アナンタシェーシャ
「この現実は、この宇宙は"アナンタシェーシャ"の円環の中に囚われている。」
——『異聞創世記』p.x
■CONTENTS
■Character
≫Looks
【巨大な海蛇であった。細長い身体が天を貫くのでは無いかという程に伸びて】
【水飛沫が日差しを反射し煌々とした輝きを添える。天から落ちてきたかの如く光を携え】
【そしてそれはまた同時に無慈悲さの象徴でもあった。変わりなく世界は流転する事を伝える様に】
【海蛇の表面は真っ白な鱗で覆われている。滑らかな鱗の一つ一つに文様が刻み込まれているが如く】
【穢れ一つ無いその姿は降ったばかりの新雪に似ていた。初雪の朝、朝日につられ開いた窓の外の景色】
【白鷺の様に艶のあるその身を誇示したなら、そこにいる存在が圧倒的な威圧感を持って迫ってくる】
【場違いにはっきりとした双眸が貴方達を捉える。神々しさとまた違った禍々しさを持った双眸】
【──それは事実であって、何らかの示唆かもしれない。ただの結果で敷かなくとも】
【その白蛇は赤と黒のオッドアイをしていた。それだけで十分、貴方達には意味が通るだろう】
【美しい瞳であった。──禍々しく神々しく、異世界の存在である蛇の中に在って、唯一】
【その瞳は現実性を持っていた。例えるならそれは、実際に誰かの瞳を持ってきたかの様に】
レッド・ヘリングの不定形の姿と比べると、神々しい雰囲気を保った巨大な蛇の姿をしている。
鱗は白であり、特徴的なその双眸は赤と黒のオッドアイに支配されていた。
故にその姿は
白神 鈴音を想起させるのに十分であり、その姿の禍々しさをはっきりと伝える。
≫About
グランギニョルの神々が一柱であり、
グランギニョル神話の一説『異聞創世記』により描かれた
"虚神"。
INF財団には
"INF-003"と分類され
"拒絶する輪廻の蛇"という意味の
"Sheriruth"のオブジェクトクラスを持つ。
その大きな性質は永劫を繰り返す輪廻の蛇であり、人間の想像を遙かに超えた時間軸の存在であった。
しかし、攻撃が回避された瞬間、アナンタシェーシャの輪廻を巡る能力が発動。
時間を巻き戻し、再び攻撃を開始した。回避された過去を書き換え、攻撃が当たるまで時間を繰り返したのである。
それは悪夢の様に。アナンタシェーシャは能力者達が生きて帰るのを許さず、執拗に追い回していく。
加えて、自身から分泌される"Lethe"を用いた精神攻撃が能力者達を襲う。
物理的な攻撃手段だけではなく精神的な攻撃手段も兼ね備える蛇であった。
特に精神攻撃は凄まじく、対峙する相手の内面を抉る能力は相手に依ってはそれだけで蹂躙できた。
しかし、能力者達は戦いの最中にアナンタシェーシャの突破口に気づく。レオーテヴュートの声が飛んだ。
「ねぇ、皆。……回避は駄目だけどクロスカウンターは効くみたい」
それは歴戦の猛者だけが見抜けた唯一の手段。アナンタシェーシャの輪廻から抜けだすたった一つの冴えたやり方。
けれどもそれは諸刃の刃であった。能力者達は理解する。アナンタシェーシャの身を削るには、自らの身を削るしかない、と。
四者四様で決死の突撃を繰り返す。身を削られ、骨を抉り、肉を断たれても、彼らは攻撃を止めなかった。
スナークは戦慄する。どうして彼らはこんな分の悪い賭の挑むのか、と。
アナンタシェーシャは少しずつその身を削られる。アナンタシェーシャの輪廻は、食らう為の力。
故にその身が削られる事は考慮していない。神たる蛇に楯突く愚者はいなかったから。
だからこその疑問であった。だからこその驕りであった。"The Slasher"の捨て身の一撃が蛇を捉え、その身体を大きく崩す。
その刹那であった。
「――――だからきっとわたしは病気なんだ。」
白神 鈴音の心が溢れる。彼女の持つ"氾濫"の力が、レテ・ビーチにまで溢れていく。
その湖はアナンタシェーシャがまき散らす"Lethe"で出来ていた。内側の概念を溶かし、世界を侵す忘却の水。
そこに溶かされた白神 鈴音の神性を取り込みアナンタシェーシャは復活する。尾を咥えた蛇が象徴する、輪廻。
アナンタシェーシャは戦闘開始時の無傷な状態に巻き戻る。能力者達に絶望を与えながら、再び攻撃を繰り返す。
けれども能力者達は諦めなかった。それが果ての無い旅路であっても、その先にあるのが無明でも、彼らは剣を取る。
アナンタシェーシャの身を削るには、自分自身がダメージを受ける必要があった。だからこそその覚悟は如何ほどか。
やがて処刑されると分かっていても尚、抗い続ける命の輝き。
そして、アナンタシェーシャの内部の白神 鈴音が崩壊。彼女の世界が崩れ去ると同時に、腹部が炸裂した。
能力者達が命を賭して対話の時間を稼いだ。その結果がアナンタシェーシャの崩壊である。
