ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第03話02

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―――281年2月上旬
―――月匣内

「…厄介な」

 褐色の肌の少女は、歯噛みする。
 何が厄介か、と言えば、この状況全てが厄介であった。

 どこからか迷い込んでしまったこの空間で、一人少女は彷徨っていた。
 いくら歩いても変わらない景色。
 出口は見つからず、はぐれた仲間とも出会える様子もない。

 時折、奇怪な姿形の獣が現れ、こちらに襲い掛かってくる。
 応戦し、逃げることは不可能ではなかったが、手持ちの武具も少なくなってきていた。

 ここに迷い込んで、随分と時間がたったような気がするが、不思議と空腹を感じることはない。
 だが、そのことが余計に彼女の時間に対する感覚を曖昧なものとしていた。

 そもそも、事の成り行きはなんだったか。
 目が覚めたら、自分の居場所が変わっていた。
 近くにいたのは、同僚が一人。
 状況を確かめるため、彼女と共に探索を行おうとしたら、この空間に迷い込んだ。

 矢継ぎ早、というのにも早すぎる状況の変化に、彼女は状況を把握することを半ば諦めていた。

 食事の必要もなく、襲い掛かる獣も大した強さではない。
 ただ、彼女がどうにか状況を動かそうと努力しているのは、主のためであった。

 主を守る。そのことが彼女の至上の目的である。
 だからこそ、主の傍にいれないこの状況は、どうにか打破しなければならない。

「…?」

 言葉には出さず、少女は周囲に気を配る。
 どこかで、音がした。
 視界を動かせば、近いとも遠いとも言いがたい場所に、煙と、人の姿らしきものが見える。

 どうする、と少女は考える。
 この空間に迷い込んだばかりのとき、妙な男に声をかけられた。
 その時は、はぐれた仲間を探すことが先決だと考え、無視した。

 しかし、この何も変化がないこの状況を動かすためには、あるいは少々の危険には目を瞑る必要があるのかもしれない。
 一方で、そのような判断は、死に繋がることもある。

 一瞬の思考の後。
 少女は、自らの位置と、煙のたつ場所、そして、判断しうるかぎりの「人かもしれない存在」の死角を考慮して、動き始めた。

 少女の名前は、甘寧興覇と言った。

■■■

第三話『とある武将の登用顛末~月匣にて(後編)』

■■■


―――281年2月上旬
―――月匣内

「…くっ」

 動くに動くこともできない。
 王修は、息を整え、体の震えを止めようとするだけで精一杯だ。

 それほどに、目の前の存在のプラーナは強大だった。

「ふぅん、なかなか頑張るじゃない。
 麋芳とかいうウィザードよりは役に立ちそうね。
 まあでも、武官は足りてるし…内政でもやっててもらおうかしら」
「…何を企んでいる、魔王…!」

 喉を絞るようにして出した声は、少々どころではなく、無様だった。
 掠れ、震え、自分の恐れが隠し切れない。

「何をって、そんなこと言うわけないじゃない。
 ま…けど、交渉の材料には使えるわね。
 私が企んでることを話したら、力を貸してくれる?」
「…?」

 王修は、ふと、気づく。
 圧迫感に圧されてわからなかったが、敵意が薄いような、気がする。
 言葉も、どこか柔らかい…ような、気がする。
 とはいえ、もとより、エミュレイターに力を貸す道理など、王修にはない。

「誰が、エミュレイターに…!」
「だから、落ち着きなさいって。
 別に私はあんたに危害を加えるつもりはないし」
「…俺にも危害を加えんでほしかったんだが」

 ぽつり、と加わった声は、王修自身の声ではない、男の声。
 聞き覚えのある声に、慌てて振り返ると、そこには。

 五体満足で劉備が立っていた。

 ベール=ゼファーも、劉備が無事だったことを知っていたのか。
 特に驚くでもなく、口を尖らせた。

「うっさいわね。最初からあんたは対象外よ。
 ろくすっぽ政治もせず、前線にもでないで。
 影武者の劉備玄徳のほうが少しは使いでがありそうじゃない」
「…おい、叔治。少しはこの魔王に俺のことを説明してくれ。
 最近はあんまり怠けてなかったような気がするんだが」
「…いや、その」

 ―――なんで、こんなところで、魔王と呑気に話をしているんだろう。

 そう思ったが、口には出さない。
 王修はとりあえず、状況を判断してみることにした。

 一、どうやら劉備は無事だったらしい。 
 一、どうやら突然現れたベール=ゼファーは自分の力を貸してほしいらしい。
 一、どうやらベール=ゼファーは何かを企んでいるらしい。
 一、どうやらベール=ゼファーは劉備はいらないらしい。
 一、どうやら劉備は道中昼寝ばかりしていたことを、怠けていなかったと思っているらしい。

