This Speed Never Ends(後編) ◆Wott.eaRjU


眼前の視界は闇に満ちている。
地上に出れば光は差し込むだろうが、生憎未だ出口は見えない。
だが、クーガーは一歩も止まることなく走り続ける。
己の視覚を頼りに、己の誇りともいえる加速を以ってして。
既に何度かの分岐点を経て、地図を見なければ自分が何処に居るかもわからないがそれで構わなかった。
クーガーの思考に――迷いはない。
少しの焦りのようなものはあったが。

「なぁ、そろそろ終わりにしようぜ。どうせこいつからは逃げられねぇんだからよ」

ガリガリと、線路をいとも容易く削りながらゴルディアスホイールが進軍している。
ゴルディアスホイールに座するラズロが余裕げに口を開く。
事実、クーガーとは違い今のラズロには絶対的な余裕があった。
視界が暗いといえどもクーガーが目印となり見失う事もない。
たとえ障害物があろうともゴルディアスホイールの馬力に勝てるものはそうそうない。

魔力という概念とは無縁のラズロが宝具を扱える事と引き換えに課せられた制限。
本来のゴルディアスホイールに比べて、全てのスペックが劣っているがそれはクーガーも同じ
相対距離を0に、その瞬間を考えるだけで快感が込み上げる。
ゴルディアスホイールで憎らしいクーガーの身体を押し潰す。
口元をニヤつかせ、ただ一心にゴルディアスホイールを走らせ――その瞬間、ラズロは見た。
前方に一条の光がこちらに向かい伸びている事に。


「――こいつを待っていたッ!!」

一方、クーガーは大声を上げながら砂利道を蹴り飛ばす。
一体何だというのだ。ラズロは思わず前方から眼を逸らし、クーガーの方を見やるが捉えられない。
ラディカルグッドスピードにより当然跳躍力も強化されている。
ここ一番の跳びを見せ、回転を織り交ぜながらクーガーはとある場所へ着地。
視線を追わせたラズロは思わず眼を疑う。
何故ならクーガーが宙に浮いているように見えたためだ。
いや、そうではない。
光があった。サングラスを少し上げ、悠然と立つクーガーの下に、先程の光が二つ。
まるで人間の目のように、輝くそれは――地下を走る列車であった。
間髪を入れずに激突。御坂を無事に逃がす為に、そしてゴルディアスホイールに対抗するにはこれしかない。
ホームに張られていたダイヤグラムをチラリと確認していた幸運を噛み締める。
そしてクーガーの狙いがまさに功を奏し、地下鉄とゴルディアスホイールが依然としてぶつかり合う。

「つまんねぇんだよ!」

だが、ゴルディアスホイールは宝具の中でも上位に位置する。
当然ゴルディアスホイールを引く役目を持つゴッドブルも只の牛ではない。
逆に押し返し、列車の車輪からは悲鳴のような金属音が響き、赤い火花を散らしている。
しかし、クーガーの表情には最早焦りといったものは見られない。

「忘れたか、ラズロ! 俺のアルターはありとあらゆるものを速く走らせるコトだ!!」

ラズロは漸く気づく。
見れば地下の外壁が、列車後方の線路が、所々のコンクリートが抉れている。
この現象は力の予感。この殺し合いに呼ばれるまで一度たりとも聞いた事はなかった。
されどラズロは知っている。何度目だ、と答えが直ぐには出てこない程に絡まった腐れ縁。
そう。確信を以って知っていると言えるのだから。
クーガーがこれから何を言おうとしているのかも。
自分がどうするべきなのかも――たとえそれが間に合わずとも、ラズロは知っていた。




