彼にとっては普通の日常
そこはある教室の一角。時は放課後。
一人の女子高生が半紙を前にして静かに座っている。
肩までしかない黒髪をポニーテールに結わえ、
釣り目がちな深い碧色の目は集中のためかより細く引き締まっていた。
すいっと右手で持つ筆が動く。
一人の女子高生が半紙を前にして静かに座っている。
肩までしかない黒髪をポニーテールに結わえ、
釣り目がちな深い碧色の目は集中のためかより細く引き締まっていた。
すいっと右手で持つ筆が動く。
墨汁に浸された筆は勢いよく引かれ、白の半紙を黒く染めていく。
その筆の勢いは力強く、一気に書き上げられた。
その筆の勢いは力強く、一気に書き上げられた。
少女はふっと息を吐きだし、書き上げられた半紙を覗く。
しばらくその書き上げられたそれを見つめ、ふと、その少女は呟いた。
しばらくその書き上げられたそれを見つめ、ふと、その少女は呟いた。
「駄目だ~」
妙に間延びした声とともに半紙をくちゃくちゃに丸め、ぽいっとゴミ箱へ投げる。
丸まった半紙はゴミ箱からあっさり外れ、床へと転がった。
その数、すでに30枚。だが、そんな事は気にしないとばかりにその少女は再び新しい半紙に向かう。
丸まった半紙はゴミ箱からあっさり外れ、床へと転がった。
その数、すでに30枚。だが、そんな事は気にしないとばかりにその少女は再び新しい半紙に向かう。
その時、彼女に向かって声がかけられる。
「おい。そのゴミ流石に片付けろよ。ここは部室であってアリサの部屋じゃないんだぞ」
「あひゃい!!」
「あひゃい!!」
その声に驚いたのか、意味不明な声を上げる少女。
アリサと呼ばれた少女は背筋を伸ばすようにすると顔だけを後ろに向ける。
その表情は露骨に不満げだった。
アリサと呼ばれた少女は背筋を伸ばすようにすると顔だけを後ろに向ける。
その表情は露骨に不満げだった。
「西郷君~。脅かさないでよ~」
「ああ、悪い悪い。でも呼び出したのそっちだぞ。
たまたま演劇部の部活が休みだったから良かったけどな」
「ああ、悪い悪い。でも呼び出したのそっちだぞ。
たまたま演劇部の部活が休みだったから良かったけどな」
西郷と呼ばれた体格のよい少年もまた、文句を言うように話しかける。
ようやく体ごと西郷へとむけたアリサは両手をぱんっと合わせ、笑う。
ようやく体ごと西郷へとむけたアリサは両手をぱんっと合わせ、笑う。
「ああ~そうだったね。ごめんごめん。でさ、ほら、もうすぐ母の日じゃない。
買い物に付き合ってもらおうと思ってね~」
「そんなの、一人で決めればいいだろう」
「一人だと全然決められないのよ~。西郷君お願いだからさ~」
買い物に付き合ってもらおうと思ってね~」
「そんなの、一人で決めればいいだろう」
「一人だと全然決められないのよ~。西郷君お願いだからさ~」
子供っぽく笑うアリサに対し、西郷は苦笑いを浮かべ、肩を落とす。
「アリサは昔からそうだったがなあ。いい加減それくらい一人で決められるようになれよ」
「……駄目?」
「……駄目?」
西郷の言葉に反応して、アリサはしゅんとなってしまう。
そして落ち込んだようにポツリと漏らしたアリサの言葉に、今度は西郷が慌てる番になる。
そして落ち込んだようにポツリと漏らしたアリサの言葉に、今度は西郷が慌てる番になる。
「いや、そう言う訳じゃなくてなあ。……ああ、分かったよ。行けばいいんだろ行けば!」
「やったあ! 西郷君ならきっとそう言ってくれると思ってたよ~」
「やったあ! 西郷君ならきっとそう言ってくれると思ってたよ~」
途端、満面の笑顔になるアリサに西郷はやられたとばかりに再び渋面になった。
「ああ、また演技だったな」
「西郷君ってこういうのに弱いよね~。だから西郷君って好きだよ~」
「ああそうかい。はあ……ほら、さっさと行くぞ」
「西郷君、ちょっと待ってよ~。置いてかないで~」
「西郷君ってこういうのに弱いよね~。だから西郷君って好きだよ~」
「ああそうかい。はあ……ほら、さっさと行くぞ」
「西郷君、ちょっと待ってよ~。置いてかないで~」
ずんずんと歩き出した西郷に、アリサは慌てて書道道具を片づけると西郷の後を追いかける。
日が長くなった夕焼けで、二人の影が薄く長く伸びていた――。
日が長くなった夕焼けで、二人の影が薄く長く伸びていた――。
一方その頃――
「また新しい女が近くにいる……嫉ましい……」
その姿を見ている少女が一人。
なんだかんだでやっぱり直接会いにいけない少女、西園寺聖子がこっそりと二人と見つめていた。
なんだかんだでやっぱり直接会いにいけない少女、西園寺聖子がこっそりと二人と見つめていた。