◇ ◇ ◇




どうしよう、どうしよう、どうしよう――
小鳥遊の頭の中を、そんな思考だけがぐるぐると回転する。
佐山の姿が消えた直後、廊下に響き渡った数発の銃声。
そして何とも形容しがたい異様な音。
ここまで材料が揃っては、動揺しないほうがおかしいというものだ。

蒼星石ちゃん、佐山くん、吉良さん……」

小鳥遊はごく普通の学生である。
銃声はテレビなどで聞いたことがある程度で、実際に耳にしたのは初めての経験だ。
ましてやそれが一階と二階のどちらで鳴り響いたものなのか、判別などつくはずもない。
同様に、冷静な対応など望めないのもむべなるかな。
廊下の奥の角から、背の高い人影がゆらりと身を晒す。
佐山が戻ってきたのかという小鳥遊の淡い期待は、一瞬で打ち砕かれてしまう。
ゾロと初めて会ったとき、小鳥遊は彼のことを不良のようだと思った。
ならばあの男はどう形容するべきか。
白くて奇妙な髪型に、衣服と呼べるのかすら怪しい装束。
横顔だけでも、その危険さがありありと見て取れる。
男の視線が小鳥遊のいる方向へとゆっくりと動く。

「……っ!」


小鳥遊がとった行動は、もはや本能の領域であった。
即ち、逃走。
獏をデイパックに非難させ、目の前に開いた地下への入り口に飛び込み、後ろ手に扉を閉める。
大きな音を立てたら気付かれてしまうだとか、行き止まりだったら逃げられなくなるだとか、
そんな細かいことに気を配る余裕など、今の小鳥遊には微塵も無い。
真っ暗な階段を転がるように降りていく。
足をもつれさせて本当に転げ落ちなかったのは奇跡も同然だ。
辺りに光源はないが、暗さは階段の上よりもだいぶマシになっている。
理由はすぐに分かった。
前方へずっと進んだ先から、白い光が注ぎ込んできているのだ。
小鳥遊に迷う余地はない。
薄暗い通路を必死になって走り抜け、開けた場所へと飛び出した。
高い天井に燦然と輝く照明灯。
床の左右に彫られた深く広い溝と、その先に続くトンネルのような道。
混乱した頭でも、ここがどこなのか理解するのは容易かった。

「駅……地下鉄の駅だ……」

突然、逃げてきた方向から金属の拉げる轟音が響いた。
小鳥遊はびくりと身を震わせ、きょろきょろと辺りを見渡した。
今のはきっと階段の扉が壊された音だ。
だとすると、さっきの男はすぐに追いついてくるに違いない。
そのとき、小鳥遊は微細な地鳴りが遠くから迫ってくるのを感じた。

「電車!?」

甲高いブレーキ音を立てながら、五両立ての地下鉄がホームに停車する。
ホームがあれば地下鉄も来る。
それ自体は決して不思議なことではない。
地上では普通に電車が運行していたくらいなのだから。
陳腐なデザインの鋼鉄の筐は、小鳥遊にとっては救いの手にしか思えなかった。
こんな絶妙なタイミングで、危険からあっという間に逃げられるモノがやってきたのだ。
それに縋らない理由など、今の彼にはひとつも思い浮かばない。
小鳥遊は車両に飛び込むや否や、外から見えないようにしゃがみ込んだ。
呼吸をしたら気付かれそうな気がして、息すらまともに吸えなかった。
数分間の停車時間が、まるで永遠のように感じられた。
空気の抜けるような音がして扉が閉まる。
がたん、ごとんと揺れながら、列車はホームを離れていく。
助かった――
小鳥遊は床に腕を突き、長々と息を吐いた。