「ラディカル・グッドスピードオオオオオオオオオォォォ――リターンズッ!!」



虹色の光が車両を包み、アルターが形成される。
順々と列車の一部分が剥がれ、瞬時に何処からともなく新たな装甲が装着。
二回り程に大きくなった列車の威圧感はゴルディアスホイールのそれと勝るとも劣らない。
先程クーガーが発現した列車よりも更に大きく、そしてゴージャスに。
それこそがラディカル・グッドスピードの、見る者を圧倒させる強大な力の果て。
エキセントリックな風貌は変わらず、爆発的な加速も失われていない。
メタリックパープルの車体を支える車輪は線路を蹂躙し続け、爆走する。
押し返されていたゴルディアスホイールを逆に押し返し出す。

「チッ、舐めんじゃねぇぞッ!!」

一方、ラズロにも食い下がるつもりはない。
ゴルディアスホイールに意識を集中し、その力を具現化する。
瞬く間にゴルディアスホイールの周囲には無数の紫電が走る。
元々は宙を駆け、その際に発する電撃からまるで稲妻を蹴って駆ける牡牛と称されたものだ。
後の稲妻を司る大神ゼウスに捧げられた事実は伊達ではない。
自身は特殊な加護を盾にし、一方的にクーガーのラディカル・グッドスピードへ電撃を浴びせる。
減速は免れない。更にそれで終わらず先頭列車の左側面部がやがて真っ黒に焦げ、ボロボロと崩れ落ちた。


「ラズロオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「なんだ!?」

だが、劣勢と取れる状況を顧りみる様子を見せずクーガーは叫び、新たなアルターを構成する。
破壊された部分の修復。必要なものは物質と己の力。
当然、疲労を伴うが壊される度に再構成を行い続ける。
たとえ片膝を列車の頭頂部につけようとも、止める事はない。
ほんの少し、余裕の色が失せ始めたラズロの目を食い入るように見据える。

「劉鳳のヤロウは最後まで戦ったか!?」
「戦ったぜ。俺が狙ってるのも気づかず、しこたま銃弾を受けやがった。身体半分吹っ飛んだあいつは憐れなもんだったなぁ!」
「それからどうした!? あいつはそんなコトで終わるヤツじゃねぇだろう!?
その逆境からあああああああああああ――あいつはお前にどんな世界を見せた!?」
「黙れよ。ああ、あんなにしぶてぇヤツはそうそう居なかった!
あいつは生きてるのが可笑しい状況から俺に一発喰らわせやがった。ゼツエイとかいうクソったれな人形でな!!」

互いの言葉の奔流が交わる。
その勢いはラディカル・グッドスピードとゴルディアスホイールの争いを示すかのように。
クーガーとラズロもまた己の意思をぶつけ合う。
クーガーはラズロの半ば自棄気味に放った言葉確かに聞き、そして深く頷く。

「そうかい。だったら見てもらうぜ、ラズロ!」

聞く前からわかっていたのだろう。
片膝を上げ、再び両の足でしっかりと車両を踏みしめる。
脚元に広がるメタリックパープルのボディ。
決して止まる事のないこの愛すべき速さの象徴。
言うなればnever(ネバー)――ends(エンズ)。
今は亡き友、そして何処かで生きていると信じる愛しい女性を思い浮かべ、クーガーは咆哮をあげる。
まるで彼らが自分の傍に居ると信じているように。


「このラディカル・グッドスピードの真の姿を!」


虹色の光がクーガーの全身に収束する。
さながら暴風、アルターが引き起こす一迅の突風だ。
やがてクーガーの全身にラディカルグッド・スピードが纏われる。
生身が覗く部分は一つもない。アルターの鎧とも言うべきだろうか。
その姿こそがラディカル・グッドスピードの真の姿であり最終形態でもあった。
それに合わせて真下の列車も完全に修理が終えたかのように傷一つ無くなっている。
次に宙返りを行い、数十メートル後方へクーガーは着地。
持てるだけの力を動員し、クーガーはラズロに向かい疾走する。
眼にも止まらない。事前にクーガーの思考を読まなければ到底避けようのない動き。
走り過ぎた後には碧色の閃光が波打ち、その速さを物語っている。
更に今のクーガーには普段の彼とは決定的に違う事があった。
クーガーだけでなく、ラディカル・グッドスピードの方にも。
そう。今のクーガーを全身は、そして爆進し続けるラディカル・グッドスピードは――


