砂鉄の楼閣(中編) B-1ルート分岐◆/VN9B5JKtM
3. 神速の雷は敵を撃ち貫き Number_Three_"Railgun".
パニッシャーから吐き出された弾丸が黒い壁に阻まれる。
その光景を見て、
ロベルタは二つの疑問を抱く。
(この壁……あの
園崎詩音という女が使用していた銀色の膜に似ていますね)
ラッドが現れた時もこの壁が炎を防いで、電撃使いも人形も火傷一つ負っていなかった。
以前ロベルタが殺害した少女も似たような能力を使用していた。ならばこれも同類の能力によるものなのだろうか、それが一つ目。
そしてもう一つの疑問。
(超電磁砲とやらは使わないのでしょうか? その威力次第では撤退も視野に入れていたのですが)
ナインの情報にあった超電磁砲。民家を崩すほどの威力を誇るオレンジ色の閃光。
その話の通りなら一撃でも食らえばその時点で勝負が決まりかねないのだが、一向に撃つ気配がない。
(何か使用条件でもあるのか、それとも人を殺したくないとでも思っているのでしょうか……どちらにせよ、いくら強力な武器でも使えなければ唯のガラクタと同じです)
黒い壁に弾丸を撃ち込むロベルタの視界一杯に薔薇の花びらが舞い広がる。
桜吹雪ならぬ薔薇吹雪。ガルシア坊ちゃまにもお見せしたい光景ですね、と場違いな思考を巡らせながらパニッシャーをかざす。
見た目こそただの花びらだが、その正体は触れたもの全てを切り裂く鋭利な刃物。それが逃げ場を封じるように、一斉にロベルタに襲いかかる。
迫り来る薔薇の大群を巨大な十字架を盾に防ぐ。
視界の端でリヴィオが黒い壁に銃弾を撃ち込み、その直後、撒き散らされた薔薇の花弁に襲われる。
敵の意識がリヴィオに向いている間にロベルタは壁の後ろに回り込む。円を描くように黒い壁を迂回し、少女と人形を捕捉する。
敵の姿を視界に収めたロベルタは足を止めてパニッシャーを構え、髑髏型の引き金を引く。狙うは電撃使いの少女。
十字の先端から無数の弾丸が発射され――少女を守るように割り込んできた黒い壁に飲み込まれるように消えていく。
立ち止まったロベルタに向かって壁の一部が鞭のように伸び、その足元を薙ぎ払う。
ロベルタはこれをバックステップで回避。目標を見失った黒い鞭はそのまま横のビルにぶつかり、ガリガリと耳障りな音を立てながらコンクリートの壁を削り取る。
ちらりと目をやると、黒い鞭がぶつかった辺りには巨大なナイフで切り付けたような傷痕が深々と刻まれていた。
思い通りにいかない現状にロベルタは歯噛みする。
薬を流し込みたい衝動を抑え込み、それが更に苛立ちを加速させる。
ブツリと肉を噛み千切る感触と共に口の中に鉄の味が広がり、食いしばった歯がギシリと音を立てる。
もちろんロベルタも何もかもが思う通りに進むはずが無い事は分かっている。
かつてフローレンシアの猟犬と恐れられ、何人もの人間を殺してきた彼女は予定外の出来事など幾らでも経験している。
だが、今回はあまりにも想定外の事態が重なり過ぎている。
最初の奇襲で確実に殺したはずの二人が無傷で生きていた事も、
ラッド・ルッソの突然の乱入も、ナインの暴走も、敵の予想以上の戦闘力も。
いや、それ以前に自分がこの場に呼び出されたことも。
だがまだ状況は二対二、総合的な戦闘力では確実に自分達の方が上。ちょっとした切っ掛けで均衡は崩れ、天秤は自分達の方に傾く。そのはずだ。
なのに攻め切れない。
視線を横にやれば、自分の同盟者も同じように攻めあぐねているのが見えた。
理由は多々ある。
散弾のようにばら撒かれる花弁、機関銃の連射すら防ぎきる黒い壁、そこから鞭のように伸ばされる黒い剣。
この男との同盟が成立している理由はただ一つ。自分の手にこの男の求める武器、パニッシャーがあるからだ。
逆に言えばこの男にとって、パニッシャーさえ手に入れれば無理に同盟を続けるメリットは無い。即座に単独行動に戻り、他の参加者を殺して回ったとしてもおかしくない。
そして
ミュウツーにナインを追うように指示を出したのはリヴィオだ。つまりこの二対二の状況はリヴィオが作り出した事になる。
では何故ミュウツーにナインの後を追わせたのか?
