「あの…先生?お話っていったい」
手すりの手前で立ち止まり、振り返る斉藤。
彼女の発した言葉でエリスの思考が凍り付いた。
「志宝さん、いいえ…シャイマール様」
「えっ?」
手すりの手前で立ち止まり、振り返る斉藤。
彼女の発した言葉でエリスの思考が凍り付いた。
「志宝さん、いいえ…シャイマール様」
「えっ?」
──斉藤朋子の背後には紅い月が煌々と、煌々と、その滴る血のように禍々しい姿を晒していた──
「せ、んせい…?」
エリスが"担任だと思っていた"人物の手が彼女のか細い首に延びる。
「あう…うぐ…っ」
キリキリと人間とは思えない力で首が締め付けられる。
「私と一緒に裏界へ行きましょう?裏界はあなたの国なのですから」
肺が、脳が酸素を欲し、エリスの思考を刈り取っていく。
「ち、が……ひいら、ぎ…せ…ん…」
──ついにエリスの意識は途切れ、昏い昏い闇の底に堕ちていく。
エリスが"担任だと思っていた"人物の手が彼女のか細い首に延びる。
「あう…うぐ…っ」
キリキリと人間とは思えない力で首が締め付けられる。
「私と一緒に裏界へ行きましょう?裏界はあなたの国なのですから」
肺が、脳が酸素を欲し、エリスの思考を刈り取っていく。
「ち、が……ひいら、ぎ…せ…ん…」
──ついにエリスの意識は途切れ、昏い昏い闇の底に堕ちていく。
深淵に映るのは、心の内で密かに想う人か、それとも永久に別れた父とも呼べる人か──
「エリスちゃん!!」
その声がエリスを深い闇から引き戻した。
発砲音が三発、エリスの視界を横切る。
乱入者の姿を確認した"憑かれしもの"は、エリスを乱入者に向けて振り投げた。
慌てて受け止める那岐。
「っと……大丈夫?ケガは?」
「ごほっ、げほっ!……だ、大丈夫…。それより、先生が」
斉藤朋子……いや、"憑かれしもの"は、もう人の形を取る必要もないと判断したのか四肢を鋭い刃物に、表皮を甲殻に、頭髪を針の筵へと変えた。
発砲音が三発、エリスの視界を横切る。
乱入者の姿を確認した"憑かれしもの"は、エリスを乱入者に向けて振り投げた。
慌てて受け止める那岐。
「っと……大丈夫?ケガは?」
「ごほっ、げほっ!……だ、大丈夫…。それより、先生が」
斉藤朋子……いや、"憑かれしもの"は、もう人の形を取る必要もないと判断したのか四肢を鋭い刃物に、表皮を甲殻に、頭髪を針の筵へと変えた。
「なるほどね」
那岐はいっさいの躊躇いなくも引き金を引き、弾丸を撃ちはなつ。
しかし弾丸は"憑かれしもの"の刃で両断された。
しかし弾丸は"憑かれしもの"の刃で両断された。
「やっぱり、エリスちゃんは間違ってなかったわけだ」
「志宝さン。一緒ニ裏界、ヘ行キマしョウ…?」
「先生……っ」
「エリスちゃん、何を言っても無駄だよ!」
「志宝さン。一緒ニ裏界、ヘ行キマしョウ…?」
「先生……っ」
「エリスちゃん、何を言っても無駄だよ!」
巨大な銃器が破裂音を響かせる。
"憑かれしもの"は驚くべき身のこなしで易々と那岐の攻撃を躱した。
「ウソっ!?」
目標を失った弾丸がコンクリートの壁に当たり火花を散らした。
「邪魔、ダ」
針状の髪の毛が機関砲のように撃ち出される。
「きゃっ!」
「うわっと」
横っ飛びで避けた那岐は転がりながら何度も発砲する。
今度は見事に命中したが、堅牢な甲殻に弾かれ満足なダメージを与えることができない。
「ッ!?──エリスちゃん、援護をっ!」
「で、でも…」
エリスが躊躇っているうちに、"憑かれしもの"が那岐に向かって突進する。
"憑かれしもの"は驚くべき身のこなしで易々と那岐の攻撃を躱した。
「ウソっ!?」
目標を失った弾丸がコンクリートの壁に当たり火花を散らした。
「邪魔、ダ」
針状の髪の毛が機関砲のように撃ち出される。
「きゃっ!」
「うわっと」
横っ飛びで避けた那岐は転がりながら何度も発砲する。
今度は見事に命中したが、堅牢な甲殻に弾かれ満足なダメージを与えることができない。
「ッ!?──エリスちゃん、援護をっ!」
「で、でも…」
エリスが躊躇っているうちに、"憑かれしもの"が那岐に向かって突進する。
──腕と同化した白刃が振りおろされる。
「!!」
エリスは思わず、両目を瞑った。
「ぐっ……!!」
次に目を開いたとき、那岐は銃器の砲身を盾代わりにして、辛うじてだが刃を防いでいた。
金属と金属が火花を散らして凌ぎ合い、悲鳴を上げる。
エリスは思わず、両目を瞑った。
「ぐっ……!!」
次に目を開いたとき、那岐は銃器の砲身を盾代わりにして、辛うじてだが刃を防いでいた。
金属と金属が火花を散らして凌ぎ合い、悲鳴を上げる。
防ぎきったと思われた瞬間、"憑かれしもの"が刃と化した脚で那岐の腹を蹴りあげた。
紅い線を引きながら、高々と吹っ飛ばされる那岐。
紅い世界に、紅い飛沫が散った。
紅い世界に、紅い飛沫が散った。
「火渡くん…っ!」
エリスが駆け寄ると、那岐がよろよろと立ち上がる。
彼の周囲には防御魔装の魔術防壁が揺らめいていた。
「血が…」
「これくらい、かすり傷だよ…」
ワイシャツが紅く滲んでいる。
本人はかすり傷と言っているが、出血の量からかなりの深手だとわかる。
