先輩、お勉強中ですか?
「あれあれ先輩、お勉強中ですか? 私のステディはスタディ中、なーんて」
「使い古されすぎたネタに失望すら覚える」
「使い古されすぎたネタに失望すら覚える」
出来る限り冷たく聞こえるように言い捨ててから、俺は教本を閉じた。後輩が背後から手元を覗きながら俺の
肩に顎を乗せようとしていたので、手で追い払う。ステディ(彼氏)という部分を否定する台詞を付け加えるこ
とも忘れない。
今日も後輩は、俺の休み時間の邪魔をする。
肩に顎を乗せようとしていたので、手で追い払う。ステディ(彼氏)という部分を否定する台詞を付け加えるこ
とも忘れない。
今日も後輩は、俺の休み時間の邪魔をする。
「うわぁ、世界史ですかぁ」
目ざとく表紙を確かめた後輩は、いかにもイヤがっているように眉を寄せた。ただし口元は笑っている。
「あまり得意じゃないんだ、世界史は」
「意外ですね?」
「そうか?」
「意外ですね?」
「そうか?」
もちろん試験ともなれば、それなりの点は採ってみせる。
別に歴史が嫌いなわけでもない、むしろ大変に興味深いのだが、暗記科目はとにかく俺の時間を食う。それは
困る、というだけだ。
別に歴史が嫌いなわけでもない、むしろ大変に興味深いのだが、暗記科目はとにかく俺の時間を食う。それは
困る、というだけだ。
「先輩は歴史上の人物で誰が一番好きです?」
ほとんど間を置かず、後輩から質問が飛んでくる。
……こいつのこういう質疑応答、絶対に話が変な方向に行くからイヤなんだけどな。前回の“究極の選択”も
そうだったし(※『先輩、/犬派ですか/猫派ですか/閑花ちゃん派ですか?』参照)。
……こいつのこういう質疑応答、絶対に話が変な方向に行くからイヤなんだけどな。前回の“究極の選択”も
そうだったし(※『先輩、/犬派ですか/猫派ですか/閑花ちゃん派ですか?』参照)。
「あ。リンゴジャンキーだからってニュートンさんとかナシですよ、真面目にお願いします。あ、ちなみに今の
は林檎と梨を引っ掛けた洒落です。面白いこと言いよってからにーこいつめー、って褒めてくださってもいいん
ですよ?」
「その前に誰がジャンキーだ……」
「……ええのんよ?」
は林檎と梨を引っ掛けた洒落です。面白いこと言いよってからにーこいつめー、って褒めてくださってもいいん
ですよ?」
「その前に誰がジャンキーだ……」
「……ええのんよ?」
断固拒否する。
しかし褒めて褒めて光線はひと睨みていどでは散らない。
しかし褒めて褒めて光線はひと睨みていどでは散らない。
「ちなみに私の尊敬する歴史上の人物は、先崎俊輔です! あとの海千山千はわりとどーでもいいです!」
「海千山千ってそれ有象無象か何かと間違えてねーか?」
「海千山千ってそれ有象無象か何かと間違えてねーか?」
それから下手したら俺死んでないか? “歴史上”って言い回し。
……。
深くは踏みこまず、話を進めることにする。俺も小学生のころには、図書室に通って伝記などを読み漁ってい
たものだ。その中から何人か。
……と思ったが、これが意外と難しいことに気づく。
多すぎるのだ。
……。
深くは踏みこまず、話を進めることにする。俺も小学生のころには、図書室に通って伝記などを読み漁ってい
たものだ。その中から何人か。
……と思ったが、これが意外と難しいことに気づく。
多すぎるのだ。
「大抵の偉人はそれなりに尊敬しているが、今パッと名前が出るのは、伊能忠敬とか、関孝和?」
「ふんふん」
「ふんふん」
何故にこのふたりが真っ先に浮かんだのか不明だが、過去に何らかの強烈な印象があったのだろう。
「あとは、マリア・スクウォドフスカ・キュリー、キュリー婦人とか」
「まさかの人妻……!?」
「フローレンス・ナイチンゲールとか」
「まさかのナース……!?」
「ジャン・アンリ・カジミール・ファーブルとか」
「まさかの蟲プレイ……!?」
「グレゴール・ヨハン・メンデルとか」
「まさかのメンデレ……!?」
「まさかの人妻……!?」
「フローレンス・ナイチンゲールとか」
「まさかのナース……!?」
「ジャン・アンリ・カジミール・ファーブルとか」
「まさかの蟲プレイ……!?」
「グレゴール・ヨハン・メンデルとか」
「まさかのメンデレ……!?」
何それ。
後輩がいちいち仰け反る理由が今ひとつ分からない。取り敢えず、偉大な先人たちをダシに何か良からぬ妄
想をしていたということだけは確かっぽい。もうこいつに構うの止めようかな……。
後輩がいちいち仰け反る理由が今ひとつ分からない。取り敢えず、偉大な先人たちをダシに何か良からぬ妄
想をしていたということだけは確かっぽい。もうこいつに構うの止めようかな……。
「他にもたくさんいるが、もういいだろう」
「ま、まあ、卑弥呼とか言わなかっただけ今回はよしとしましょう」
「ま、まあ、卑弥呼とか言わなかっただけ今回はよしとしましょう」
後輩は謎の上から目線で物を言い、偉そうに腕を組んでみせた。
「卑弥呼」
何でそこで卑弥呼が? 史料があまりないぶん、正直なところ、影が濃いようで薄い。まして“尊敬”とい
う感情を抱くのは難しいように思うのだが。
う感情を抱くのは難しいように思うのだが。
「巫女フェチは罪です。見るだにおめでたい紅白に彩られた、まさに邪教の出で立ち」
「お前何教徒だよ」
「紙の飾りのついた棍棒をめったやたらにふりまわし、悪霊を撲殺する」
「幣な」
「それに、奴ら竹箒に股がってマッハでヒャッハー空を飛びますしね!」
「飛ばねーよ」
「お前何教徒だよ」
「紙の飾りのついた棍棒をめったやたらにふりまわし、悪霊を撲殺する」
「幣な」
「それに、奴ら竹箒に股がってマッハでヒャッハー空を飛びますしね!」
「飛ばねーよ」
ああ、とそこで思い出す。まだ嫌ってたんだな、神柚鈴絵先輩のこと。
……嫌っているのとは違うか。
……嫌っているのとは違うか。
「ところで先輩、尊敬する人物の中に、後輩キャラはいないのですか?」
「よく知らない」
「それはつまり、先輩にとっての後輩のイメージは、ほぼ私が独占ということ……!? や、やだー」
「何だかおかしい理屈だが……その図々しさはある意味尊敬に値するかもな」
「よく知らない」
「それはつまり、先輩にとっての後輩のイメージは、ほぼ私が独占ということ……!? や、やだー」
「何だかおかしい理屈だが……その図々しさはある意味尊敬に値するかもな」
はしゃぐ後輩を適当にあしらいながら、俺はまた世界史の教科書に目を落とした。
おわり