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ただの金銀のようだ その2 - (2007/05/20 (日) 22:07:29) の編集履歴(バックアップ)



「なんかさぁ……町の人たち、みんなぼくたちを見てない?」
そんなのび太の疑問にしずかが答える。
「ぼくたちって言うか、のび太さんじゃない?」
「あっ、そう言われれば」
ここ、ヒワダタウンの住民は確かにのび太の方を凝視している。
それも悲しそうな目付きで。
「あの、ぼく、なんかしましたか?」
のび太は近くで自分の方を見ていた青年に尋ねた。
「い、いや、違うんだ!」
青年は首を振って否定した。
「それじゃ、なんでこの町の皆さんはぼくのことを見てるんですか?」
青年はそれも否定した。
「い、いや、きみじゃなくて……きみが連れているヤドンだよ」
のび太としずかは予想外の返答に驚き、それはどういうことかと青年に尋ねた。
「この町にはね、そりゃもうたくさんのヤドンがいたんだ。
 でもある日突然、ヤドンたちは一匹残らずこの町から消えてしまったんだよ」
青年は悲しそうに語る。
「ロケット団の連中が、東にあるヤドンの井戸に連れ去ったっていう噂があるんだ。
 まぁ単なる噂なんだけど」
「なんで確かめにいかないんですか?」
のび太がもっともな質問を投げ掛けた。
「だってボクは強くないし、そもそも井戸は立ち入り禁止だし」
この青年には、自分でなんとかしようという気持ちはないらしい。
「いいかい、きみたちも井戸に近付いちゃいけないよ」
青年はそう言うと、どこかに立ち去った。
その後ろ姿を見送りながら、のび太は言う。
「あんなことを言われたら、ねぇ?」
そしてしずかを見やった。
しずかも同じように言う。
「行くしかないわ、ねぇ?」
意見は一致し、二人は井戸の方へ向かった。



「今度は森かよ……」
ぐったりとしながらジャイアンは呟いた。
「もうダンジョンなんて無理だって……」
その場にしゃがみ込むジャイアンを傍らのゴーリキーが慰める。
「そうだよな、お前らがいるよな。弱音なんて俺らしくもねぇや」
あの一件以来、ジャイアンはなるべく手持ちをボールから出すことにした。
今まではただのデータとしか思えなかったポケモンたちに、
ジャイアンはあれ程ばかにしていた愛情すら沸いていた。
「スネ夫にも謝らなくちゃな」
ぼっこぼこにされてお金まで取られる側の人間の気持ちも、少しは分かったらしい。
ジャイアンは森の奥へと進んでいった。



ヤドンの井戸
別名雨降らしの井戸

「あれ、誰もいないや」
のび太の記憶によれば、町に来たときは井戸の前に人が立っていたはずだった。
しかし、今は誰もいない。
「中に入ってみましょう」
しずかに促され、のび太は井戸の中に入っていった。
井戸の中は予想よりも広かった。
「のび太さん」
見て、と言うしずかが指差す先に目をやると、
一人の老人がロケット団の下っ端たち三人に囲まれていた。
まだ二人には気付いていないようだ。
「取りあえず様子を……ってあれ、のび太さん?」
しずかは辺りを見回すが、のび太が見当たらない。
しずかの頭を嫌な予感が過ぎった。
「イトマル、糸を吐く!」
しずかの予感は大当たりをした。
のび太はロケット団がこの井戸に何人いるのかも分からないのに、
単身で老人を助けにいったのだ。
「うわ、なんだこれ!」
「くそ、前が見えない!」
「こら、待ちやがれ!」
イトマルの吐いた糸がその場の三人全員の視界を奪えたことが、幸いだったと言えよう。
「おじいさん、早く逃げて!」
のび太の言葉に対し、老人はすまなさそうに首を振った。
「坊主、わしはもう歩けん。井戸に入ったときに腰を打ってしもうたんや」
「えッ!?」
痛そうに腰部をさする老人を見ながら、
のび太はこのあとどうするかなど、まるで考えていなかったことを思い出した。
「このくそガキが!」
二人はあっと言う間に先ほどの三人に囲まれてしまった。



「もう逃がさねぇぞ!」
下っ端たちは自分のボールに手を掛けた。
「くッ、万事休すか……!」
老人はそう呟いたが、のび太には意味が分からなかった。
「覚悟するんだ……な?」
いきなり三人は地面に倒れこんだ。
「あれ?」
困惑するのび太。すると、
「もう、のび太さんったら」
声のする方にはしずかが立っていた。
「ホーホーの催眠術があったからなんとかなったけど……」
どうやらしずかは怒っているらしい。それも当然なのだが。
「まぁこれではっきりしたわ。やっぱりロケット団の仕業みたいね」
しずかはそう呟き、残りの手持ちもボールから出した。
「おい、一体なんの騒ぎだ!」
今の騒ぎを聞きつけて、残りの下っ端たちもこちらへと近付いてくる。
「おじいさんはここにいてください」
しずかは老人に指示を出し、のび太に告げる。
「わたしが下っ端たちを倒して食い止めるから、
 のび太さんは奥に行ってヤドンたちを助けてきて!」
しずかの提案にのび太はこくりと頷いた。
「そうはさせるかよ!」
下っ端のズバットがのび太の行く手を塞ごうとする。
「のび太さん、振り返らないで進んで!」
言われるまま走っていくのび太を見届けてから、しずかはメリープに命じる。
「メリープ、フラッシュよ!」
「うおッ、まぶし!」
井戸の中は当然、暗い。
下っ端たちは長時間ここにいたため、フラッシュの目眩ましの効果も増大する。
この隙に、下っ端たちが出しているポケモンを倒してしまおう、
というのがしずかの魂胆だったのだ。
「のび太さん、がんばって……」



 ここはコガネシティ
 豪華絢爛
 金ぴか賑やか華やかな町

一方その頃、スネ夫はゲームセンターにいた。
「アカネは強いから、挑戦しても負けちゃうだろうしなぁ」
これはただの自分に対する言い訳で、
実際は負けっ放しなので帰るに帰られなくなっているだけである。
せっかく貯め直したお金が、どんどんコイン引換所へと消えていく。
「くそッ、ぼくがこんなスロットで稼げないはずがないんだ……!」
とうとうスネ夫の口から本音が洩れた。
ちなみにスネ夫はこのあと、
すっからかんになるまでスロットにのめり込むのであった。



「ひどいや、なんでこんなことを……」
そう呟くのび太の目前にはたくさんのヤドンたち。
のび太の怒りの理由は、ヤドンたちが一匹残らずしっぽを切られているからだ。
「面白ぇこと言うなぁ、お前」
どこからか男の声がした。
のび太は慌てて、腰のボールを手に持った。
すると、井戸のさらに奥の方から、一人の男が現れた。
その金髪の男は、顔に僅かな笑みを浮かべ、のび太に近付いてくる。
「なんでって、金になるからに決まってるだろ。ヤドンのしっぽは高く売れるんだぜ?」
男が着ている服は確かにロケット団のものであったが、下っ端のそれとは明らかに違う。
「まさか、ロケット団の幹部?」
のび太の問いに男は笑う。
「そう、正解。オレは幹部の一人、コウマだ。まぁ覚えとく必要はないぜ」
のび太が繰り出すのよりも早く、コウマは手持ちをボールから出した。
「だってもう、会うこともないからな」


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