「…やっぱり劉備様は怠けてただけじゃないかと」
「おい」
「ほら、見てみなさいよ。
 あんたなんかいらないって」

 ややぽかん、とした表情をした後。
 劉備は、頭に手をやる。

「どいつもこいつも、きついな」
「あんたとは後で遊んであげるから、少し黙ってなさい」
「…やれやれ」

 本当に黙ってしまった。
 劉備の反応に満足したのか、ベール=ゼファーはそれこそ、子供のように微笑み。
 王修の方へと向き直った。

「で?
 私に力を貸してくれる?」

 劉備の方に目を向けると、彼はただ笑っているだけ。
 自分で判断しろ、ということだろうか。
 王修は、一瞬考えた後。

「…何をすればいいんだ」

 時に、エミュレイターは己の利益、楽しみのためにウィザードに力を貸すこともある。
 そして、そのときの行動は、大概が他のエミュレイターの行動を妨害することにも繋がるのこともあるのだ。
 だから、と言うわけではないが。
 王修は、そう答えた。

 あるいは、何も答えないか、とも思ったが、あっさりと魔王は回答を返してきた。

「ただ、下ヒで働くだけよ。
 あんたが嫌なら、別に戦争しなくてもいい」
「それは、孔融様を裏切って、下ヒに来いってことか?」
「…そうなるわね」

 頷いたベール=ゼファーに、王修は即座に答えた。

「お断りだ。引き取ってくれ」
「…給金もあがるけど?」
「悪いけど、孔融様への忠義をその程度のことで違えるつもりはないんだ」

 きっぱりと言い切った王修の言葉に。
 あっそ、と言って、ベール=ゼファーは肩をすくめる。

「なら仕方ないわね。
 考えが変わるまで、劉備玄徳と一緒にここに閉じ込められてなさい」
「で?お前はどうするんだ、ベール=ゼファー。
 俺たちをここで倒さんのか?」

 それまで黙っていた劉備が、ベール=ゼファーに声をかける。

「…さあ、そうして欲しいっていうならそうするけど?
 まあ、私はここで、あんたたちが無様にあがく様を見せてもらうわ。
 とはいっても、どうあがいてもこの月匣から出られるとは思えないけど」
「…劉備様?」
「さて…」
「それとも、私に力を貸す?
 まあ、劉備の方も矢除けぐらいにはなるだろうし…返答次第なら、二人ともすぐにここから出してあげてもいいわよ?」
「…どうしたもんかな」

 言葉とは裏腹に、劉備は笑っている。
 それにしても、と王修は思う。

 ―――焦ってる、のか?

 どうにも、ベール=ゼファーの言葉尻には焦りが感じられる。
 気のせいかもしれないし、そもそも魔王相手に人間の常識が通用するとも思えないが―――

「とはいえ、俺としちゃあ、お前さんの言うことをのこのこ聞いてるわけにはいかねぇよ」
「…何?あんたも、徹底したエミュレイター嫌いなわけ?
 諸葛亮の病気が伝染でもした?」
「これでも俺は、割とお前さんたちの事情も理解してるつもりでな。
 必要とあれば、魔王だろうが風雷神だろうが、手を組む準備はできてはいる…が」
「あっそ。なら、あんたが私にそんな敵意を向ける必要はないと思うんだけど?」

 ―――と。
 いつの間にか、状況が動いていた。
 先程まで、敵意が感じられなかったベール=ゼファーの顔がやや不機嫌になっている。

 同じく、劉備も笑みこそ浮かべているものの、魔王に向けて敵意を隠そうとはしない。

「あるさ」

 ぞくり、と王修の背筋に寒気が走る。
 これ以上、魔王の機嫌を損ねるべきではない。
 そんなことは劉備もわかっているはずだが、言葉は止まらない。

「一つは、麋と、子仲の旦那を監禁したこと。
 そしてもう一つは…孫家のお嬢さん方の意識を奪ったことだ…な」
「…へぇ?よく知ってるわね。
 けど、あの強化人間の自意識をあそこまで奪ったのは私じゃないわよ?」
「どうでも構わんさ。
 やったのが孫の親父だろうが、改造を行った奴らだろうが、駄目押しをしたのがお前さんだろうがな。
 ま…今はお前と手を組むわけにはいかん。
 少なくとも、旦那と孫の姉貴達を助けるまでは…な」
「麋竺はともかく、あの三人を返すわけにはいかないわよ?
 あれでも、わりと優秀な武将だしね」
「…だろうな」

 そこで、劉備が頭を叩く。
 ぱん、という、乾いた音。
 それと時を同じくして、妙な音が聞こえた。

 ―――人の、声?

