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第18話

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第18話

 ぬいぐるみが無いので仕方なく本来の姿を維持しているくぴぴと、バトミントンを楽しんでいたリオが突然に動きを止めた。
「…ディス…」
 うわ言の様に、たわ言の様に、今は亡き者の名を呟く。
「えい! それ! くぴぴだってアターックだじょ! …ってあれ? リオ?」
 その様子に気付いたくぴぴが、ラケットを振りかぶって、そのまま静止した。打ち返されるはずだった羽がポツリと地に落ちる。
「ディスが…死んだ…」
「人生で一度くらいそんな日もあるじょ」
「人間は…うちらと違う…もう…起きない…喋らない動かない冷たくなって冷たくなっていじめることもできなくなる」
「ディスの死に関して、くぴぴはあいつの魔力も他の龍の魔力も感じなかったじょ。つまり寿命だじょ。ぬいぐるみは他の人に買ってもらうじょ」
 死ぬことの無い龍は、人間と深く関わろうとしない龍は、その死についてさほど気にはしない。くぴぴが気にするのは、その死の近くにあいつが居るか否か。ただそれだけだ。
「くぴごん」
「嫌だじょ」
「まだ何も言ってないし」
「リオのお願いは基本的にろくでもない事か命を危険に晒す事か大怪我しそうな事かつまらない事か、とにかく聞かない方が良いってエースって人がぼやいてるのを聞いたじょ」
「…いつ?」
「この前ぬいぐるみのくぴぴをテーブルの上に置き去りにした時だじょ」
「エース…後でシメる」
 ぐっと拳を握る。
「それにリオが何を言いたいか、なんてあいつでなくても策士でなくても予想できるじょ。『ディスを蘇生させて』だじょ。やっぱろくでもないじょ」
「だめ?」
「だめだじょ」
「どうしても?」
「どうしてもだじょ。一切の龍が関わってないってことは寿命だじょ。そんなのは、くぴぴの知ったことじゃないじょ」
 しばらくの、沈黙。さして重くもなく。しかしながら軽いわけでもない。そんな微妙な沈黙。
 その沈黙を打破したのは、リオ。
 打破した方法は、その魔力の開放。
「ディスが居ない世界ならいらない」
 くぴぴを睨む。鋭く。悲しく。切なく。虚しく。
「落ち着くじょ。さすがにこんな事で暴れたら討伐されるじょ」
「だから、なに?」
「討伐されたら封印されるじょ」
「だから、なに?」
「あうー。封印されたら数千年不自由だじょ」
「だから、なに?」
「あうあうあうー。超絶我がままっぷり発揮だじょ。リオはあいつと本当によく似てるじょ。きっと根本的な部分が同じなんだじょ。魔王リオと不思議ちゃんリュカでも問題ないじょ。鏡みたいなもんだじょ。でも不思議な事にあいつはリオを、リオはあいつを、嫌ってるじょ。同属嫌悪ってやつだじょ、たぶん」
 握り締めたままのラケットをブンブン振りながらくぴぴが力説する。論点はかなりずれているが。
「ディスが居ないなら討伐されても封印されても不自由でもあいつと同じでもこんな世界、いらないったら、いらない」
 リオは今にも、暴れだしそうな雰囲気。魔力全開完全戦闘モード。
「…リオ…」
 くぴぴがあきらめた様に、ため息を吐き出す。
「今回だけだじょ…」
 実際、あきらめたのだろう。何を言っても無駄だと。この雷鳴の龍は、たった一人の人間しか見ていない。

 シャナンは普通も普通にドアから入ってきた。ノックはしなかったが。
「無用心だな兄貴。こんな安宿で作戦会議か?」
「姫が起きるまで時間潰してるだけだよ。コロシアムで待ってるんじゃなかったのかな?」
 椅子にもたれ掛かったまま、天井を見上げたまま、特に何の感情も込めず、ミラクルは問う
 シャナンの登場にすら、特に驚きはしなかった。昔から短気だったし、想定内と言えば想定内の出来事だ。闇商会がどれほどの情報網を持っているのか知らないが、こんな安宿、すぐに突き止められるだろうし。
「ふん。あくまで知らん振りか。まぁいいさ。ともかくこれで兄貴の下らない策も時間稼ぎも無意味だってことだ」
 シャナンがドアにもたれ掛かり、腕を組む。
「別に策なんて弄してないんだけどねぇ、それって勘違い♪ あは♪」
「策があろうとなかろうと、同じことを言うくせに」
「そう思うなら言わなきゃいいのに」
 ため息を吐き出しながらシャナンを見つめる。弟。大好きだった弟。これから殺すであろう弟。
「一つ、そうだね、たった一つだ、答えてもらうよシャナン。なんでうちを殺そうとするの? あんなに仲良しこよしの兄弟だったじゃないか」
 仲良しこよし。ミラクルのいたずらをシャナンのせいにすること約百三十回。シャナンを言いくるめてお菓子やらご飯のおかずやら奪い取った回数、計測不能。シャナンを餌にボランボランを釣ろう未遂五回。その他もろもろ、毎日あんなに笑い合っていたのに。
 そんなシャナンは十五歳になった時にグレて家を飛び出した。一体何が原因だったのだろうか。少なくても、ミラクルに心当たりはない。
「仲良しこよしだと? ふざけているのか? …いや、まぁ良い。答えてやろう兄貴。くそったれの兄貴。兄貴を殺して俺が政権を取るためさ」
 ダイダ・ロス帝国植民地アグス。一年前に龍殺しの英雄となった旧アグス王家の血を引くミラクルが、現在の正規軍を率いて独立宣言。意外にもダイダ・ロス帝国皇帝はその独立を認めた。龍殺しの名誉がどれほどのものか、これで理解できるというもの。
 そしてそのまま政権中枢…国王としてミラクルが居座った。誰も文句は言わなかった。それもそうだ。英雄で、王家の血を引いている。文句など出るはずもない。
 シャナンもまた、旧アグス王家の血を引いていることになる。政権交代は、不可能ではない。
「なぁに、簡単さ、兄貴を殺した後で、兄貴の龍殺しの嘘を暴き、俺が旧王家の血を引く者だと言えばいい。根回しはすでに済んでいる」
 竜殺しの嘘。その言葉に、ミラクルは、動揺した。さっきあの災厄に暴かれて、ここでもまた、秘密を知る者が現れた。今日は厄日だ。間違いない。心の中で呟く。
「そして政権を取った後、俺はアレを利用して世界を取る」
 あっさり普通にそれができるかのようにそれが当たり前の様に何の迷いもなく何のためらいもなく一切の冗談を含まず、シャナンは言い切った。アレを利用すると。
 アレの存在を知っていて、アレを利用すると言った。
 なぜ知っていて、どうやって利用するのか。
 いかなる手段を用いてでも、聞き出す必要があった。

to be continued

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  • リオ銭湯モード!(マテ! -- ハジャ
  • リオ萌え〜♪ 銭湯♪銭湯♪ -- 葉奏
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