ナインが返り討ちにされないか心配したため――あり得ない。自分達は互いに利用し合う関係だ。ナインがやられたとしても切り捨てて三人で同盟を組み直す、それだけだ。
二対一で確実にラッドを仕留めるため――あり得なくはないが、それなら目の前の敵を三人で片付けてから追えばいい。ナインがやられていたとしても三対一だ。
残る可能性は――ロベルタと二人きりになればパニッシャーを奪うチャンスもあるだろうと考えたから。
だとすれば。たとえ目の前の敵に勝利したとしても、その過程で自分が行動不能なほどのダメージを受ければ、この男は間違いなく自分を殺しにかかる。最悪戦闘中に撃たれる可能性もあるため、一瞬たりとも警戒を解く訳にはいかない。
つまり実質的には二対二の戦いなどではなく、二対一対一の三つ巴だ。
ただ勝つだけでは足りない。できるだけ被害を抑えて、リヴィオより優位な状況で勝ちを収めなければならない。
リヴィオの異常な再生力を考えると、時間が経てば経つほど自分の優位性は失われていく。実際、数時間前には胸に大きな傷があったはずだが、今では傷跡すら残さず完治している。
本来ならば一刻も早く敵を殲滅するのが好ましい。多少のダメージは覚悟の上で、黒い壁の左右から同時に突撃したいところなのだが。
ここで敵が電撃使いだという事実がロベルタに二の足を踏ませる。
敵の武器が銃や刃物の類なら急所さえ外せば一撃で戦闘不能になる事はない。
だが雷撃が相手ではそうはいかない。一撃でもまともに受ければ体が麻痺して満足に動けなくなるだろう。
そしてリヴィオが拳銃を武器としているのに対して自分の武器は機関銃。敵がどちらを優先して迎撃するか……考えるまでもない。
雷撃を浴びて倒れ伏す自分に止めを刺すリヴィオ。その想像が頭をよぎり、どうしても思い切った行動に踏み切れない。
ギリギリのところで保っていた均衡が崩れ去る、その時が訪れるのは思ったよりもずっと早かった。
パニッシャーがカチンと音を鳴らし、その先端から吐き出されていた鉛弾の嵐が止む。
この半日、主武装として酷使し続けてきたパニッシャーがついに弾切れを起こした。
予備の弾薬はデイパックの中に入っているが、装填するまでは大きな隙が出来る。当然、相手が大人しく待っててくれるはずも無いだろう。
苛立ちを込めて十字架を地に突き立てる。
パニッシャーの重量とロベルタの膂力により、十字の先端が地に突き刺さる。
予備弾薬を取り出そうとデイパックに手を入れたロベルタの前で、ズズズ、と音を立てながら黒い壁が横にずれる。
その後ろから現れたのは、両手に人形を抱え、その手を前に突き出す電撃使いの少女。
ロベルタに向けて真っ直ぐに伸ばされたその手から。
「行くわよ、真紅っ!」
砲弾のように勢い良く人形が撃ち出され、一瞬にしてロベルタとの距離をゼロにした。
宙を飛ぶ人形の背からパラパラと黒い粉末が零れ落ち、虚空に軌跡を描く。
その隻腕が力強く握り締めているのは、彼女の小柄な体躯には釣り合わない大きな鋏。
目の前に迫った人形が右手を大きく振りかぶり、叩きつけるようにして鋏を振り下ろす。
デイパックから手を抜く暇もない。ロベルタは咄嗟に地に突き立てたパニッシャーを盾にして、人形の一撃を受け止める。
速度を乗せた一撃は小さな人形が繰り出したとは思えないほどに重く、受け止めた十字架が僅かに押し込まれて傾いた。
十字架で鋏と競り合いながらロベルタは考える。
想定外の出来事に対応が一瞬遅れたが、相手が接近戦を挑んでくるのなら好都合だ。
あの電撃使いの少女は自分やロアナプラの住人達とは違い、どう見ても平和な世界の住人だ。