「残念だったな、クソ餓鬼」


心臓が止まるというのはこういう感覚のことを言うのだろう。
左の胸がズグンと痛み、全身を怖気が走り抜ける。

「あ……」

小鳥遊はゆっくりと振り返る。
何かに操られているかのように。

「ああ……」

見たくもないのに振り返ってしまう。
見たくもないものがそこに在ると分かりきっているのに。

「そんな……」


一瞬だけ、廊下の向こうに見えた姿。
両手に提げた二挺の銃。
小鳥遊にだってそれと分かる、濃厚な血の臭い。
見抜かれていたのだ。気付かれていたのだ。
冷静に見れば、なんという浅はかな考えだったのか。
わざわざ扉を壊したということは、明確な意図をもって小鳥遊を追いかけていたということだ。
当然、すぐに階段を降りてきただろうし、地下鉄のブレーキ音も聞こえたはずだ。
それで小鳥遊がホームにいなければ、車内に逃げ込んだという以外の可能性は、ない。
客観的に見れば滑稽極まりないだろう。
迫る脅威から逃げているつもりが、自ら窮地に駆け込んでいたのだから。
男の足が、小鳥遊の身体をサッカーボールのように蹴る。
比喩ではなく本当に小鳥遊は浮き上がり、車両の中央から連結部付近まで転がった。

「……っ! ……!!」

痛すぎると声も出ない。呼吸すらままならない。
小鳥遊は床に転がったまま、自分を殺そうとする男を虚ろな目で見ていた。
男が右手に持った銃を構える。
小鳥遊を殺すのに両方の銃を使う必要はないと考えたのだろう。
太い指がトリガーに触れた瞬間、男が急に顔を逸らす。
視線の先は暗い窓。
何も存在しないはずの暗闇を、男は殺気に満ちた顔で睨みつけた。

「野郎……!」

やがて小鳥遊にも聞こえてくる。
がたんごとんという列車の振動音に混ざった、ずっと短いペースの振動が。

「――――しょぉぉぉぉぉおおおお撃のおおおおおおっ!!」

ドップラー効果を逆送する怒涛の咆哮。
男が窓に銃を向け、トリガーを引き絞る。
超音速の弾丸が窓を砕くと同時に、それよりも高い位置の壁が爆砕した。

「ファァァァァアアアストォ! ブリッドォォォォォッ!!」

その瞬間、小鳥遊は確かに目にした。
高速で走る地下鉄に己の脚で追いついて、あまつさえ強烈な蹴りを叩き込んだ男の姿を。

「チッ!」

刺青の男――ラズロは小鳥遊のいる側へ跳び、サングラスの男――ストレイト・クーガーの一撃を回避した。
その隙を突くように、クーガーの背中から"何か"が離れ、ラズロに向かって走り出す。
奇を衒った突貫ではあるが、ラズロの超人的な感覚の前では遅過ぎた。
ラズロは僅かに身を逸らして、その"何か"を回避する。

「その腕、使わせて頂くよ」
「何ィ――」


交錯の瞬間、"何か"の右手がラズロの左腕に触れる。
たったそれだけで、ラズロの左腕が根元から抜けていく。
クーガーの背から降り立った"何か"――それは隻腕の佐山・御言
佐山はラズロがクーガーに注意を向けた隙を突き、ラズロの左腕を奪い去っていた。
腕力で毟り取ったのでなければ、刃物で切断したのでもない。
ラズロの腕は、最初からそう取り外せるものだったかのように、あっさりと奪われたのだ。
断面は傷にすらなっておらず、出血どころか蚊に刺されたほどの痛みもない。

「こっちだ、小鳥遊君」
「え、ええっ!?」

佐山は駆け出した勢いそのままに、混乱する小鳥遊を引っ張って隣接車両へと駆けていく。
無論やすやすとそれを許すラズロではない。
トリガーに掛けた指に力を込め、振り向くと同時に二人纏めて撃ち殺さんとする。

「させるかぁ!」

頭部を狙って繰り出された回し蹴りを紙一重でかわし、至近距離からクーガーに弾を放つ。
しかし銃弾はシートだけに穴を開け、肝心のクーガーはいつの間にか間合いを元に戻していた。
AA弾を装填していたソードカトラスは、左腕を奪われた弾みで手から落ち、車両の隅に転がっている。
残されているのは右手に持った通常弾頭のソードカトラスのみだ。

