に何かがないかの調査を。
千早はこの船を動かす方法などがないかの調査を。
実際、千早は早々に無理と割り切って調べるのをやめていたが。
そんなことを恵美が知るわけもなく、船内を調べ上げたその纏めを言い上げていく。

金ぴかの財宝のようなものはあるが、他には何もない。
武器や情報などもないのか調べたそうだが、成果は上がらなかったそうだ。
せいぜい役に立ちそうなものは保存庫にあった干し肉くらいだろう。
他にもなぜかワインなどがあったが、千早も恵美も酒が飲める年齢ではない。

結果として時間と引き換えに手に入れたものは食料のみという話だった。
強いて言うのであれば、海賊船にこれ以上探せそうなものはない、くらいの情報が得れただけ。
結局は何も得れていないのと同等である。

「ま、仕方ないかな……支給品のほうも強い武器なんてなかったしさ、千早は?」

そう言われ、支給されたバッグを見る。
だが、少しだけ黙り込んでしまう。
あまりどころが、完全にハズレだったからだ。

「ただの、プラスチックのスティックよ……何に使えそうもないわ」

そう、千早が確認して出てきたのは黒色のプラスチックだった。
それも手のひらに包めるくらいの小ささだった。
これが武器として使えるわけでもなく、情報をもたらすわけでもない。
こんなただのスティック1本で何ができるのだ。

「うーん……そんじゃここら辺じゃ手詰まりかなー……誰か他の人と会えれば違うんだけど」

実は殺し合いが開始されてから開始から2時間以上経っているはずなのに、誰とも会えていない。
自分たちで見つけられる情報などたかが知れている。
だからこそ他の人との協力が必要、なのだがそれができていない。

「……まぁいいか。 行こう、千早」
「――――はい」

その事実は千早に精神的に焦りを生まれさせていた。
だが、千早にはかすかな違和感を感じ取った。
所恵美も、何か焦っているような感じがすると。
判断したのは声色くらいだから断定はできない。

いや、声色でしかわからなかったのだろう。
恵美は気丈に振舞っているが、焦っている気がする。
隠そうとしている所で声色に出たのだろう。

(……いいや、信じるしか、ないかしら)

だが、結局は何もできない。
恵美に対し何かを言っても、丸め込まれるだろう。
恵美を心配しても、やんわりと避けられるだろう。
だから、自分ができることは、追い詰められていかないようにするだけだ。


結局は、何も起きないようにと祈るしかなかった。


それが、かわらない『彼女』の弱さだった。


【一日目/午前/H-5 海賊船】


如月千早
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]支給品一式、プラスチックのスティック
[思考・行動]
基本:最後まで諦めない。皆で脱出する。
1:仲間と合流するため、恵美と共に行動。


【所恵美】
[状態]健康
[装備]灰皿
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:最後まで諦めない。皆で脱出する。
1:仲間と合流するため、千早と共に行動。
2:自身に疑問と、嫌悪。

【プラスチックのスティック】
如月千早に支給。
手のひらサイズの黒色のプラスチックスティック。
千早はこれを見てすぐに見なかったことにした。

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