味方を巻き込むこの状況では、あの少女は電撃を使わない、いや、使えない。ロベルタはそう判断した。
だからロベルタにとってただ一つ誤算だったのは――
――真紅が電気を通さない人形だった事だ。
参加者についての情報を交換した際、ナインは真紅が人形だという事を話している。もちろん電撃使いの
御坂美琴が真紅に説得され、自分達の敵となった事もだ。
ナインはその一部始終を目撃していたため、真紅には電撃が効かない事も知っていた。
だが彼女達四人の中に電撃を武器とする者はなく、美琴が味方である真紅を攻撃するはずも無いだろうと考えたため、その事は話さずに二人の能力について説明するだけにした。
つまり、ロベルタは『人形である真紅に電撃は通じない』という事実を知らなかった。
それが明暗を分けることになる。
左手でパニッシャーを支えながら、右手を黒鍵に伸ばそうとしたロベルタの耳に、パチリ、と火花の音が届く。
信じられない、という思いで顔を上げたロベルタが見たものは、肩まで伸びた茶色の髪からバチバチと火花を散らし不敵に笑う電撃使い。
まさか、という考えを振り払い少女の迎撃に移るが、人形ごと自分を攻撃してくるなどあり得ないと思っていたため、ロベルタの反応が僅かに遅れる。
素早くコルト・ローマンを抜き放ち、美琴の額に狙いをつける。真紅から美琴に、一瞬で狙いを切り替えたのは流石と言うしかないだろう。
だが銃弾の数百倍の速度で迸る雷撃の前にはその一瞬ですら致命的。
視線が、交差する。
ロベルタが引き金を引こうと指に力を込めたその刹那。
音を置き去りにして、雷が駆け抜ける。
角のように逆立つ前髪から放たれた雷撃の槍が、巨大な十字架に吸い込まれ――ロベルタの体中を数億ボルトの電流が駆け巡った。
全身の筋肉が一瞬で麻痺し、エプロンドレスの所々が焼け焦げ、三つ編みの先を縛っていたゴム紐が熱で焼き切れる。
視界はチカチカと明滅し、手からは拳銃が零れ落ちる。膝の力が抜けてガクリと地に崩れる。
墓標のように突き立つ十字の傍らで、ロベルタは己の意識を手放した。
◇ ◇ ◇
真紅は目の前に倒れ伏すメイド服の女を見下ろす。
口元に手をかざし、呼吸がある事を確認する。
「大丈夫、息はあるようだわ。そんな事より美琴、服が砂鉄まみれで気持ち悪いのだわ」
美琴達は最初から敵の機関銃が弾切れを起こした瞬間に勝負をかけるつもりでいた。
しかしここで、普通に電撃を放ってもロベルタがパニッシャーを避雷針代わりにして後ろに逃げるのではないか、という問題が発生した。
そこで二人の立てた作戦は、真紅が敵の足を止め美琴が電撃を放つ、というものだ。
だが真紅が普通に敵との距離を詰めても、その間に予備の武装で迎撃されてしまうだろう。
そこで美琴は真紅の背中を砂鉄でコーティングし、超電磁砲の要領で撃ち出した。
もちろん全力を出せば真紅の体が空気摩擦に耐え切れないので手加減はしたが、それでも相当なスピードだ。
ロベルタはパニッシャーで迎撃せざるを得ず、その表面を流れた電流により行動不能に陥った、という訳だ。
「美琴! その傷は……!」
「あー、うん。メッチャクチャ痛いわ」
当然、二人がロベルタに意識を向けている間リヴィオが何もしないはずがない。
黒い壁の操作がおざなりになった隙を突いて、美琴に目掛けてマガジン内の残弾を全て撃ち放った。
美琴も即座に砂鉄の壁で防御したが、その内の一発が左肩に命中し、肉を抉っていた。
傷口から血が溢れ、焼けるような痛みを訴えてくる。
「でも、この程度で学園都市の第三位、超電磁砲の御坂美琴を止められると思ったら大間違いよ」
2. 猟犬の牙は獲物を食らい The_Double_Fang.