それでも、那岐は銃口を"憑かれしもの"へと向ける。
だが…、
「だ、ダメだよ火渡くん!」
その腕に組み付くエリス。
「エリスちゃん!?何を…」
「先生を助けないと、何か方法が」
「──そんなことしている間に、僕たちが殺されちゃうよ!!」
那岐はエリスの腕をふりほどき床を蹴る。
そして、"憑かれしもの"との距離を急激に詰めた。
「コれデ終わリダ」
髪の毛が寄り集まり、槍となって那岐を襲う。
「──行くよ…"日巫女"…」
その言葉を受け、銃が形を変える。
那岐の全身をプラーナの淡い光が包み込み、それと同時に銃身が開く。
エリスが駆け寄ると、那岐がよろよろと立ち上がる。
彼の周囲には防御魔装の魔術防壁が揺らめいていた。
「血が…」
「これくらい、かすり傷だよ…」
ワイシャツが紅く滲んでいる。
本人はかすり傷と言っているが、出血の量からかなりの深手だとわかる。
それでも、那岐は銃口を"憑かれしもの"へと向ける。
だが…、
「だ、ダメだよ火渡くん!」
その腕に組み付くエリス。
「エリスちゃん!?何を…」
「先生を助けないと、何か方法が」
「──そんなことしている間に、僕たちが殺されちゃうよ!!」
那岐はエリスの腕をふりほどき床を蹴る。
そして、"憑かれしもの"との距離を急激に詰めた。
「コれデ終わリダ」
髪の毛が寄り集まり、槍となって那岐を襲う。
「──行くよ…"日巫女"…」
その言葉を受け、銃が形を変える。
那岐の全身をプラーナの淡い光が包み込み、それと同時に銃身が開く。
「──!!」
頬をかすって鮮血が飛ぶのにも構わずに、伸びた槍の隙間に飛び込む。
そして、那岐は銃口を"憑かれしもの"に押し付けた。
「──………ね」
かすかに何事かを呟いた瞬間──金色の閃光が爆発した。
閃光は一条の柱になって──
頬をかすって鮮血が飛ぶのにも構わずに、伸びた槍の隙間に飛び込む。
そして、那岐は銃口を"憑かれしもの"に押し付けた。
「──………ね」
かすかに何事かを呟いた瞬間──金色の閃光が爆発した。
閃光は一条の柱になって──
チリを燃やし、
大気を焼き、
紅い世界を斬り裂いた。
金色の光に包まれた"憑かれしもの"は微塵も残さず、消し飛ぶ。
それと共に月匣も消え去り、元の暗闇の世界が帰ってきた。
「はぁ…はぁ……」
肩で息をする那岐。
その顔は苦悶で満ちていた。
エリスが複雑な表情で歩み寄る。
「火渡くん…その、どうして……」
「どうして殺した、とか訊くつもり?」
那岐の台詞にエリスの表情が強ばる。
「…た、助けることができたかも知れないのに……」
「あれだけ完全に癒着してしまったらもう手遅れだよ」
「でも!」
「どうやったって助けられない命はあるんだ、ウィザードなら割り切ることだって必要だよ」
「──っ!」
肩で息をする那岐。
その顔は苦悶で満ちていた。
エリスが複雑な表情で歩み寄る。
「火渡くん…その、どうして……」
「どうして殺した、とか訊くつもり?」
那岐の台詞にエリスの表情が強ばる。
「…た、助けることができたかも知れないのに……」
「あれだけ完全に癒着してしまったらもう手遅れだよ」
「でも!」
「どうやったって助けられない命はあるんだ、ウィザードなら割り切ることだって必要だよ」
「──っ!」
エリスは胸の内に湧いた激情に任せて那岐の頬を叩いた。
「あっ…その……」
「……足掻いても変えられないことがある…この世界にはね」
那岐はそれだけいうと翠緑色の風を巻き起こして姿を消す。
「あっ…その……」
「……足掻いても変えられないことがある…この世界にはね」
那岐はそれだけいうと翠緑色の風を巻き起こして姿を消す。
「私…わたし、は……」
残されたエリスは、行くあてもなく途方に暮れた迷子のようだった…。
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屋上での戦いを観戦していたものがひとり。
給水塔の上に立ち、人気のなくなり静かになった屋上を眺める。
給水塔の上に立ち、人気のなくなり静かになった屋上を眺める。
「…ベルも大人げのないことをしますね」
"秘密侯爵"リオン=グンタである。
彼女は手に持った書物を開いた。
そのページは何も書いていない空欄だった。
空白を白魚のような指でなぞりリオンは呟く。
彼女は手に持った書物を開いた。
そのページは何も書いていない空欄だった。
空白を白魚のような指でなぞりリオンは呟く。
「火渡那岐…あなたは何なのですか……?」
あらゆる秘密を記すリオンの書物をもってしても彼の秘密は読むことができない。
また、そういった人物が他にも複数いる。
これはリオンにとってゆゆしき事態であり、同時に興味深いことだ。
これはリオンにとってゆゆしき事態であり、同時に興味深いことだ。
考えられる理由はひとつ。
彼女の力を遮る"何か"がここ、風華学園に存在からである。
因果がひとつ歪めばそれに連なって他の因果が歪むのは世の理。
彼女の力を遮る"何か"がここ、風華学園に存在からである。
因果がひとつ歪めばそれに連なって他の因果が歪むのは世の理。
「あなたが特異点なのか…それとも……」
黄色い月が寝静まった学園を見下ろしていた──