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小噺-『射手座の休日の朝』

 休日の朝は静かだ。

 六人で暮らしている6LDKの高級マンションも、この時間だけはまだ眠っている。

 だが、その静寂は長く続かない。

 朝六時。

 射手座で最も早起きの男、ナワテはすでに台所に立っていた。

「さて」

 炊飯器の蓋を開ける。

 白い湯気が立ち上る。

 続いて味噌汁の鍋を確認し、魚を焼き始める。

 料理そのものは嫌いではない。

 六人分となれば量は多いが、全員が同じものを食べるならそこまで難しくない。

 ご飯。
 味噌汁。
 焼き魚。
 だし巻き卵。

 和食は偉大だ。

 それぞれ違うものを作れと言われたら面倒だが、同じ献立なら流れ作業で済む。

 だし巻き卵を巻いていると、背後から足音が聞こえた。

「おはよー……」

 コーヤだった。

 まだ寝癖が残っている。

「おはよう」

「手伝う?」

「頼む。冷蔵庫の常備菜出して小鉢に分けてくれ」

「了解」

 慣れた様子で冷蔵庫を開ける。

 ひじき。
 きんぴら。
 ほうれん草のお浸し。

 コーヤは次々と器へ盛り付けていく。

「こういうの作るの好きだよな、ナワテ」

「楽だからな。あると朝が楽になる」

「生活力高すぎるだろ」

「お前らが低すぎるんだ」

 それは否定できなかった。

 しばらくして、今度は二人分の足音が聞こえてくる。

「朝から働いてるねぇ」

「偉いわねぇ」

 ヤガミとセンジだった。

 センジはまだ半分眠そうだが、ヤガミは比較的元気である。

「机片付けといてくれ」

「はーい」

 昨日の夜に食べた菓子の袋や雑誌が少し散乱している。

「なんでこうなるかな」

「犯人はソラシじゃない?」

「だと思う」

「だと思うね」

 二人はあっさり意見が一致した。

 文句を言いながらも机を拭き、ゴミをまとめていく。

 その頃にはクリアも起きてきた。

「……おはよう」

 眠そうな顔でソファに座る。

「おはよう」

「おはよう」

「おはよー」

 返事だけすると、またしばらく動かなくなった。

 起きているのか寝ているのかよく分からない。

 それがクリアである。

 やがて料理が全て並んだ。

 ご飯。
 味噌汁。
 焼き魚。
 だし巻き卵。
 小鉢数種。

 完璧だ。

 だが一人足りない。

「まだ来ないな」

 ナワテが時計を見る。

 全員が同時にある方向を見る。

「……」

「……」

「……」

「ソラシだね」

「ソラシだな」

「ソラシですね」

 満場一致だった。

 センジが立ち上がる。

「起こしてくる」

「頼む」

 数分後。

「んー……」

 ソラシが現れた。

 髪はぼさぼさ。

 目は半開き。

 足取りは酔っ払いみたいにふらふらしている。

「おはよう」

「……おはよ……」

 言い終わる前に欠伸をした。

 リーダーの威厳は休日には存在しない。

 全員が席につく。

 朝は皆で食べる。

 それが射手座の約束だった。

「いただきます」

『いただきます』

 食事が始まる。

 ナワテとコーヤは順調にご飯を消費していく。

「おかわり」

「俺も」

 早い。

 とにかく早い。

 一方でセンジは少食だった。

 茶碗のご飯も半分ほど。

「もっと食え」

「無理」

「アイドルやるなら体力いるぞ」

「うるさい」

 そしてソラシ。

「……」

 魚を持ったまま止まっている。

「寝るな」

 クリアが箸で軽く突いた。

「起きてる……」

「起きてない」

 クリアが魚の骨を取ってやる。

 ソラシは素直に食べた。

 まるで保護者と子供だった。

 朝食が終わる。

 食器は流しへ。

 洗うのはナワテだ。

「悪いな」

「いつもありがとー」

「感謝してる」

「なら今度代われ」

 返事はなかった。

 ナワテは少しだけため息を吐いた。

 食器洗いが終わる頃には、それぞれ好き勝手なことを始めていた。

 コーヤとヤガミは大画面でゲーム。

「そこ罠ある!」

「うわっ!?」

「引っかかった!」

「ははは!」

 センジは本を読んでいる。

 クリアはソファで丸くなっていた。

 そしてソラシは。

「すー……」

 再び寝ていた。

 見事な二度寝だった。

「起きて二時間も経ってないぞ」

 ナワテは呆れながら掃除機を持ち出す。

 休日なので共用部の掃除も済ませる。

 掃除機をかけながら転がっているソラシを足で軽く押す。

「どいて」

「んー……」

 少し転がる。

 また掃除機をかける。

 今度はクリア。

「……」

「クリア」

「……」

「どいて」

 無言で少しずれる。

 掃除は進む。

 平和だ。

 戦場では長距離火力と索敵と罠と狙撃で敵を吹き飛ばしている連中とは思えない。

 掃除を終えたナワテは窓際に立った。

 外はよく晴れている。

 昼はパスタでも作ろう。

 夕飯は外食がいい。

 前回は焼肉だった。

 なら今度は寿司か。

 そんなことを考える。

 リビングを見る。

 ゲームで騒ぐ二人。

 本を読む一人。

 寝ている二人。

 騒がしいが、悪くない。

 任務のない休日。

 誰も死なない一日。

 それだけで十分だ。

「……こういうのも、いいな」

 小さく呟いて、ナワテは昼食の材料を確認するために冷蔵庫を開けた。

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第二世界 小噺
最終更新:2026年06月23日 22:49