リヴィオはソードカトラスのマガジンを入れ替えながら状況を分析する。
自分はさしたるダメージを受けていないが、一応の同盟者であるロベルタは敵の電撃で行動不能。
対して自分たちが相手に与えたダメージは電撃使いの肩の傷のみ。
ラッドを追って病院内に消えたナインとミュウツーが戻って来る気配は無い。向こうは向こうで苦戦しているのだろうか。
最初は四対二だったはずが、いつの間にか一対二になっている。
単純に考えて敵との戦力差は二倍。
生存を優先するならば、何とか隙を作って逃げるべき。
(だが、これはチャンスでもある)
元々リヴィオの目的はパニッシャーを入手しラズロに渡す、それだけだ。
ナイン達と同盟を結んだのも、パニッシャーを手に入れるためにはその方が好都合だったからにすぎない。
そして現在、ナインとミュウツーは別行動、ロベルタは電撃で動けない。パニッシャーを手に入れる絶好のチャンスだ。
逃亡か、戦闘か。
リスクとリターンとを天秤にかけ、リヴィオの選んだ選択は――
(ここで逃げる訳にはいかない。電撃使いと人形を始末し、動けないロベルタに止めを刺してパニッシャーを入手する)
――戦闘の続行。
勝算はある。
敵の電撃使いは攻防共に優れた厄介な能力を持つが、それ以外はそこらの一般人と変わりない。
自分のように人並み外れた再生力を持つ訳でも、超人的な身体能力を誇る訳でもない。
現に先ほどの弾丸で大ダメージを受けている。隙を作って急所に弾丸を一発、それだけで殺せる。
もう一人の敵、人形は電撃使いのサポート役としては十分だが、単体ならば大した障害ではない。
薔薇の花弁は切れ味鋭いが、自分の再生力の前では力不足だ。
小柄な体躯の割に力はあるようだが、それもミカエルの眼で戦闘訓練と生体改造手術を受けた自分には遠く及ばないだろう。
一対一なら確実に自分が勝つ。
加えて敵は明らかに疲弊している。
先ほど電撃使いに銃弾を撃ち込んだ時も、最初に比べて黒い壁の動きが鈍っていた。
考えてみればそれも当然だ。最初の奇襲から今に至るまで、敵は自分達との戦闘中ずっと能力を行使しているのだ。あれほどの力を使い続けて疲れが溜まらないはずがない。
とは言うものの、やはり自分の不利は変わらない。
銃弾を阻む黒い壁、鞭のように伸ばされる黒い剣、散弾のようにばら撒かれる花弁、そして未だ満足に動かせない左手。
一丁の拳銃で勝てる相手ではない。
ロベルタの横に突き刺さっているパニッシャー、あれを使えれば話は変わるのかも知れないが、生憎パニッシャーは弾切れだ。
この戦況を引っくり返す一手が必要だ。
その糸口はあの真紅とかいう人形を見て閃いた。
マスター・Cの教え通り、仲間の死で動揺を誘う。
だが心のどこかで躊躇している自分が居た。
(ラズロならそんな事で迷ったりしない。お前の言う通り、やっぱり俺は甘いな……)
この期に及んで甘さの残る自分を自嘲する。
その程度で揺らぐのか、と。お前が固めた覚悟はそんなものなのか、と。
そうだ、自分はラズロが戻って来るまで生き抜くと決めたはずだ。
「そう言えば、あの
蒼星石とかいう人形、あれもお前の同類なのか?」
「…………おまえ、蒼星石を知っているの?」
「ああ」
感情を押し殺したような冷え切った声。
狙い通り。
「俺が殺したからな」
「真紅ッ!」
電撃使いの叫び声を無視して人形が飛び出して来た。慌てずに狙いを定め、引き金を引く。
手に僅かな反動を残して弾丸が発射され、人形の額を砕く――直前に黒い壁が割って入り、銃弾を防いだ。