青と銀の輝きを放っていた。


「俺と劉鳳の、そしてあいつにゾッコンな水守さんの分を合わせた――この輝きをなぁッ!!」

それは一種の奇跡なのもかもしれない。
アルター能力者が使用するアルターは唯一無二の、己自身の武器。
その際にアルターが持つ色彩は能力者のイメージに左右される。
ラディカル・グッドスピードの元々の色はメタリックパープル。
だが、今のラディカル・グッドスピードには新たな色があった。
本来は濃い赤、主に頭部周りと胸部を覆う装甲には渋みの利いた青色が。
元々銀色で彩られた装甲には更に輝かしい銀が映える。
まるで劉鳳のアルター。絶影が放つ色彩が混じっている。
そして同様に変色したラディカル・グッドスピードがゴルディアスホイールと今一度ぶつかり、更なる加速を生みだす。
グングンと、今も絶えず行われている稲妻など気にする様子もなく前へ進む。
その勢いは誰にも止められない。たとえ紛うことなき神獣といえども。
この速さは――なにものにも止められる術はなかった。

「ヤロウ……! ッ! なんだ!?」

やがてゴルディアスホイールの側面でガクンと、何かが崩れる音が響く。
ラズロは咄嗟に首を回す。見ればゴルディアスホイールを支える左車輪が崩壊を起こしていた。
右の方はどうかというと同様に危なく、今にも脱輪をしそうな程だ。
このままではゴルディアスホイールと命運を共にする事になる。
やはり片腕だけのハンデは大きかったのかもしれない。
今更ながら左腕を失った事を憎らしげに思い、ゴルディアスホイールを乗り捨てることも考える。
その瞬間、一際大きな衝撃音が後方で唸りを上げた。
遂に左車輪が完全に潰れ、ゴルディアスホイールは大きくバランスを崩す。
咄嗟にラズロは飛び降り、危機を逃れようとするが、彼の視界に飛び込む影が一つ。
そいつは紫と青と銀の戦士、最速のアルター使い。


「逃がすか! 瞬殺のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――!!」


ラズロに向かって跳んだ男。言うまでもなくストレイト・クーガー以外に居ない。
既に用はなくなったのだろう。クーガーは今まで走らせていた列車のラディカル・グッドスピードを解いている。
瞬く間にバラバラに分解された列車がゴルデイアスホイールを飲み込み、やがて共に外壁に押し潰される。
一方クーガーの背中のノズルのような部分からは虹色のアルター粒子が噴射。
横周りの超高速回転につられアルター粒子も周囲に振り撒かれる。
幻想的な光、眼を奪われる光景が地下鉄線路上空で顔を出す。
しかし、ラズロの身体には思わず緊張が走った。
ミカエルの眼ともあろう者が――今は亡き、マスター・Cが此処に居ればそう罵るのが簡単に想像できる。

だが、こいつは舐めてはかかれない。
もう一人の自分が警鐘を鳴らしているような感覚。
頭で考えたわけではない。只、そうしなければならないと思った。
ソードカトラスを前へ突き出す。AA弾の入れ替えは既に済んでいる。
こいつは此処で仕留める、絶対に。
ラズロにそう思わせるだけの気迫が確かにそこにあった。
そしてクーガーは打ち放つ。
更なる加速を掛けて、全身全霊を込めて――クーガーは己の、最後の技を叫ぶ。


「ファイナルブリットオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


回し蹴り。ラディカル・グッドスピードによる強烈な回し蹴りが飛び込む。
セカンドブリットを飛ばし、全力のラストブリットが大気を震撼させる。
まるでそうなることが初めから決まっていたように、鮮やかとラズロの腹へ。
思わず血反吐を吐くラズロだが、それだけでは終わらない。
クーガーは右足をラズロに叩き込んだ後、アルター粒子の放出量を増大させる。
更に加速を加えて、ラズロの背中を地下鉄の線路と地上を覆う天井へ叩きつける。
そしてクーガーの速度は未だに衰える事無く加速し続ける。