「また手前ぇか、ストレイト・クーガー……。
 分かってんだろうな? まずは手前ぇをぶっ殺す。次はあの餓鬼共だ」

ラズロは背中のアームに続いて左腕まで奪われた苛立ちを、殺気としてクーガーに向けた。
そんなラズロの怒りを無視し、クーガーはサングラスを指で押し上げる。

「聞きたいことがある。駅の死体……お前だな」
「なんだ、あれもお前の身内か?」

サングラスの向こうでクーガーの目つきが険しくなる。
聞き咎めたのは『あれも』という表現。
この男は、以前にもクーガーの身内と断定しうる誰かを手に掛けたということだ。
思い当たる該当者など、一人しかいない。
クーガーから問い質すまでもなく、ラズロは勝手に言葉を続けた。

「あんときは気付かなかったけどよ、アイツもオマエと同じ服を着てたな。
 なんつったかな、人形のほう……ゼツエイだったかなぁ!!」

言うが速いか、視認の限界を超えた速度でソードカトラスを連射。
一発ごとの位置を巧みに配置し、潜り抜けるという対処を封殺する。
以前見せたように蹴りで弾を弾こうものなら、そこへ火線を集中させる。
地下鉄の車両という限定された空間は、クーガーの速さを無価値なものに引き摺り下ろしてしまう。
相手が常人であれば、そんなことにはならなかっただろう。
しかし対峙するはトリップ・オブ・デス。
その足枷はあまりにも致命的だった。


故に、クーガーは跳んだ。
前にではなく、己が吹き飛ばした外装の穴へと。


一瞬遅れて嵐のような弾幕が車内を破壊する。
ラズロはクーガーの跳躍を見るや、即座にもう一挺のソードカトラスを拾い上げた。

クーガーはトンネル内の空中で体勢を整え、レール横に脚を突いた。
凄まじい相対速度が接地面に掛かり、爆発的な摩擦熱が火花となって過熱する。

通常弾頭の方をベルトに収め、先の銃撃で撃ち砕いた窓へ駆ける。
車外へ身を晒すその瞬間、ソードカトラスのトリガーを引く。

真横を疾走する車両。
クーガーは減速もそこそこに地面を蹴り、最後尾車両の運転席の壁を蹴破った。

AA弾がトンネルの壁を抉り消す。
だがそれより先に、クーガーは車内へと復帰していた。
軽やかに仕切りを飛び越えて、質素な運転席へと腰を据える。
その口元が獰猛に歪んだ。

「ラディカル・グッドスピード!!」

クーガーの宣言を皮切りに、最後尾車両の外装が細かな粒子と化して消え失せる。
更にその前方、その更に前方の外壁も消失し、ラズロの目と鼻の先でもトンネルの壁が露わになる。

「何のつもりだ、クソ野郎!」

激昂するラズロの間近で、ラズロのいる車両とその前を繋ぐ連結器が消失した。

「俺のアルター能力は!」

分解された外装が再び終結し、新たな車体を形作る。
メタリックパープルに彩られたエキセントリックな外見は、クーガーの脚を覆うアルターと良く似た意匠だ。

「ありとあらゆるものを速く走らせること! 地下鉄とて例外ではなぁい!」

アルター化させられた車両の発動機が激しく唸りを上げる。
南を目指す進路に沿って回転していた車輪が、全て同時に逆回転。
減速、停止、そして加速。
摩擦熱でレールを削り、熔解した鉄の飛沫を撒き散らしながら、ラディカル・グッドスピードが爆走する。

「何だコリャ……」

ラズロは思わず絶句した。
クーガーのアルターとなった車両は、もはや人間を乗せていいレベルのではなくなっている。
身体の弱い人間なら振動だけでショック死してもおかしくない。
当然だがラズロにとっては深刻な影響になどならず、バランスを崩してしまうこともない。
しかしこの変貌ぶりはちょっとした驚きだった。

「面白れぇ……けどよ、この程度じゃあな!」

即座にAA弾を三連射。
一発目が三両目の壁に当たり、二両目との仕切りを崩す。
そこを抜けた二発目が、同様に二両目と一両目を繋げていく。
コンマ数秒の間も置かず、三発目が運転席を消し飛ばした。