白神 鈴音の抜け殻と共に、アナンタシェーシャは滅びたのであった。
虚構現実では海の中に存在する全長■■■■km以上の巨大な海蛇であり、
INF財団の監視下に置かれていた。
普段は非活性であり、活性化状態になると特別プロトコル
"Collateral Damage"が適用される。
機動部隊ガンマ-3
"Necessary Casualties"が派遣され、贄とされる人型実体をアナンタシェーシャに放つ。
贄は捕食され、その瞬間に"Lethe"が分泌され、財団はこれを回収し、記憶を消す薬品として用いていた。
この性質のためにアナンタシェーシャは術式により周囲の空間から隔離され、監視される。
けれども財団は気づいていなかった。その本性が、どうしようもない絶望であることに。
またその名前は、永劫の具現化として、輪廻の体現者として捉えられる蛇の神様であった。
一般の人々にとっては"へびさま"であり、繁盛や復活の神様としての対象である。
しかし、その正体は恐ろしい因果律の理から外れた存在であった。
『異聞創世記』に描かれたその正体は、世界を創った神。創世神の具現化である。
エデンの園で暮らすアダムとイブ。原初の女性であったイブを唆した蛇。それは神が姿を変えたものであると。
彼は盲信していた。自分達の創った人間は、邪な欲望に負けず、誘惑に折れない存在であると。
結果は言うまでもない、絶望した神はその世界の終焉を見届けると、宇宙ごとその世界を飲み込んだ。
そして再び繰り返す。人間が原罪を持たない世界線を探して。無明の闇から僅かな一条の光を探すかの様に。
"Lathe"は忘却の薬ではない。あれはアナンタシェーシャの内部に内包された永劫の記憶を、上書きするのである。
故に我々は世界が何度も繰り返されている事を認知できない。理の渦中に居ては、客観視などできないから。
「輪廻の蛇は未だ狡猾に、この世界が終わる時を待っている。次の創世の為に。」
アナンタシェーシャは永劫を生きる蛇であり、その内側に無数の宇宙を内包していた。
それは我々が原罪を背負わない。蛇の誘惑に打ち勝つ完全な存在になるまで、繰り返される。
そして、今生きているこの世界は、我々が知性を持っている以上、失敗しているのであった。
逆説的な証明である。我々が認知出来るという事は、この世界に先が無いという事の証左である。
一方基底現実では、白神 鈴音に信仰されていた
"へびさま"と親和する形で顕現した。
イルの手によって蛇であると定義された白神 鈴音は無防備な魂をイルにさらけ出す。
イルはそこにつけ込み、レテ・ビーチの場を借りてアナンタシェーシャを
"へびさま"と同一させた。
故に基底現実でのアナンタシェーシャは"へびさま"を媒介にして存在しており、虚構現実での輪廻から解脱した存在である。
だからこそ、その内部に内包されていたのは白神 鈴音のみであり、"Lethe"を通じて分泌されるのは、白神 鈴音の記憶であった。
イルの狙いはこの痛ましい記憶が世界中に拡散され、無防備な数多の常人を破壊する事にある。
アナンタシェーシャはその意味で非常に隙だらけであった。イルの我が儘に導かれ基底現実に出現したからである。
しかし、元の世界とあまりにも親和性の低いこの世界では、アナンタシェーシャ程の神を顕現する事自体が不可能に近い。
アナンタシェーシャは白神 鈴音が居たからこそ出現でき、白神 鈴音が居たからこそ撃破できたのであった。
■Skill
≫Skill
"虚神"達の持つ能力の一つとして、信仰によって自身の存在を強固にする力を持つ。
中でもアナンタシェーシャは輪廻を司る為、一端信仰されさえすれば、その世界を無限にループできる。
故にその神性は"虚神"の中でも上位に存在する。常人であれば認知すらも叶わない。
この輪廻の力は能力者達との戦闘でも大いに発揮された。アナンタシェーシャと対峙した際、時間が巻き戻るのである。
攻撃を回避した場合、再び攻撃が放たれる時間軸に巻き戻る。そしてアナンタシェーシャ達は巻き戻る前の時間を認知していた。
故に回避を先読みした攻撃を加える。迎撃であっても同様であった、攻撃が直撃する未来を確定させるまで、何度も巻き戻す。
本来であれば巻き戻した後、後述する"Lethe"を分泌し、巻き戻した記憶をアナンタシェーシャ以外持ち越せない様にした。
しかし、基底現実ではその内部にいるのが白神 鈴音のみであった為、"Lethe"は忘却の力を持たず、能力者達は記憶を保つ。
だからこそ突破口が開けた。彼らの洞察力と推理力、そして何よりの精神力が勝った結果であった。
その突破口とは、先述したように攻撃が直撃する未来を確定させる事にあった。