「受けろよ!これが俺の、いや俺達の――」


たとえ天井の外壁にヒビが入ろうと、大きな亀裂が走ろうとも、崩れ落ちようとも――
ラディカル・グッドスピードの輝きに陰りはなかった。
そして遂には一部分ではあるが、完全に崩壊した外壁をぶち破り、眩しい程の光をその身に浴びて、地上へ躍り出る。



「速 さ だ ! !」



駄目押しの一蹴り。
ラズロの身体はクーガーから遠く離れ、受け身を取ることも叶わず大地へにうちつけられる。
その光景をクーガーは確かに見届け、彼もまた地上へ落ちてゆく。
アルターが砂のように全身から抜け落ちながら、
一片の闘気も見せず、まるで眠りこけたような様子であった。



◇     ◇     ◇


「クソヤロウどもが……!」

ゴルディアスホイールが呼び出された駅構内。
ホームには瓦礫が我が物顔に蔓延り、移動することも容易ではない。
そんな場所にラッド・ルッソが一人愚痴を洩らしている。
クーガーのファーストブリットの直撃を受け、不覚にも気を失っていた。
しかし、ラッドのタフさ、そして不死者の異常性のお陰で覚醒は早いものであった。
10分、いや15分程だろうか。一応時計を眺めてみるが気絶した時間は覚えていないので意味がない。
取り敢えず判る事は定時放送とやらはまだ行われていないようだ。
禁止エリアに踏み込み、ゲームオーバー――そんな事実は御免だ。
放送を聞くに越したことはない。

「あー……取り敢えず上に出るか」

やがてラッドは歩き出す。
自分はまだまだ脱落していない。
そう言わんばかりに、憮然と辺りを見回しながら大股で闊歩する。
クーガー、ラズロ、そして御坂――殺すべき奴らの名前はしっかりと胸に刻んでいる。
次こそは必ず殺す。ニヤケ笑いを誰に見せるわけでもなく零しながら、地上への階段を目指す。
その歩みに迷いのような感情はこれっぽちも見られなかった。


【D-4地下・地下鉄駅構内/1日目 昼】
※地下鉄の駅への入り口は、D-4、G-7ともに何らかの形で隠蔽されていました。
※他の駅の位置や具体的な路線は不明ですが、どの入り口も同様に隠蔽されていると思われます。
※ホームには列車3両分の残骸が山になっています。

【ラッド・ルッソ@BACCANO!】
[状態]:全身裂傷(中)、腹部に傷(大)、顎の骨にヒビ、全て再生中 不死者化
[装備]:ワイパーのバズーカ@ワンピース、風貝@ワンピース
[道具]:基本支給品一式
[思考・状況]
 1:あのギラーミンとかいう糞野郎をぶっ殺す。
 2:そのためにこの会場にいるやつを全員殺す。とにかく殺す。
 3:クーガー、ラズロ、御坂は殺す。
 4:ギラーミンが言っていた『決して死ぬ事のない不死の身体を持つ者』(不死者)は絶対に殺す。
 5:宇宙人(ミュウツー)は出来れば最後の最後で殺す。
 6:左腕が刀になる女(ブレンヒルト)も見付けたら殺す。 詩音はまあどうでもいい。
 7:ギラーミンが言っていた『人間台風の異名を持つ者』、『幻想殺しの能力を持つ者』、『概念という名の武装を施し戦闘力に変える者』、『三刀流という独特な構えで世界一の剣豪を目指す者』に興味あり。
【備考】
 ※麦わらの男(ルフィ)、獣耳の少女(エルルゥ)、火傷顔の女(バラライカ)を殺したと思っています。
 ※自分の身体の異変に気づきましたが、不死者化していることには気付いてません。