それも予想の範囲内、あの女が人形をかばう事ぐらい最初から織り込み済みだ。
本当の狙いは、盾を失った電撃使い。
流れるような動作で銃口をずらし、頭、胸、腹、足を狙った四連射。
電撃使いは壁の後ろに転がり込んでこれを回避し、避け切れなかった銃弾がその右足を貫いた。
「美琴!」
「痛ぅっ……! 真紅、許せないのも当然だけど、少し頭を冷やしなさい」
「ええ、もう大丈夫。ごめんなさい……」
今ので仕留められなかったのは残念だが、確実にダメージは与えられた。
天秤は徐々に傾きつつある。
「ところで私もアンタに一つ聞きたい事があるんだけど」
黒い壁の向こう側で、電撃使いの女が口を開いた。
時間が経てば経つほど自分の傷は回復し、相手は血を流して体力を失う。
相手の意図は分からないが、時間稼ぎの意も込めて続きを待つ。
「アンタがクーガーさんを殺したの?」
ストレイト・クーガー。殺し合い開始直後に病院付近で、そして
第二回放送前に地下で、二回に渡ってラズロと激闘を繰り広げ、死闘の果てにラズロと相打った男。
何故この女がラズロとクーガーが戦った事を知っているのか。
疑問に思い、あの時地下に居た連中の顔を思い浮かべようとしたところで、そう言えばあの中の一人がこの女だったな、と思い出す。
あの時とは雰囲気が全く違っているため、今まで別人だと思っていた。
「だったらどうする? 奴の死に様でも聞かせて欲しいのか?」
挑発するように答えを返す。
これで頭に血が昇ってくれれば儲け物だ。
「別に、どうもしないわよ。アンタを倒す理由がまた一つ増えただけ、私がやる事は変わらないもの」
その通りだ。
相手の目的が敵討ちだろうが何だろうが、自分のやるべき事は変わらない。
目の前の障害を排除し、ウルフウッドさんとの再戦に備えてラズロのためにパニッシャーを手に入れる。それだけだ。
「ああ、ついでにもう一つ。アンタの左腕、確か地下で見た時には肩から先が無かったはずだけど、その再生力はアンタの能力?」
「だったら何だ?」
「そう。――――良かった」
その不可解なセリフを訝しむ間もなく。
黒い壁に大穴を穿って飛び出して来た弾丸が、オレンジ色の尾を引いてリヴィオの足元に突き刺さった。
すぐ横の地面が爆ぜ、その衝撃で吹き飛ばされる。一瞬遅れて鳴り響く轟音を聞きながら地を転がる。
起き上がり視線を向けたその先で、まるで砂が流れ込むように、黒い壁に空いた穴が塞がってゆく。
穴が完全に埋め立てられる、その刹那。怒りの篭った女の視線が突き刺さる。
「アンタには相当ムカついてるから、ちょっとやり過ぎちゃうかも知れないけど……。死にはしないって事よね?」
御坂美琴の持つ最強の攻撃手段、超電磁砲。今までの攻撃とは桁違いの威力。
リヴィオの立つ位置があと一歩ずれていたら、間違いなく今の一撃で足を吹き飛ばされていた。
今まであれを使わなかったのは、自分達を殺したくなかったからだろうか。確かにあれは当たり所によっては人の一人や二人、簡単に殺しかねない。
だがロベルタが倒れ、欠けた腕すら復元するほどの再生力を持つリヴィオが残ったため、急所さえ外せば問題ないと判断したようだ。
リヴィオも、まさか自分の再生力が仇になるなどとは夢にも思わなかった。
(あれがナインの言っていた超電磁砲……再生力が制限されている今、あんなものを連発されれば一たまりも無い。やはり、使うしかないか)
残り4発の切り札、エンジェルアーム弾頭。