だが、ラズロは見た。
運転席の窓から再び車外へ身を躍らせる、クーガーの姿を。

「その弾のことは聞いてるぜ……!」

宙で身を翻し、トンネルの壁を両脚で打つ。
更に踵のピストンが威力を増幅。

「ヒール・アンド・トゥ!」

脚部を覆うアルターが、アルターと化した列車を打ち据える。
その衝撃で一両目の車輪が線路より脱輪。
連鎖的に三両全てが安定を失い、加速し尽くしたスピードのまま、嘘のように宙を舞った。


   ◇ ◇ ◇


先頭車両まで逃げ込んだ佐山と小鳥遊は、後方からの死角にあたる、運転席横のスペースに身を隠していた。
予想通りというべきか、運転席には誰も座っていない。
小鳥遊は一通り呼吸を整えた後で、ようやく佐山の腕の異常に気が付いた。

「佐山くん、腕が……!」

佐山の左腕は根元からごっそりと失われていた。
しかし出血はおろか、痛がっている様子すら見られない。

「ああ、これか。少々深手だったからね。いっそ肩から先を外してみた」
「外したって……」

絶句する小鳥遊に佐山は残った右手を見せた。
手にはゴム手袋のようなものが嵌められているだけで、特別なものは何一つ見当たらない。
小鳥遊が首を傾げて見せると、佐山は床に置いていた"戦利品"をその右手で拾い上げた。
佐山達を襲った、刺青の男の左腕だ。

「"つけかえ手ぶくろ"というものらしい。ただのハズレ品かと思っていたが、やはり解説はしっかり読むべきだね。
 これをつけて人体の一部を掴めば、その部位を簡単に取り外し、また付け替えることができるそうだ。
 外すほうは試したが、付けてみるほうはまだ未体験だよ」

小鳥遊はとてもではないが信じられないといった様子だが、佐山の行動は淡々としていた。
奪い取った腕を様々な方向から観察し、付け根付近の切断面を確認する。
そして、腕の切断面を自分の肩へと押し当てた。

「……どう?」
「看板に偽りはないようだ」

左手が拳を作り、そして開かれる。
佐山はそうしてしばらく腕を動かし続け、やがて満足したように頷いた。

「動かしている分には、違和感は全くない。外観の相違にはこの際目を瞑るとしよう」

刺青の男から奪った左腕は、人体の一部とは思えないほど鍛え込まれている。
それに、肉質だけでなく長さや皮膚の色もわずかに違うのだ。
佐山自身の腕と比べるとどうしても違和感が生じてしまう。
しかしそれくらいなら、片腕の喪失と天秤に掛けて傾くものではない。

「気にならないならいいんだけど……そうだ、蒼星石ちゃん達は?
 大丈夫かなぁ、心配だなぁ……」
「…………」

佐山は口を閉ざした。
本人としては、何気なく話題を変えたつもりだったのだろう。
その先に残酷な事実が待っているとも知らずに。




【H-5地下・地下鉄車内/一日目 昼】
【佐山・御言@終わりのクロニクル】
[状態]:健康、左腕欠損(リヴィオの左腕を移植)
[装備]:とりかえ手ぶくろ@ドラえもん
[道具]:基本支給品一式、空気クレヨン@ドラえもん
[思考・状況]
1:蒼星石と吉良について話すべきか考える。
2:新庄くんと合流する。
3:協力者を募る。
4:本気を出す。
※ポケベルにより黎明途中までの死亡者と殺害者を知りました。
※小鳥遊が女装させられていた過去を知りました。
※会場内に迷宮がある、という推測を立てています。
※リヴィオの腕を結合したことによる影響の有無は不明です。
※蒼星石と吉良が既に死亡していることを知りました。

小鳥遊宗太@WORKING!!】
[状態]:健康、腹部に痛み
[装備]:秘剣”電光丸”@ドラえもん
[道具]:基本支給品一式、獏@終わりのクロニクル
[思考・状況]
1:蒼星石と吉良について尋ねる。
2:佐山たちと行動する。
3:伊波まひるを一刻も早く確保する。
4:ゲームに乗るつもりはない。
※ポケベルにより黎明途中までの死亡者と殺害者を知りました。
※過去で新庄の顔を知りました。
※獏の制限により、過去を見る時間は3分と長くなっています。