◇     ◇     ◇


「急がないと……この内容が正しければクーガーさんの仲間が居る。あの人の仲間なら信用出来るかもしれない……」

エリアC-3に差し掛かった地点、息を切らしながら御坂が走る。
クーガーから預かったデイバック。そこには一枚のメモ用紙が入っていた。
それはクーガーがこの殺し合いで得た情報を纏めたものだ。
意外にもクーガーは小まめに整理をしていのだろう。その内容は十分に判り易かった。
危険人物は計七名。内五名は無常、ラズロ、ヴァッシュ、水銀燈、クロコダイルと名前が判っている。
しかし残り二人については簡単な外観の特徴についてのみしか記載がない。
まあ、どちらも顔面に傷跡があれば黄金の鎧を纏っているとかなり判り易い特徴ではあるが。

そしてこの会場はループしている事、そして何よりもC-4駅で仲間と待ち合わせをしている事が御坂の注意を惹いた。
自分を逃がしてくれたクーガーなら信用が於ける。
接触を行うにも多少は危険が少ないことだろう。
もう必要以上に他者とは関わりたくはなかったが、クーガーから預かった品を渡すぐらいはしておきたかった。
クーガーの元に戻る選択肢が不思議と頭になかった事に御坂は気付かない。
戦闘行為への介入。それは命を捨てる覚悟を持つ必要がり、同時に命を奪う覚悟が必要となる。
そう。御坂は無意識的に逃げの選択を取ってしまったのかもしれない。
只、人を殺したくはない――その縋るような思いは決して忘れずに、御坂はC-4駅を目指す。
その後の事については、未だ思考が回ってはいなかった。


【D-4とC-4の境目付近/1日目 昼】

御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
【状態】:疲労(大)  全身打撲(小) 自分への強い嫌悪感 軽い暴走状態 クーガーへの信頼 大きな喪失感 精神不安定
【装備】:基本支給品一式
【道具】:コイン入りの袋(残り98枚)、タイム虫めがね@ドラえもん蒼星石のローザミスティカ@ローゼンメイデン
【思考・状況】
 基本行動方針:脱出狙い?
0:もう誰とも会いたくない。
1:誰にも近付いて欲しくない。
2:切嗣を見捨てたことを後悔。
3:上条当麻に対する感情への困惑。
4:ラッドを殺さなかったことへの安堵。
5:自分が素性を喋ったことに対して疑問(暗示には気づいていません)
6:PM:3時までにC-4駅に着き、真紅と橘あすかと落ち合う。その後クーガーのデイバックを返却する。
【備考】
 ※ 参加者が別世界の人間とは知りません(切嗣含む)
 ※ 会場がループしていると知りました。
 ※ 切嗣の暗示、催眠等の魔術はもう効きません。




◇     ◇     ◇



――ラズロ、ラズロ。



声がする。自分を呼ぶ名前だ。
ウザったい声。いつ聴いてもムカついてくる。
もう一人の俺である癖に俺よりも数段弱っちいヤツだ。
そして何より決定的にこいつは甘い。
ここ一番って時にどうにもヘマをかましてしまいそうだ。
だからこそ俺が一緒に居なくてはならない。
たとえこいつがどんなにノロマなバカヤロウでももう一人の俺なのだ。
見捨てることはしない。それにこいつもこいつなりに努力をしてきた。
俺に近づくために、俺に頼るだけではなく、てめぇ一人の力でもミカエルの眼としてやれるように。
血の滲むような積み重ねの成果が確かにこいつにはある。
だから俺たちは一つの身体に二つのナンバーを得るようになった。