 王修の疑問をよそに、会話は続く。

「で、どうするのよ、あんた。
 ここから出られるわけでもなく、私を挑発して。
 死にたいの?」
「いや?
 これでも、笑って長生きしろって何人かに強制されててな。
 それに…出る方法がないわけじゃない」
「はぁ?
 だから、ここは私が作った月匣で…」

 うさんくさげな魔王の言葉を無視して、劉備は頭上を仰ぎ見る。
 つられて、魔王も頭上を見て―――そして、固まった。

「…は?」
「…やれやれ、随分時間がかかったか。
 ま…あれを持ち出したんだからしょうがないわな」
「…ちょ、ちょっと待ちなさいよ。
 なんで、あいつがここに来てるわけ?」
「どこかの守護者のご意向でな。
 ここを偵察しろ、と」
「そんなことを言ってるんじゃないわよ!
 なんであの男が、ここに、入ってこれるわけ!?
 時空を切り裂く能力なんて、あの魔剣にはなかったし、そもそもあいつは今、魔剣を持ってない…!?」

 そこにきて、はっきりと、王修は確信した。
 これは、人の声。
 それも、悲鳴だ。

 声の主は、空から墜ちてくる。
 そのさらに上空には、得体の知れない巨大な浮遊物。

 墜ちてくる…いや、下がってくるのは、一人の男。

「ちょいと強引な方法だが…な。
 中華一優秀な夢使いと、次元に滅びを封じるために造り出された巨大戦艦、そしてその主を強引に行動させる世界の守護者…これだけありゃあ、なんとかなる。
 あの戦艦の力で次元に穴を開け、そこから意識を夢使いが探り、強引に引きずり出す…ってところか」
「ふざけないでよっ!?何そのイカサマ!?」
「無理を通すのが仕事みたいなもんでな。
 人の上に立つなんてろくなもんじゃない」
「無理とか無茶ってレベルじゃないわよ!?」

 そのころには、すでに、はっきりと声が聞こえてきた。

『ちっきしょおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?
 覚えとけよ、月英――――――っ!!』
“ha―hahahaha―――――ッ!!
 グッラ―――――――ックッッ!!”

 ちなみに、後半は空耳である。

「さてと…あとは、あの二人と、ここに閉じ込められてる連中を探すだけだな。
 ま、それも徐庶がうまくやってくれるか。
 子仲の旦那は…見つからんだろうが…な」

 劉備の声を覆い隠すように、はるかに大きな激突音が生じる。
 そして、辺り一面を覆い隠す、土煙。

 それが、晴れてきた後に見えたのは。

 …地面からにょっきりと伸びた、二本の脚だった。 


―――281年2月上旬
―――月匣内

「…でも、結局。
 麋竺さんの言ってた女の子がどこにいるかなんて、俺にはわからないんだよなあ」
「……(コクッ)」
「探せば見つかるわけでもないだろうし」

 凄まじい速度で駆け抜ける呂布に背負われたまま、北郷一刀は空を見た。

「それにしても、あれ、なんだと思う?」
「……おっきい」
「……でかいよなあ。
 飛行機とかよりも断然でかいぞ、あれ」

 空には、巨大な影が見える。
 しかし、相当上空にあるにもかかわらず、その存在はある程度の大きさをもって視認できた。

「…人」
「え?いや、あれは人じゃないだろ」
「……(フルフルッ)」

 一刀の言葉に、否定を返し。
 高速移動を行いながら、呂布は首をかしげる。
 数秒、首をひねったあと、再び、呂布は口を開いた。

「…人が、あれから落ちてきた」
「え?あれって、あれ、だよな」
「……(コクッ)」

 頷きに、一刀はもう一度空を見る。
 だが、いくら目を凝らしても、人が落ちてくる様子など見えはしない。

「……恋。本当に、見えた?」
「……(コクッ)」
「…本当に、人が…?」

 一刀の独り言に、呂布は不思議な顔をするだけ。

「助けないと…って助けるにしろ、どうすれば」
“フッ…気にすることはない。
 魏延文長くんはウィザードだ、大事にはいたらない。
 常識に縛られていては、ウィザードとしては一流にはなれんぞ、少年”
「いや、普通に考えたらあんなところから墜ちたら死ぬと思うんだけど」
“何、月衣があるから心配することはない。
 それより、君達は自分のことを心配したまえ。
 あの戦艦に、魔王が攻撃を仕掛け始めた。
 ここで脱出できなければ、奴自身が解放するつもりにならない限り、君達はここから出られん”
「え?そうなの?」
「…ご主人様。誰と、話してる?」

