小噺-山師-01
「地蔵菩薩の孤児院」
西暦970年の話だ。
世界の仕組みを知ってる人間は、だいたい二種類に分かれる。
飲み込まれるやつと、黙って折り合いをつけるやつだ。
俺は後者だった。少なくとも、そのつもりだった。
魂がどこへ行くかも、
第一世界に何があるかも、
扉の向こうで何を食わせているかも知っている。
世界樹の銃士隊で副長までやっていれば、
それはもう「秘密」じゃない。
隊士以上なら、全員が知ってる“常識”だ。
だから俺は、
この世界がどれだけ薄氷の上にあるかも分かっていたし、
それを守るためにどれだけのものが消えてきたかも知っていた。
――それでもだ。
正確には、
悪人でいることを選んだ自分を、
何度も、何度も見せられた。
あの夢は、未来を見せるタイプの悪趣味なやつでな。
回避できる余地がある分、余計に質が悪い。
地蔵菩薩の孤児院。
街外れの、静かな場所だ。
金持ちのボンボンどもが、
「狩り」と称して、
そこを襲う未来が見えた。
捕まえるな、
手を出すな、
触れるな。
上からは、そういう話がもう回っていた。
理由も知ってる。
後ろ盾も、金の流れも、
そいつらの親がどこに顔が利くかも全部だ。
だからこそ、
俺は警察の立場で動いた。
殺しはしなかった。
それは、この世界で一番楽な逃げだからだ。
証拠を集めた。
夢で見た通りの動きをするか、確認した。
賭けみたいなもんだが、
俺は当たる男だ。
結果は、全部当たった。
踏み込んだ。
逮捕した。
表に出した。
上は怒鳴ったし、
横は黙ったし、
下は目を逸らした。
刑務所にぶち込んだ。
二度と“表”に戻れない形でな。
あいつらは生きている。
だが、もう狩りはできない。
名前も、肩書きも、未来も、全部だ。
その代わり、
俺は干された。
捜査一課から外され、
椅子だけはあるが、仕事は来ない。
典型的な窓際だ。
後悔は、していない。
地蔵に礼を言われた。
それだけで十分だ。
世界を守ったつもりはない。
扉のためでも、魂のためでもない。
ただ、
子供が死ぬ未来を潰しただけだ。
それが俺のやり方で、
俺が選んだ“悪”だった。
最終更新:2026年05月01日 19:47