そう。こいつは俺ほどじゃないがそうそうやられるタマじゃあない。
だが、まだ一人にはさせておけない。
きっと俺の助けが要る時がこれから先来るであろうから。
その思いに違いはない。
しかし、脳みそがガンガンと俺に教えている。
それは出来ない。確かにそう叫び、そして納得してしまう自分が確かに居た。
危なっかしいこいつをまだ放っておけないというのに。
ああ、柄にもねぇことだが今の俺は弱気な考えしか浮かばない。
流石に効いた。骨の芯まで揺さぶられた感覚だ。
意識を保つだけでも痛みでどうにかなってしまいそうになる。

だから、ちょっとの間だけだ。
絶対に俺は戻ってくる。
だから、今だけは少し寝かせてくれ。
俺が居ねぇ間は頼むぜ。


なぁ――クソッタレ、リヴィオ。


◇     ◇     ◇


「ラズロ……?」


全身ズタボロな男が仰向けに倒れ、心底驚いたような顔を見せている。
特に背中と胸部の損傷がひどく、赤黒い血飛沫が肉体を濡らしていた。
依然として続行中の再生が頼みの綱が致命傷には至らなかった。
その理由は至って明確。クーガーの蓄積した疲労が大き過ぎた。
アルターの多大な使用、特に列車のアルター化と最終形態の発動はクーガーから多くのものを奪っていたに違いない。
だが、男――リヴィオはそれどころではなかった。
ラズロが何処かへ消えてしまった。
その事実が今の彼の意識を支配していた。

「いったいどうして……?」

フラフラとしながらも漸く立ち上がる。
入れ替わった覚えはない。
ラズロからの要求はこれっぽちもなかった。
リヴィオの方はというと勿論ない。
ラズロと同等に殺り合う相手では自分に荷が重すぎる。
何よりラズロがあの戦いを自分に譲るとは到底思えなかった。

ならば何故、今自分の番が回ってきたのか。
ラズロは一向に呼びかけに応じない。
まるで永久に眼の醒めない眠りに落ちてしまったかのように。
心当たりはあった。きっと間違いはない。

「ストレイト・クーガー……あの男の力とでも言うのか……?」

ラズロが見ていたように同時にリヴィオを見ていた。
あの輝きを、そしてあの恐るべき速さを。
彼の蹴りがラズロを――そう思うだけで思わず寒気が走った。
今の自分では勝てそうにもない。
取り敢えずはこの身体の再生を待つしかない。
最低でも戦闘を行うのに支障がない程には治しておきたい。
特に左腕の欠損はかなり時間を必要としそうだ。
だが、どのみちラズロの帰還を待たなければならない。
当分は何処かで身を隠すべきだろう。
地図に載っている施設にでもたどり着けば、現在位置の確認にもなる。


「……行こう。俺がやらなくちゃ……」

クーガーの生死は確認する必要もない。
なにせあのラズロが二度も戦った相手だ。
無事である筈がない。
そう。彼はもう一人の自分であり一心同体だ。
ラズロの復帰を願い、リヴィオは黙々と施設を目指す。
いざとなれば自分一人でやっていかなければならない。
一つの覚悟を背負いながら、リヴィオはソードカトラスをしっかりと握りしめる。


【E-6 南東部/1日目 昼】

リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
[状態]健康。全身治癒中 全身裂傷、内臓にダメージ、左足負傷、左腕欠損(再生中)、胸部及び背中にダメージ大 背中のロボットアーム故障
[装備]M94FAカスタム・ソードカトラス×2@BLACK LAGOON、.45口径弾×14、.45口径エンジェルアーム弾頭弾×6@トライガン・マキシマム
[道具]支給品一式×5、
    スチェッキン・フル・オートマチック・ピストル(残弾15発)@BLACK LAGOON、スチェッキンの予備弾創×1(20発)、
    ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険、.45口径弾24発装填済みマガジン×3、45口径弾×24(未装填)
    天候棒(クリマ・タクト)@ワンピース、不明支給品0~1
[思考・状況]
 0:何処かの施設で身体を休め、ラズロを待つ。
【備考】
 ※原作10巻第3話「急転」終了後からの参戦です。
 ※ニューナンブM60(残弾4/5)、GPS、チックの鋏@バッカーノ! はAA弾頭の一撃で消滅しました
 ※とりかえ手ぶくろによって左腕を肩口から奪われました。
 ※ラズロとの会話が出来ません。いつ戻ってくるか、もしくはこのまま消えたままかは不明です。