【つけかえ手ぶくろ@ドラえもん】
人体のパーツを自在に付け替えることが出来るようになる手袋。
外見はゴム手袋に何となく似ている。
パーツを取られても痛みやダメージを受けることは一切ない。
また、取ったパーツは本来あるべき位置だけでなく、好きなところにつけることが可能。
どこにつけても機能を発揮する。
ドラえもんの目を取ったりしていたので、ロボットにも有効らしい。
ただし制限として、頭と胴体を分離させることは出来ないとする。



   ◇ ◇ ◇


柱に背を預けて、美琴はコンクリートの床に腰を下ろしていた。
階段を降りた先は妙に広く、そして明るい空間だった。
美琴はこの場所に何となく見覚えがある気がしたが、思い出そうとするのも億劫だ。

「――――よォ、ってこりゃ二度目だな」

美琴が座る柱の横に、ラッドが腕を突いた。
俯瞰的な視点からすれば、もはや驚くべきことでもないのだろう。
ラッドは美琴に触れて不意打ちの電撃を浴びたものの、当然のように絶命には至っていなかった。
暴走によって発生した電流である以上、攻撃のため放った電撃と比べて威力が劣るのは当然だ。
加えて、今のラッドには不死者と化したことによる再生力が付加されている。
少々昏倒してしまった程度で、重大なダメージは最初から与えられていないのだ。

「ちっとばかり気を失ってたみたいでよ。ああ、こりゃ追いつけねぇなって思ったわけだ。
 ところがだぜ? 歩き回ってるうちにスゲー音が聞こえてきたわけさ。
 俺が言うことじゃねぇけどよ、逃げるならもっと静かにしたほうがいいぜ」

美琴が逃げ出さないのをいいことに、ラッドは自分が美琴に追いつけた理由を饒舌に喋り続けた。
誰が見てもこの状況はチェックメイトだ。
もはや美琴に逃げ道は残されていない。
しかしラッドは、今すぐにでも殺せるはずの美琴に手を出そうとせず、値踏みするように眺めている。

「まるで『殺してください』って感じのツラだな。
 まぁ、何があったのかは知らねぇし聞くつもりもねぇ。
 遠慮なくぶっ殺させてもらうとするぜ」

ラッドはデイパックからバズーカを抜き取った。
抵抗しない子供一人を殺すには些か過剰な火力だが、素手で殺そうとして感電するのは御免だった。
現に今も、美琴は不規則に電流を放っているのだから。


――遠くから、音が聞こえる。

バズーカの砲門が美琴を捉える。
それとほぼ同時に、美琴がラッドを見上げた。

「……生きてたんだ……」
「ああそうさ。残念ながらな。
 俺もかなり驚いちゃいるんだぜ? 何せ俺には秘められた――あぁ?」

またも饒舌に語りだそうとして、ラッドは眉を顰めた。
脚を抱いて、膝に顔を埋めた美琴の表情が、殺される直前の人間とは思えないものだったからだ。

「……よかった、生きてて」
「――――?」

ラッドが何か喋ろうと口を開いた瞬間。
地獄の釜の蓋を開いたような爆音が、轟、と響き渡った。
高い天井に燦然と輝く照明灯。
床の左右に彫られた深く広い溝と、その先に続くトンネルのような道。



両脇を通過する地下鉄のレールから、メタリックパープルの車両が"飛んで"きた。



エキセントリックな車両は盛大に脱線し、柱に正面から激突する。
鉄筋コンクリートの柱が拉げ、破砕した車両の残骸が、土石流のようにラッドを飲み込む。
ちょうど柱の反対側にいた美琴もまた、至近距離で発生した莫大なエネルギーに押されてホームを転がった。
柱によって強制停止させられた一両目に追突し、後続の車両も次々と座礁する。
時計を、電光掲示を、時刻表を、ベンチを尽く薙ぎ払い、駅員詰所を半壊させてようやく減速。
轟音が止み、耳の痛くなるような静寂が訪れた直後、残されていた列車の面影がバラバラになって崩れ落ちた。
突如としてホームを襲った大惨事から遅れることしばし。
列車が飛んできた方のトンネルから、クーガーが姿を現した。

