アットウィキロゴ

小噺-『太陽は悪を照らす』

 「太陽の騎士」太陽正道は、本来なら教師か公務員になっていただろう男だった。

 真面目で、礼儀正しく、規律を重んじる。

 悪人という言葉が、一番似合わない男である。

 だが、親が残した借金は、その人生を容赦なく狂わせた。

 借金の返済の代わりに身体を差し出し、人体改造手術を受ける。

 そして彼は、悪の組織の戦闘員となり、「太陽の騎士」と呼ばれるようになった。

 組織に入って最初に思ったことは一つだった。

「……緩すぎる。」

 朝礼。

 誰も時間通りに来ない。

「集合は九時です。」

「悪の組織だからさ。」

「理由になっていません。」

 報告書。

「書いてません。」

「なぜです。」

「悪だから。」

「悪でも報告書は必要です。」

 備品。

「盾が三枚足りません。」

「壊れました。」

「使用報告書は。」

「ありません。」

「今から書いてください。」

 食堂。

「今月は予算オーバーです。」

「肉を増やしたから。」

「来月は豆腐です。」

「えぇ!?」

 いつの間にか悪の組織の会議は、

「経費削減」

「作戦効率」

「有給取得」

「健康診断」

 という、普通の会社のような内容になっていた。

「太陽の騎士って悪役向いてなくない?」

「いや、一番悪の組織を運営してる。」

 そんな評価だった。

 総統は滅多に姿を見せない。

 幹部は好き勝手。

 結局、現場を回しているのは太陽の騎士だった。

 数年後。

 彼は当然のように大幹部になっていた。

 そんな彼にも、一人だけ頭を抱える相手がいた。

 正義の味方。

 「半魚人」深海れな。

「またあなたですか。」

「また悪いことしてるでしょ!」

「本日は新兵器の性能試験です。」

「だから止めに来たの!」

「業務妨害ですね。」

「悪の組織に言われたくない!」

 戦う。

 負けない。

 また戦う。

 何度倒されても立ち上がる。

 正道は少しずつ彼女を認め始めていた。

「……根性だけはありますね。」

「だけって何よ!」

 それでも敵同士だった。

 そして、超人計画の決着の日が訪れる。

 本来、計画の五号になる予定だったのは「半魚人」だった。

 しかし、勝ったのは太陽の騎士だった。

 その瞬間。

 超人計画五号の称号は、彼へ与えられた。

 基地は歓声に包まれる。

「やったぞ!」

「太陽の騎士万歳!」

 だが。

 総統だけは笑っていなかった。

 その違和感が、正道の胸に残った。

 彼は以前から組織の資金を調べていた。

 元々は横領防止だった。

 真面目だからである。

 調べれば調べるほど、おかしい。

 悪の組織の資金。

 正義の味方の活動資金。

 支援企業。

 研究費。

 全てを辿る。

 そして最後に、一つの名前へ辿り着いた。

 ――切り札。

 悪も。

 正義も。

 同じ組織が資金を出し、戦わせていた。

 超人計画を進めるためだけに。

 正道は静かに資料を閉じた。

 その足で総統の部屋へ向かう。

「何か用かね。」

 総統は笑っていた。

 正道はレイピアを抜く。

 その切っ先は真っ直ぐ総統へ向けられていた。

「私は悪の組織だから従っていたのではありません。」

「目的が世界征服であることは理解していました。」

「しかし、正義と悪を同じ資金で操り、人命を娯楽のように扱う行為だけは認められません。」

「……ここで終わりです。」

 一閃。

 総統は倒れた。

 基地中が騒然となる。

「裏切りだ!」

「太陽の騎士を止めろ!」

 誰も止められなかった。

 一番強かったのが太陽の騎士だったからだ。

 悪の組織は、その日一日で崩壊した。

 だが正道は満足しなかった。

「皆さん、今後の就職について面談を行います。」

「え?」

「履歴書を書いてください。」

「悪の組織しかやったことないんだけど!?」

「安心してください。警備会社、工場、運送業を中心に紹介します。」

「なんで組織潰した後に就職支援してるんだよ!」

「皆さんにも生活がありますから。」

 こうして元戦闘員たちは次々と再就職していった。

 その間、「半魚人」深海れなも切り札から狙われる危険があった。

「安全のため、こちらで生活してください。」

「え? 一緒に?」

「はい。」

 最初は本当に護衛だった。

 朝起きる。

 朝食を作る。

 洗濯する。

 買い物へ行く。

 帰宅時間を連絡する。

 まるで新婚生活だった。

「ねえ。」

 ある日、れなが笑う。

「これ、もう同棲じゃない?」

「……そうですね。」

「じゃあ恋人になる?」

 正道は少し考える。

「合理的です。」

「違うでしょ!」

 れなが額を押さえる。

「好きだからって言うの!」

 正道は少しだけ照れながら言った。

「……好きです。」

「最初からそう言えばいいのに。」

 一年後。

 元戦闘員たちはそれぞれ新しい人生を歩み始めた。

 正道も一区切りを迎える。

「苗字、どうする?」

「深海になります。」

「私が変えなくていいの?」

「あの姓を見ると、親を思い出します。」

 少しだけ微笑む。

「それに、私はあなたの家族になりたい。」

 れなは静かに頷いた。

 こうして太陽正道は、深海正道となった。

 その後、切り札と敵対する世界樹から声が掛かる。

「待遇は悪くありません。」

「悪の組織じゃないしね。」

「ええ。」

 正道は眼鏡をかけ直した。

「ようやく、真っ当な仕事ができます。」

 世界樹の隊士たちは後に語る。

「深海さんは優秀だ。」

「でも、あの人……悪の組織を会社として立て直してから潰した人だからな。」

「何を言ってるのか分からない。」

「本人も、たぶん分かってない。」

タグ:

第二世界 小噺
最終更新:2026年07月04日 21:50