できれば温存しておきたかったが、ああも凄まじい破壊力を見せ付けられてはそうも言っていられない。
敵の位置は超電磁砲で開いた大穴から確認済みだ。
一発目で黒い壁に穴を空け、二発目で電撃使いを葬り去る。
通常弾頭入りの銃からエンジェルアーム弾頭入りの銃に持ち替える。
その直後、リヴィオに向かって薔薇の花びらが撒き散らされる。
リヴィオはそれを回避――しない。
リヴィオは戦闘中、一つの疑問を抱いていた。
敵は黒い壁に隠れ、こちらからは姿が見えない。だがそれと同時に、敵からこちらの姿を見ることも出来ないはずだ。
ならば敵はどうやって自分達の位置を割り出しているのか?
(壁が弾丸を受け止める角度? いや……音、だろうな)
恐らくは銃声や足音などの音から自分達の位置に当たりを付けている、リヴィオはそう予想した。
だが聴覚だけでは正確な位置までは割り出せないため、花弁を撒き散らしたり、黒い剣で薙ぎ払うようにして広範囲を攻撃してきたのだろう。
先ほどの超電磁砲の一撃がリヴィオを捕らえられなかったのも、正確な位置が分からなかったからだと考えれば納得がいく。
身を切り裂く花弁の嵐の中、リヴィオは己の再生力を頼りに、足音を殺してゆっくりと移動する。
数歩、歩みを進めたところで、リヴィオを飲み込もうと黒い壁が迫ってきた。
津波のように、あるいは雪崩のように。もっとも砂の惑星で生まれ育ったリヴィオにはその例えは思いつかなかったが。
ともかくリヴィオはここで勝負を決めようと、電撃使いの居るであろう場所に向けて銃を構えた。
黒い壁が目前にまで迫り、引き金を引こうとして――二度目の超電磁砲が放たれ、数秒前まで自分が居た地面がごっそり抉り取られた。
先の一撃より距離が離れていたため、リヴィオは衝撃によろめくも無様に地に転がるようなことは無かった。
すぐさま体勢を整え、エンジェルアーム弾を撃ち込もうとしたところで。ヴゥゥン、と唸りを上げて、リヴィオの腕に黒い剣が振り下ろされた。
そこでリヴィオも気付く。超電磁砲はリヴィオを狙ったものではなく、あくまで隙を作るための一撃。本命はこの黒い剣。
拳銃を握り締めたままで、切り落とされた手首が地に落ちる。
激痛を無視し、動かない左手を無理矢理に動かして、拳銃を拾うため手を伸ばす。
グリップに手が触れた瞬間、黒い壁の後ろから真っ赤な人形が視界に飛び込んできて。
ズブリ、と。人形の振り下ろした鋏で手首が地に縫い止められる。
「ナイス、真紅!」
サラサラと崩れ落ちる壁の向こうで、バチバチと火花が散る。
鋏が引き抜かれるとほぼ同時。
電撃が、奔った。
◇ ◇ ◇
ロベルタが目を覚ましたのは彼女が気絶してから二十分ほど経過した頃だった。
最初に視界に入ったものは自分の傍らに突き立つパニッシャー、地に倒れ伏すリヴィオとその横に転がる拳銃だった。どうやら自分に続いてリヴィオも敗北したらしい。
既に敵の姿はなく、どういうつもりか自分達の荷物も手付かずのまま放置されている。
殺し合いを否定する立場なら止めを刺さないというのはまだ分かるが、自分達が拘束も武装解除すらされずに放置されているというのは腑に落ちない。
よほど自分達の力に自信があるのか、あるいはその僅かな手間すら惜しんだのか。
いずれにせよ好都合だ。自分が倒れる直前まで持っていたはずの拳銃を手探りで探し出し、しっかりと握り締める。
(私はまだ死んでいない。奴らに突き立てるための牙も残っている。ならば、私のやるべき事は一つしかありません)
まずは一刻も早くこの場から離脱しなければならない。