 呂布の言葉に、一刀は我に帰る。
 声が話しかけてきたから、思わず会話をしていたが。
 どこを見ても、相手の姿はない。

「空耳…?」
“残念だが、空耳ではない”
「…やっぱそうですか」
“私はナイトメア。夢使いのウィザードだ”

 ウィザードということは、仲間、ということでいいのだろうか。
 が、そんなことを考える猶予すら、相手は許すつもりはないようだった。

“…まもなくあの戦艦は離脱する。
 今から、君達をこの月匣から救出する。
 俺の意識を手繰り寄せろ。できるな!?”
「いや、待ってくれ!
 もう一人、俺たちの仲間かもしれない女の子が…」
“君達に波長の似た少女なら、玄徳の傍にいたため、すでに救出が完了している。
 あとは君達と、ベール=ゼファーに追い回されてる魏延文長くんだけだ。
 急げ!”

 切羽詰った声に、慌てて一刀は意識を集中させる。
 なるほど、確かに、声の相手の存在がなんとなくだが、意識できた。

「恋!手を…!」

 握ってくれ、というより早く。
 意を察したのか、立ち止まった少女は、一刀の手を取る。
 同時、彼女の体が、消えた。
 一刀が『月衣』に、呂布を『入れた』のである。

“いい判断だ…!いくぞ、ドリィ~ムッ…!!”

 瞬間。
 視界が、虹色に染まった。


―――281年2月上旬
―――下ヒ周辺

「ま…脱出するだけなら文長が来る必要はなかったかもな」
「ちょっと待てよ劉備のオッサンっ!?
 それだったら俺をわざわざ落とす必要なかったじゃねえかっ!?」
「…が。
 アンゼロットがそう指示したんなら、俺には何も言うことはねえな」
「だからちょっと待て!?」
「ha――hahahahahaha――――――ッ!!
 ナイスジョォ――――クッ!!」

 …声が、する。

「とはいえ、お前さんが時間稼ぎしてくれたおかげで、どうにか、閉じ込められてた町の人間を何人か助けることができた。
 大方、ベール=ゼファーが人質にでも使おうとしてたんだろう。
 子仲の旦那は見つからなかったが…礼を言う。助かったぜ、文長」
「お、おう。
 そうだな、この方法で助けられるんなら、他のウィザードの連中も…」
「…それはできません」
「うおっ!?いきなり口調変わったな!?」
「レーヴァテインは大破。
 修復するまで、こういった行動は不可能です」
「そ、そうか…そうだな。
 ありがとよ、月英。
 お前のおかげで、皆を助けることができた。
 修理がすむまで、休んでくれよな」
「―――Yes,Master.」


 …聞いたことの、ない、声も混じっている。
 よく知っている声も。


「…にしても。
 いいんですか、あの二人。あのままで」
「……………いつもの、こと」
「そ、そうなんですか?」
「…ご主人様は、いつも、そう。
 いろんな人と、ああやって、寝てる」
「フッ。色男か…どりぃ~む」
「…あの兄ちゃんを見る目が変わりそうだな」
「劉備のオッサンには言われたくないと思うぞ」
「君にも言われたくないだろうな、魏延文長くん」
「は?なんのことだよ」

 今日は休みだったっけ?
 だから…蓮華と、思春と、小蓮と寝て…あれ?
 何で、思春だけしかいないんだ?
 思春が寝坊なんて、するはずないよな…。


「さて、と。
 俺と叔治は、北海に戻る。
 文長はどうするんだ?」
「俺は、このまま寿春に行く。
 急がなきゃ、訓練も軍務もできなくなっちまうしな」
「やれやれ、働き者だよな」
「好きでやってるわけじゃねえっ!?」
「俺も、永安に戻る。
 達者でな、ニンジャボーイ」
「徐庶さんも、お元気で」


 ああ、蓮華と小蓮が気を利かしてくれたのか。
 そういや、思春と二人きりだと、すぐ帰っちゃうしなあ…。


「さて…と。そろそろ起こすか?」
「ぼ、僕に聞かないでくださいよ…苦手なこと、知ってるじゃないですか」
「そいつもそうだ。
 なら、しばらく待つか。
 我慢できるか、嬢ちゃん」
「……………………(コクッ)」


 そうだ。嫌な夢を見てたんだから、もう少し休もう。
 また、変な世界に飛ばされて。
 今度は、一人じゃなかったけど、恋以外は誰も、いなくなってて。
 それで、エミュレイターとかいう化け物と、ウィザードとかいう正義の味方の戦いに巻き込まれる。

 そんな、嫌な夢。
 …夢に決まってる。
 ほら。確かに今、思春は、ここにいるんだから。


【甘寧の登用に成功しました】

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