「待たせたかな?」
『そうか、これは汝の仕業であるか』
『あれだけの仕掛けで死なないなんて、面倒な奴ね!』
蔦の砦を出る前からもう見えてました。
使って良かった、クレヤボヤンス。
目の前には魔神が勢揃いだよ!
だが違和感は大きい。
これ、幻影じゃないだろうな?
存在感が薄い。
それに背中が凍るような感覚も無い。
どこか弛緩した空気すらある。
「ところで、戦ってくれる奴はいないのかな?」
『全く難儀な』
『誰かを彷彿とさせるねえ』
『どこまでも戦いを望むか?』
「ああ」
右手で神鋼鳥のククリ刀を抜く。
すかさず老人姿の魔神に投じる!
だが、変化は起きない。
ククリ刀は魔神を通り過ぎただけだ。
「だから幻影に用は無い」
『品が無いわ』
『礼儀もなってないねえ』
「否定はしないよ」
『新たな魔神が席を埋めた』
『だがこれでもまだ足りないでしょうね』
『それだけ奴は脅威であるしな』
『だからこそ、問うとしよう』
『無駄だと思うけどねえ』
「何が言いたい?先を急ぎたいんだけど」
『魔神とならないか?』
『汝が望み、叶えるのも容易かろう』
「引き換えで何を失うのかが問題だな。どうも楽しそうじゃない」
「新たな魔神、か。部下に同僚、肉親までも犠牲にして魔神となって何を得た?」
『永遠にして最大の渇望を満たせるであろう』
「それにしては高い代償だ」
『我には安いものだ。それに元には決して戻らぬ』
「時間の無駄だ。本体はどこだ?辺獄とやらに送ってやるよ」
『どこまでも不遜な奴』
『やっぱり無駄だったか』
『いっそここで始末したら?』
『それでは我が困るな』
ドワーフの魔神と並ぶ位置に筋肉バカの魔神の姿はあった。
『貴様ッ!』
『どうやって?』
『去れ。幻影如きで我をどうこう出来る筈もあるまい』
『我の位置をこれで埋めたつもりか?話にならんな』
「あんたは実体だな?相手をする時間はあるのかな?」
『忙しいのでな。それに余計な観客もいる』
アルゴスだ。
『バカな!』
『一体、どうやって?』
『さっさと去る事だな。汝等の拠点を潰されるぞ?』
魔神の幻影が次々と消える。
『裏切りし魔神よ、余計な助言であったな』
『ああ。どうせもう潰しに行っているのだろう?』
『知っていたか』
後ろの大きな影はアンタイオス
威圧感が半端じゃない。
その敵意がオレではなく、筋肉バカの魔神に向いていると知っていても落ち着かない。
『汝の行動原理は理解している』
『納得は出来ん、と言うのだろう?放っておいてくれんか』
『そうもいかぬ。いい機会だ、問い質してくれよう』
『腕力でか?』
「待て!待ってくれ!」
『む?』
『邪魔をするな!汝の相手は後でしてやる!』
「それも困る。あんたが勝つとは限らない」
『言ったな?』
「この魔神は私が倒す!」
『難儀な願いであるな』
「自分でも無茶だとは思ってますよ」
『嘘を付くな!単に楽しんでおるだけであろうが!』
それにまだ、来客がいるらしい。
雲母竜だ!
『どうだ?』
『別の拠点へ移動している。琥珀竜が奴等を追っているが』
「また、行くのか」
『ああ、別口で奴等を追う者もいるのでな』
『そっちはどうする?』
『遺憾だがここで汝と戦うのは無しだ』
『そっちの誓約と制約は知らぬ。こっちには断る理由は無いぞ?』
『去るがいい。汝の望みを断ってもよいのだぞ?』
「あのー」
『分かっておる。ここで戦うつもりは無い』
『命拾いしたな』
筋肉バカの魔神が雲母竜の頭上に跳び、雲母竜の姿は消えてしまった。
「見てたんですか?」
『うむ。新たな魔神となれば看過出来ぬ』
「魔神とは何です?」
『神である事は確かだ。その存在を否定する事は出来ぬ』
「何かを犠牲にして力を得ているように感じるんですが」
『然りだ。あの新たな魔神もまた大きな犠牲を支払った訳だ』
『この場は本来在るべき姿に戻るであろう』
「既に存在している天使に悪魔、堕天使はどうなんです?」
『戻らぬ。そして脅威を与え続けるであろうな』
「そうですか」
『これも自然の摂理と考えるがいい』
|