病院内の戦闘がどのような結果になるかは分からないが、その勝者が誰であろうが自分を発見すれば殺すだろう。
ラッド・ルッソならば嬉々として。ナインやミュウツーならば足手纏いを切り捨て武装を奪うために。
そう、今のロベルタがリヴィオを殺そうとしているように。
全身が痺れて満足に動かせない今、彼等のような強敵に襲われれば命は無い。
麻痺した筋肉を強引に動かし、プルプルと震える両腕を支えにして強引に上体を起こす。
ところで、美琴の放った電流には、常人ならば数時間は身動きが取れなくなるほどの威力が込められていた。
そしてロベルタには電撃に対する耐性も無ければ、リヴィオのような異常な再生力も無い。本来なら今も指一本動かせないはずだ。
では何故、彼女は動けるのか。
その理由は単純、地に突き立ったパニッシャーだ。
確かに美琴の放った雷撃の槍はパニッシャーに直撃し、その表面を伝ってロベルタの体に流れ込んだ。
だが美琴と目が合った瞬間、直感的に危険を感じたロベルタは反射的にパニッシャーから手を放していた。
僅かに行動が遅れたため完全に回避する事は出来なかったが、地に突き立ったパニッシャーが避雷針の役目を果たし、膨大な電流を大地に流した。
電撃の大半が地面に流れた結果、本来ならば数時間は身動きできないはずのロベルタは僅か二十分程度で起き上がる事ができた。
(御当主様、若様……。必ずや……奴らの喉元に喰らいついてみせます)
一言で言えば、ロベルタの鍛えられた直感と超人的な反射神経がダメージを最小限に抑えた、そういう事だ。
「サンタ・マリアの、名に誓い……すべての不義に――鉄槌を!」
――だからこれは、リヴィオの再生力がそれを上回った、ただそれだけの話。
銃弾が空気の壁を突き破る音と共に、ロベルタの左胸が消失した。
◇ ◇ ◇
リヴィオが意識を取り戻したのはロベルタが目覚める十分ほど前だ。
そして持ち前の再生力で全身を復元している最中、ロベルタが起き上がろうとしているのに気付いた。
自身はまだ起き上がることはできなかったが、辛うじて動かせる左手で目の前に転がるソードカトラスを掴み取る。
体中が痺れて腕を持ち上げても狙いが定まらないため、グリップを地面につけ、手首の動きだけで銃を傾け、銃口をロベルタに向ける。
幸いマガジンにはエンジェルアーム弾頭が装填されているため、多少狙いが外れても当たりさえすれば十分に致命傷を与えられる。
ブレる手を必死で押さえ込み、狙いを定めて引き金を引く。
銃口から放たれたエンジェルアーム弾頭が、両手をついて起き上がろうとしていたロベルタの左肩から左胸にかけて、ごっそりと削り取った。
左腕の肘から先だけがボトリと転がる。
支えを失った体がぐらりと傾き、ビチャリと水音を立てて地に落ちる。
傷口から溢れ出た鮮血が地面を赤黒く染めていき、辺りに鉄錆にも似た血の臭いが蔓延する。
「やった、か……」
ズルズルと地面を這いずってロベルタの横まで移動し、確かに死んでいる事を確認すると、地面に散らばった荷物を回収する。
死ぬ瞬間まで握り締めていた拳銃、柄のやたら短いナイフ、デイパックに入った大量の荷物。
そして最大の収獲、パニッシャー。
上からロベルタのデイパックを被せるようにして回収し、自分のデイパックに仕舞い込む。
「これで同盟は解散だな」
感情にロベルタの死体を見下ろす。
パニッシャーを手に入れた今、奴らと行動を共にする理由など無い。
奴らは奴らで勝手に動いて参加者を減らしてくれるだろう。ならば次に会うまでは放っておけば良い。
