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小噺-『機龍と歓喜天』

俺があいつに初めて負けたのは、五歳の時だった。

 諸国連合中から集められた天才児の合同訓練。

 大人どもは未来だの希望だの好き勝手言っていたが、俺たちにとってはただの品評会だった。

 そこで初めてライカ・キューを見た。

 無表情で、ぼんやりしていて、やる気があるのかないのかわからない女。

 気に食わなかった。

 だから喧嘩を売った。

 結果?

 普通に負けた。

 素手で。

 地面に転がされて空を見上げた時、ライカは首を傾げながら言った。

「終わり?」

 その一言が腹立たしくて仕方なかった。

 だから俺は決めた。

 いつか絶対に勝つと。

 十歳。

 俺は鎧纏に目覚めた。

 才能だ。

 努力だ。

 勝利への切符だ。

 訓練場でライカを見つけて、そのまま勝負を挑んだ。

 結果は最悪だった。

 空間が裂けた。

 巨大な腕が現れた。

 偶像。

 歓喜天

 俺の鎧纏ごと吹き飛ばされた。

 壁に埋まった俺を見てライカは言った。

「なんで来たの?」

 俺も知りたかった。

 十五歳。

 アラハントの操縦資格を得た。

 今度こそ勝てると思った。

 鎧纏を纏ったままアラハントに乗り込み、決闘を申し込んだ。

 結果。

 偶像の全身が出てきた。

 終わった。

 俺のアラハントは半壊した。

 その日からだ。

 一年に一度。

 俺はライカに勝負を挑むようになった。

 十六。

 負けた。

 十七。

 負けた。

 十八。

 負けた。

 十九。

 負けた。

 二十。

 負けた。

 負けて、改造した。

 また負けて、改造した。

 さらに負けて、もっと改造した。

 腕を換えた。

 骨を換えた。

 筋肉を換えた。

 神経を換えた。

 内臓を換えた。

 人間である部分が少しずつ減っていった。

 気付けば家族はいなくなった。

 友人もいなくなった。

 残ったのはライカだけだった。

 勝ちたい。

 ただそれだけだった。

 ライカは毎回同じ顔だった。

「また来たの?」

「また来た」

「懲りないね」

「勝つまでやる」

「そう」

 そして負ける。

 腹が立つほど変わらない。

 だが、少しだけ違った。

 最初は俺の名前すら覚えていなかったあいつが、いつの間にか言うようになった。

「キースケ」

 それだけで少し嬉しかった自分を、今でも殴りたい。

 そして二十八歳。

 十三回目の改造。

 医者には止められた。

 もう限界だと。

 これ以上は壊れるだけだと。

 知るか。

 俺は最後の勝負を挑んだ。

 何もない浮島。

 観客もいない。

 空しかない場所。

 俺は鎧纏を纏った。

 アラハントを着込んだ。

 さらに機械を重ねた。

 積み重ねた二十三年分の執念。

 機龍。

 それが俺の答えだった。

 対するライカも本気だった。

 歓喜天。

 完全展開。

 空を埋めるほど巨大な偶像。

 笑えるくらいの怪物だった。

「来い、ライカ!」

「うん」

 それだけだった。

 次の瞬間。

 空が割れた。

 島が砕けた。

 海が吹き上がった。

 機龍と歓喜天がぶつかる度に世界が悲鳴を上げた。

 何時間戦ったのか覚えていない。

 気付けば浮島が一つ沈んでいた。

 諸国連合の役人たちは真っ青になったらしい。

 俺は知らない。

 そんなものどうでもよかった。

 決着はつかなかった。

 俺も動けなくなった。

 ライカも立っているだけだった。

 沈みゆく島の上。

 俺たちは初めて肩を並べて空を見上げた。

「勝てなかったな」

 俺が言う。

「負けなかった」

 ライカが言う。

 その通りだった。

 勝ちでも負けでもなかった。

 だが、不思議と悔しくなかった。

 二十三年間追い続けた相手が、確かにそこにいたからだ。

 それで十分だった。

 後日。

 諸国連合から莫大な賠償金を請求された。

 浮島一つ沈めた代償である。

 世界樹に入隊した。

 働いた。

 働いた。

 さらに働いた。

 死ぬほど働いた。

 今も働いている。

 ライカは時々それを見て言う。

「自業自得」

「うるせぇ」

「でも頑張ってるね」

「誰のせいだと思ってる」

「半分はキースケ」

「全部お前だろ」

 そう言うと、ライカは少しだけ笑う。

 俺はその顔が嫌いだった。

 だから今日も働く。

 借金を返すために。

 そしていつか。

 次こそ勝つために。

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小噺 第六世界
最終更新:2026年06月21日 21:32