アナンタシェーシャが攻撃を加える事に成功したなら、その未来は確定する。ならばその隙に攻撃すれば良い。
骨を断たせて肉を切る。巨大な質量の蛇相手にカウンターを成功させ続ける事こそが、唯一の道であった。
また、アナンタシェーシャは"Lethe"と呼ばれる分泌液を撒き散らす。
本来であれば"Lethe"は空気中に揮発し、また水として周囲に溜まっていく。
レテ・ビーチの水は出現と共に"Lethe"と置き換わっていた。
つまり、戦闘が長引けば長引くほど"Lethe"は世界中に拡散され、後述する作用を全世界に撒き散らしていた。
故に能力者達は身を切る必要があった。持久戦をしなければならない。けれども、長く戦う事は許されない。
求められるのは決死の攻撃。通常の攻撃では傷一つつかないアナンタシェーシャへ、捨て身の刃を向ける事。
この"Lethe"はアナンタシェーシャの内部の存在や概念を希釈し拡散させる。
虚構現実と基底現実では大きく作用が変化していたのはこの性質が為であり、二つに分けて説明したい。
まず虚構現実では、先述した内容や『異聞創世記』からも分かるようにその内側に無数の宇宙を内包している。
それは世界が創生されてから終焉するまでの時間であり、それを数多の平行宇宙毎内部に捉えていた。
故に我々にはそれが忘却としか認識できない。人の身で辿るにはあまりにも長すぎる時間であったから。
ランドール博士は『外套の男』からこの事実を示唆され認識してしまった。この世界に先が無いことも。
On love, on grief, on every human thing, Time sprinkles Lethe's water with his wing.
(愛、悲しみ、人の営みのすべてに、時はその翼でレテの水を振りかける)
ランドール博士の辞世の句が全てを示していた。認識してしまう、それこそが深い絶望であった。
我々の歴史全ては蛇の胃袋に包まれた無数の世界の一つでしかなく、それ故に永劫を繰り返す。
言わばこの"Lethe"の作用こそがアナンタシェーシャの根源であり、輪廻の全てであった。
一方基底現実ではその内部に取り込んでいたのは白神 鈴音だけであった。
これは、白神 鈴音の"へびさま"を媒介にして顕現したが為であり、その"へびさま"の内面にあったのが白神 鈴音であった。
故に基底現実での"Lethe"に存在していたのは忘却ではなく、白神 鈴音の記憶であった。
或いはそれが、より一層痛々しい絶望でしかなかった。
白神 鈴音の半生は壮絶である。筆舌に尽くしがたい虐待を受け続けた孤児院時代。
面白半分で暴力を受け、見せしめの為に苛められ、挙げ句の果てに殺される。
その後も苦難は続いた。痛苦と絶望との生き地獄、その記憶を余すことなく拡散される。
それは彼女が正気を保っていられたのが不思議な程、常人ならばその身に数滴触れただけで崩壊するほど。
歴戦の強者であった能力者達も悶絶した。それそのものが強力な精神災害を引き起こす劇物となった。
故にイルはただ待つだけで良かった。"Lethe"が世界に満ちたなら、彼女の嫌うニンゲンは殆どが死滅する筈だったから。
"Lethe"の源流はエデンの園であった。根源のイブである鈴音が感じた世界が、全てである。
≫対抗神話
後述する『INF-003』に出てくる"Collateral Damage"。これこそがアナンタシェーシャに対抗するための手段であった。
つまりは必要不可欠な犠牲。何かを犠牲にすることでしか、対価は得られないという事を理解する事にある。
それは輪廻を踏破する為の手段であった。自らの身を犠牲にする事で、漸くアナンタシェーシャに傷を付けられる。
また或いは、内部で対話していた能力者達もまた、内部の鈴音を犠牲にする事で、アナンタシェーシャを消滅できた。
痛みのない勝利など無い。財団はそれを贄という形で再現していた。アナンタシェーシャに人身御供を捧げ、世界の秩序を保つと。
実際は財団世界そのものがアナンタシェーシャにとっての犠牲であったのだが。
■Appendix
工場跡を探索していた
鵺が発見した、虚構現実での書物が一冊。
虚構現実でのアナンタシェーシャの説明が書かれており、その突破口の鍵が示されている。
ランドール博士は自らアナンタシェーシャの口に飲まれる事を選ぶ。それは深い絶望が故に。
同じく鵺が発見した書物。
その内容は対話という形で伝えられるアナンタシェーシャの真実。それは新たなる絶望への序曲。
ランドール博士の最期に至るまでの説明が、静かに語られる。
『外套の男』は真実の語り手として出現、アナンタシェーシャの正体について語った。
最終更新:2018年05月21日 13:42