「すまねぇ、劉鳳……お前は俺が殺したようなもんだ」

悔やまれるのは最初の戦闘。
あそこでラズロを仕留めていれば、ひょっとしたら劉鳳は死なないで済んだのかもしれない。
駅の二人も死なないで済んだのかもしれない。
クーガーは制服のポケットから不思議な光を放つ石を取り出し、その輝きに意識を傾けた。
これは二人の亡骸の傍にあったものだ。
もしもあの人形が真紅の姉妹の誰かであったらと考え、せめて遺品になるものをと拾ってきたのだ。
しかしそれも、ラズロの言葉を聞いた以上は白々しい行為としか思えない。
自分がもっと速く駅に辿り着いていれば、二人とも助けられたのかもしれないのだから。
後悔に底はなく、悔やめば悔やむほど沈んでく。
だが今は悔やんでいる時間すら惜しいのだ。
クーガーは顔を上げ、眼前の光景をまっすぐ見据えた。

「けど、もうちょっとだけ待っていてくれ。すぐに俺が……のわぁ!」

今頃になってようやく美琴の存在を発見し、クーガーは大仰にのけぞった。
自分が電車を突っ込ませた現場で倒れている、傷だらけの少女。
これはどう考えてもマズ過ぎる。

「お、落ち着け、落ち着け俺!
 やっちまったか? やっちまったのか?
 この俺が復讐に我を忘れて、あんな子供を巻き込んだのか!?
 いよいよ水守さんに合わせる顔がないじゃないか……!」


落ち着けと連呼している割には一向に落ち着けていない。
そうこうしているうちに、美琴が身を起こし始めた。

「はっ……! とぅ!」

クーガーは一度の跳躍で美琴の元にまで辿り着き、そっと手を差し伸べた。
しかし、返されたのは激しいスパークだった。

「……こないで」
「あー……そりゃそうだわな」

対応に窮するクーガーの視界の隅で、崩壊した列車の残骸が同時に二箇所、音を立てて崩れた。

「ストレイト・クーガァ……。死ぬ覚悟は出来てんだろうなぁ!」
「おいおい、嬉しいじゃねぇか。殺し甲斐のありそうな奴が増えやがった! 一気に二人もだ!」

積み上がった瓦礫の上で、二人の狂人が吼えた。
どちらも総身をズタズタに引き裂かれ、にも関わらず、それらの傷が急速に治り始めている。

「やたらしぶとい上に、似たような奴が増えちまったか。厄介だな」

目の前は劉鳳の仇。
後ろには傷ついた少女。
クーガーは先ほどの動揺でズレたサングラスの位置を戻し、猛る狂人達に向き直った。





【D-4地下・地下鉄駅構内/1日目 昼】
※地下鉄の駅への入り口は、D-4、G-7ともに何らかの形で隠蔽されていました。
※他の駅の位置や具体的な路線は不明ですが、どの入り口も同様に隠蔽されていると思われます。
※ホームには列車3両分の残骸が山になっています。



【ストレイト・クーガー@スクライド】
[状態]:悲しみ、疲労(小)、左肩、右脇腹などに銃弾による傷(アルターで処置済み)、全身にダメージ(小)
[装備]:HOLY部隊制服、文化的サングラス
[道具]:支給品一式、タイム虫めがね@ドラえもん、蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
[思考・状況]
 0:女を捜す
 1:ギラーミンに逆らい、必ず倒す。そして死んでしまった人たちを生き返らせる。
 2:無常、ラズロ(リヴィオ)、ヴァッシュ、バラライカ(名前は知らない)、アーチャー(同左)水銀燈、クロコダイル、には注意する
 3:カズマとの合流。弱者の保護。
 4:ラズロ(リヴィオ)を必ず倒す。
 5:PM3時までにC-4駅に向かい。あすか、真紅と合流する。
 6:もしゲームが壊せないと分かった、その時は……?
【備考】
 ※病院の入り口のドアにヴァッシュの指名手配書が貼ってあります。
 ※ギラーミンの名前を今後間違えるつもりはありません。
 ※ヴァッシュ・ザ・スタンピードの手配書×二枚に『モヒカン男に気を付けろ byストレイト・クーガー』とメモ書きされています。
 ※通り抜けフープはバラライカの能力であると思っています。
 ※参加者によっては時間軸が異なる事を知りました。
 ※佐山よりラズロが持つ特殊な弾丸(AA弾)の存在と効果について聞きました。


リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]健康。ラズロ状態。全身裂傷(治療中)、内臓にダメージ(治癒中)、左足負傷(治癒中)、左腕欠損(治療中?)背中のロボットアーム故障
[装備]M94FAカスタム・ソードカトラス×2@BLACK LAGOON、.45口径弾×14、.45口径エンジェルアーム弾頭弾×13@トライガン・マキシマム
[道具]支給品一式×5、
    スチェッキン・フル・オートマチック・ピストル(残弾15発)@BLACK LAGOON、スチェッキンの予備弾創×1(20発)、
    神威の車輪@Fate/Zero、ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険、.45口径弾24発装填済みマガジン×3、45口径弾×24(未装填)
    天候棒(クリマ・タクト)@ワンピース、不明支給品0~1
[思考・状況]
 0:まずはクーガーを殺す。
 1:片っ端から皆殺し。
 2:ヴァッシュとウルフウッドを見つけたら絶対殺す。あとクーガーとゾロも。
 3:機を見て首輪をどうにかする。
 4:ギラーミンも殺す。
【備考】
 ※原作10巻第3話「急転」終了後からの参戦です。
 ※ニューナンブM60(残弾4/5)、GPS、チックの鋏@バッカーノ! はAA弾頭の一撃で消滅しました
 ※とりかえ手ぶくろによって左腕を肩口から奪われました。再生するかどうかは不明です。




御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
【状態】:疲労(大)  全身打撲(小) 自分への強い嫌悪感 軽い暴走状態 大きな喪失感 精神不安定
【装備】:なし
【道具】:コイン入りの袋(残り98枚)
【思考・状況】
 基本行動方針:脱出狙い?
0:もう誰とも会いたくない。
1:誰にも近付いて欲しくない。
2:切嗣を見捨てたことを後悔。
3:上条当麻に対する感情への困惑。
4:ラッドを殺さなかったことへの安堵。
5:自分が素性を喋ったことに対して疑問(暗示には気づいていません)
【備考】
 ※ 参加者が別世界の人間とは知りません(切嗣含む)
 ※ 会場がループしていると知りました。
 ※ 切嗣の暗示、催眠等の魔術はもう効きません。



ラッド・ルッソ@BACCANO!】
[状態]:全身裂傷(中)、腹部に傷(中)、顎の骨にヒビ、全て再生中 不死者化
[装備]:ワイパーのバズーカ@ワンピース、風貝@ワンピース
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
 1:あのギラーミンとかいう糞野郎をぶっ殺す。
 2:そのためにこの会場にいるやつを全員殺す。とにかく殺す。
 3:ここにいる連中も殺す。
 4:ギラーミンが言っていた『決して死ぬ事のない不死の身体を持つ者』(不死者)は絶対に殺す。
 5:宇宙人(ミュウツー)は出来れば最後の最後で殺す。
 6:左腕が刀になる女(ブレンヒルト)も見付けたら殺す。 詩音はまあどうでもいい。
 7:ギラーミンが言っていた『人間台風の異名を持つ者』、『幻想殺しの能力を持つ者』、『概念という名の武装を施し戦闘力に変える者』、『三刀流という独特な構えで世界一の剣豪を目指す者』に興味あり。
【備考】
 ※麦わらの男(ルフィ)、獣耳の少女(エルルゥ)、火傷顔の女(バラライカ)を殺したと思っています。
 ※自分の身体の異変に気づきましたが、不死者化していることには気付いてません。




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"Radical Good Speed"(前編) リヴィオ・ザ・ダブルファング This Speed Never Ends(前編)
"Radical Good Speed"(前編) 佐山・御言 GO AHEAD
"Radical Good Speed"(前編) 小鳥遊宗太 GO AHEAD
"Radical Good Speed"(前編) 御坂美琴 This Speed Never Ends(前編)
"Radical Good Speed"(前編) ラッド・ルッソ This Speed Never Ends(前編)
"Radical Good Speed"(前編) ストレイト・クーガー This Speed Never Ends(前編)

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最終更新:2012年12月03日 23:56