◇     ◇     ◇




燦々と照りつける太陽が実に眩しい。
南国のリゾートでバカンスを楽しむとしたらこんな心地なのだろうか。
キラキラと光る砂浜で寝転び、傍には惚れた女が自分にこれまたキラキラとした眼で覗きこむ。
きっとそんな人生も歩めたかもしれない。
ロストグランドという場所に生を受けなければ、文学者にでも成れたかもしれない。
時々の休暇には愛する人とご機嫌な愛車にでも乗って何処かへフラリと遠出する。
踏み入れたことのない大地。その感触を確かめながら存分にその土地特有の光景を楽しむ。
幾多の人々が喜びを、悲しみを、楽しみを、そして愛を分かち合いながら共存する。
きっと見つかるはずだ。長い時間を掛け、数えきれない世界を見て、他者と触れ合っていけばきっと必ず。
『文化の神髄』――自分が追い求めたものが判ったに違いない。

「……ハハ、俺もヤキがまわっちまったのかなぁ」

仰向けに横たわりながらクーガーは苦笑いを洩らす。
明らかに弱々しい声が痛々しさを覚える。
アルターの度重なる無茶な使用がたたったのだろう。
今のクーガーには立ち上がる気力も体力も残されていない。
クーガーの右上半身は綺麗に消失しており、その傷はあまりにも深い。
原因はラズロが放ったAA弾。
ラストブリットの直撃の瞬間、ラズロは無我夢中で引き金を引いていた。
狙いはずれたものの、それはアルターですらも抑えきれない負傷をクーガーに遺した。

「すいません、水守さん。俺はどうやらここまでのようですが……後悔はありませんよ」

だが、今のクーガーには不思議と後悔という念はなかった。
もう言葉を発するだけでも激痛が襲っている事だろう。
見れば口元は血に塗れて、HOLYたる証ともいえる制服には赤い飛沫が散っている。
更には全身からも夥しい血液が流れ出し、クーガーの周りには血だまりが出来ている。
誰が見ても致命傷だ。助かる術は恐らくない。
しかし、クーガーが浮かべる表情には確かな感情が見えていた。
諦めといった類ではない。只、こうなることを予期していたかのような目つき。
この結果を良しとし、全てを受け入れたような印象が強い。

「色々と生き急いじまったからなぁ……まあ、仕方ない」

クーガーの強力なアルター能力には『精製』という人工処置が絡んでいる。
日々の食料さえ満足に手に入れる事が出来ない人々。
クーガーはそんな彼らへの食糧支援と引き換えに、自分が複製実験のモルモットとなる事を受け入れた。
新たな力と引き換えにしたものは己の寿命。
だからこそ思える。今、この瞬間に己の命が消え失せようとも、僅かであった余命が少し速まったぐらいの事だ。
此処で朽ちようとも――悔いはない。


「じゃあな……元気でやれよ、社長……カズマ…………」


立ち止まってしまったわけじゃない。
只、少し走り過ぎてしまっただけなのだから。
何よりも速く、自分の誇りともいえたこの速さはいつだって風と共にあった。
その事実は決して曇る事なく、ずっと自分の胸の中で生きる。
ロストグラウンドでの友人等に別れを告げ、クーガーの瞼は静かに閉じられていく。
同時に全身からも力が抜け、左腕が力なく垂れ下がり地面に落ちる。

それが速さに生き、そして速さの果てに命を擦り減らした男の最期となった。




【ストレイト・クーガー@スクライド:死亡確認】
【残り37名】






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最終更新:2012年12月04日 02:43