「それにしても、ようやく一人か……。ダメだな、この程度で喜んでるようじゃラズロに笑われちまう」
リヴィオが表に出てから何度も戦闘を繰り返してきたが、その度にラズロとの差を思い知らされた。
劇場では手痛い敗北を喫し、駅前では様子を見ている間にチャンスを逸し、そして今もまた敵に破れ惨めな姿で地に倒れ伏していた。
ようやくリヴィオ・ザ・ダブルファングとして初めての戦果を挙げる事ができたが、それもたまたま自分の方が先に相手の体に鉛弾を撃ち込むことができたからに過ぎない。
もしこれが自分ではなくラズロならば、間違いなくこんな無様は晒さない。
やはり自分ではラズロには遠く及ばない。
だが、そんな自分でもラズロのためにパニッシャーを手に入れる事ぐらいはできた。
(ラズロ、準備は整えた。あとはお前が戻って来れば……)
孤児院での、劇場での闘いの記憶が蘇る。
圧倒的な身体能力差を覆しての敗北。確かに自分では、
ダブルファングではウルフウッドさんには勝てない。それは認めよう。
だがラズロならば、トリップオブデスならば。パニッシャーを手にした今、たとえ相手が何者だろうと負ける事など有り得ない、そう確信できる。
(だから、いつでも戻って来い……ラズロ!)
間もなく訪れる決着の気配を感じ、リヴィオは闇の中へと歩を進める。
唯一無二、一心同体のパートナーの帰還を待ち望みながら。
【ロベルタ@BLACK LAGOON 死亡】
【残り23人】
【E-5 北西/一日目 夜】
【リヴィオ・ザ・ダブルファング@トライガン・マキシマム】
【状態】:全身治癒中、右手再生中、背中のロボットアーム故障、全身に痺れ
【装備】:M94FAカスタム・ソードカトラス×2@BLACK LAGOON、.45口径弾×19、.45口径エンジェルアーム弾頭弾×3@トライガン・マキシマム
【道具】:支給品一式×9(食料一食、水1/2消費)、スチェッキン・フル・オートマチック・ピストル(残弾20発)@BLACK LAGOON、
ココ・ジャンボ@ジョジョの奇妙な冒険、.45口径弾24発装填済みマガジン×2、.45口径弾×24(未装填)
天候棒(クリマ・タクト)@ワンピース、ミリィのスタンガン(残弾7発)@トライガン・マキシマム、三代目鬼徹@ワンピース
パ二ッシャー@トライガン・マキシマム(弾丸数0% ロケットランチャーの弾丸数2/2)、コルト・ローマン(6/6)@トライガン・マキシマム
投擲剣・黒鍵×4@Fate/zero、
レッドのMTB@ポケットモンスターSPECIAL、コルト・ローマンの予備弾35
グロック26(弾、0/10発)@現実世界、謎の錠剤入りの瓶@BLACK LAGOON(残量 50%)
パ二ッシャーの予備弾丸 2回分、キュプリオトの剣@Fate/Zero 、首輪(詩音)
【思考・状況】
0:ラズロが戻るまで必ず生き抜く。
1:痺れが取れるまでどこかで休息を取る。できれば右手も治るまで休みたい。
2:参加者の排除。ウルフウッドとヴァッシュに出会ったら決着を付ける?
3:ウルフウッドを強く意識。
【備考】
※原作10巻第3話「急転」終了後からの参戦です。
※ラズロとの会話が出来ません。いつ戻ってくるか、もしくはこのまま消えたままかは不明です。
時系列順で読む
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最終更新:2013年11月19日 03:33